93 Once upon a time...
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………ほぇ。
[名前を呼ばれて顔を上げた。視界に入ったのは、草色のシャツと、浮き出た鎖骨。違う、もっと上。目線が上がるにつれて滑車のごとく、カップを持った手は降りて行く。磁器とテーブルがぶつかる小さな音と同時に、灰色と黒の視線が、交差した。
無言。クラウン・ザックの無表情に圧倒され始めたペギーが瞬きをした瞬間、彼の長い腕が彼女に伸びた。]
ふに。に。ににににに。
[頬をつまんだ指が上下左右に引っ張られ、ペギーは目を白黒させた。 クラウンのアドバイスには、素直に頷く。]
……ひゃい。
[クラウン・メイクは嫌だな、と。そう思った。 立ち去るクラウンに小さく手を振って、それから、甘いカフェオレを一気に、飲み干した。]
(57) 2014/10/12(Sun) 12時頃
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――大テント・ステージ裏――
[顔の見えない、無数の人々の拍手。 歓迎と絶賛のコールを背にして、ザックが舞台袖へと現れる>>41。 掲げられた手に、こちらも片手を返して……不意にぽかんと開いた空白の時間にのまれたせいか、本来かけるべき労いの言葉も言いそびれてしまった。 やがて、中途半端な感じで上がった口角と一緒に漏れた笑いとエール>>43]
……まかせとき。 感涙させてそのメイク、ぐっちゃぐっちゃにさせてやっから。
[そのまま離れていくザックの背。 引き留めることはしないけど、かけ忘れた労いのかわりに。 いたずら心も込めた、ちょっとした問いかけを投げかける]
ザックさー。 ……団長、なんか言ってたー?
[自分のかわりに先陣を切った、ホワイトフェイスの男に向けて、と。 こうして、出番をまつ人形は、その場を離れていく男を見送ったのだった*]
(58) 2014/10/12(Sun) 13時半頃
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――大テント・ステージ裏――
[舞台では、ネクタイを付けたプードルが玉乗りを演じている>>46。 余興を担う者たちが、ステージの熱気を上げていく]
あの子はやるよ。 なんせ、このあたしと一夜をともにしたんだからね。
[言い回しはともかくとして。 物置テントで眠ってしまったのだから、ここについて嘘はない。 ……と、傍にいる団員の姿に気がついて、その長身をぐっと見上げた]
へーい。サイモン。調子どう?
[普段通りに映るナイフ投げの男に、気楽な調子で声をかけた。 まさか、予行練習でミスをおかしてしまった>>56なんて、予想だにすることもなく。 平静を務める者同士、ちょっとした軽口くらいは、ここでたたきあっただろうか。 けれど、平静なやり取りから逸脱した言葉を切りだしたのは、エフェドラの方からだった]
(59) 2014/10/12(Sun) 15時半頃
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……あのさ。サイモン。 しちゃいけないお願い。しちゃっていっかな?
