78 わかば荘の薔薇色の日常
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いいよ
[ぽつ、と遊は言い]
…──いいよ。
[もう一度、同じ言葉を繰り返した。]
(623) hana 2014/07/07(Mon) 00時頃
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[一時間を過ぎても、手が持ち上がらない。 ただおりて、膝の間で、あたりをとるための鉛筆を持っていた。 状況が奇妙で、つい言葉を発した。 不思議と、ただ、驚いているだけだ。 以前間中にいったとおりの「泣けもしない。」なのだろうか。 こんなにぽっかりと、悲しい気持ちであるのに、涙は一向に出そうにない。ただ、ぼうっと白いキャンバスをみていた。]
――……
[いつの間にか、間中は傍に寄ってきていた。 キャンバスをみている。 アイボリーの、ただしろいだけの、キャンバスには、なにひとつ描かれていない。]
描けないね。
[もう一度、確認するように、言った。]
(624) gekonra 2014/07/07(Mon) 00時頃
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[背を、髪を、間中の手が撫でる。 それに、気づいているのかも、どうだろう。 呆けたままの声で、謝った。]
遊。ごめん。
約束、なかったことに出来ないか。
(625) gekonra 2014/07/07(Mon) 00時頃
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[南方の声から、なにがしかの感情は感じ取れた。
傷ついている。 驚いているのかもしれない。
南方は、描かない──ではなく 描けない──と言った。]
いいから────……。
[もう、描こうとしなくていい。
──無理をさせた自分を悔いた。]
(626) hana 2014/07/07(Mon) 00時頃
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[いいよ、と、いう声は、約束を破棄する声の前にあった。 どういう意味だったのか、わからない。]
……
…………。
[間中の体が傍にあったので、寄りかかるように、頭を寄せて、まだキャンバスを見ていた。 ――間中は、絵のかわりの対価として、ひとりの挫折で、満足はしてくれるだろうか。 話のたねであれば。なんでもいいのだろうから。]
(627) gekonra 2014/07/07(Mon) 00時頃
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― 土産物 ―
えーーーいしーーーーー!!!!
[ある日の夜、 わかば荘唯一の同学年、宇佐美の部屋である 207号室のドアを叩いた。
そのたくましい腕には、30cm3kgほどの招きパンダが抱かれている。バーベキューの肉を残しておいてくれお礼を、どうしてもしたかったのだ。]
瑛士!!!これ、修行土産な!!! 肉残してくれて、まじ嬉しかったから、その礼だ!!!
[宇佐美はどんな眼差しでパンダを抱く芸を見ただろう。 一方的に嬉しさと、感謝の気持ちが溢れていた為に、 宇佐美の感情などは置き去りである。]
(628) ぽか 2014/07/07(Mon) 00時頃
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― だいぶ遡って いつかの談話室 ―
うん、麻央さんが後悔せえへんならええねん ただやっぱ…ううん、何でもない
俺はいつでも麻央さんの味方やから それだけは、忘れへんといて
[やっぱり、草芽には誰か気になるひとがいるらしい。言うな、と言い残して去ってしまった後姿に、うまく伝えられなかったかもと反省しながら託されたケーキを口にして]
…言わへんよ
[空になった皿に向かって、呟いた]**
(629) vetica 2014/07/07(Mon) 00時頃
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遠慮するな!礼はいらないぜ。
[戦士のキメ顔で、宇佐美の身体にパンダを押し付けた。
後に、ゲイ太などという名前をつけられることも、 日向への餞別になることなど知る由もなく。 じゃあなと漢の背中で207号室を立ち去るその表情は やり切った感のある、満面の笑みだった。]
(630) ぽか 2014/07/07(Mon) 00時頃
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[南方の手から鉛筆を、奪うではなくそっと取り上げ、 キャンバスを支えるイーゼルの端に置いた。
ゆっくりと息を吐き、 撫でていた手を離すと、南方の背後に回り込んだ。]
(631) hana 2014/07/07(Mon) 00時頃
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[冷たい、温度のない、 小枝のような遊の指が、南方の瞼を覆い 視界に映る、かつてモデルが立っていた空間も、 遊が座っていた椅子も、白いキャンバスも、イーゼルも。
全て──全てを、闇に覆い隠した。]
もう、描かなくていいから──
[抑揚のない遊の声が、暗示を掛けるように、 視界を塞いで、引き寄せた南方の後頭部に、ゆっくりと囁いた。]
(632) hana 2014/07/07(Mon) 00時頃
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−とある日のこと−
あ。
[いつかのように、またソファで寝ている白猫を見つけた。 管理人にアメリカ産オレンジを持っていこうとしていた足は、少し止まる。
暫しの思考の迷いの後、足音を忍ばせて近づいて。 ソファの彼と目線を合わせるように、すとんと腰を下ろす]
……寝てんの。
[問いかけたのは、前回のことがあるから。 もういたずらしようとして起きられるどっきりは味わいたくない。
まあ、問いかけたところで、寝てようが起きてようがはいそうですというわけもないのだが]
(633) kaisanbutu 2014/07/07(Mon) 00時頃
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……。
[昼間のまどろむ光に照らされて、睫が透けて見える。 色素の薄い髪は、クーラーの風に揺れて]
……なあ、寝てんの。
[もう一度問いかけながら、オレンジを床に置く。 ごろん、とフローリングを案外硬い音が転がった。
みずみずしいそれから、柑橘の匂いがする]
(634) kaisanbutu 2014/07/07(Mon) 00時頃
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[タコの出来た手から、鉛筆がとりはらわれた。 なぜだか不思議と、ほっとしていた。
アイボリー色の、なにも色ののらないキャンバスは、 これはこれで、美しかった。**]
(635) gekonra 2014/07/07(Mon) 00時頃
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