[朔太郎に背中を向けて歩き出す。>>30零された声は届かなかった。
自室へと戻る階段を登りながら、掌に視線を落とす。
今はもう、ぬくもりを知っている手。
繋いだのは朔太郎だ。
教えてくれたのは朔太郎だ。
だから、なにか、自分からも。
返せるものがあればと、そう思うのに。
ぐっと手を握り締める。ひとを殴ると腫れるから、小学生にして自分は足で蹴るという喧嘩の方法を覚えた。
朔太郎の治療をしながら、今後もちゃんとよく冷やせと言葉を掛けたけれど。それは実行されるのだろうか。校庭での那由多と朔太郎のやり取りは聞こえていて、自分も、朔太郎はどこか己を蔑ろにする傾向にあるのを感じ取っていたから。
なにも出来ない自分が、悔しい。
喧嘩の加勢をすることくらいしか出来なくて。
治療に手を伸ばすことくらいしか出来なくて。
それ以上が、どうしても難しい。壁があると感じる。
息を、ひとつ吐いて。部屋の扉を開ければ、恐らく仁王立ちの那由多>>14が待っているだろう*]
(34) 2014/03/29(Sat) 03時頃