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78 わかば荘の薔薇色の日常
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[本棚のなかには、文庫本らしきサイズのものから大判図書まで様々だ。 暗い中なので、漠然と「いろいろある」で括る。 多分、南方がタイトルや著者で「しってる」と思えるのは、教科書に出てくるようなものか、話題になった作品か、美大の図書館に置いてある写真集で、たまたま見たことがあるものくらいか。]
…… 入荷?
(=238) 2014/07/02(Wed) 12時頃
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[とっとと鍵を渡せば終わるのに、 引き伸ばすように会話している。
出掛ける前に見た絵が忘れられない。]
(=239) 2014/07/02(Wed) 12時頃
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[変な事が口をついて出たなと思う。 何となく――気のせいかもしれないが。 みょうに、困っているように、見えたのだ。 目の前の変人が。]
(=240) 2014/07/02(Wed) 12時半頃
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[南方は、わかば荘に住んでいる住人のことを どれだけ知っているのだろうかと思う。
この場所は、他の集合住宅とは違う。 顔を合わせる場所があって、人が集まって来て、団欒が出来る。
南方も、その輪に加わることがないではないのに 仕事のことも、何も、まるで興味を示そうとしない。]
(=241) 2014/07/02(Wed) 13時頃
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[自分と似ているようで、全然違う。
過去だけでなく、 今も、未来も。 南方には関わりのないことなのだ。
──南方って、他人に興味ないよね。
さっき、思わず、そう言いそうになった。]
(=242) 2014/07/02(Wed) 13時頃
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[この上なく無粋で、何の意味もない暴言だ。
言わなくて良かったと、 閉ざした唇の奥で思い、二度と出て来ないように飲み込んだ。]
(=243) 2014/07/02(Wed) 13時頃
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−…助けてよ、徳仁さん…
[メールを、送ろうとしては止めてを繰り返していた。 話したかった。"なかったこと"になった巫山戯た話を、更に告げられた酷い真実と。自分がついた嘘の懺悔。
−−全て受け入れた上で聞いてもらえるなら、告白を
どうきりだせばいいのか分からなかったし やっぱり、どの面下げて、という感じだし]
(=244) 2014/07/02(Wed) 13時半頃
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[実家の部屋はここ以上に本に埋もれている。
遊の故郷は、周囲を高い山に囲まれた山間の盆地で、 果樹園を営む家の周囲も、 長閑な自然が広がるばかりで、娯楽に乏しかった。
四季折々に表情を変える美しい自然は多くの人を惹きつけ、 毎年多くの観光客が訪れる観光地ではあったが、 住んでいる土地の者にしてみれば、 見慣れた景色の繰り返しでしかなかった。
それでも、遊は別段、退屈はしていなかった。
果樹園の樹に上って、 そこに生る林檎一つ一つの気苦労や喜びを想像したりして いつまでも遊んでいられる子供だった。]
(=245) 2014/07/02(Wed) 13時半頃
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[そう──遊は、昔から、ちょっと独特の ふわっとしたものの見方をする、掴みどころのない子供だった。
母親が本を買い与えたのは、 一人息子がいつまでもそんな風に 浮世離れしているのが心配だったからかもしれない。]
(=246) 2014/07/02(Wed) 13時半頃
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[南方は、わかば荘に住んでいる住人のことを、 ――どれほども知らない。
顔を合わせる場所があって、人が集まって来て、団欒が出来る。 ――らしい。 団欒、という言葉にすらピンと来ない。 いや、周囲を見ている限りではその言葉を使ってもいいのかもしれないが、それは本人達が言ってはじめてだ。
明確に言える。 その言葉は、関わりのない人間が言うことではない。]
(=247) 2014/07/02(Wed) 14時頃
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[半日外に出て、帰って眠り、休みは篭って絵を描く。 近所づきあいをする頻度が高いのが珍しいが―― 他の集合住宅と大きな違いとは何だろう?
