265 魔界娼館《人たらし》
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[ ひとまず欲求の満たされたところで、白檀の間を出る。 用心棒の務めに戻ろうと、階段をおりてゆく。
女将の声が聞こえた。 気をつけろと促しているが、火事など、緊急避難が必要そうなものではなかった。
と、足の裏が滑る。 否、地面からわずかに浮いたために、氷の上にいるような状態になったのだった。]
(15) 2019/05/15(Wed) 01時頃
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[ その場に留まって状況を探ることしばし。 他の者たちはとみると、完全に浮いてしまっている者もいれば、それを羨ましそうに見ている者もいる。 そんな状況でも営業は続くようだった。
バランス感覚はいい方なので、すぐに、まっすぐ立っていられるコツは掴む。]
女将、 手は足りていますか。
[ 声をかける。*]
(16) 2019/05/15(Wed) 01時頃
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[ 目の高さを女将が漂ってゆく。>>25 女将の眼は表現力豊かだから、猫の顔でも驚いているのがよくわかった。
手を伸ばしてみるが女将の絹のような毛皮はスルリと滑ってしまう。 とてもいい手触りで、一人締めしてはいけないと博愛精神が働くほどだ。 困っている様子もなかったので、そのまま漂ってゆく女将を見送る。 なんだか、少し楽しそうでもあるか。
自分は仕事を申しつかったから、手すりを掴んで軽く勢いをつけ、ホールに飛び込む。]
(44) 2019/05/15(Wed) 21時半頃
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[ 女将には配膳の手伝いを、と言われたが、この分では厨房も料理どころではあるまい。 すでにできている料理を届けたところで 、浮いてしまった者たちが上手く食べられないのは簡単に予想がつく。
今もあちこちで、風船めいた《花》や客が、調度に足を引っ掛けたり、ぶつかったりしていていた。 それはそれで安全確保に問題があるという判断のもと、わたくしは女将の任じた役目として、空いた皿をさげることにした。
テーブルの間をぬって滑り、手早く食器をワゴンに移し、回収する。 我ながら賞賛に値する機動力に、忘れた過去にスケートかサーフィンの経験があるのかもしれないと思った。]
(45) 2019/05/15(Wed) 21時半頃
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失礼いたします。
[ 獣人の前にある空のジョッキも引き寄せる。 わずかな飲み残しが顔にかかるのを見れば、テーブルのナプキンをとって頰のあたりに差し伸べた。>>43]
ご入り用であれば、座席に固定するベルトをお持ちします。
(47) 2019/05/15(Wed) 22時頃
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[ 同じテーブルに"彼"がいるのに気づいていたが、殊更に避けるのも意識しすぎているようで癪だ。 礼儀正しさを超えない範疇で謝礼を述べる。]
先ほどは果実を手配してくださいまして、ありがとうございます。
[ 新顔の客は、行商を生業とすると女将に告げていた。 もし、布地の目利きでもあれば、わたくしの服が新しく、極めて上等な品であることを見抜くかもしれない。 あるいは、犬の嗅覚を持つならば、食べたばかりのラズベリーの香りもまた。*]
(48) 2019/05/15(Wed) 22時頃
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[ ベルトはいらないと、凛々しい犬科の顔をした魔物は言った。 わたくしを《花》と思っているのだろうが、ちゃんと礼をいうあたり、できる商売人というべきか。
そのやりとりを見ていた"彼"が、酒を被って濡れたので拭いてほしい、と顔を差し出す。 なるほど、《花》はこういう付加サービスを要求されるものらしい。
彼の口を塞ぐために、ラズベリーを残しておくのだったか。 指で突っ込んでやれば、喜びそうな気がする。 あまり調子に乗らせるのは得策ではないが。]
(55) 2019/05/15(Wed) 23時半頃
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[ 朗らかといってもいい笑みには、ことさらに無表情で返す。]
どこかにいってしまいました。 送り主と同じように、つかみどころのないものでしたゆえ。
(-36) 2019/05/16(Thu) 00時頃
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[ 代わりにポケットの中の小布を顔に押し当ててやろうかとも思ったけれど、 "彼"がさらりと続けた言葉が、引っかかる。]
…わたくしが住んでいたところをご存じでおいでとは。
[ しばし無言で視線を交える。
彼の持ちかけたゲームとやらに参加するつもりはなかった。職務外だ。 ただ、彼がもっているらしい、わたくしの"過去"は気に掛かる。 テーブルを拭きながら、新顔の獣人が確認する内容に耳を傾けた。*]
