[緞帳が下がるのを、微笑みを浮かべながら見守る男が一人。
それほど時を置かずして、紅く、重たい布がホールと舞台を完全に分けた。
それを見届けて袖へと捌ければ共演者やスタッフに次々と労いの言葉をかけられる。ふんわりとした笑顔でそれに応えながら、けれど途中に入る打ち上げへの誘いはきっぱりと断りを入れる。それを何度か繰り返し半刻程経って、男はようやく与えられた控室へと身を滑り込ますことが出来た。
そうすれば一転表情をなくし、ひどく冷たい印象を周囲に与える。
と言っても、控室には誰もいなかったが。]
くだらない…。
[小さく空気を震わせたそれは、誰の耳に落ちることなく消える。殊の外丁寧な手つきで自身の相棒をケースへとしまうと、舞台用の洋装をぞんざいに脱ぎ捨て、古代紫の着物に苔色の長袴を手早く身に付ける。そうして、男は夜の街へとひっそりと姿を消した。]
(14) 2014/07/25(Fri) 22時半頃