他人は他人。 もし間中が、そのまま黙ったままならば、――もしかすると、そのまま。今日も聞かずに帰ったろうか。 それとも、興味のわきかけた変人として、 試しに訊ねてみたろうか。]
(=248) 2014/07/02(Wed) 14時頃
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[大学を卒業後、実家に戻って来いと言われていた。 小説は家でも書けるから、 仕事をしながらデビューを目指せばいいと。
けれど、遊はそれに従わなかった。
この町に来て初めて接した人や景色は 遊の感性を鮮烈に刺激した。 田舎では感じられなかったものが感じられ、 見えなかった角度から世界が見えた気がした。
あの長閑で美しい安曇野に戻ってしまえば、 それは徐々にだが、失われる気がした。]
(=249) 2014/07/02(Wed) 14時頃
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[ああまただ。 曇り空の屋上で、BBQの片隅で、 もっと前にも、たくさんこういう事があった
しんどくて、でも誰にも言えない時 何故かこうして来てくれて その度心が軽く温かくなって救われてきた
気づかなかったのは、気づかれないようにしてくれていたからだろう 「気まずくなりたくない」とあの時何度も言っていた
昼と同じ、今までと全然変わらない態度に大人は切り替え早くて羨ましいなあと。振ったばかりだけど次は振られるのかなあと思う
それでもこうした時間を持てるなら、悪くないかなあとも]
(=250) 2014/07/02(Wed) 14時頃
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[遊は書くためにここに残った。 書くためにここに住んでいる。
文章を書くのに、場所など関係ない。 紙とペンだけあればいいと人は言うかもしれない。
でも──それは。 まだ。 遊にとっては、詭弁に過ぎない。]
(=251) 2014/07/02(Wed) 14時頃
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[洗面所へとタオルを取りに行き、 ついでに鏡で自分の顔を覗きこむ。 擦った所為でいつもよりか目が充血しているような 気もしたけれども眼鏡もしてるし目立たないだろう。
タオルを積んでいる棚の上の 空いたスペースを本棚の代わりにしている。 仕事関連の書籍ばかりが並ぶ中一冊だけ色彩の違う 可愛らしい絵本が置いてある。藤堂の絵本だ。 買ったのだとは、わざわざ報告はしなかった。 藤堂も何度もこの部屋に来ているから絵本の事には 気付いているだろうけれども何も言ってはこなかった。]
(=252) 2014/07/02(Wed) 14時半頃
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……お前さ、 俺に、関わりすぎなんだよ…。
[無視をしても気にせず話しかけてきた。 嫌がっても構わず名前で呼んできた。 頼んでもいないのに酒を飲めば隣にいて それが次第に当たり前になっていって。 食べ物や酒の味を思い出せたのも、 笑えるようになったのも、泣くことだって――]
(=253) 2014/07/02(Wed) 14時半頃
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…タオル、2枚でいいよね…。
[他に濡れている者はいなかったかと呟いて。 タオルを持って談話室へと向かう。
気持ちを急にゼロには戻せない。 自分の中で"過ぎたこと"にはなったけれど、 "終わったこと"にするにはまだ時間が必要になるのだろう。 自分を取り戻していくのに5年の月日が掛かったように。
それでもこの1年半と同じように変わらぬ想いが残るのなら、 この先の友人としての長い付き合いで、 どうしても藤堂徳仁という男に惹かれ続けてしまうのなら…]
(……その時は、)
(=254) 2014/07/02(Wed) 14時半頃
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[どうやら出かけてる間にだいぶ気持ちの整理はついたらしい。 昼にみた緊張がない様子の瑛士に内心ほっとする。
意識されるのはうれしい気もするが、ぎこちなくなるぐらいならいらないとも思う。 そういう関係になった上でならともなく、振ったからといって気まずくなられるのは哀しい。
気持ちを知られたことも"なかったこと"にしたからこちらは今まで通りにするだけ]
(=255) 2014/07/02(Wed) 14時半頃
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[朝からずっと興味があった。
作品を南方に読ませたら、彼がどんな反応を示すのか。 どんな感想をくれるのか。
自分が南方の習作を見てさして面白くもないと感じたように、 彼も、タイトル未定のジグソーパズルを つまらない──と、評するのか。]
(=256) 2014/07/02(Wed) 14時半頃
