[ 惑った様子の宝生君を見て、まだまだ若いなあと僅かに口角を上げる。
私など、教授を心の中で狸爺と呼んでいたがために、思わず本人の前でもそう呼んでしまい、笑いを堪える学生を前にしても、素知らぬ顔ですましていられるというのに。
しかし私の印象を落とす必要はあるまい。これは私の胸の内に仕舞っておこう。]
好きに呼んでくれて構わないよ。
最近は皆、先生と呼ぶくらいだしね。
年を取ると自分の名前も曖昧になってくるからねえ、便利なものだ。
[ 授業の話をすれば、宝生君が肩を震わせる姿が目に入り、目を丸くした。私としたことが、不覚だ。
あれからきのこ派とたけのこ派の買収で、研究室の冷蔵庫に山盛りのお菓子――当然きのこたけのこのみである――が常駐するようになったなんて話もしつつ、おそらく珍しいであろう宝生君の姿を目に焼き付ける。]
(219) 2013/09/02(Mon) 00時頃