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78 わかば荘の薔薇色の日常
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[それぞれに違う店名の入った色違いのビニール袋を、 片手に提げて帰路を辿る。
黄色の袋には総合感冒薬。 白い袋にはヨーグルトと、エクレアと、 ぷにぷにの食感が好きなブラックタピオカレモンティー。
薬はもちろん、 これから風邪をひく予定の男への献上品。
──ただし、今夜渡してしまうと うっかり回復してしまうかもしれないので、 明日の朝以降、菌が回りきった頃にでも届けてやるつもり。
どうせ、南方の部屋には、常備薬など置いてあるまい。]
(5) 2014/06/30(Mon) 00時頃
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[袋を持っていない方の手には 食べかけのガリガリ君が握られている。
涼し気な水色のそれを、時折齧って坂道を上る。]
(11) 2014/06/30(Mon) 00時半頃
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─ 大人の事情でテイク2 ─
[袋を持っていない方の手には 食べかけのカリカリ君が握られている。
涼し気な水色のそれを、時折齧って坂道を上る。]
(14) 2014/06/30(Mon) 00時半頃
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[蛇行しながら長く続く目的地への道の終わりに 季節外れの厚着姿が生け垣の外に立っているのを見つけ、 歩調を変えぬまま、遊は薄闇の下でぱちりと瞬きした。
ガリガ──もとい、 カリカリ君はもう棒だけになっている。]
(15) 2014/06/30(Mon) 00時半頃
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[分厚い前髪が隠していてもわかる顰めっ面>>21。
指先で、木の棒をぷらぷらと振って]
コンビニと薬屋。
[と答えた。
声を張らなければハッキリと聞こえない距離でも 遊の声はいつもと同じため、ちゃんと聞こえているか怪しい。
止まらない歩みは、すぐにその距離を縮めるけれど。]
(25) 2014/06/30(Mon) 01時頃
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[伸ばされた手は、避けない。 肌に触れる前に手を引いたのでなければ、 かったるい道程を歩いて来て少しは上がっているはずの体温が それでも草芽よりは低い温度を指先に伝えるだろう。
草芽の一歩手前で足を止め、 質問>>28の答えを探す。]
……多分。
[メイビー。
今日より明日の方が悪いんじゃないかな。 なんて他人事のように呟く。
実際他人事なのだが。]
(30) 2014/06/30(Mon) 01時頃
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[>>35疑われている。
でも、掠れた声やら空咳やら億劫そうな動きやらで 軽く風邪の症状が出始めているのに加えて、 自殺行為である大量飲酒までしていたのだから 南方の体調悪化はほぼ間違いない。]
マジで。
[ひとっつも怠そうな感じのしない頷きを返し、 ふとアイスの棒に目をやると 消えかけた薄い文字が目に入る。]
あ──、
[言いかけた言葉が、 押し付けられたふにゃっとした物体の柔らかさと 腕を引く強引な手に遮られた。]
(41) 2014/06/30(Mon) 01時半頃
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え
[なにか、思いがけない言葉が聞こえた。
こちらを向かずに発せられた声は はっきりとは聞き取れなかったけれど、 休んでおけとかなんとか言われたような。
あれ、何か──
勘違いしてる? ──と、やっと違和感を感じたけれど。
掴まれた手首から、 ひとの体温がじわりと染みこんで来て──]
───。
[咄嗟に振り払う失態を 見せないようにするのが精一杯だった。]
(42) 2014/06/30(Mon) 01時半頃
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ジャニスは、手を引かれるまま、無言で草芽の後をついてゆく。
2014/06/30(Mon) 01時半頃
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[離れてくれない体温を 振り解くことも出来ないまま 気付けば自室の前まで連れて来られていて──]
…──、
[やっと解放された手首に なにやら汗ばんだ草芽の手の感触が残っている。
──ビニール袋を持った手で、そっと手首を撫でた。]
(48) 2014/06/30(Mon) 02時頃
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……。
[わざわざここまで連れて来て、 言う言葉がそれか>>45。
いつも通りの面白い草芽に 唇が勝手に人の悪い笑みを刻む。]
(49) 2014/06/30(Mon) 02時頃
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…──おやすみ。
[草芽の黒い輪郭に流し目をくれて、 自室の重いドアを引き開けた。]
(52) 2014/06/30(Mon) 02時半頃
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─ 201号室 ─
[開けっ放しの窓から、 雨が降り出す前特有の、腥い風が流れて来る。
真っ暗な部屋の中で 消し忘れたノートパソコンの白い光が 白々とキーボードを照らしている。
今日は色んな意味で來夏が頑張っていたから ご褒美に渡そうと思って買って来たエクレアが 袋の中で生暖かくなってゆくのに すぐにそれを渡しに行こうとか、 冷蔵庫に入れようとかいう気になれない。]
(54) 2014/06/30(Mon) 02時半頃
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[必要と思うことはすべて口に出している。 言わないのは、 言う必要がないと思っているからだ。
それ以上の──]
なにを……
[草芽は、知りたいと望んでいるのか。]
(57) 2014/06/30(Mon) 03時頃
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─ 201号室 ─
[背に固い扉の感触。
部屋に入った遊はすぐにその場を動かず 窓の外の漆黒を見詰めて 数秒ほどぼんやりとドアに体重を預けていた。
