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78 わかば荘の薔薇色の日常
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[遊が目を覚ましたのは、 天露が管理人への告解を行った時間よりはずっと後で、 104号室の窓から庭を覗いた時には、 巨躯を縮こまらせる檀>>199はもう庭から消えていたし、 道菅の大声>>207も、響いた時にはまだ夢の中だった。
昼にほど近い、遅い時間。 たまたま誰ともすれ違わずに二階まで来て、 自室までぺたぺたと、冷たい床を踏んで歩いた。]
(239) 2014/07/01(Tue) 00時頃
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おはよう
[204号室──芸の部屋の前辺りに差し掛かったところで 自室の隣の部屋の扉が開いた。
立ち止まらず、表情を変えず、言葉を返す。]
──…
[そのまま202号室の前まで来て、足を止めた。 前髪が邪魔で、草芽の表情は見えない。]
(265) 2014/07/01(Tue) 01時頃
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手──
[自分の掌を見せて、 同じように手を出せと促す。]
(273) 2014/07/01(Tue) 01時頃
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[扉から恐る恐る差し出された手を いつもと変わらぬ温度で、握る。
握って、手前に引いた。
部屋の中から引っ張り出すように──。]
(283) 2014/07/01(Tue) 01時半頃
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[握った手を離さず、 反対の手を、草芽の前髪に伸ばす。
逃げられなければ、前髪を額で押さえて 覗くライトブラウンを、間近から見下ろした。]
(284) 2014/07/01(Tue) 01時半頃
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見て。
[気持ちを伝えるのに、言葉はいらない。 そんなことを言うのは、 物書きとしてどうかと思われるかもしれない。
けれど実際、 視線から、態度から、読み取れるものは多い。]
(286) 2014/07/01(Tue) 01時半頃
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[草芽の唇が動く。>>297 何かを言おうとして言葉にならなかったのか。
>>299見せろ、と訴える相手の目を もう一度、自分に向けるように顔を寄せて繰り返す。]
見て。
俺は── 眠い時は眠いって言うし 面白くなければ、笑わない。
いちいち自分のこと、全部言おうと思わないから 目を瞑ったままだと、俺のことはわからない。
心配なら── 心配、したいなら──。 自分の目で、見なよ。
(303) 2014/07/01(Tue) 02時頃
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[心配されるようなことは、 今のところ、小説の進み具合ぐらいしかないけれど。]
(305) 2014/07/01(Tue) 02時頃
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[近く見詰める、切れ上がった一重の眼は それでも、斬りつけるような鋭さは持たない。
草芽の淡い色の虹彩がどんな表情を湛えるか 逃げることを許さず見ていたが]
──…
[頑張る、と 頼りなく答えるのを聞けば 僅かにその表情は笑み、掴んでいた手を離した。]
(311) 2014/07/01(Tue) 02時半頃
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髪、切れば。
[握っていた掌に 草芽の体温が残る。
距離はもう元通り。 引こうと思えば、いつでも新たな境界線を引ける位置。]
邪魔でしょ。 あと
そういえば、お揃い。
[白いパーカーのフードを摘んで、 そこについた、猫の耳のような飾りを見せた。]
(312) 2014/07/01(Tue) 03時頃
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[フードを被ることがないから その飾りは日の目を見ることはない──が、 もし、日向を見つけたら被るつもりでいる。
猫っぽいと言う日向の前で 猫の真似でもしてふざけてみようと思ったのだ。]
(313) 2014/07/01(Tue) 03時頃
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[一歩、扉から離れ]
──あ、來夏。
[廊下の途中に立っている來夏に気付いて、名を呼んだ。]
(314) 2014/07/01(Tue) 03時頃
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ジャニスは、テッドをちょいちょいと手招きする。
2014/07/01(Tue) 03時頃
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─ 202号室前 ─
[草芽が遊の前で笑うのは珍しい。
>>317空気が漏れたような音と 口許の緩む様子に、遊の口許に刻む笑みもごく僅かに深まる。
來夏が重い足取りで近づいて来れば ちゃんと隣に来るまで手招きを続け 眠たげな顔を見て]
眠い?