[この段階で断られたとしても、「そこをなんとかー」と続けるつもりだ]
ナイフの使い方、教えてほしいんだ。 心構えみたいなもんでもいいから。 出番終わって、空いている時でいいけど……できれば、急ぎ目で。
[するり、とコートを脱いだ。 ジリヤお手製の、スパンコールをあしらった、純白のドレスがあらわになる。 あまり長くはお話しできない。 今行われている余興が終われば、自分の出番なのだから。
だから、理由を問われなかったとして、彼にはこう付け足していたことだろう]
(60) 2014/10/12(Sun) 15時半頃
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あたしさー。どーしても団長の仇、うちたくってさー。 我慢できなくってさー。どーかなっちゃいそうなんだよねー! あっははー! だから……お願い。
[きらびやかな舞台の裏で、抱いた殺意を露わにする。 ぐりり、と眼を見開いて。サイモンに宣言する、妄執の誓いをたてた人形。 本来観客を魅了するべく磨いた技を汚すがごとく、血を流すために利用したいと言う声は、彼にはどう受け止められたのか。 仮に断られたとしても、しごくまっとうで仕方がない。「そっか。ごめんね」と呟くだけだ]
……じゃ、お先に行ってくるわー。
[サイモンが団長を殺した犯人だったら? そんなこと、どうでもいい。目的のためならリスクなんていくらでも踏んでやる。 もっとも……エフェドラはただ、彼の技術を口実にして、吐き出したかっただけなのかもしれない。 一人で抱え込むにはあまりにも、重すぎるこの衝動を。
余興が終わるのを見計らい、エフェドラは『世にも珍しい生きた人形』として。 舞台に立つスタンバイに入った*]
(61) 2014/10/12(Sun) 15時半頃
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――舞台上/『演目:踊るマリオネット』――
[舞台上で人形が舞う。奏者たちの奏でにのって、長柄のブラシを手に飛び跳ねる。 袖から椅子に座ったまま、サポートの団員たちに舞台上に運ばれて。 音楽の始まりに魂を得たように、立ち上がってこうして踊る。
わたしは煙突掃除屋さん。この町一番の果報者>>0:7。
いつも通りの演目。特に変わったところはない。 ときどきわざとつまずいたり、転んだり。 そんな折に、上から糸で吊りあげられるように、高く飛んで立て直したり。
普段の通りに一曲目を終え……そこで照明がいったん消えた。 間に合った手配>>1:281の通りに。演奏が止み。 エフェドラはうつむいたまま、かくり、かくり、と揺れてから制止する。
サーカスには不釣り合いの、観客を不安に陥れるような、無音の空白。 やがて、たった一つのスポットライトが舞台のエフェドラを照らした時。 人形は顔を上げ、ゆっくりと歩みだし……『客席』へと降りて行った]
(62) 2014/10/12(Sun) 15時半頃
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[追いかけるスポットライトの明かりの中で、観客の動揺を感じ取る。 本来現実と交わることのないはずのメルヘンが、彼らの中に侵略する。 たとえるならそれは、メルヘンの歪み>>1。
……と、無言を終わりを告げる、声と笛の狭間のような音が、人形から漏れ出してきた。 音に合わせて、ぱくぱくと口を開く人形が綴るメロディは。 多くのものが知り馴染んだ曲。
――――『アヴェ・マリア』。
アヴェ・マリア。恵みに満ちた方。 主は、あなたとともに、おられます。
呼吸をしていることがばれないよう、限界まで息を止め。 微細な酸素を鼻から吐き出す、祈りの歌。 客席の中に降りなければ、あまりにも小さすぎて成り立たない人形の歌声。
それを助けるように、ごく小さく奏でられる楽団のメロディーが始まって。 激しい動きを排した人形が、祈りを込めて客席の間を練り歩く]
(63) 2014/10/12(Sun) 15時半頃
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[こんな演目変更、団長が生きていたら、きっと怒らてしまうだろう。 でも、怒る声でもいいから聞きたい。そして伝えたい。 団長の愛したこの夜に、あなたを送る追悼の歌。
私たち罪人のために、お祈りください――――。
緩慢な動きでステージに戻る。 両手を組んで、かくり、と膝をつく。
今も、死を迎える時も、お祈りください――――。
天を見上げ、人形の口で、最後の一節を音だけで放った。
――――アーメン]
(64) 2014/10/12(Sun) 15時半頃
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[サーカスには、きっと不似合いなこの歌は。 観客の胸にどう届いたことだろう。 ジャニスが思い描いていた形>>0:102とは、少し違っていたかもしれない。 どちらにしろ、こんなしんみりしたままじゃ、次の演目に響くよね。 それは、やっちゃいけないこと。
だから、十分な余韻をとったその後で。 奏でられる陽気な音楽にあわせ、膝をついた姿勢から一気に飛びあがった。
狼なんて 怖くない! 怖くないったら 怖くない……!
