93 Once upon a time...
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――調理場を覗きこむ――
そうだ、あと、果物、なんかあるか? ザックがさ、何か手に持って食べられるもの、欲しいって言ってた。 おれの食べるのと、あと、ルリにゆで卵。
[気付けば、リクエストはずいぶん明確になっていた。 ニコラスの動く背中を見て、わくわくと待っている。]
(2) 2014/10/10(Fri) 00時頃
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靴磨き トニーは、メモを貼った。
2014/10/10(Fri) 00時半頃
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まあるいのが、いいんだってさ。
[伝えれば、何がしか丸いものが手に入ったろうか。 何か丸いもの、という食べ物の選択基準は、自分にはわからない。 食い物は味で選ぶもので、形がそれを決めるわけじゃない。
しばらくすれば、硬くなりかけのパンだの、丸ごとトマトだの卵だの、とりあえず腹に溜まりそうなものと丸いものが手にはいった。 果物のリクエストには、炊爨係から大ぶりめのオレンジが飛んできた。]
おー、あんがと!
[手にいっぱいの食料をもらった。 自分一人ではないというのもきっと大きいだろう。 勇み足でブローリンとジャニスのもとに戻る。]
(21) 2014/10/10(Fri) 01時頃
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おおかみ?
[戻ってきたら話題が狼の事になっている。 最近ちらちら聞くじんろう、という言葉と、狼という動物が頭のなかでまだ結びついていないから、二人のことだし新しく狼を調教するのだと思って、純粋に期待が目に宿った。]
(28) 2014/10/10(Fri) 01時頃
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ドラ、行くのか。 またな。また明日な。
[炊事場を出るエフェドラを見送る。戦利品があるので手を振ることはできない。 板張りテーブルに抱えていた食糧を下ろすと、ハムを乗せてもらったパンにかじりつく。]
おおはみ、なんへ、ほわくない?
[そしてかじったまんまでルリの歌うのを問いかけたものだから、発音は普段以上に不鮮明。]
(35) 2014/10/10(Fri) 01時頃
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――――――――ほんとうに?
(*0) 2014/10/10(Fri) 01時頃
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こわくないなら、よかった。 すごくよかった。
[しかも二人が狼を本当に躾けるため迎え入れるなら、仲間が増える。 そんなに血の近い仲間は少ない。それはとても喜ばしかった。]
(*1) 2014/10/10(Fri) 01時頃
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[問いかけられたので、口の中のパンを急いで咀嚼して、飲み込む。 固いものだから一口に時間がかかった。んくん、と喉が大きく動く。]
おおかみより、丸呑みのほうがこわい。
[そう、大口開けるルリを見上げて言った。 狼は襲ってこなければ他の動物と同じで怖くはないだろうが、丸呑みはもう呑まれている。逃げられない。怖い。]
(42) 2014/10/10(Fri) 01時半頃
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水晶玉じゃ、食えねーな。
[ハムの比率が大層残念なハムパンを胃に詰め終えて、ブローリンの思い出話を聞く。 水晶玉よりオレンジの方がいい。]
玉乗りにも、ならない。
[乗るところは想像できなかった。 小さい猿や子犬でも難しそうだ。]
(47) 2014/10/10(Fri) 02時頃
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[すこうしくらいならいくらでも待てる、とどちらかわからないな返事をして手に入れたいつもの煮込みにハムのついてないパンを盛大に浸す。 手まで汚しながら、それを舐め舐め、胃を満たす。]
猿、行くのか。 おれも行こうかな。
[もちろん躾けられにではなくて、自分の練習にだ。 考えてみれば、トランポリンを片付けずに来てしまった。 どうせ他の団員も使うので好きに動かされたり勝手に片付けられたりするのだが、自分が最後だとすると放置して出てきたのはその後のお小言を考えるとよろしくない。 ブローリンとジャニスにも会えたしと、練習テントに戻ることにした。]
(53) 2014/10/10(Fri) 02時半頃
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[ひとしきり飛んで跳ねてを繰り返したら、とっぷり日も暮れたのでトランポリンを片付ける。 すべすべの黒に細い月と星の砂糖粒が散った夜だ。 団員テントへの道を戻る。]
(54) 2014/10/10(Fri) 03時頃
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――……なあ、ニコ。 ルリが、狼が人間を食うより、先に丸呑みにしてやるって言うんだ。
狼はなんで、人間を食わなくちゃならないんだ? 人間はそんなに、うまいのか?
