64 さよならのひとつまえ
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…ん…
…も…かったわけじゃないけどさ
…まぁ…にはあんま…ないことだよ
…に…もんじゃおいしかった…ってだけ
…だとさ…わせて…せるけど…もう…じゃん…
…けど…ちょっとしたこと…に…したいなぁって
…
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[メールを送り終えた後、家に電話をした。 書類ができたので明日の朝に寮を出ると伝えたら、バスの終着まで車で迎えに来てくれると言ってくれた。 そのまま親戚宅へ向かい、挨拶をして、自宅に帰ることになりそうだと。 翌日は、チームの寮へ向けての準備を整え、家族でのお祝い。 その翌日、昼頃には家を出て、羽根田近くで一泊した後、翌朝の飛行機で西に飛ぶ。 大体、そんなスケジュールを確認し、最後に「ありがとう」と添えて、電話を切った。
話の最中、受話器の向こうから、ずっと、春のセンバツ高校野球の音声が聞こえていた。*]
(37) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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─朝・寮4-K─
おい、さくたろ約束通り俺様が起こしに来てやったぞォ そろそろバスくんじゃねぇの、って、……何だこれ
[張り紙のある扉を軽く蹴って。気付く。 その張り紙が昨日見たときとは内容が違っていることに。
紙には「白辻ありす以外、立ち入り禁止 ――― 朔太郎」の文字。
ふと真顔になる。周りを見回す。誰もいない静かな廊下。 もう一度その張り紙を見て。ノブに手を掛ける。まわしたら開いた。鍵は掛かっていない。微かに開いた隙間から射しこむ白い朝の光。 ──────ドアを開ける]
(38) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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──────……何だ、これ さくたろ?
[声を掛けてみる。居ないのはもう見えている。静かな室内。窓が開いている。春のやわらかな風がゆっくりとカーテンを揺らす。 そこから、ひらり、はらり。桜の花びらが紛れて舞い込む。 あれだ。寮の裏に植えられた日陰の桜だ。 陽はほとんど当たらなくても、春のあたたかさが蕾を綻ばせる。 ひらり、はらり。それは静かな部屋を埋め尽くした、やわらかそうな紙でできた白い花に舞い降る。 机の上には、本。ぬいぐるみ。一本の線香花火。硬貨。星の紙屑。一房綺麗に結われた髪。チカチカと未読メールと未送信を示す携帯電話。 並べられた幾つかは見覚えのある雑多なもの。
見当たらない部屋主。
それに気付いて最初に感じたのは、漠然とした「置いてかれた」という絶望に似た何かだった。立ち尽くす]
(39) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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ライジは、ジャニスに会ったら、山本を知らないか、聞いてみなくてはと思っている。
2014/04/02(Wed) 21時頃
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[机の上の携帯が震えた。開いた窓の外からエンジン音が聞こえる。 バスが来たのだ。ひとの話す微かな声。利一たちだろうか。
────きっとそこに、朔太郎はいない。 ────朔太郎だけが、どこにもいない。
次に浮かんだのは「捨ててかれたのか」という諦観に似た何か。 携帯がまた震えた。そのメールを受け取るべき本人はいない。
─────何だこれ。
思考が止まっている。そっと足を踏み出して。敷き詰められたやわらかい白い花を踏まないように。 机の上の携帯電話を手に取った。開く。 昨日の夜からの未読メールが並ぶ。自分が深夜に送ったものもある。
─────つまり、あれが、最後だった]
(40) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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[確認したら絶望と諦観が増した。 夜明けに見送ったあの背中はもうここにいない。 約束はどうなるんだろう。連絡手段もないのではないか。 置いてかれたんだ。捨ててかれたんだ。ひどい虚無が喉を枯らす。
携帯が震える。頼児からのメール。4通目。 きっと朔太郎を探しているのだろう。
視界は茫洋としたまま、返事をしなければ、と思う。 もう朔太郎はいないと報せないと。フォルダを開く。新規作成、そう操作しようとして。未送信メールがあることに気付く。 未送信。この訳分からん失踪劇を皆に報せるために用意してたメールだろうか、そんな些か乱暴な気持ちでそのメールを開く]
(41) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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[ありがとう、という題名。あて先は白辻ありす。内容はたった二行]
(42) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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[世界から音が消えた気がする。携帯を持つ自分の手が震えている。 ふと思い出す彼の言葉。あれは花見より前だった。
─────捨てる方がさ、難しいよね ─────捨てちゃいけないもんまで、棄てんなよ?