それからおもむろにキッチンに向かい、 ミネラルウォーターと調味料以外 めぼしいものの何も入っていない中型冷蔵庫に 買って来た要冷蔵の品を全部突っ込むと、 つけっ放しのノートパソコンの前に、義務的に腰をおろした。]
(74) 2014/06/30(Mon) 09時半頃
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[小説が、最終章以外 もうこれ以上いじるところのない状態に近づいた頃、 遊は短く嘆息して、片手でノートパソコンの天板を閉じた。
側面の排気口から熱風を吐き出し続けていたファンも しばらくして沈黙する。
空はいつの間にか白み、 針のような細い雨を降らせ始める──。]
(80) 2014/06/30(Mon) 11時半頃
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[時計の針が指しているのは 他人の部屋を訪問するにはまだ非常識な時間。
昨夜から着っぱなしだったリネンシャツをハンガーに掛け タンクトップを黒に変えて 上から着心地のいい白い半袖パーカーを羽織る。
ローテーブルの横には、空になった泡盛の瓶が立っている。 その横に放ってあった黄色い袋と 冷蔵庫で冷やされたアロエヨーグルトを手に 遊はふらっと自室を出た。]
(81) 2014/06/30(Mon) 12時頃
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[いつもの裸足、いつもの足取りで 誰もいない階段を下り、 104のナンバープレートが掲げられた扉の前で止まる。
コンコン──と、 無遠慮なノックが南方の部屋を襲った。]
(82) 2014/06/30(Mon) 12時頃
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─ 104号室前 ─
[静かな廊下で扉の向こうのに意識を向けていると、 聞き耳を立てずとも人の気配は感じ取れる。
ノックの直後にはしなかった微かな物音が 閉じた扉の方へ近づいて来て──]
(89) 2014/06/30(Mon) 12時半頃
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おは──
[ドアが開いたので、 好きのする笑み──のつもりの薄笑いを浮かべて、 南方より低い位置から見下ろすように顎を上げて 爽やかな朝の挨拶を言いかけた瞬間、ドアが閉じた。]
(90) 2014/06/30(Mon) 12時半頃
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…………
[片手をノックのために上げた半端な姿勢で 開きかけの唇を閉じる。]
(91) 2014/06/30(Mon) 12時半頃
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[再度、ノックをしようと── 十回くらい叩いてやろうと少し手前に腕を引いた瞬間に またドアが薄く開いて>>88]
もう──
[隙間から見える男の顔を見て]
朝だし。 多分、必要だと思って
[黄色い袋を軽く掲げた。]
差し入れ。
(92) 2014/06/30(Mon) 12時半頃
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[普段なら寝ているかもしれないが──]
今日は起きてた。
[知ってた。 と言いたげに、閉じた唇を横に引く。
鼻声の、掠れ声。]
風邪 悪化してる。
[指で己の喉をさして、また笑った。]
(94) 2014/06/30(Mon) 13時頃
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[チェーンが隔てる彼我の境。 南方の警戒心が形になったようなそれへ 小枝のような、節のある細い指が掛かる。
胸の高さから 腹の高さまで
すぅっとドアの縁を指で撫で下ろし、 金属チェーンを人差し指で、そっと撫でた。]
(95) 2014/06/30(Mon) 13時頃
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してない?
なら──
[指が、チェーンを離れる。]
これからだ。
(97) 2014/06/30(Mon) 13時頃
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飲んだほうがいいよ、薬。
[面倒くさそうな、 言葉──うそ── に、伏し目がちに笑って、再度掲げた袋を揺らした。]
(98) 2014/06/30(Mon) 13時半頃
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[頷く。
中身が見えづらい黄色の薄いビニール底に 長方形の箱の形が浮いている。
もう一つ、ヨーグルトも入っているから、 わかりにくいかもしれないが。]
(103) 2014/06/30(Mon) 13時半頃
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ジャニスは、ミナカタの視線にビニール袋が怯えている気がした。
2014/06/30(Mon) 13時半頃
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[一度、扉が閉まる。
らしくもない落胆を感じた瞬間、 もう一度金属音があって]
……。
[金属線に遮られていない空間が、ひらかれた。]
(105) 2014/06/30(Mon) 14時頃
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いらない。
[閉まってしまおうとするドアを手で押さえ、 背中に声を投げる。
外側に開いたドアの向こうに ドアが収まるべき枠がある。
それを越えていいのか、 迷って]
お金はいらない。
[もう一度言って、爪先を枠に乗せた。]
(106) 2014/06/30(Mon) 14時頃
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──…。
[片足踏み出しかけたまま、 ひとり歩きした思考の途中で、遊は一瞬、微妙な顔を見せた。]
(109) 2014/06/30(Mon) 14時頃
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[悪人でも、どうでも。 気にしない。
折角のチャンスなのでお邪魔することにした。
104号室の扉が閉まる。 黄色い袋を提げた珍獣を中に迎え入れて。]
(111) 2014/06/30(Mon) 14時半頃
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