5 シ ロ イ ハ コ
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[集団内で必要以上に目立つ事は危険だ。 それが僕の内側から命令してくる一つの規則。 僕は当たり障りのない善良な人間でなければならない。 内側から発せられる命令は、古本についた黄ばんだ染みのように僕に馴染んでいる。 おそらく僕はそうして生きてきたんだろう。 秩序を乱さぬように秩序を保って。
頭の靄は思い出したようにゴロゴロとうねりはじめ、外に出ようと内側から皮膚にぶつかっていた。]
(*0) 2013/05/31(Fri) 02時頃
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[返事はあっただろうか? 僕はあらためて周囲を確認する事にした。 先ほどいた部屋とそう変わらない白い壁に囲まれた部屋。 違うのは僕以外の異物がいて、新しい調和が生まれている事だ。 不必要に目立ってはいけない。 僕は自身の規律に従う。
ふと背中の壁を思い出す。 自分は扉を通じてこの部屋に入ってきた。 後ろを見ると扉はなく真っ白な染み一つない壁があるだけだ。 どうやらこの部屋には扉がないらしい。 右の手のひらを壁に当て、静かに深呼吸をする。 不用意に目立ってはいけない。 右手の拳が少し痛んだ気がした。]
(4) 2013/05/31(Fri) 02時半頃
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[扉のない部屋。 真っ白な壁に手をつきながらも、僕はそれについて考える事を続けようとはしなかった。 気にならない訳ではない。優先順位が違うだけだ。
僕にとって今一番大事な事は、この中で誰が中心になり得て、誰が中心になり得ない事だ。
集団は生き物のように中心を選び、そして中心から排除する。 僕は中心に選ばれず、かつ排除されなければいい。 集団が排除する者を決めてから、そっと中心に寄って背中を押せばいい。 そうして集団の秩序は保たれる。]
(*1) 2013/05/31(Fri) 03時頃
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[壁に手をついて、これからどうするのが良いか考えていた。 サミュエルと名乗った女性の話は、自分以外の人間も同様にこの部屋に来た事を教えてくれた。 女性と言っても本人に確認した訳ではない。
―シロイハコ―
そんな言葉が頭によぎる。 それは誰に聞き、どこで知ったのかもわからない話。 複数の人間が白い部屋に入れられる。 なぜ部屋に入れられるのかはわからなくて、ただ唐突に入れられる。
関連性のないぶつ切りの事実。 部屋に入れられた人間がどうなったかは知らない。 それが僕の知るシロイハコの話だ。]
(16) 2013/05/31(Fri) 06時半頃
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[壁から向き直り部屋を見回すと、先ほどよりも人が増えているようだった。 扉のない部屋から一体どうやって人が入り込むのだろう。 本当に僕らは「シロイハコ」に入れられたのかもしれない。
回りの様子を窺いつつ、自身の出方を考えていると、どこからか男のものとも女のものとも言えない声が聞こえてきた。**]
「ようこそ、みなさん」
(17) 2013/05/31(Fri) 06時半頃
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[声はさらに言葉を続けた。 その声と重なるようにして、ヒステリックに叫ぶ女の声が聞こえる。 証明しなさいと。
頭の靄は大きく渦巻いて黒く濁り、内側から皮膚に向かって叫んだ。]
命令をするな
[女はかまわず言葉を続け僕に言う。 それは簡単だと。
黒い靄は轟々と唸り、皮膚を食い破らんばかりにぶつかって泣き喚いた。]
それは命令だ 俺に命令することは許せない 俺は今までも注意されたとき耐えてきたが、もう許せない お前が悪いのだ
(*4) 2013/05/31(Fri) 06時半頃
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[声が聞こえなくなると、僕は新たに従わなければならない規律を知っていた。
黒く混濁した靄は轟きながら言葉にならない声を発っしている。 外側に出る事のないその声は神経を渡って全身に及び、僕自身を支配していくようだった。**]
(*5) 2013/05/31(Fri) 07時頃
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[男とも女とも判別のつかない声を聞き終わった僕は動揺していた。 自分だけに聞こえたと考えてよいのか、また、それを確かめるべきかを。
包帯を巻いた男が声を上げると、部屋内に白色のテーブルが白色の椅子が現れた。 テーブルの上には白色のシチューが置いてあり、シチューから上がる湯気はそれが出来たばかりという事を物語っていた。
様子を眺めていると、眼鏡をかけた背の低い少女が白い椅子を引いてテーブルに着いた。 彼女はスープを口に含むと、包帯の男の困るという言葉に対し突っ込んでいた。
僕は困ったような笑顔を表情に出していた。]
(52) 2013/06/01(Sat) 04時半頃
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―首をトバす [物騒な言葉に僕は困ったように笑顔を浮かべた。 声に応答するように、イヤフォンの女・サミュエルが僕の名前とリッキィという言葉を発した。 言葉を発するといっても、実際に声が聞こえている訳ではない。 黙って二人の会話を聞いているといくつかわかった事があった。
背の低い眼鏡の少女はリッキィという。 この特別な会話はテレパシーであるのかもしれない。 二人は協力関係を結ぶ。 自分達以外を殺すつもりでいる。 あるいは生き残るつもりでいる。]
(*20) 2013/06/01(Sat) 04時半頃
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[>>30 男の問いに、皆は答える。
僕が知っている名はサミュエルとリッキィ。
新たにわかった名前は問いかけた男がへクターと言い。 痩せた少年がエリアスという事だ。 包帯を巻いた男と栗色の髪の少女は名乗っていただろうか?