全部捨てる、と告げた自分にそう返した、難しいと言った彼。難しくてどうしても捨てられずに、でも持ってゆくことも出来ずに、この部屋に残さざるを得なかったもの。 机の上に視線を向ける。 本。ぬいぐるみ。一本の線香花火。硬貨。星の紙屑。救急セット。一房綺麗に結われた髪。 手の中の携帯電話。部屋を埋め尽くす白い花。
─────これを、すべて。ぼくが咲かせたのだと]
(43) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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[この部屋は棄てられた部屋なんかじゃない。
─────最後まで棄てられなかったものの眠る、朔太郎の宝箱だ]
(44) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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[扉の張り紙。最初は「朔太郎以外立ち入り禁止」と掲げられ。 そうして今は「ありす以外立ち入り禁止」に書き換えられた、それの意味するもの。朔太郎の宝物の眠る部屋の扉は、たったひとりに放たれた。
─────自分だけが、入ることを赦された。彼の心の中へ。
噛みしめた顎が震える。閉じた目から零れる雨粒は、ひとつ、ふたつ、俯く足元に降り注ぎ桜の花びらに雑じる。取り繕う余裕もない。 溢れるものを止めることも出来ないまま、額を抑えて崩れるように蹲る。 世界がまた動き始める。バスの走り去る音が聞こえる。 震える携帯。利一からのメール。頬を濡らしたまま不格好に笑って。
ごめん、朔太郎。ひとつだけぼくは君の望まないことをするよ。
やがて気持ちが落ち着いた頃。 ガラパゴスを鳴らして、朔太郎の携帯から一通のメールを送る]
(45) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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お前は俺のこと好きすぎなんだ、ばーか
[しばらくはその部屋で蹲って、動けないまま。 たくさんの白い花からある五つの文字を探し出すのは、もう少しあとになってからのこと*]
(46) 2014/04/02(Wed) 21時頃
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…
…
…
…
おはようございます
…よくわかる…という…まんまな…がありますよ
…
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―― 昨日・中庭 カラオケ大会中に ――
成斗からのリクエストなー。
[それは何時のタイミングだったか、男はプレイヤーを操作すると、マイク前に立った。 歌詞を検索し、時折そちらを見ながら演奏をする。彼が何を想い、これを選んだのか。 流れるままに口にする歌詞の意味は、検索したサイトの隅に書かれていた。
“私”が待つ“あなた”は “成斗”が待つ“あなた”は 一体誰なのだろう。
―― 少なくともその先に、自らはいない。]
―― what your love means to me Open arms
[歌い終えてベースに視線を落とす。 今の男には少し、ほんの少しだけ、辛かった*]
(47) 2014/04/02(Wed) 21時半頃
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―― 翌朝・バス停 ――
[今日はきちんと起きることが出来た。 利一と共にバスに乗るだろうとばかり思っていた朔太郎の姿は見えず、事情も知らぬ男はただ首をひねるばかり。]
またな、ロンよ。大きくなれよ。 元気でツモれッ!
[最後に告げたのは、そんないつものふざけた言葉。 賑やかに、笑顔で。旅立つ彼を見送る。 バスに乗り込む姿に手を振って、車体が見えなくなるまでずっと、バス停でたたずんでいた。]
(48) 2014/04/02(Wed) 21時半頃
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…
…
…
ご…おめでとうございます
このたび…を…れて…の…へ…しますので…をお…らせしておきます
…
…
…お…へ
…は…の…を…くことにした…
…すんな…
…げなくてごめん…
…で…ごめんな…
…
…
…
…だ…
…
そうか…てたとこだったから
ああ…で…ってる…
さっき…ってくるってあいつから…きてたな
お…の…も…にあったけど…
お…らに…いてるとこでも…せたくなかったのかね
…かった…ってる…
…
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知らんなぁ。 まだ寮いんのかね?
[同じく事情を知らない頼児>>10に、そう答え。 それでも寮にいるのならバスの時間には気がつくはずだろうと、首を傾いだ*]
(49) 2014/04/02(Wed) 22時頃
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―― 4-O ――
[寮母から書類を受け取り、足取りも軽く部屋に戻る。 智明も取りに向かっただろうか、はたまた共に行っただろうか。 菓子とベース以外殆ど荷物のなかった男は、パーソナルスペースに殆ど物を残していない。]
んーっとととこれ送ればいっかな。
[机に腰掛けてスマートフォンを弄る。 ひよこは男の手が動くそれに沿って、軽やかにゆれている。]
(50) 2014/04/02(Wed) 22時頃
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