(56) 2019/05/16(Thu) 00時頃
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[ 的を持てと言われた。 そのくらいのこと、"彼"の不穏さに比べれば差し障りのない範疇だ。 他の客に当てないため、という名分はたつだろう。]
承知いたしました。
[ こちらもやる気らしい新顔に会釈をして、指定された位置に立つ。**]
(64) 2019/05/16(Thu) 00時半頃
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[ 過去に的を持った記憶はなかったが、案外と特等席だということがわかった。 正面の投擲手二人の姿が、その眼差しまでもよく見える。 他の客や《花》の視線をあちこちから注がれ、これではまるで…、 否、わたくしは《的》の支えに過ぎないのだから。
笑みひとつ乗せるでもなく、勝負の開始を待った。]
(107) 2019/05/16(Thu) 21時半頃
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[ 獣人の1投目は的のほぼ中央を貫く。 あの手でよく器用に扱うものだ。
少しばかり地面から浮いているために、自分の体が命中の勢いで押されるのがわかった。 抵抗のはたらかない感覚は、どこかあやうい。
間髪おかぬ2投目は回転がかかったか、大きく逸れて──高価な花器を割りそうだった。 とっさに左手を伸ばして進路を妨害する。
チッと皮膚が裂ける感触があった。
素早く手を背中に隠して何事もないふりをしたが、客の中には血の匂いに気づいた者もいるようだ。 一部の魔にとって、血は酒よりも豊穣らしいと聞く。]
(108) 2019/05/16(Thu) 21時半頃
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[ 犬の鼻面をした彼も、匂いに撹乱されたのだろうか、3投目はほどほどの命中だった。
彼と場所を交代した挑戦者は、相変わらず軽口を叩きながら手裏剣を構える。 その投擲も軽業師めいていた。
カツ、カツと、的を持ったわたくしを左右に揺さぶる命中の感触。 最後の一投は外れて、顔の脇を飛んでゆき、小さな風を巻いた。
勝負はあった。]
(109) 2019/05/16(Thu) 21時半頃
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[ 観客の視線から解放され、的をおろす。 フェイドアウトしようとしたところを呼び止められた。
居残れというから、罰盃云々と言い交わす彼らの元へ蒸留酒を運ぶ。
獣人は薄緑色の粉末の入った包みを渡してくれた。 先ほど、彼が言っていた"良い薬"を約束違えずくれるらしい。 ならば、こちらも彼のいう通りに勘弁するのに躊躇いはなかった。]
ありがたくいただきます。 それと、おめでとうございます。
[ 傷のない方の手で受け取る。*]
(110) 2019/05/16(Thu) 21時半頃
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[ 気っ風のいい獣人の厚意に会釈する。
世界を旅する彼ならではの贈り物という気がした。 使えば消費してしまうプレゼントというのも、なかなか通だと、わたくしは思うのだ。
そんな彼は、わたくしの耳にはとらえられない何かに心を掴まれたようで、視線を遠くへ振り向けた。 席を立つという彼を引き止める理由もなく、見送る。]
あなたの前に扉が開かれますように。
(130) 2019/05/17(Fri) 00時頃
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[ こちらも潮時だと席を離れようとしたところに、"彼"の手が伸びてきて、傍に引きずり込まれた。 口上によれば、"彼"もまた、約束を果たしたいとのことである。
普段ならば上手く躱すこともできたかもしれないが、微妙な浮遊具合が邪魔をした。 小動物のように軽々と抱えあげられてしまう。
声をたてれば、周囲の気を引きつけてしまうだろう。 先ほどの視線の集中で生じた熱を思い出し、とっさに息を殺した。]
(131) 2019/05/17(Fri) 00時頃
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勝負に負けて悔しいですか。
(-75) 2019/05/17(Fri) 00時頃
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[ 負ければ負けるほど、酒が飲めると"彼"は言った。 そこまでの酒浸りには見えない。口実だろうと思った。]
金を積んでわたくしを好き勝手にしようとする方が、罰盃を慈雨とするとも思えません。
(-77) 2019/05/17(Fri) 02時頃
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もし、わたくしを賞品にすると宣言しておられましたら、 わたくしも手裏剣を投げる側にまわっていたことでしょう。
[ "どこへ" 投げるかは、言う必要もあるまい。
浮いている客を避ける形で腰を捻る。 隙あらば、拘束を逃れて、臨時の仕事に戻ろうと。*]
