64 さよならのひとつまえ
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いや、甘えてんだろ。 会いたいだの、果ては泊まりたいだの……
[自分のしたいことしか言っていない。 もしこれが、我が儘ではないというのなら、一体何が、我が儘になるのだろう。]
幸せなんて、俺のが、よっぽど貰って……!
[箸を持つ手が小さく震える。 このままでは泣いてしまいそうで、涙を堪えるように、タレの味のついた白米を掻っ込んだ。
デザートまで食べ終えても、朱はひかぬまま。 店を出る時、店員に不審に思われやしないかと、十文字に財布を預け、ずっと背を向けていた。*]
(180) nordwolf 2014/04/06(Sun) 20時半頃
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─ →十文字宅へ ─
[春といっても、夜の風は少し冷たい。 こうして歩いていると、十文字の家が少しずつ近付いているというということに胸は高鳴り、けれど同時に、時間が過ぎているということに、今度は痛む。
周囲を見回せば、人影は見当たらない。]
なー…… 寒いな。
[そんな言い訳をして、手を伸ばす。 リストバンドの巻かれた右手は、きっと今、ものすごく熱くなっている。*]
(181) nordwolf 2014/04/06(Sun) 20時半頃
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─ 東陽ネイビーシトラス二軍寮 ─
[空港から列車に揺られ、迎えに来ていたライトバンに乗せられて、河豚の産地との県境付近にある二軍寮に着いたのは、夕方過ぎのことだった。 球団関係者や、グラウンドで練習をしていた先輩達に挨拶を済ませた後、寮の部屋へ案内された。 寮とはいえ、高校の頃とは違い、ワンルームマンションのような個室だった。 鍵に書かれた部屋番「4-M」に、小さな笑いを零す。
部屋に荷物を下ろした後、まず、実家に電話をかけた。 電話の向こうの両親の声は、かなり明るいものだった。 きっと自分の家庭は、とても恵まれているのだろうというのを、改めて感じた。
それから、父から貰ったノートパソコンを繋ぎ、立ち上げる。]
(198) nordwolf 2014/04/06(Sun) 21時半頃
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─ 退寮日の駅前 ─
[バスでの楽しい時間は瞬く間に過ぎ、皆と握手を交わし、両親の待つ車へ向かう。]
あ、ちょっと待って。
[後部座席へ乗り込もうとする前に、明智がこちらへかけてきた。>>196 開けた扉を一旦閉めて、歩み寄った。]
なに?
[空けられた間に、首を傾げる。]
あぁ、その約束。 忘れてねーよ、必ず連絡するから!
[胸に押し当てられた拳に返すように、明智のこめかみに、ごく軽いパンチをくらわせた。]
(205) nordwolf 2014/04/06(Sun) 22時頃
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お前こそ、それまでに一人前のカメラマンなってろよ!
[そして、走り去って行く笑顔に、大きく手を振ってから、改めて後部座席へと乗り込んだ。*]
(206) nordwolf 2014/04/06(Sun) 22時頃
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[言われたとおり、先に店を出ておいたはずなのに、目元は熱いままだった。 きっと、涙を堪えているせいだ。
握った手指は思ったよりひんやりしていて、強く握り返すより先に解けてしまった。 いくら人目がないとはいえ、やはり、男同士で手を繋いで歩くなんて……と俯きかけるが、改めて手を握られて、ぱちぱちと瞬き、少し高い顔を見上げた。]
あぁ、うん……すげーあったかい。
……お前だって……
[同じ体温になればいいと。 ポケットの中で、強く指を握りしめた。*]
(210) nordwolf 2014/04/06(Sun) 22時半頃
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─ 十文字宅 ─
[>>204促されるまま、小さく「おじゃまします」と言って、中に上がる。 電気がつけられ、室内が見えた瞬間、その光景に少し怪訝な表情を浮かべてしまった。]
これ……お前の趣味……?
