78 わかば荘の薔薇色の日常
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[カーテンがひらいた音がした。 南方は財布を手に振り返って、真顔になったあと――諦めたように息をついて、眉根を寄せた。]
待ってろつったでしょ。
[犬や猫の粗相に対するような口ぶり。 躾をしなかった本人の責任でもある事をしっているような、落胆のような、見誤ったかのような、残念がる声。 部屋のなかは、今度は間中の目にも、はっきりうつるだろう。 ここは、片付いた部屋。いや、殺風景な作業場だ。 床板についているのは絵の具。部屋本来の床板でなく、その上に一枚被せてあるのは、絶対に汚れることがわかっているからだった。 壁に立てかけておいてあるのは、キャンバス。 とりあえず、一番前にきているのは、裸像だ。 絵から滲むものは、作者の想像や心という何かではない。 ただの努力と訓練の形跡。 カップが置かれた作業台にも、絵の具がこびりついている。 のこりは、生活必需品だけ。]
(117) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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[裸足が、絵の具のこびり付いた床板を踏んで、 大きなキャンバスの前で止まる。
光沢の足りない肌色は それがまだ乾ききっていないことを示している。]
──。
[表情を変えない遊の目が、じっと裸像に注がれる。]
(118) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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えない…が…された…への…
…は…はっきりと…を…した…
それでも…めの…も…に…く…たのは…をずっと…いしてこなかった…だろう…
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薬。 いくら?
[絵を見ている間中へ、声をかけた。 怒り、というよりは、叱るに近く、責めるような声音になった。]
(119) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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[首を振る。 金はいらない──と。
苛立ちを含んだ詰るような声音の理由がわからない。 境界を越える前に感じた一瞬の罪悪感は、 現れた絵という新しい情報に上書きされた。]
(120) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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[遊の目はもう南方を見ない。
画布の上の描きこまれた裸像から なにかを読み取ろうとするように 自然体で絵と向き合っている。]
(121) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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─談話室─
……、…はよ。
[眼鏡の奥の瞳、毛先のうねった頭、隣に出来る空間(>>87) ばくばくと破裂してしまいそうな心臓は、ぬるく甘い痛みではなく。]
……き …昨日。 ばーべきゅ、出れんで… ごめん、なさ、い。
[隣に座っても尚、視線を受け止めるような態度のフランクさんに さすがにもう視線は向けられず、睨むエンジニアブーツ。 朝早かったからか、今は運よく談話室には誰もいない。 誰もいないせいで、声が響くようで。
こわい。 いたい。 にがい。
鼓動さえ、漏れ聞こえているんじゃないかと。]
(122) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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…の…を…ぎゅっと…る…
…が…たった…しでも…いでいた…
…の…を…い…す…
…な…
…
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[間中が首を横に振る。 財布を作業台に放り、間中の持つ黄色の袋へ手を伸ばして、掴んだ。 表情や様子を確かめたくないせいで、間中の顔は見なかった。 いくら相手が見たところで、そこにあるのは、ただ、ただひたすらに技術を維持しようとしているがだけの、ただ上手なだけの、訓練のためだけの、絵にしがみついていたいがための絵なのだから、感想など、知る必要もない。 ただ、心の内で「あーあ」と嘆くばかりだ。 間中の手から袋が離れたなら、南方は、薬の箱を取り出して、流しへと近づいたろう。]
(123) 2014/06/30(Mon) 15時頃
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[時間にして五分に満たない時間。
その後、 不思議そうに首を傾げ 握った袋に南方が触れたのを機に、 興味を失った体で南方を見上げた。]
これ、 楽しい?
[遊の手は、あっさりと袋を手放した。]
(124) 2014/06/30(Mon) 15時半頃
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ず、っと …フランクさんのこと、避けよって。 でも昨日は行こうと思とったとばってん。 風邪引いた、ぽくて、部屋に。
[いたんだと、何とか紡いでから。 徐々に眉根が寄せられていく。]
…っ、… …オレ。 フランクさん、のこと、…──好いとお、たい。
[管理人として、人として、ではないことは 声音や態度ですぐにわかるだろう。 じわじわと視界の輪郭があやふやになる。 目が熱くなる、感覚。 オレが泣き虫なことをフランクさんは、知っていただろうか。]
でも…、… 『好いとった』に、したい、ったい。
[自分勝手で、迷惑極まりのない、話。]
(125) 2014/06/30(Mon) 15時半頃
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あ?