[肉煮込みは肉の味がする。干し肉も肉の味がする。 死んだ兎も、犬も、血肉の味がする。 それはうまかったし、腹も満ちた。 ならば人間を食べる必要などない。小狼は頑なにそう信じていた。]
(*3) 2014/10/10(Fri) 03時頃
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[この子狼は事実、"まだ"一度も人肉を口にしたことがない。 衝動にかられ岩場に押し倒し一息に殺したことは数あれど、人里で暮らすことの多かった子狼は人への感情が強い。 罪悪と衝動と食欲と忌避感に苛まれわあわあと泣き喚けば、その泣き声を聞きつけ偶然通りかかった人間には不慮の事故で親を失った子供にしか見えない。 そうして拾われ、もしくは路肩の隅で暮らし、空腹に耐えて生きてきた。 野良犬でも多少飢えは癒えたし、人間の食べ物で腹を満たせば誤魔化せたから。
最大の甘美を、まだ知らない。]
(*4) 2014/10/10(Fri) 03時頃
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――……、
[細い月の夜。 テントに向かう道、視線の先に、団長の姿が見えた。]
(*5) 2014/10/10(Fri) 03時頃
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――翌朝――
[小猿の朝は早い。 早いが、大抵もぞもぞ硬いベッドを這い出て床で力尽きて二度寝をしているので、テントを出るのは他の団員と変わらないか、少し遅いくらいだ。
黒山の人だかりがあるのに、何があったろうかとひょこひょこ寄っていく。]
(57) 2014/10/10(Fri) 03時頃
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トニーは、ザックに飯を求められ、誇らしげにオレンジを投げた。依頼は完遂した。
2014/10/10(Fri) 03時半頃
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[生臭いにおいがした。 つんと鼻につくそのにおいは、血の滴る絞めたての肉のにおいに似ていた。 公演後の最大級に団が裕福なときにしか得られない馳走のにおいだが、今のこの雰囲気と重くべたつくような空気の感触は、とても喜ばしい事態とは思えなかった。
小さな身体を活かして団員の隙間を縫って前に出る。]
(59) 2014/10/10(Fri) 03時半頃
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[他の団員の止める声があった。 知らないほうが幸せだと思ったのかもしれないが、構わずにそこを抜けていった。 が、目の前に広がった光景、は。]
なんで、
[絞り出した声は震えていた。 そこにいたのは、酸素に触れて乾いて、もう黒ずんだ血溜まりの中にいる、団長の姿だった。
幼い猿は、取り乱して泣いたりはしなかった。 あまりに起きたことが大きすぎて、処理しきれなくなった頭が、コップに注いだ水があふれ出すように静かに一筋、けれど止めどなく、涙を流させるだけだった** ]
(62) 2014/10/10(Fri) 03時半頃
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靴磨き トニーは、メモを貼った。
2014/10/10(Fri) 03時半頃
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なんで昨日、おれは、
[この人が食べたいと、思ってしまったんだろう。 昨日に限って、欲が抑えられなかったんだろう。 ひとりじゃなかったから? ――そうだったっけ? 跡の隠し方も、血の洗い方も知らないで、肩口に牙を差し入れた。 ぶつりと肉の切れる音。甘い血の滴りをすする。 なんておいしいんだろうと、興奮しながら食いちぎった。]
なんで、なんで、なんで、なんでっ……!
[子狼は狼としての本能を、ついに知ってしまった**]
(*6) 2014/10/10(Fri) 04時頃
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――団長の前――
[名前を呼ぶ声があった>>74。 ほたほたテントの床布を濡らすばかりの水が、それでようやく軌道を変えた。 団長の絶えている下方から声のする方へと上を向いたから、涙の筋は頬から首筋へと伝う。]
スー。
[手が伸ばされていた。 何だろう、と視線の向きがその手の方へまた移った。移って、しばらくじっと見つめて、その手に自分の手を重ねた。 手の意味を理解したのではなくて、伸ばされた手は掴むものという認識のせいで、半ば反射に近かった。 普段の子供扱いが功を奏してか、そういった辺りは御しやすい。]
(105) 2014/10/10(Fri) 21時半頃
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[スージーが座り込んでしまったトリノスに声を掛ける間>>99も、涙は静かな筋を作るだけだったが。 人だかりのざわめきを引っ裂くように泣き声が聞こえた>>90。 幼いその泣き方がはじめは誰だかわからなくてぎょっとして、ほんの僅かな間だけ雫が止まった。 ペギーだ。ペギーのあんなふうに泣くのをはじめて見た。あんな大声も知らないかもしれない。 泣いている。泣いて、]
うああああ、うわあああああああん。
[束の間の凪も、嵐の前の静けさ。 つられて、つられて、清流は突然堰を切った。]
(106) 2014/10/10(Fri) 21時半頃
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[あんなふうにペギーを泣かせたのは自分なのだという罪悪感が、自分が変わってしまったことよりも耐え難くて、わあわあ泣いた。 子供の泣く意味を、多くの大人は気付けない。]
(*8) 2014/10/10(Fri) 21時半頃