陰気だったかもしれない前曲を、振り払うように精いっぱい陽気に。 やがて、怖くないんだー、と終えたエフェドラは、支えを失ったようにがしゃんと崩れた。 サポートの団員2人が駆け寄ってきて、頭を足を持って人形を片づけにかかる。 運搬される人形は、ぴんと、横一文字伸びた姿勢のまま、くるりと客席に首を向け。 カクカクと手を振ってから、舞台袖へと消えていった。
こうして。演目の1つ、『踊るマリオネット』は終わりを告げた。 次のメルヘンへと――――バトンタッチ*]
(65) 2014/10/12(Sun) 15時半頃
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――大テント・ステージ裏――
は、はは……こ、ここでいい、よ……。
[舞台から運んでくれた団員にそう告げて、下ろしてもらった。 普段からかなり限界まで振り絞る演目ではあるけれど。 『歌』を取り入れてしまったがため、今回の変更は想像以上に、細すぎる体にダメージを与えていた。 着替える気力もなかったから、ぶるぶるぶる、と震える体に、コートだけを掛けておく。 荷物、着替えなどが入った袋を抱きしめながら、隅の方でうずくまった]
あ……あと、は、お願い、ね。
[役割を控えたものたちにそう告げて。 出番を終えた人形は、口をきくのも辛そうに、その場で震え続けるのだった**]
(66) 2014/10/12(Sun) 16時頃
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―― 大テント:ステージ裏 ――
[>>58背に掛けられる、 そうだ、冗句じみた声が、 エフェドラの耳慣れた言葉だ。 彼女の中に根付く報復への思いを知らず 足を進める道化は背中越しに手を振った。
――道化が泣くはずないでしょ。 片頬に潜んだピエロがもう泣いたから、 クラウンはスパンコールだけを照明に煌めかせる。]
団長? ――団長は、
(67) 2014/10/12(Sun) 18時半頃
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[けれど、問いかけ>>58に足を止め、振り返った。 団長がなにか言ったか――。 代わりの前口上、拝借したフレーズ、最終公演。 何もかもがそろって、一つ、 大事なものの抜けたメルヘン・ストーリー。
なにか、冗句を。 求められるクラウニックに似合いの言葉を。 真っ赤な唇はけれど、吐出してはくれなかった。]
――、 寂しい、って。
(68) 2014/10/12(Sun) 18時半頃
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……―― あんたがいないと寂しい、って『俺が』言ってきた。
[『団長が』から主語を変え マスクから少し覗き出た、道化に不似合の感情を。 道化にもリングにも不必要な感情を吐露し、唇を曲げる。 そうすればクラウンメイクは大げさに吊り上る。 笑うように吊り上るから、舞台上ではよく作る顔だ。]
だから団長、 馬鹿野郎って怒ってるかも。
[あと頼むね。団長のご機嫌取り。
リングの後を託す人形少女へそう告げて。 後に人形の祈り歌が行われることを知らないクラウンは ステージの引継ぎだけではない部分まで託してその場を離れた*]
(69) 2014/10/12(Sun) 18時半頃
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理髪師 ザックは、メモを貼った。
2014/10/12(Sun) 18時半頃
ザックは、エフェドラにまた手を振って、その場を後に。
2014/10/12(Sun) 19時半頃
許婚 ニコラスは、メモを貼った。
2014/10/12(Sun) 21時半頃
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[この公演のあとに練習を始めれば次には間に合うだろう。 身軽なのは知っているし身体能力も高いと思うから。
次があるとアントニーが信じているのだから、 今はそれに水を差すことはしないでおく。]
…………。
[口上を終えて戻ってきたクラウンへと視線を投げる。 言いたいことはあったが言葉が無いからふいと逸らした。]
(70) 2014/10/12(Sun) 21時半頃
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薬屋 サイラスは、メモを貼った。
2014/10/12(Sun) 21時半頃