周りの人間の会話を聞くだけで、へクターの問いに対し僕はまだ自分の名を語っていなかった。]
(53) 2013/06/01(Sat) 04時半頃
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[テーブルの近くで何人かの者達が会話を交わすなか、そろそろ自身も加わらなければと感じはじめていた。
丁度その時、リッキィと呼ばれる少女がここにいる皆に向けて、席につくよう声をかけた。]
そうですね。僕もいただきます
[柔和な笑顔を作り、大きくなり過ぎず小さく過ぎない声を出して、僕は壁からテーブルへと向かった。]
(54) 2013/06/01(Sat) 04時半頃
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[もう一度自分の名を呼ぶ声が聞こえた。 サミュエルはどうやら僕に協力関係を求めているようだ。 このまま、押し黙っているのも荒波をたてることになる。]
三本の矢ですね
[最近どこかで聞いたようなフレーズを観念した風に声にする。]
三人全員が生き残ればいいじゃないですか? …僕の本音はここにいる全員が生き残る事ですが
[まだ協力関係を結ぶと判断できていないので、本音を付け加える。]
それに誰かを殺せば、この部屋から出られるという保障もありませんよ
[試していないので保障もないが、相手に疑心暗鬼をおこさせないよう慎重に言葉を選んだ。 決して自分が中心になってはいけない。 あくまで自分は中心に寄るだけでいい。]
(*21) 2013/06/01(Sat) 04時半頃
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[テーブルの前まで来ると、サミュエルが具合の悪そうな男に心配する様に声をかけていた。
サミュエルが席につくのに続いて、僕もプラスチック製の白のイームズに腰掛ける。 イームズの脚は金属に塗装が施されているためか、白く上光りしていた。
みんなが口にする最後の晩餐という言葉。 最初に口に出したリッキィに向け、僕は落ち着いた声音で話かけた。]
みんなで食べる最初の晩餐ですよ
[シチューを啜りだしたサミュエルを見て、僕は真似るようにしてシチューを啜る。 そして、思い出した体で親しげな調子を出し皆に言葉を発っした。]
そうだ僕はチアキと言います どのくらいのお付き合いになるのかわかりませんが、よろしくお願いします
[肩の力を抜いて、もう一度シチューを口に運んで微笑んだ。**]
(55) 2013/06/01(Sat) 05時頃
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リッキィって言ったかな 呼び捨てでも大丈夫かい?
[僕は出し抜けにしかし丁寧な調子で声をかけた。]
サミュエル 君も構わないかい?
[続けてサミュエルにも呼び捨ての了承を尋ねる。
僕は彼女らとの協力関係について一つの懸念を感じていた。 彼女らと組むとなると、僕以外の男を敵に回す恐れがある。 力で劣るから協力すると彼女らは言う。それは確かに彼女らのメリットだ。しかし僕の側のメリットは?
結局僕は協力関係を断るデメリットを重いとみてこう答えた。]
サミュエルの提案に僕も乗りたい。 君たちと協力関係を結ばせてほしい。
[声が共有されてしまっている現状では最善の選択だ。**]
(*22) 2013/06/01(Sat) 05時頃
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そうだね。出会いは大事だよ
[>>57 リッキィに簡単な言葉を返し、僕はもう一度シチューを口に入れた。]
うん。おいしい
[僕は小さく頷いてみせる。 自分がどこに帰ればいいのかわからないのだし、好きなものが好きなように取り出せるこの部屋なら、一生ここにいてもいいんじゃないか。 そんな風に思いながら、変わらず椅子に腰掛けていた。]
(58) 2013/06/02(Sun) 02時半頃
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[僕は敬称をつけるという彼女の返答に小さく頷いて見せた。 続く言葉を鑑みるに、どうやら僕との協力関係を了承してくれたらしい。]
どうって? これからの事ですか? [含みを持たせた言葉には、はぐらかした様な返答を返す。 僕は自ら矢面に立って排除する事を望まない。 生き残るためには、前に出過ぎてはいけない。] 僕達は三人の内、二人が女性です 男性相手に三人がかりで向かってこられたら、勝てる見込みは低いでしょう 相手が怪我を負っていたり、具合が悪かったとしても体格の差は大きい 僕はこの会話が通じる三人以外に、表向きの協力関係を結ぶべきだと思っています
[できれば、力が強く中心に立てる人間がいい。 その事は言わずに伏せておいた。]
(*24) 2013/06/02(Sun) 02時半頃
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