[と尋いた。]
(325) 2014/07/01(Tue) 08時頃
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[理由を探すような視線に気付くと]
ちょっと待ってて
[と言い置いて、 一度自室に入り、冷えたエクレアを持って戻って来た。]
昨日 買って来た。
──、
お土産。
[理由もなにも言わず 來夏にエクレアを差し出して、 聞かれれば昨日手伝い頑張っていたからだと教える。]
(326) 2014/07/01(Tue) 08時頃
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[草芽も食べたがるようなら
じゃあ、今度買って来る。
と言って、 フードの上から草芽の頭を撫でようと手を伸ばす。]
(327) 2014/07/01(Tue) 08時頃
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と、バイト──
[そろそろ出ないと遅刻する、と気付いて 眠そうな來夏の額辺りも一度撫でてから 二人に背を向け、201号室の扉の向こうに消えた。]
(328) 2014/07/01(Tue) 08時頃
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─ 201号室 ─
[南向きの、カーテン開け放しの窓から 灰色の空が見えている。
雨の日の自然光で満たされた室内は 暗くはないのに、光よりも影を身近に感じる。
光沢のある黒いローデスクの上で 閉じた薄い機械が沈黙している。 機械に心はないのに もう時間はないぞ──と急かすような、 無言の圧力ばかりを感じる。**]
(329) 2014/07/01(Tue) 08時半頃
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ジャニスは、財布と透明の傘と携帯を持ち、バイトに出掛けた。**
2014/07/01(Tue) 08時半頃
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[壬浪商店街に入って一本目の脇道を入ると 昭和の時代から変わらない古い家屋と 最近出来たばかりの 和モダンなデザイナーズマンションが同居する、 ノスタルジィな雰囲気の裏通りに出る。
常連からても爺と呼ばれ親しまれている 白髪の柔和な店主が営む狩生堂古書店は、 そんな新古入り混じる不思議な通りの一角に ひっそりと隠れるように建っていた。]
(341) 2014/07/01(Tue) 16時半頃
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─ 狩生堂 ─
[木枠にガラスを嵌め込んだ古い引き戸を開けると 最初に目に入るのは 男性の腰ほどの高さの木製の台。 てっぺんに赤い座布団が敷いてあって、 その上に、真っ青な目をした白い老猫が 身体を丸めて眠っている。]
──。
[台とほぼ同じ高さのカウンターが 台と隣接するように店内へと伸びていて、 レジの奥に、本を読み耽る店番の青年──遊がいた。]
(342) 2014/07/01(Tue) 16時半頃
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[遊は、店にいる時間のほとんどを カウンターで本を読んで過ごす。
客が入って来た時だけ顔を上げ、 ちらりと客の顔を確認するとまた本に視線を戻す。
いらっしゃいませの一言もない。
──が、 洋書や専門書を多く取り扱う狩生堂の客の多くは 美術系の学生やまだ若いデザイナーであるためか、 その無愛想さが、逆に気を遣わなくてよいと、 評判はそこまで悪くなかった。]
(343) 2014/07/01(Tue) 16時半頃
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─ 狩生堂 ─
──… ──… ──…
──…?
──…あ、 いらっしゃいませ。 買い取り希望ですか?
[雨のせいか、曜日のせいか、 店を訪れる人の数はいつも以上に少ない。
夕方近くになって、 一人の女性客が段ボール一箱分の写真集を抱え 細腕をぷるぷるさせながら無言でレジ前に立っていた。]
(384) 2014/07/01(Tue) 22時頃
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[遊がこの日
いらっしゃいませ、と ありがとうございました、を
口にしたのはこれが三度目で 同時にこれが最後となった──かもしれない。]
(385) 2014/07/01(Tue) 22時頃
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[女性客が訪れる前の、平和──もとい、暇な店内。
遊がいる間、ても爺はあまり姿を見せない。 白猫のみぃも、遊に懐いている。 今は餌のカリカリを食べ終えて睡眠中だ。
邪魔する者のいない店内で、遊の読書は捗っている。]
(404) 2014/07/01(Tue) 23時頃
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─ 狩生堂 ─
…── …── …──
…──あ、
…──宇佐美
[まいど──から四拍ほど遅れて 遊は顔を上げた。
夢から引き戻されたような顔で、意外な客の顔を見る。]
(407) 2014/07/01(Tue) 23時頃
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ジャニスは、サミュエルの顔を、凝っと見て──
2014/07/01(Tue) 23時頃
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[遊が読んでいたのは 病沢エリの著書──人間不全。
その昔、作者がわかば荘に住んでいたことを 遊は知らない。]
イラストなら──
[かなり後半の頁に栞を挟み 立ち上がって店の左奥の棚を指指した。]
そこ。
[ただ、そことは別に、 最近のイラストレーターが参加している 雑誌のバックナンバーを扱ったコーナーが 今教えた場所から三つ隣の棚にある。]
(413) 2014/07/01(Tue) 23時半頃
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[藤堂のイラストを探しに来たと知らない遊は 一般的なイラスト教本のある棚を教えたが、 宇佐美が気紛れに他の棚にも目を向ければ 平置きされ並べられた雑誌の表紙のひとつに 藤堂のイラストが用いられているのを 見つけることが出来るかもしれない。]
(415) 2014/07/01(Tue) 23時半頃
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宇佐美、絵でも始めるの?
[奥へ向かう宇佐美を 物珍しげに遊の視線が追う。
そうなら── 南方にでも教われば、上達が早そうだ。
藤堂の仕事も小耳に挟んだことはあるが、 教えるなら南方の方が慣れているだろう。
静かな店内のこと。 張り上げずとも声は届くか。]
(422) 2014/07/02(Wed) 00時頃
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─ 狩生堂 ─
へぇ……
……見たい。
[>>427下手と聞いて俄然興味を湧かす。
謙遜か 画伯レベルか。
後者なら面白いな──、と。]
(444) 2014/07/02(Wed) 07時頃
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[壁際以外は目線の高さ以下で揃えられた本棚。 店内の見通しは悪くない。
どこに何があるか完全に覚えているわけではないし 宇佐美が手にした本のタイトルが見えるほどの超視力もないが 教えたのは教本関係のコーナーで、 そこから動かず眺めているところを見ると 間違ってはいなかったかと思ったのだが──]
やるんじゃないなら、 隣の隣。
──そう、そこ。 その棚は、画集とか置いてる。
デザイン系の雑誌のバックナンバーは、もう一つ隣。
(446) 2014/07/02(Wed) 07時半頃
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[絵で稼ぎたいと思っている人──]
──うん
[南方は──]
いるね
[絵で稼いで──いる。]
(447) 2014/07/02(Wed) 07時半頃
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