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78 わかば荘の薔薇色の日常
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[目についたのは、部屋と玄関とを隔てるカーテン。
──こんなところにも境界線がある。]
(112) 2014/06/30(Mon) 14時半頃
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[南方が通るために捲ったカーテンの隙間から 作業台のようなものと、その上のカップと、ベッドが見えた。
床に置かれた板は、隙間からではそうと認識できなかった。
ぱちりと目を瞬いて、 何も考えず後をついてゆく。]
(113) 2014/06/30(Mon) 14時半頃
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[南方が財布に手を伸ばした辺りで、 仕切りのためのカーテンが捲れて、白い姿が覗く。]
(115) 2014/06/30(Mon) 14時半頃
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──絵だ
[玄関に戻るために南方が振り返るのと 気配に気付いて顔を上げるのと 陽光をカーテンで遮った部屋に、遊の声が響くのと。
どれが最初だっただろう。]
(116) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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[裸足が、絵の具のこびり付いた床板を踏んで、 大きなキャンバスの前で止まる。
光沢の足りない肌色は それがまだ乾ききっていないことを示している。]
──。
[表情を変えない遊の目が、じっと裸像に注がれる。]
(118) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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[首を振る。 金はいらない──と。
苛立ちを含んだ詰るような声音の理由がわからない。 境界を越える前に感じた一瞬の罪悪感は、 現れた絵という新しい情報に上書きされた。]
(120) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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[遊の目はもう南方を見ない。
画布の上の描きこまれた裸像から なにかを読み取ろうとするように 自然体で絵と向き合っている。]
(121) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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[時間にして五分に満たない時間。
その後、 不思議そうに首を傾げ 握った袋に南方が触れたのを機に、 興味を失った体で南方を見上げた。]
これ、 楽しい?
[遊の手は、あっさりと袋を手放した。]
(124) 2014/06/30(Mon) 15時半頃
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[絵のことはよくわからない。 練習用の絵なんて、そんなものかもしれない。
自分の中から産まれる世界を表現したくて書く小説とは、 違うのかもしれない。
そうは思っても、聞かずにいられなかった。]
──南方、上手だね
[他に、言う言葉がなかった。]
(127) 2014/06/30(Mon) 15時半頃
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あ
先生、なんだ。
[袋を移し替えてしまったから ヨーグルトにスプーンはついていない。]
(130) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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アロエ 喉にいいから。
冷やしておいたし。 美味しいよ。
[用法など気にしたことがないから ヨーグルトは 少し眠って起きた時に食べればいいと思っていた。
でも、食べたいなら今食べればいいとも思う。
角切りのアロエが 白い海にぷかぷか浮いている。]
(131) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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うん 平日に、わかば荘にいるときあるしね。
塾って、予備校的な?
[どっちにしろ、教え慣れている。 億劫がりながらもいつも返事をくれていた 理由の一端が見えた。]
(133) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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ジャニスは、ミナカタのベッドに勝手に腰掛けた。
2014/06/30(Mon) 16時頃
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コンクールとか 出さないの。
[油絵の具の飛んだ床板を見ながら ぽつりと言う。
質問というより、独り言に近い 一言。]
(135) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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うん…──。
[出さない、 と言われなくて
ほっとした。]
(144) 2014/06/30(Mon) 16時半頃
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[気を張っていたわけじゃないのに 気が抜けた。
慣性の法則に従って、背中からたおれる。
柔らかくて]
……眠い。
(145) 2014/06/30(Mon) 16時半頃
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[スリッパが床を擦る音が近づいて来たので キャンバスから目を話して、 ベッドの前に立つスリッパを見た。
膝を上って 腰を過ぎて シャツの胸元を通って
顔に至る。]
寝れば
[寝る、と言うので 寝やすいように少し端に寄ってやった。]
