78 わかば荘の薔薇色の日常
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[貰った一撃が意外に容赦なしだったので 階段を下りきるまで遊は額を擦りながら 前を歩く南方の背中に抗議の視線を送っていた。
104号室の前で南方の足は止まり 遊はそのまま談話室を目指して歩き続ける。
扉の閉まる音と 軽い施錠音を背後に聞いた。>>137]
(151) hana 2014/07/04(Fri) 14時頃
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─ 昼 談話室 ─
[談話室に現れた遊は前日と全く同じ服装だった。 白いハーフパンツに至っては今日で三日目になる。 そろそろ洗え。
コンビニ袋と本屋の袋を手に持った遊は 談話室に人がいれば]
おはよう
[と指向性のない挨拶を口にして 料理が出来る誰かを探して視線を室内に巡らせた。]
(152) hana 2014/07/04(Fri) 14時頃
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…ん…あ…あっ…ぁ…やっ…それ…
…
…あっあっ…さ…き…き…
…
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─ 談話室 ─
[入ってまず感じたのが室内を満たす冷気。]
さむ……
[思わず呟いて原因を探す。]
草芽……
[ソファの上に、それはいた。
とたとた近付いて行って 分厚い前髪の上からデコピンを見舞う。]
(158) hana 2014/07/04(Fri) 14時半頃
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─ 103号室前 ─
[南方が扉の向こうに消えて 遊の裸足の足が103号室の扉の前に差し掛かった時 丁度扉が開いて、中から誰か出て来た。]
宇佐美──
──…
[顔を見て名前を呼び、格好を見て口を閉じた。 服装は──何とも思わなかった。 遊の服装も、狩生堂のバイト時と変わりない。
何もなければ藤堂の部屋で飲み明かしたのかな としか思わなかっただろう。]
(160) hana 2014/07/04(Fri) 15時頃
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[遊の目が、宇佐美の手に抱えられたものをじっと見ている。
出会った瞬間の強張った表情と上ずった声。 丸めたシーツと、誰かのシャツ。
シャツはサイズ感から、宇佐美のものとは違う気がする。]
──、
[また宇佐美の顔を見て、 空白の後、ようはくおはよう──と答えた。]
(161) hana 2014/07/04(Fri) 15時頃
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[痛い──と呻く黒い塊から一度視線を外し リモコンを探した。
リモコンは黒い塊の手にあった。>>162]
──…
[一旦ビニール袋から手を離し リモコンを胸に抱きかかえ 死守する体の草芽の脇腹を擽ってみる。
それで離さなければ鼻から小さな吐息を漏らし]
…──脱げば
[と、呆れたように しかし突き放すでもなく、どこか面白そうに言った。]
(163) hana 2014/07/04(Fri) 15時半頃
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…さんから…したと…
…でもまだしばらくは…らんよ…もあるし
…こっちの…も…しいし…
…
…
…えっ…な…なんで…さんの…って…
…
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─ 103号室前 ─
[宇佐美の心配は──杞憂だった。
他人の部屋から昼に出て来るのも 部屋主の洗濯物を持って出て来るのも それぞれに理由は考えられたからだ。
宇佐美はよく日向の風呂を手伝うし わかば荘のお母さん的存在であったので 洗濯も、ごく普通にしてあげそうに思えた。
だから何も尋くことがなかった。 ただ──]
────…。
[103号室の部屋の前を通り過ぎ 宇佐美が階段を登り始めると ふ、と振り返って、 急ぎ足で、首を捻る後姿に、凝っと視線を投げかけていた。*]
(171) hana 2014/07/04(Fri) 19時頃
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─ 談話室 ─
一枚くらい脱いでみれば
[脱衣を拒む草芽に、遊は珍しく言い募る。 あまりにぐったりしているので首を傾げ]
──何、したの
[と、尋ね、草芽の頭の横辺りに腰を降ろす。]
エクレア買って来たけど 食べる?
