28 わかば荘の奇々怪々な非日常
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─談話室 騒動の後─
……皆は霊って信じるか? [話し始めはそんな調子だったろうか。 珈琲カップの中身をスプーンでぐるぐると掻き混ぜて、流れが出来ている所へクリームを注ぐ。 白と黒の渦に口をつけて、住人の意識が自分へ向くのを静かに待ち、賑やかな話題の空白を縫って話し出す。
一般人からすれば、奇々怪々としか言い様のない、赤ん坊を失った悲しい母親の話を──。]
(155) vanilla 2013/09/09(Mon) 22時頃
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──幽霊とか亡霊って言うのが本当に居るのかどうか、実際のとこ、見えてる俺にもわからん。 土地の磁場が人体に影響して見える集団幻想──そういう物を否定も出来んから。
……ま、つまり、だ。 見えちゃったからって、気にするなよ。
[一連の説明の締めくくりに、フランクはそんな風に言った。 毎日のように霊の姿を見、声を聞いている。だからフランクにとっては今回の事すら特に驚く程でもない当たり前の日常だが、そうでない者もいるだろう。 そうでない者がこの先、たった一日の今日に振り回されることのないように、不器用なりに気を使ってみた──のだった。]
(156) vanilla 2013/09/09(Mon) 22時頃
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[わかば荘から人が退去する日、フランクは二畳ほどしかない狭い管理人室で鍵を受け取る。 それが、古くて取り壊し寸前だったわかば荘を買い取って以来の、フランクの仕事。
この日もまた、一人。わかば荘を離れる。
鍵を渡す人の手は、黒い手袋に覆われていた。]
─蔓草の去る日─
……ん。 鍵、確かに受け取った。
[行くのか? とは、聞かない。 いつか出て行くことはわかっていた。
長期間だろうと短期間だろうと、フランクが気に入れば構わず入居させるから、わかば荘の入れ替わりは激しい。]
(190) vanilla 2013/09/10(Tue) 00時頃
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[ジャニスはどんな顔をしていただろうか。 フランクの分厚いレンズの奥の目は、ジャニスの顔でなく、受け取った手元の鍵に落とされていた。
ジャニスの手が、一旦床に置いた荷を持ち上げ、靴の向きが自分からドアの方へと向く。]
……キッチンのカップ。
[来た時と変わりなく、きっとジャケットを着込んだジャニスの背に、いつもと変わらぬ調子のフランクの声がかかった。]
あれから、増えてるんだ。誰が買って来たんだか。 だから…………時々一人くらい増えても、談話室には椅子もカップも足りなくならないから。
……じゃあ。 ────仕事、頑張れよ。**
(191) vanilla 2013/09/10(Tue) 00時頃
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[増えて、減って、また増えて。 わかば荘は相変わらず、出入りが激しい。
変わった事など何も起こらない、平凡極まりないこのアパートは、しかし、長く住む者にも、すぐに出て行ってしまう者にも、共通した変化を齎す。
「彼女」はそれを喜んでいるだろうか。 きっと喜んでいるに違いない。 新たに入った住人が──ほとんど自室と職場の往復だけだった住人が、ひょんな事から談話室に顔を出し、いつしかそこでお茶を飲むまでになる度、彼女が育てていたハーブは、青々と元気に繁るのだから。 フランクは、その度にハーブの繁みの脇で、「彼女」が笑っているように感じる。
もしかすると、生命力の強いハーブが伸びるのは当たり前で、全てフランクの思い込みなかもしれないが。 それでも、フランクは思うのだ。
柔らかく萌ゆるハーブの茂みと、見る者の心情によって微妙に色を変える若葉色の屋根に挟まれて、わかば荘は、移り変わる人を時を、今日も変わらず静かに見守っている──と**]
(225) vanilla 2013/09/10(Tue) 01時頃
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─いつかのわかば荘>>211─
[庭先で、雨で弱くなった縁側を修理していた。 金槌を打ち付ける音の合間に、宝生が喋っている。
フランクは答えない。 唇に釘を咥えているのだから、喋れない。
宝生が庭を見て、言葉を選ぶように言う。
フランクは何も答えない。 汗を拭って、再び金槌をふるう。
彼女が──と、宝生は言う。
フランクの手が止まった。]
(231) vanilla 2013/09/10(Tue) 01時頃
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[修理し終えた縁側を見て、余った釘を手に、金槌を下ろす。 振り返らずに、フランクの視線はハーブの茂みを向く。]
笑ってるよ。 いつもの、あの顔でさ。
[そしてぽつりと、ただそれだけを、言った**]
(232) vanilla 2013/09/10(Tue) 01時頃
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