[ 諸君らは、夏目漱石の『琴のそら音』という作品を知っているだろうか。
主人公の男が友人と「人はいつ死ぬか分からない」などという話をして別れると、ふと聞こえる不気味な犬の遠吠えや葬式の音に、虫の知らせなるものを感じて、病に臥せっていた恋人に慌てて会いに行く。しかし彼女は疾うに完治しており、拍子抜けするという何ともおかしな話である。
死者が枕元に立つだなんて話も出てきてはいるが、結局は本人の気の持ちようなのである。]
幽霊だの何だの、私には縁遠いものだねえ。
……ああ、私もお邪魔するとしようか。
[ 窓下の管理人にひらりと手を振ると、私は六畳一間の部屋を後にする。
墓地が隣で霊が出るだの言われているわかば荘だが、生憎と私はそういったものに出会ったことはない。
朱を纏った彼>>@14――国谷君と言ったか――と擦れ違いながら、会えるものなら会ってみたいと徒然思いを馳せた。]
(146) 2013/09/01(Sun) 21時頃