いや、でも、もう家電もだいぶ揃ってるし、な?
[すごいなと感想を漏らしつつ、視線は、紫色の卓袱台に暫し釘付けになった。 けれどやがて、段ボールの上のミットに移り、漸く表情を和ませる。 和むと同時、片脇の布団の存在に気付き、また少し体温が上がった気もしたが。]
(211) nordwolf 2014/04/06(Sun) 22時半頃
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あー、風呂……どうしよう、銭湯も魅力的だけど、俺、シャンプーとか持ってきてねーし、それに……
[>>207具体的にどうこうという欲求は多分ないが、疚しい思いは0ではない。 一緒に入って大丈夫だろうかという不安がある。 けど、同時に仄かな期待もあって、何を考えているんだと、スポーツバッグを置く十文字が背を向けている隙に、強く頭を振って、沸き上がるモヤモヤの払拭を試みたのだが]
……ぁ、布団……? いイヤそこはおまえが使えよ! ここお前ん家なんだし、畳では俺が寝る!
[ちゃんと家主が布団で寝ろとの主張は、まだ動揺抜けきらないものになった。]
(212) nordwolf 2014/04/06(Sun) 22時半頃
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あ、あぁ……違うのか。
[全力否定>>213に、ちょっとだけホッとした。 そして先輩と聞いて、多分に漏れず、あの先輩を思い浮かべた。 直接深い関わりがあったわけではないが、あのインパクトはそれでも強い。]
いやお前が謝ることじゃ……
……そうか、じゃあ、風呂にしようかな折角だし。
[ここで否定するのもおかしな気がして、頷く。 ほんの一ヵ月前は、別に、意識などしなかったのだ。 それに十文字の態度を見るに、きっと動揺しているのは自分だけだ。
胸がちくりとして、僅かだけ、睫毛が揺れた。]
(223) nordwolf 2014/04/06(Sun) 23時半頃
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いや、だから飛行機の中でも寝られるし、到着当日は練習もねーから別にそんな……
[>>214家主を差し置いてなどできないと首を振る。 一歩二歩と歩み寄られて、つい半歩だけ退いてしまったが、その手は十分届く距離。 少しだけ見上げれば、自分よりも長いけれど細い指が、頬に触れてきた。]
───。
[喉が、息を吸い込む変な音を立てる。]
わかっ てる、のか? 俺、お前の こと すき、 なんだぞ?
なのに いい、のかよ
[自分でも、何を言い出しているのか分からない。 過呼吸になりそうで、困惑に揺れる瞳を向けたまま、両手でぎゅっと、十文字の服を掴んだ。]
(224) nordwolf 2014/04/06(Sun) 23時半頃
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着替えは、一応。 ジーンズはこれでいいかなって。
[シャツと下着の替えは、バッグの中に入れてあると、ちらりとだけ視線で示す。 まさか赤い手ぬぐいをマフラーにするようなシチュエーションを思い浮かべられているとは、夢にも思っていない。]
(231) nordwolf 2014/04/07(Mon) 00時半頃
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[馬鹿なことを言ったと理解するまで、数秒かかった。 瞳はまだ、少し高い位置にあるそれから逸らせない。]
……っ、 え?
[何もしない。
信用がない。
付き合ってるわけでもない。
好きにするわけない。
言葉が、グサグサと胸に突き刺さる。 痛いのに、涙すら出てこない。
力が抜け、腕が下がる。 やがて、首も項垂れて]
そー、か……
(233) nordwolf 2014/04/07(Mon) 00時半頃
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悪い……
俺が、思い上がってただけ、なんだな…… キスしたくらいで、いい気なるなって……やつ、だよな……、は、は……
[哀しくて、痛くて、掠れた笑いが漏れる。]
恋人って、おもってたの
俺だけか………
[ごめんな。
唇だけを、そう微かに動かして。 かくんと、膝が崩れ落ちた。]
(234) nordwolf 2014/04/07(Mon) 00時半頃
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[>>238そうなのかよ……と、声にならぬ言葉を繰り返す。]
っ……!