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[談話室で見送ってくれた徹>>533に何時ものように、片手を挙げた。 彼の部屋にある絵本には気づいているが、いちいち口に出すのは恥ずかしく。
無言の感謝を向けるのみだった]
(=257) 2014/07/02(Wed) 15時頃
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[個室にしたのは、瑛士が疲れているようにも見えたから。 ここなら気兼ねすることなくゆっくりできるだろう。
それなら連れ出さずに夕食を買えばよかったかもしれないが、部屋で一緒に食べる口実などもうかばなかったからしかたない]
(=258) 2014/07/02(Wed) 15時頃
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[徹の反応を伺って、目線が時折、泳ぐ。 実のところ写真を人に見てもらうのはとても誇らしくて好きだが、見せたことは何人かを除けば、ほとんどなく。 普段はこんなことでもなければ自分から話しかけるなんてまず無い徹が、その相手。 垣根を少しでも払おうとして、踏み出した一歩は、まだ不安の森の入口にいる。]
(=259) 2014/07/02(Wed) 15時半頃
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……、………ひ さ。
(答えを急いて、しまった) (困惑する達久を引っ掻き回して)
(=260) 2014/07/02(Wed) 15時半頃
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[読んで貰いたい。 読んでくれる。
気になっていたことが、願望が解消されそうで 安堵の気持ちが生まれたのか。 それとも、話をするうちに少し余裕が戻って来たのか。
窒息しそうな圧迫感を感じていた部屋が、 少し軽くなった気がした。]
(=261) 2014/07/02(Wed) 16時頃
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To:平井 達久 Title:ごめん ――――――――――
さっき、ごめん ちゃんと話、たい
――――――――――
(=262) 2014/07/02(Wed) 16時頃
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……っ、ん。
(また話してくれるかなんてわからないけど) (ちゃんと話が、したい**)
(=263) 2014/07/02(Wed) 16時頃
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[笑いすぎて滲んだ涙を自分で拭いながら、ぽろりと出た本音にあ、と一瞬顔が固まって赤くなってしまった。タイミングよく酒が運ばれてきたので、気づかれていないと思いたい
いつか…いつか伝えられたらとは思うけど その前に、自分が積み重ねてきた嘘について懺悔することが先だし。今のこの楽しい空気を崩したくなくて]
(=264) 2014/07/02(Wed) 16時頃
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[振られたのだと認識しているから。 こうやって食事に付き合ってくれるだけでも十分だと思っている。
何か言いたいことがあるようなそぶりが見えることもあるが。 無理に口を開かせることもなく、話せるようになるまで待つつもりで。
今は食事や酒がおいしいだろうと笑みを向ける]
(=265) 2014/07/02(Wed) 16時頃
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[完成させる気があるんだろうか。
あるなら、見てみたい──。 習作でもなんでも、完成された南方の絵を。]
(=266) 2014/07/02(Wed) 16時頃
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[自分好みの辛口な手羽先に齧りつきながら、何とはなしに聞いてみた]
そのペンネーム、て。何か由来とかあんの?
[ゆかり。ていうのはどう見ても女の人の名前で 例えば元カノ、とか。何なら元嫁、とか。 そういう忘れられない人の名前だったりするのかなあという想像はもちろん口にはしない。 でも気になる。訊くなら名前を知った今しかない
自分はゲイだと明かしたけれど、徳仁はどうなのか解らない。どちらかというのストレート、もしくはどっちでも大丈夫という感じ。
自分が猥談を得意でなかったり、恋話をしないことに合わせてくれているのか、色んな話をしたなかでそういうことは話題になることはほとんどなくて よくよく考えれば、まだ全然知らないことばかりだ]
(=267) 2014/07/02(Wed) 16時半頃
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