(147) 2014/06/30(Mon) 16時半頃
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あるけど──
[あそこは、あまり眠れない。]
(149) 2014/06/30(Mon) 17時頃
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[掛け布団が飛んで来た。>>148
薄い、やわらかい、布団の端を掴んで もぞもぞ動いて足先が出ないよう掛け直した。
寝ていいと言われた気がして目を瞑る。]
(151) 2014/06/30(Mon) 17時頃
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[──仕事なんてやすめばいいのに。
思った言葉は、頭の中にだけ響いた。
寝相は悪くないから、 きっと南方の睡眠の邪魔はしないだろうと ベッドの端で膝を曲げて、すぅと眠りに落ちた。**]
(152) 2014/06/30(Mon) 17時頃
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─ 104号室 ─
[夢の中、いつの間にか遊は故郷の果樹園に立ち この果樹園では初めて収穫される品種の桃に手を伸ばす。
視界に入る自分の手はまだちいさくて 桃は手に余る大きさだ。
細かくて柔らかい針のような毛に覆われた桃は 太陽を浴びて仄かにぬくい。
父親に、いつものより甘くい匂いがするぞと言われ、 鼻を近づける。 ──と、 淡いクリーム色と薄紅の果実から、油絵の具の匂いがした。]
(180) 2014/06/30(Mon) 22時頃
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[すぅ、と息を吸って もう一度、匂いを嗅ぐ。
やっぱり感じるのは油の匂い。]
──……。
[視覚と嗅覚から入り込む情報の落差が 夢の円滑な進行を妨げ、 そういえばこれは夢だった──、と気付いた瞬間 遊は目を覚ました。]
(182) 2014/06/30(Mon) 22時頃
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……。
[横たわる遊の眉が、若干中央に寄っている。 悪臭──ではない。 不思議と落ち着く匂いだ。
しかし甘いと思って嗅いだ違和感が 目覚めた今でも強く残っている。]
(183) 2014/06/30(Mon) 22時頃
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[嗅ぎ慣れない匂いのする寝台でゆっくり身体を起こす。 短い時間だが、よく眠れた。
ここには自分を追い立てるものが何もない。
窓を見た。 カーテンは閉じていて、部屋は薄暗い。]
時計……
[アラームを掛けると言っていた>>150から まだ八時半前だと思ったら そんな時間はとっくに過ぎていて、 部屋のどこにも、主の気配がしなかった。]
(190) 2014/06/30(Mon) 23時頃
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[主の不在をいいことに もう一度寝てしまおうかと思ったけれど、 午後からバイトだったのを思い出した。 ベッドの上でもそもそと布団を畳んで立ち上がる。
──改めて、部屋を見渡す。]
──。
[ものがないわけでもないし 整然としすぎている──ということもない。
だけどここは、生活の基盤というより 単なる作業場のような感じがする。
学生時代、時々遊びに入った美術準備室が近いだろうか。]
(193) 2014/06/30(Mon) 23時頃
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[いや──あそこはもっと、 筆だの絵の具だのが散乱していて汚かったな。
ちょっと違うな、と首を傾げて 目的もなく視線を巡らせていたら、 作業台の上の、でかでかと書かれたメモ>>154を発見した。
置いてある鍵を手に、文字に視線を走らせる。]
九時──
[大丈夫、バイトは終わってる。]
(202) 2014/06/30(Mon) 23時頃
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[殴り書きなのに妙に読みやすい。
細いペンを探したが、作業台の上になかったので 勝手に引き出しを開けた。]
(211) 2014/06/30(Mon) 23時半頃
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[普段喋るよりよほど雄弁で、 主語も目的語も行方不明にならない丁寧な口調。
殴り書きのメモの隅に 鉛筆の細い字で、流れるように書き記した。
書き終わった鉛筆は、 返信があると主張するように作業台に転がした。]
(213) 2014/06/30(Mon) 23時半頃
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[部屋の隅に片付けられた他のキャンバスも気になったが 慣れないものに勝手に手を触れて散らかすと 片付けが面倒だと思って見るのをやめた。
部屋を出る前に、 見慣れない一階のベランダからの景色を見ようと カーテンを捲って窓を開け、身を乗り出して外を見た。]
まだ降ってる。
[濡れて仕事に行くわけにはいかないので 傘がいるなと思った。]
(215) 2014/06/30(Mon) 23時半頃
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[言われた通り窓を閉めて、そこにもしっかり鍵を掛けた。 玄関と部屋を隔てる間仕切りをくぐる前、 もう一度裸像の描かれたキャンバスを、振り返って見た。
絵は、なんのイマジネーションも掻き立てられない ただの習作のようであるが、 改めてよく見れば、白の中にも幾重もの色が重なっていて それがリアルな立体感を感じさせているのだとわかった。
よく描き込まれている。 自分なら、一枚の習作にこうも手を掛けられない。
好き──なんだな。
ぼんやりと、そう思った。]
(221) 2014/06/30(Mon) 23時半頃
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─ 104号室前 ─
[閉じたドアに鍵を掛けて、鍵をポケットにしまう。 談話室に顔は出さず、階段に向かう。
自室で着替えて出掛ける準備をするためだ。
來夏はもう起きているだろうか。 昨日渡し損ねたエクレアを部屋に持って行こうか。]
(226) 2014/07/01(Tue) 00時頃
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