[喧嘩を売っているのだろうか、といわんばかりの苛立ちの混ざる声だった。 普段は聞けば億劫がりながらも答える南方は、答えない。 答えたくない、或いは、答えられない質問でもあった。 袋を手に、中からがさがさと薬を取り出し、注意書きを読み、 残ったヨーグルトも取り出した。]
(126) 2014/06/30(Mon) 15時半頃
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こんなものしか…らなくなってしまっても…
それでも…
…を…くことが…しくないわけが…なかったからだ…
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[絵のことはよくわからない。 練習用の絵なんて、そんなものかもしれない。
自分の中から産まれる世界を表現したくて書く小説とは、 違うのかもしれない。
そうは思っても、聞かずにいられなかった。]
──南方、上手だね
[他に、言う言葉がなかった。]
(127) 2014/06/30(Mon) 15時半頃
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[雨が降っている。 部屋の外も、中も。
ぱたぱた、落ちる雫はエンジニアブーツに弾かれて。 か細い音を立てている。
もう何を言葉にしていいのか、わからなかった。 オレにはきっと何を謂う資格も、ない。
痛みだけが心を支配していて。 本当に、本当に自分勝手な告白だ**]
(128) 2014/06/30(Mon) 15時半頃
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にだけ…ってきた…
…しい…というのは…いつでも…かに…ほんの…かな…だけ…ふっと…を…して…あっという…に…ち…えた…めるも…それは…に…れない…
…のこもった…い…とともにやって…る…しい…については…とんとご…だ…
…な…ちいさな…しいが…した…ちに…れるだけ…
それは…こんな…り…をする…しかなくなって…の…に…するのをやめた…でもあった…
…しくなり…しくなり…それでも…どうしようもなく…れられない…
ただひたすらに…ずっと…しくなければ…しがみつこうとは…わなかったかもしれない…
…やかに…の…っていった…しい…は…しくても…の…かないものに…わりつつあった…
だから…の…から…しい…と…かれて…めて…を…すことも…やろうと…えば…あっさりと…てしまうのかもしれないなと…しく…う…
…を…す…と…さないの…が…の…だ…
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そりゃあな。
[食後に飲めと薬箱に書いてあったので、ヨーグルトのぺらぺらの蓋を開けながら、返事をする。]
教えてるから。
(129) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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あ
先生、なんだ。
[袋を移し替えてしまったから ヨーグルトにスプーンはついていない。]
(130) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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アロエ 喉にいいから。
冷やしておいたし。 美味しいよ。
[用法など気にしたことがないから ヨーグルトは 少し眠って起きた時に食べればいいと思っていた。
でも、食べたいなら今食べればいいとも思う。
角切りのアロエが 白い海にぷかぷか浮いている。]
(131) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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学校の先生じゃねえよ? 塾の先生。
[開けてしまって袋のなか、スプーンがないか探すも、無さそうなので、洗って仕舞ってあった部屋にあるものを使うことにする。]
(132) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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うん 平日に、わかば荘にいるときあるしね。
塾って、予備校的な?
[どっちにしろ、教え慣れている。 億劫がりながらもいつも返事をくれていた 理由の一端が見えた。]
(133) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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ジャニスは、ミナカタのベッドに勝手に腰掛けた。
2014/06/30(Mon) 16時頃
サミュエルは、シーシャの部屋に自分の布団があることにまだ気づいていない
2014/06/30(Mon) 16時頃
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そうなん?
[咳をしながら相槌をうつ。 民間療法の類は一切信用しないし、アロエの栄養素についてはますます知らない。]
お気遣いどうも。
[さっさと薬を飲んでしまいたいので、食べ始めた。 美味しいよ、と言われたが]
おう。味とかよくわかんねえわ。
[鼻づまりの声で不満気に言う。]
(134) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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コンクールとか 出さないの。
[油絵の具の飛んだ床板を見ながら ぽつりと言う。
質問というより、独り言に近い 一言。]
(135) 2014/06/30(Mon) 16時頃
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