109 【誰歓ガチ】冬の終わりのドリームランド
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信じてもらえんかも知れないが、若いころの俺はこう見えて結構なエリート様だったんだ。
商船大学はトップで卒業。 一等航宙士昇格も同期じゃ最速。 当時最新だった恒星間往還船の処女航海クルーにも選抜されて、そこでのソーティを3つもこなせば、次は内航貨客船の船長(キャプテン)が確定。 まさに出世街道まっしぐらというやつさ。
しかし、いつの時代においても良い事はそう長くは続かない。 お前たちの暦で言うなら……今から大体、二千三百年ほど前のことになるだろうか。 俺の生まれた星系で大きな戦争が勃発したんだ。
(25) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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船が星系に還った時にはもう、航路という航路は全て機雷で封鎖されていた。 レーダーが一面真っ白。まるで金平糖の海だ。 俺たちの船はそのど真ん中に、亜光速で突っ込むハメになった。
ワープアウトから30秒で最初の機雷に接触。クルーの半分以上が殉職したよ。 船長も、副長も、掌帆長も、ブリッジごと対消滅して爆発エネルギーに転換されてしまった。 俺はたまたま後方観測所に詰めていて難を逃れたが、しかしそれは幸運ではなく悪夢の始まりだった。
(26) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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『ミドルデッキから上は全壊だ! くそっ、早く緊急対策の指示をくれ、船長(キャプテン)!』
インカムから響く怒声に、俺は自らの耳を疑った。 船長? 俺が?
『ブリッジ要員は全員死亡! よって本船の指揮権は、生き残った航宙科最先任のアンタに引き継がれる。 うろたえている暇はない。さっさと指示をくれ!』
そこから先、俺のインカムは一秒足りとも鳴り止む事は無かった。
(27) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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『船内気圧急速低下中! 全ブロックの緊急隔壁閉鎖許可を!』 『アッパーデッキに生命反応あり! 救出チームを回してください!』 『船外モニターに熱源多数。新たな追尾機雷と思われます』 『機関部クウォンタムドライブ、EPR相関不整合率異常増加! コンマ3で危険域に達します!』 『隔壁を閉じる前に救出チームを……船長!』 『船長、回避航路のプロットお願いしますっ』 『聞こえているのか船長!?』 『船長、早く指示を!』 『このままじゃ爆発しますよ、船長!』 『船長!!』
思考はぐるぐる廻るのに、決断を告げる言葉が出てこなかった。
(28) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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やるべき事が分からなかったのではない。 エリートとして仕事を続けてきた俺にとって、一つひとつの対策を考えるのはそう難しい行為ではない。 しかしそれらが同時に発生し、複雑に絡み合いながら進行している今、
俺は何を優先し 何を切り捨てるべきなのか
その判断の重さが俺の身をすくませ、命令を発すべき喉を締めあげていた。 逡巡。遅疑。ためらい。迷い。 身を引き裂かれるような数十秒間。インカムから聞こえる怒声はやがて悲鳴に変わり、そしてまた機雷が爆発し、船のエンジンが制御不能に陥った。
(29) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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少し話が逸れるが、シュレディンガーの猫、というのを知っているか? 量子力学における有名な思考実験でな。箱のなかに一匹の猫と、ある条件で作動する毒ガス噴出装置を入れておく。装置がいつ作動するかは、確率論でしか語れない。 さて諸君。 いまこの瞬間、箱の中の猫は生きてるだろうか? それとも死んでいるだろうか?
量子力学の世界において、この猫は生きていると同時に死んでいるとも言える。 二つの状態が靄のように重なっており、観測者が箱の蓋を開けての中を確かめた瞬間に初めて、どちらかの状態へと収束されるのだ。
(30) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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俺が乗っていた恒星間往還船は、この理屈を応用して光速を越えるエンジンを積んでいた。 まず、ある瞬間における自身の存在を量子力学的な「あやふやさ」に変換する。そして次の瞬間、遠く離れた目的地付近に「船が存在する」という観測情報を生成する事で、空間を一気に跳躍する。 名付けてクォンタムドライブ。
船が沈む直前、俺はそいつの暴走に巻き込まれた。
(31) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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今、俺はどこにいるのか。 そうだな、どこにでもいると言えるし、いないとも言える。生きてるか死んでるかもあやふやなまま、最期にいた空間付近に靄のように満遍なく存在している。 この状態は誰かが俺の存在に気付き、俺を「観測」してくれるまで続くだろう。 まぁ、そんな奇特な奴がこの宇宙にいるなんて想像することすら馬鹿馬鹿しい話だが。
(32) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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そういう訳で俺は今も、量子の海の中で永遠の夢を見ている。 絶えることのない後悔に苛まれながら、死すら超越したまどろみに捕らわれ続けている。
あの時、もっとしっかりしていれば。 リスクを恐れず決断を下すことが出来ていれば。
そうすればおそらく今よりは、もう少しマシな最期を遂げられたかも知れないのに、な。
〜了〜
(33) tobimatsu 2015/02/25(Wed) 23時頃
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>>39 安心しろ、ボリス。 俺は帰りたくても帰れない。
誰かがその空間に「俺がいる」ことを観測してくれるその日まで。 何千年でも何万年でも、ただ夢を見続けるしかないのさ。
つーかさ、ドリームランド無くなったら、俺マジでやばかった。 ここが無くなったらこの先、ずっと独りで瞑想してるしか無くなるじゃん?
(40) tobimatsu 2015/02/26(Thu) 00時半頃
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>>41 この世界のおいしいもの、か。 そうだな。時間はまだまだいくらでもあるし、星も空から降ってくる。片っ端から食って食って、食いまくってやるか!
金平糖だけは勘弁だがな。いろんな意味で。
(42) tobimatsu 2015/02/26(Thu) 00時半頃
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