[追いかけるスポットライトの明かりの中で、観客の動揺を感じ取る。
本来現実と交わることのないはずのメルヘンが、彼らの中に侵略する。
たとえるならそれは、メルヘンの歪み>>1。
……と、無言を終わりを告げる、声と笛の狭間のような音が、人形から漏れ出してきた。
音に合わせて、ぱくぱくと口を開く人形が綴るメロディは。
多くのものが知り馴染んだ曲。
――――『アヴェ・マリア』。
アヴェ・マリア。恵みに満ちた方。
主は、あなたとともに、おられます。
呼吸をしていることがばれないよう、限界まで息を止め。
微細な酸素を鼻から吐き出す、祈りの歌。
客席の中に降りなければ、あまりにも小さすぎて成り立たない人形の歌声。
それを助けるように、ごく小さく奏でられる楽団のメロディーが始まって。
激しい動きを排した人形が、祈りを込めて客席の間を練り歩く]
(63) 2014/10/12(Sun) 15時半頃