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靴磨き トニーは、メモを貼った。
2014/10/10(Fri) 22時頃
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[歩けるかどうか>>114、に答えるよりも先に、慟哭が体の中をいっぱいに満たしていた。 スージーの狼狽えるのに困らせてしまったと思ったが、自分では止めることができない。 抱き寄せられてようやく、身を包む体温が涙をせき止めた。]
……、
[何かが頭を通り過ぎていった>>116。 スージーに抱かれていたのでそれが手だとわかるまで一瞬かかった。 撫でられたのだと気付けば、その慰めを力にぐっと唇を噛んで感情を押し留め。]
(125) 2014/10/10(Fri) 22時半頃
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ペギー、も、ないてる。 おれ、っく、なかな、から、ペギー、
[しゃくり上げて切れ切れになりながらも、ぼろシャツの裾で目元を何度も拭い、目を真っ赤にしながら笛吹きを指さした。 どこかから公演はやる、と聞こえてきた。泣いて舞台に立てないのは、それこそ迷惑だ。]
(126) 2014/10/10(Fri) 22時半頃
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ペギー、泣いてた、から。 おれが泣かせた。おれが団長、食わなかったら、ペギー泣かなかった。
[撫でる指は仲間のものだったから、泣くのを止められた。 仲間の囁きにだから、本当を返せる。 なんにも悪いことしてない。これは食事だ。本能はそう叫ぶけれど、子狼は感情を捨てられない。]
うまかった。 団長、うまかった……
[それなのに、誰が泣いても止められない衝動の、種火。]
(*10) 2014/10/10(Fri) 22時半頃
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[人間がするよりは納得できると思う]
……ニコ。 おれは、人間、か?
[おおかみなんて、こわくない]
おおかみか?
[人間が殺すよりは狼に殺されたほうがよくて、皆狼は怖くないというなら。 子狼は人間になりたかったが、狼でありたい。]
(*11) 2014/10/10(Fri) 22時半頃
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へ、ぃき。
[頷きとあわせて告げた言葉はまだ弱かったが、スージー>>131から離れる。 泣いた目をしたまま、炊事場に向かう。何か胃に入れようと思った。 肉が食べられる気はしなかったけれど、他の、例えばそう、オレンジとか、ゆで卵。 昨夜を思い返すように、何もなかった昨夜を思い返すように、歩いていた。]
(137) 2014/10/10(Fri) 23時頃
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……食べたら、うまいのかな。
[未だ――これから、があるかは別として――ペギーに対して無二の想いは抱かない仔狼。本能のままに、零す。 鶏や兎や豚だのの肉は食べられる気がしない。虎も猿も論外だ。あんなにうまい肉を知ってしまった。 泣かせたのは悲しくとも、抗えない。]
どっちも…… ニコは、どっち。
(*14) 2014/10/10(Fri) 23時頃
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――炊事場――
……は、よ。
[大声で泣いたから、しゃくるのが止まっても喉が少し枯れていた。 途中誰かとすれ違ったか、俯いていたのでよくは見えなかったが、炊事場では目的のものを手に入れるのに前を見ざるを得なくて、ついでにそれでザック>>124が見えた。 ザックは知っているのだろうか。普段とあまり変わらない様子に、様子を窺うような目を向けた。]
(142) 2014/10/10(Fri) 23時頃
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……そうか。
[子狼は昨夜の団長しか人肉の味を知らない。ニコラスの言ううまそうかそうでないかがすべての基準と言ってもよかった。 うまくない人間もいるのだと小さな落胆を胸にひそめ、そしてペギーを食べなくて済むことにほんのりと安堵した。]
おれは、ニコは、おおかみだと思うよ。 きれいな、きれいなおおかみ。
[アクロバッターは音楽に合わせて宙を舞うが、それはバンドネオン・ソロのようななめらかでどこか物哀しいような響きではない。もっとリズミカルに、跳ねる音だ。 となれば、近しいのはどうしたって、月光を背負う夜の姿。]
(*16) 2014/10/10(Fri) 23時半頃
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[強くこすんないでね、のアドバイスはもう遅い。存分にこすった後だ。 ひりつくくらいに赤くなった瞼と、同じくらいに赤い白目がザックをじっと見つめて、そして突き出されたカップを見つめる。]
……わかった。
[とりあえず今は泣いていないから、その言いつけも守れる。 浅く頷いて、カップを手にとった。 あたたかいカフェオレ。というよりも、メイプルコーヒー味のミルク。 甘い香りに誘われるように、一口飲んだ。]
ザックは、
(152) 2014/10/10(Fri) 23時半頃
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[言いかけて、止まる。何を言えばいいかわからなくなってしまった。 団長が死んだことを知っているか。涙の意味を聞かないから、知っていそうだった。 狼は怖いか。怖がっているようでは、なさそうだ。 聞くことがなくなった。]
何でもない。 今日は、何を演るんだ。
[舞台の話に、逸らした。]
(153) 2014/10/10(Fri) 23時半頃
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