[肩にぶつかった硬いものが、十文字の額だと知れば、今にも泣き出しそうな、けれど涙を忘れた双眸をそちらへ向けて>>239]
満足って、何だそれ……
経済力とか、自信とか、なんだよ……。
[ふつふつと衝動が沸き上がる。 何故、なんでそんなことを気にかけるのか。 理解に苦しみ、首を何度も左右に振った。]
何で……そんなこと思うんだよ! 俺が支えられんの前提かよ! つーか俺は、お前に支えて欲しいんじゃなくて、お前を誰よりも好きでいたいんだよ!
[リストバンドをつけた右手首を、震える左手で、強く強く握る。 そんな風に思われていたことが哀しくて、痛くて、悔しい。]
(242) nordwolf 2014/04/07(Mon) 02時頃
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離れたら、お前より大切なものできるとか、何でそんなこと、お前が決めんだ……! 大事にできる自信とか……じゃぁ、俺がお前のこと大事に思っちゃダメなのかよ!
待てるわけねーって…… じゃあ、お前はどうなんだ?! 俺が、育成から一軍に上がるまで、待ってちゃくんねーのか!? つーか待つって何だよそれ……! 一緒にじゃダメなのかよ!
なんで……何でお前基準なんだよ……! もっと俺に、お前のこと、受け止めさせてくれよ……!
[嗚咽混じりで訴えながら、両手はいつの間にか、十文字を抱き寄せようと伸びていた。]
(243) nordwolf 2014/04/07(Mon) 02時頃
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保険調査 ライジは、メモを貼った。
nordwolf 2014/04/07(Mon) 02時頃
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こわい、ダメになるって……
[繰り返す言葉が震える。 確かに、未来など分からない。 自分だって、このまま 育成と二軍のなかで終わってしまうかもしれないのだ。 けれど、怖いとは思ったことはなかった。 前に進むことだけを、考えていたから。]
あぁ、変わるかもしれねー…… けど、変わらないかもしれねー…… そんなもの、今から怖がってたって、仕方ねーだろ。
俺…… お前の絵が好きで、描いてるときのお前も好きでさ…… だからいつか必ず、一流の選手になって、そしたらお前に、漫画描いてもらいてーなって思ってた。 俺のこと、誰より上手く描けるの、お前だって思ってるから。
(265) nordwolf 2014/04/07(Mon) 09時頃
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[そんな夢を抱いたのは、あの、沢山のスケッチブックを見たから。 ]
だから俺は、お前のこと好きになって……もっと、頑張りたいって思えるようになった。
[腕が回され、近付いた顔を覗き込んでみたけれど、そこにあるのは、閉じられた瞼だった。 今にも震えて壊れそうなそこに、軽く唇を触れさせる。]
守れねーかもとか……怖いとか…… そんな事ばっか、今から、言ってんじゃ、ねーよ。
謝るんだったら、将来、漫画家諦めてからにしろ。 俺のこと、どうでもよくなってからにしろ。
それまで、んな言葉……聞いてやれねー……
(266) nordwolf 2014/04/07(Mon) 11時頃
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俺のこと好きなんだったら、謝んな……
[回していた腕に力を込め、抱き寄せる。 謝るなと告げる声は、いつか屋上へ来いと言った時のような、命令味を帯びたもの。]
───好きだよ。 俺は、これからも、お前のこと忘れねーし、お前がいるから、もっと前に進みたいって思ってる。
なのにお前が、止まろうとすんなよ。 すすむなんだから、前、進んでみろよ……。
[抱き寄せたまま、立ち上がろうと腕に力を込めたなら、彼は、一緒に立ち上がってくれるだろうか**]
(267) nordwolf 2014/04/07(Mon) 11時半頃
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保険調査 ライジは、メモを貼った。
nordwolf 2014/04/07(Mon) 11時半頃
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風呂、行くんだろ。 立てよ。
……って、先にしゃがみ込んじまったの、俺だけどな。
[小さく向ける、自嘲の笑み。 残された時間、哀しい顔より、できれば笑顔を見せたいし、見ていたい**]
(268) nordwolf 2014/04/07(Mon) 12時頃
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─ 十文字宅 ─
ん、何が?
