物語というものは、それだけ枝葉を広げていると言うことさ。
彼らがどういうものを見聞きしていたか、それを知ることで新たに見えてくるものがある。
嗚呼、それは残しておこう。君がまた、読めるようにね。
[ 私の城、知識の庭に誰かの手が触れるのはこれが初めてではなかろうか。勝手に出入りしている国谷君>>@33のことを除いてだが、彼が触れた瞬間を私は知らないから、初めてということにしておこう。華奢な白い指>>329が背表紙を撫で、絡み合った蔦を解くように在るべき場所へと戻していく。
国谷君>>@34が手伝ってくれるというなら、彼にも指示を出して、競うようなその姿に若いなあと目を細めた。残念そうな姿>>@35が見えれば、出来るだけ柔らかい声で答える。太宰の作品は私の研究にも関わるものだから処分するつもりはなかったが、理由は多いに越したことはない。
福原君>>330から本が差し出されると、私はそれを手に収める。まるで繰り返されたような行為に目を細めて、表紙を掌で撫でた。他の本に比べて色褪せているそれは、経た年月の重さを匂わせているようで、叶うこと、増してや伝えることもならなかった想いは私という器の底で燻っている。]
(364) 2013/09/02(Mon) 23時半頃