[部屋を出て、走った。誰もいないところに行きたくて、屋根裏の扉を開いた。怜二がいるかもと思ったが、そこは静かに薄暗く、生物の気配はしなかった。扉を背に、ずるずるとしゃがみこむ。
ここに来るのは用事があるとき以外では久しぶりすぎて。
上がった息を宥める。怜二が昨日片したのであろうブルーシートが目に止まる。
思い出すのは1年の頃の、あの日。
こそりと当て付けるように耳元で名前をからかわれて、上級生に足が出た。そこから喧嘩になって。ぶつかって崩れた棚。落ちた引き出し。そこから転がり落ちたライター。上級生をのした後、戻ったら怜二が落ちた引き出しを片していた。
ライターが誰のか訊かれたので、首を横に振った。
まわりに訊いても誰のでもなかったようで、だったら欲しいと手を出し。渡され、しかし裏を見たらイニシャルが彫ってあって。
刻まれた“R”。
SでもAでもない。これは自分が持つべきものではない、だから怜二に返した。
それ以来、この屋根裏に通うのを止めた。
あのライターは今でも怜二が持っているのだろうか。
そんなことを、ぼんやり思う。頭が意味のあることを紡ぐのを拒否している。息を、吐いて]
(248) 2014/03/28(Fri) 01時頃