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銀の弾丸。 銀紙を剥がしたら、チョコレート、………ね。
[ブローリン>>51に向けた背を、離れ際、一度限り。 穏やかではない。 そう告げた彼に、返したのは、誤魔化すもので。]
……… その方が、もっと、メルヘンだよ。
[笑い、背を向けた。
その先はもう振り向くこともなく 結果、背に受ける、彼の視線に気付くことも、なくて*]
(71) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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――回想/前口上の後――
[手を振り去っていくクラウン>>67が、足を止めて振り返る。 大きすぎる赤い唇が、『寂しい』、と紡ぎ出す>>68。 笑うように吊り上がる口とは対照的に、エフェドラの顔からは冗句の名残が、すっと静かに消えて行く]
……なにそれ。らしくないこと言っちゃって。
[呟きは掠れた響きで、ザックのもとには届かないだろう。 だから、去りゆくクラウンに対しては、問いかけ以上の言葉はなく、見送った>>58ことになるのだろう。 急速に寂しさ>>6が増幅されてしまうのは、きっと、ヨアヒムの立場に立った男が、そう語るから。 自分では決して捉えきれないなにかをその場で受け止め、吐き出しているように感じたからか]
存分に怒られろ。うらやまし。
[離れた背からは当然のように、偽物の涙さえ見えはしない。 精一杯強がったこちらの言葉も、届いてはいないことだろう*]
(72) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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――現在演目後/ステージ裏――
[乱れ、乱れた息を何とか整えようと、隅で蹲り震え続ける>>66。 時間の問題。ほっとけばおさまる。 そう言い聞かせて、荷袋をぎゅっと抱きしめる。
団長のこと。 ザックに引き続き、また、怒らせちゃったな>>64、と思う。 エフェドラの知る由もない、ザックから託された『ご機嫌取り』>>69は、遂行叶わず、みごとに失敗に終わってしまったのかもしれない。
ただ、2人して怒られていると思い描いてみれば。 それが愛おしくもあり……やっぱり寂しくも、あり。
そんな思いのせいだろう。 泣き笑いのような表情で、抱きしめていた荷袋を持つ手が、そっと摩るような動きにかわる。 小さく、ごつり、と指先に感じたのは。 メルヘンに来る前に受け取った、あの不思議な土人形――*]
(73) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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――舞台裏――
[興奮とは違ったざわめきと、不自然な静かさが耳につく。 人形の歌声は細すぎて、舞台裏には響かない。 なんだろうと思う内に、エフェドラが連れられてきた。]
……うん。
[いつも以上に疲労困憊といった様子のエフェドラに不安げな目線を向けつつも、そんな状態で任せたと言われたら>>66、任されないわけにいかない。 小鳥の出番はクライマックス手前、まだ少しある。 出演者の補給用に用意された水瓶をエフェドラの傍らに置き、様子を見守っている*]
(74) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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――マリオネットの物語――
[舞台で紡がれる、物語。 いつもと同じようでいて いつもと、どこか違う物語。
マリオネットの紡いだ物語は 普通では、ありえないもの>>63
その鎮魂歌が送られる先を、客は知らない。 知らないまでも それは、現実を侵食してゆく物語。 息を飲む客席。 客は確かに、マリオネットの世界に呑まれていた。 演目は、成功だった]
(75) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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[しかし 鳥モドキの顔からは珍しく、表情が消えていた]
………あれは、反則、じゃないかな?
[ぽつり呟く。
物語と現実を、繋げてはいけない。 繋がってしまったら―― 物語にしか生きられない人は、どうなる?]