[立ち上がってくれた十文字の、漸く開かれた瞳を見上げながら、首を傾げる。 肩を竦めて苦笑を浮かべるさまは、普段見慣れたものに思えて、漸く安堵を浮かべたが]
!
[口端に落とされた口吻に、今度はこちらが、目を見開く羽目になった。*]
(275) nordwolf 2014/04/07(Mon) 18時頃
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何だそれ、どういう意味だよ!
[>>270ほんとも何も、キャッチャー以外のポジションなど殆ど経験がない。 十文字が何を考えているかは分からなかったけれど、何となくおかしくて、軽いツッコミ混じりの笑いが漏れた。*]
(276) nordwolf 2014/04/07(Mon) 18時半頃
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─ 銭湯 ─
[>>271服を脱げばやはり若干の意識はしてしまったが、それ以上は、今は思わなかった。 周りに客がいないこともあって、湯の音が大きく聞こえる。]
え、なにっ?
[驚いた、という声の大きさに、こちらが少し驚いて、湯船の縁に片腕を預けたままで振り向いた。]
あぁ、それ。 よくあるだろ、野球とかサッカーとかの選手のさ、伝記みたいなマンガ。 あれ描いてもらえるくらいの選手になりてーなーって。
[恥ずかしげに笑って告げれば、野球漫画を描いてみたいと思っていたと言われ、嬉しそうに首を擡げたのだけれど]
んー、そりゃそうだよな。 ああいったもんに描かれる選手っていったら、やっぱ、不動のエースとかホームラン王とか、メジャーとか海外行った選手だし……
[ただ一軍に上がりたい、だけでは、到底届きはしない願望。]
(277) nordwolf 2014/04/07(Mon) 18時半頃
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大リーガー………
[タイムカプセルに入れたボールには、確かにそう書きはした。 けれどそれは、まだまだ遠い、夢の話と思っていた。
いつかは、とは思っていたが。 あまりに遠くて、具体的なことは何も分からなかった。 それでも……]
……行ってやるよ。
そしたらお前、絶対に描けよ、野球漫画。
[至極真面目な声で返す。
底辺から、頂点へ。 一体どれだけかかるのかなど、今は考えられなかった。 ただ、薄ぼんやりしていた夢が、にわかに形を見せたから。 だからそこへ向け、進むと、十文字の双眸をしっかりと見つめ返した。*]
(278) nordwolf 2014/04/07(Mon) 18時半頃
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─ その夜 ─
[スポーツバッグに詰めていたノートパソコンを十文字に見せ、動画のアップの仕方を教わった。 カラオケ大会の時の自分の歌を、ツブヤイターにアップしようとしたのだが、やり方が分からなかったのだ。
それとついでに、ミットの絵の大きなものもあったら、それもくれとねだってみる。 ノートパソコンの壁紙もそれにすると言ったら、笑われてしまうだろうか。]
───だから、家主を床で寝かせるわけにはいかねーんだって!
