『人形に通じる者だけが、この人形を扱えるんだよ』
[昔の記憶に触れてしまったせいだろう。
ふと、鼻のあるべき位置にぽっかりと穴があいていた、あのジプシー>>1:239の言葉を思い出し。
荷袋から土人形を取り出し、記憶を準えるように口にした]
死して人形と化したものに、これをそうっと掲げるんだ。
そうすれば、相手の正体はこの人形の体に、移り宿る。
[それが人間であるならば。土人形をは『白み』を増して、鮮やかな赤がそこに宿る。
ちょうど、赤いフード《ずきん》をかぶったように。
それが人狼であるならば。土人形は『黒み』を増して、闇の黒色がそこに宿る。
ちょうど、濃く暗い体毛に覆われた野獣のように。
いったいどんな出来事が、まだ若かっただろう彼女を、そんな姿にさせたのか。
肉を食いちぎられたかのような、むき出しの歯と、まぶたのない白濁した双眸をこちらに向けて、彼女は励ますように言ったのだった]
『持って行きな。あんたならきっと扱えるよ。
ほら。人間、1つでも信じられる特技があれば、それを心の支えに生きていけるさ。
たとえ終わりの時を迎えたとしても……自分らしく生き抜けるからね』
(190) 2014/10/13(Mon) 16時半頃