[>>176壊れているか壊れていないかで言えば、彼自身に壊れた覚えは微塵も無い。
離れた場所に腰掛ける越智の様子をいつものようにじーっと見つめてから、ゼリーの残りに手を付け始めた。
>>177福原が席を立つと共に響くパンプスの足音を鼓膜で受け止めながら、ようやくゼリーを最後まで食べ終えて満足げに息を吐いた。運命の縁はあるべき形で完遂された。空の容器をテーブルの上に置き、その中にスプーンをからりと放って。
その横に水の入ったコップが置かれるのを見て、福原の指先から伝って、視線を上に上げる。
滑らかに動く長い髪は、いつかどこかでみた誰かを思い出させる。至って常識的な見た目をした、しかし何かが違っていた「誰か」だ。]
………変、じゃない よ。
僕は、 病気なんだ、って 言ってた。
人間不全 、だって。
[細い指を持つ両手は、福原の手がコップから離れてからそっと伸ばす。大事なものを抱えるようにそっと、ひんやりと冷たい硝子の感触を包み込んだ。
感謝の言葉は無い。けれど唇は物言いたげにむずむずと動く。いつもより言葉は近くにある気がする。けれど引き寄せるにはまだ少し遠い。]
(180) 2013/09/04(Wed) 02時頃