……高校生の修学旅行で見た夕陽が、私の中の一番でしたね。
[今回ので塗り変わりました、と。他愛もない昔話を静かに語る。
伸ばした指はレースにではなく、後藤の居る側とは反対の髪に触れ。
橙から紫が占める割合の増えた空を、水平線を見る。]
市街地の側に在る山のトレッキングコースを歩かされて。
日が沈む前にゴールをしなければならないのに、
どうにも体がついていかず。
それまで木々が繁っていた西側が急に開け、遠くの山入端に落ちていく夕陽を見た時には……きっとこの夕陽を見るために、自分の体は重かったのだと、良いように捉えてしまった。
辛い、苦しい、帰りたい、どうして山なんて上らなくてはいけないんだ、しんどい、放り出したい……そんな感情の全てが吸い込まれてしまったかのように。
ただただ、無心に――見ていたのでしたっけ。
[懐かしさに笑みを溢す。ゆっくりゆっくりと紡がれる音は、鑑賞を邪魔しないように低く小さく抑えられていた。]
(9) 2014/06/17(Tue) 16時頃