[舞曲が何度目かのリピートを終えた頃、向こうを歩く細長い人影が目に留まった。
ボロボロのシャツとズボン(ペギーのそれよりは幾らかましではあるが)を身にまとった、衣紋掛けを曲げた人形のような長身痩躯の男。あれはナイフ投げのサイモンだ。
銀の刃を放り投げては掴み取り、また放る。直線に近い放物線の軌跡が、ぎらりと光った。ペギーは舞曲のリピートをやめ、小走りにサイモンの真後ろにつくと、投げるナイフのテンポに合わせ、即興のバック・グラウンド・ミュージックをつけた。
その行為に、特に意味はない。ただのお遊びだ。ペギーはいつも、時間があればそうやって団員たちにちょっかいを出しては、飽きるか追い払われるかするまでつきまとう。困ったことに、このご機嫌な笛吹きは、あからさまに鬱陶しがられても時間が経てばけろっと忘れてしまうのだ。]
(189) 2014/10/09(Thu) 05時半頃