(76) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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――ステージ:空中ブランコ――
[鳥は、緊張しない。
ただ、空を舞う楽しさだけがあった。 物語を紡げる事。 ただその為に、メルヘンに生きている。
大所帯の空中ブランコ。 大人数で描く物語。
いつものように 空を飛べない人間に 空を飛ぶ夢を見せる。
団長が作った、物語の登場人物となって]
(77) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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靴磨き トニーは、メモを貼った。
2014/10/12(Sun) 22時頃
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[曲に合わせ―――踏み切る。 ブランコと共に、身体はふわりと、空を舞う。
腕に力を入れ、手を離す。 くるりと回転する身体 衣装係渾身の衣装が、光を弾き世界を演出する。
何の苦労も無いかのように 空を舞い飛び、夢を見せる]
(78) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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――― 子猿と犬の余興 ―――
[スポット・ライトを熱く浴びたステージ。
二足歩行のプードル・カットと子猿が 両手大に膨らんだ大玉を抱えて、ちょこちょこ、歩く。 彼らの身体より大きく伸びる影。 ――――… お辞儀は、犬だけ、すてんと転んだ。 慌てて立ち上がろうとする。この一連が、仕込みだ。
音楽を待つ。
ニコラスの合図を待ってから、一音目で、玉に飛び乗った。 音楽に合わせて、不規則に、右手を、左手を、鳴らした。 子猿など、玉の上で逆立ちまでやってのけた。
観客は、音楽に息を飲み、転ぶ犬に笑い、子猿に拍手を送る。 既に前向上で集まっていた視線を ステージに、釘付けに、続きは次の演目に。]
(79) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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わお、―――――…ん。
[余興の締めに、プードル・カットが鳴いた。
これだけは、数時間前に、勝手に仕込んだものだ。 団長に捧げる一鳴き。遠吠えは、子犬ゆえに、か細くて。 ステージの熱気にすぐに、かき消されてしまう*]
(80) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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[練習は上手くいった。 本番も――皆、大丈夫だと聞いたから。 奏者は再び楽器を携え、観客に見えるぎりぎりの場所で笑顔を浮かべ、息を吐き出すと同時に演奏を始めた。 序章の曲よりも、ずっと指の動きが早い、軽快な曲。
前奏の見せ場を終えれば、取り決めていた音にあわせて 動物たちが跳ねる、回る 指も一緒に跳ねる、楽器も軽やかに踊るのだ。
リズムにあわせて短い金髪も揺れる。 望んだ一体感は確実に、 微かにはたかれた白粉の下で奏者の温度をあげさせる]
(81) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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――― ステージ裏 ―――
[その一部始終、回り始めた"メルヘン"を ステージ裏の陰から、腕を組み、眺めていた。 首に襟巻きよろしく巻き付いた蛇も、今は、雰囲気に圧倒されて、大人しい。]
…………… 信じているよ。 結局、名前も決まらなかったんだけどね、……羨ましいな。
[ステージ裏での、短い会話>>59 余興の成功を、と、頷いてから、首を捻る。 "羨ましい"の主語が繋がらないまま、ナイフ投げの傍に向かうマリオネットの背を、見送ったのだ。そして、―――演目を。]
(82) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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理髪師 ザックは、メモを貼った。
2014/10/12(Sun) 22時頃
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[鳥のようにブランコとともに舞う姿、 そんな彼を引き立てる為に時にわざと落ちることもある。 そうしたほうがより一層、特別な物語を見ていると印象付けるから これは、フィリップの物語。]
(83) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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[フィリップと違うのは物語だけでなく現実にも生きていること。
テントの中ではブランコ乗りだがテントの外では別の顔。 団長が強制したのではなく、ここへ来る前からの慣習とでも言うか 団員にも言っていない別の仕事が、たまに入る。 昨日テントを抜けだしていたのもその時間があったから。 これがいいことなのか、わるいことなのか、判断は出来ていないが この時ばかりは自分の物語(げんじつ)の中に生きられる。]
(84) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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[そう、本当はフィリップなんて大嫌いだ。]
(85) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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[観客が息を呑む、マリオネットの、アヴェ・マリア。 捧げられた鎮魂歌。 意味を介さない観客が、息を飲んでいる。
男の指先が、ポケットの膨らみに触れた。 小さな・小さな、小銃。 触れて、離れて、その反則技に、飲み込まれた。客の一人。]
Bravo.
[一転した、陽気な音楽のあとに スタンディング・オベーションをかます客席の熱狂に紛れて、呟いた。奏楽者たちの、巧みなメロディが、その後を追う。]
(86) 2014/10/12(Sun) 22時頃
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