[あーだこーだと理由をつけて、一緒の布団に潜り込んだのは、何時頃だったろう。 できれば、朝まででも話していたかったが、すぐ傍にある体温と、湯上がりの匂いと、耳を撫ぜる声に誘われ、いつしか眠りに落ちていた。
その後で、スポーツバッグの上に置いたリストバンドに、新たな文字が刻まれたことなど、いまは知る由もない。*]
(279) nordwolf 2014/04/07(Mon) 19時頃
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─ 練習初日 ─
[初めてもらった背番号は、育成選手であることを現す三桁の数字、149。 真新しいユニフォームとキャップを身につけて、右手首にネイビーブルーのリストバンドをはめようとして、いつの間にか増えていた黒い文字に気が付いた。]
……分かってるって。 ぜってーに行ってやる。
[まだまだ遠い、後ろ姿すら見えない目標。 けれど必ず掴んでみせると、人知れず不敵な笑みを浮かべ、リストバンドを巻き付けた。]
(284) nordwolf 2014/04/07(Mon) 20時頃
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[二軍との合同練習は、皆の前に出ての自己紹介から始まった。 ドラフトや移籍で加入した選手達に続き、3番目に、自分の番が回ってきた。
リストバンドに軽く触れてから、大きく深呼吸をし、前に出る。]
**高校出身、育成の保元頼児!
ポジションはキャッチャーです!
好きな食べ物はエビフライと青椒牛肉絲、尊敬する選手は富留田選手と石羽良選手です。
目標は……
(285) nordwolf 2014/04/07(Mon) 20時頃
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メジャーに行って、実録漫画の主人公になることです!
[拍手とともに、笑いが起きた。 けど二軍監督は、いい夢だと、肩を強く叩いてくれた。*]
(286) nordwolf 2014/04/07(Mon) 20時頃
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─ それからのこと ─
[東陽ネイビーシトラスの練習は、噂通り……いや、噂以上に厳しかった。 紺色のユニフォームはあっという間に泥だらけになり、くたくたになって風呂に入って夕飯を食べて、そのまま熟睡という日々が続いた。 筋肉痛、擦り傷、打撲は当たり前。 休日には本場のお好み焼きを食べに行こうという野望があったが、そんな余裕ができたのは、半年以上経ってからのことだった。 叱咤激励のなか、基礎からがむしゃらに練習し、シーズン終わりにやっと二軍の切符を手に入れた。
2年目、念願の二桁の背番号は82。 盗塁刺殺の甘さをコーチから指摘され、下半身と右肩の筋力強化、補給からの素早いアクションと、ランナーの動きを見極める術を徹底的に叩き込まれた。
そして3年目の夏、一軍の控え捕手の不調を切欠に、初めて一軍から声がかかった。 約束通り、その日の夜に明智へメールを送った。]
(292) nordwolf 2014/04/07(Mon) 21時半頃
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[それから数年の間は、控え捕手として、一軍二軍を行ったり来たり。 はじめのうちは二軍の合間の一軍だったが、そのうち徐々に逆転し、遂に開幕戦正捕手の座を手に入れたのは、ネイビーシトラス7年目の春のこと。 嬉しくて、家族と、当時の野球部員達と、そして寮の仲間達に、報告も兼ねて開幕戦のチケットを送った。
開幕は、ジョアとのアウェイ戦、デーゲーム。 バックネットを振り返った時、そこに、懐かしい顔を見ることはできたろうか。*]
(301) nordwolf 2014/04/07(Mon) 22時頃
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─ 9年目 ホーム最終ゲーム ─
[9回裏、シトラス3点のビハインドで迎えた最後の攻撃は、1アウト2,3塁、一打同点の大チャンスとなった。 相手ピッチャーは、ここで当たっている5番打者を敬遠し、満塁として、キャッチャー「ライジ」との勝負を選んだ。]
……ナメたことしてくれやがって。
[しかし、打率2割後半をキープしてはいるものの、今日の試合は当たりは無し、更に相手ピッチャーは、左腕の、相性の悪い投手だった。
ここで勝利すれば、アウェイでの残3戦を残し、シトラス16年ぶりの優勝が決まる。 負ければ、敵地での決戦に縺れ込む。
素振りを終え、バッターボックスへと向かう。]
(307) nordwolf 2014/04/07(Mon) 22時半頃
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