[指先で、前髪の一房だけを掬い 隙間から見えた片目を覗きこんで、聞いた。]
(175) hana 2014/07/04(Fri) 19時半頃
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[藤堂と來夏が談話室を訪れると 草芽を弄っていた手は止まり、 軽い手付きでぽんぽんと前髪の上辺りで掌を弾ませ 草芽の頭の横にエクレアの入ったビニール袋を置いた。
遊の体重を受けて沈んでいたソファが元に戻る。]
おはよ
[写真集の入った袋だけを手に 遊はテーブルへと移動した。
冷房を弱くするのは 病み上がりの南方が姿を現すまでの期限つきで保留とした。]
(178) hana 2014/07/04(Fri) 19時半頃
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[テーブルの椅子の一つに腰掛けた遊は 挙動不審なところなど一つもない、 いつも通りの、涼しい顔をした藤堂の挨拶を聞いて
緩く曲げた指の関節を唇に触れさせ 凝──っと、藤堂の顔に視線を投げ掛けた。]
(180) hana 2014/07/04(Fri) 20時頃
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[藤堂が冷蔵庫へ向かうと 遊も無言で席を立ち、冷蔵庫を開ける藤堂の真後ろに立った。
藤堂が振り返った瞬間上体を前傾させ 藤堂の耳の付け根とこめかみの間辺りに顔を寄せた。]
────
[目を細め、香りを嗅ぎとるように息を吸う。]
(186) hana 2014/07/04(Fri) 20時頃
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[すっと伸びた冷たい指先が 訝る藤堂の首筋に伸び、 止められなければ軽く顎を上げさせるように触れる。
丁度それは、廊下で宇佐美の首筋に見つけた 鮮やかな鬱血のあった場所と同じところ。]
(188) hana 2014/07/04(Fri) 20時頃
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[今日はよく額を叩かれる日だ。
藤堂の掌が額でぺちりと音を立てると 驚いて目をぱちぱちさせ、 近付いた時と同じく音も立てずにすっと顔を離した。
見えたのか? の問いには]
──
[問うような視線を藤堂に向けたまま、 こくりと頷く。
また、遊の視線は一度藤堂を離れ 己の頭上を漂った後、再度藤堂の顔に着地した。]
──セックスした?
[別段普段と変わらぬ調子の、抑揚のない遊の声が、 冷蔵庫周囲にぽつりと落ちた。]
(190) hana 2014/07/04(Fri) 20時半頃
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[藤堂の臆さぬ返答に、 遊は感心したように細い目を縦に見開いた。
ほう──と、微かに吐息が漏れて]
どうだった?
[次に、好奇心を湛えた遊の声が、嬉しそうに藤堂に尋いた。]
(192) hana 2014/07/04(Fri) 20時半頃
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[藤堂の性癖を、遊は今まで知らなかった。
小説で、男同士の性行為を読んだことは何度かあるが 直接、こんな身近に、体験者がいるとは思っていなかった。
藤堂なら──尋れば詳細な話が聞けそうだ、と 遊の瞳は期待に染まっている。]
(193) hana 2014/07/04(Fri) 21時頃
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[藤堂の声のトーンが跳ね上がった。>>194 珍しい事態に、遊の瞳に浮かぶ喜色は色を増す。]
それは もちろん藤堂さん。
──だめ?
[腕組みで睨まれても簡単には諦めない。
体験しろとの言のはもっともで 確かに、知識を得る一番の近道は 己で体験してみることである──とは思う。 思うし、日頃から実践してみてもいるのだが。]
──相手がいない
[そういった男友達はいないと打ち明けて 藤堂が教えてくれないか、少し期待するように見上げた。]
(197) hana 2014/07/04(Fri) 21時頃
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…ごめん…さんごめん…が…やったばっかりにやな…いさせて…
…
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そう。 まあ、恋人だしね。
[──しょうがない。
深いため息を聞けばあっさり頷いて 付き合ってくれそうな“相手”を二〜三思い浮かべてみる。
どっかのバーに放置されても それはそれで面白そうだと思うのだが、 藤堂の心の声までは聞こえなかった。]
…────── いない かな。
[冷蔵庫に凭れ、付き合ってくれる姿勢の藤堂に首を傾げる。]
(201) hana 2014/07/04(Fri) 21時半頃
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[大学時代の物書き仲間は 今、一人は北海道にいて 一人は沖縄にいて もう一人は妻帯者になっている。
妻帯者に頼むのは、ちょっと、遊でも憚られた。]
(202) hana 2014/07/04(Fri) 21時半頃
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そういうの──?
[ゲイバーのような場所だろうか。 藤堂の言葉を舌で辿り、想像する。
連れて行って貰えるのは歓迎するが]
──
[──釘を刺された。
と、思った。 この後宇佐美に聞いてみることは当然考えていたからだ。]
……うん
[渋々、と言った風に 藤堂から目をそらし、つまらなそうに頷いた。]
(209) hana 2014/07/04(Fri) 22時半頃
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[梅雨が開けたばかりだというのに 日差しはもう真夏の勢いを感じさせる暑さで 帽子を被らず歩いている遊に降り注ぐ。
メッセンジャーバッグに財布を入れ 裸足にスニーカーの遊は 額に滲んだ汗を手首で軽く拭って、 目的の店の前で立ち止まり、 チャルラタン──と書かれた看板を見上げた。]
─→ チャルラタン ─
(215) hana 2014/07/04(Fri) 23時頃
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─ 談話室 ─
[話が終われば、そっけなく冷蔵庫の前を離れ テーブルに置いてある写真集の袋を手に 來夏と草芽のいるソファの方へ向かってゆく。
袋を提げていない方の手で 剥き出しの二の腕を軽く擦った。]
(216) hana 2014/07/04(Fri) 23時頃
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少し。
[尋ねる來夏に、うん──と頷く。
來夏の視線を手元に感じると 袋ごと、中身を來夏の目の前に差し出した。]
あげる。 來夏、今日で21だよね。
プレゼント。
(220) hana 2014/07/04(Fri) 23時半頃
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