(-78) 2019/05/17(Fri) 02時頃
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[ "彼"の腕はわたくしを離さない。 わたくしの何がそんなに"彼"を惹きつけてしまうのか。
邪険にされるよりは親切にされた方が生きやすいに決まってはいるが、 《人たらし》に来る客の目当ては《花》に奉仕され、その肉体を愛でること。 それがわたくしを怯ませるのだ。
わたくしの身体は、わたくしのものではないのか。
此の期に及んでまだ割り切れないわたくしに、甘い説得を囁く"彼"の笑みを直視できない。ただ、]
(-89) 2019/05/17(Fri) 10時半頃
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…あなたは、《花》にも命令をしないのですね。
[ そこはとても、 心に入ってくるのだ。]
(-90) 2019/05/17(Fri) 10時半頃
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[ 放り込まれるようにして導かれた部屋は、先ほどの白檀の間とまるで正反対の、暗い色調に満たされていた。 それでいて、葬送の場のような静謐さはない。 設置された器具たちが声高に恐怖を煽るかのようだ。
肉体を愛でる方法はさまざまだとか。
"彼"が、わたくしに何の資質を期待しているのかはわからないけれど、わたくしの目は、この部屋の中で、武器になるものを探していた。*]
(-91) 2019/05/17(Fri) 10時半頃
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客が 仕えたくなる?
[ それは考えたこともなかった。 魔物というのは、自尊心と支配欲が強いものだとばかり思っていたから。
"彼"は前にも、「君は今のまま、魔物を惹きつけ続ければいい」と言っていた。 事実、それがわたくしの"武器"なのだろうか。
それを教える"彼"の真意はわからない。]
(-97) 2019/05/17(Fri) 14時頃
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[ 吟味している余裕もなかった。 わたくしがおとなしくしているつもりはないと見抜いていたのか、"彼"が何か発動させるような仕草をすると、わたくしの足首に飾り紐が絡みつく。 残りの四肢にも蛇めいた筋が巻きついた。
浮いてさえいなければ、こんな簡単に引っ張られることはなかったろうが、摩擦のない現状、あっという間に、寝台に架けられてしまう。]
…ッ
[ 痛みはない。 だが、こんな屈辱的な姿勢をとらされるだけで、息は乱れた。]
(-98) 2019/05/17(Fri) 14時頃
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[ 悠然と漂ってきた"彼"が格言めいたことを言いながら、一度、袖を通しただけの上等な服を裂く。
布地の悲鳴がわたくしの心を誇張して反映しているようで、いたたまれない。
下着の件については弁明しないでおいた。 それを脱がす楽しみを"彼"から奪ってしまったのだとしても、悔いはない。]
(-99) 2019/05/17(Fri) 14時半頃
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[ "彼"の指でやんわりと触れられて、改めて花にも雄蕊があることを意識する。 軽く淫靡なあいさつに、悶えが目覚めさせられてしまう。
客にもこうするのだという手本を示しているのだろうか。 否、"彼"は《花》としてのお披露目前に、君の体を整える、と言っていた。
どういうこと か。
指を握り込めば、傷から血が滴る。*]
(-100) 2019/05/17(Fri) 14時半頃
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[ ここで治療する気はないらしい。 わたくしを仕立て上げるのは、血よりもなお、そそるらしかった。
彼の手には、今や剃刀があり、不定形の反射鏡が、わたくしの焦燥を煽るために像を結ぶ。
ボウルに盛り上がったきめ細かな泡は、石鹸のそれではない。 メレンゲにも似た泡のかたまりが下腹部に乗せられる。 柔らかなブラシがそれを伸ばし、陰部をくりかえし掠めていった。]
(-104) 2019/05/17(Fri) 15時半頃
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[ "彼"のしていることが何の前準備だか、さすがに予測はつく。
何が楽しいのかは、理解できない。
不安とやるせなさばかりが募る…と思っていたのに、 巧妙な刺激に、拘束されていても腰が跳ねてしまう。 さきほど接吻けされた先端が白を頂く塔となって屹立していた。*]
(-105) 2019/05/17(Fri) 15時半頃
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[ "彼"は自分の手を泡まみれにして、容赦なく、嬉しげに、 時折、偶然の産物のような快楽のおこぼれを感じやすい場所に与えながら、 わたくしの身体を《花》として加工してゆく。
不可逆的な処置ではない。 けれど、他者に見せることを前提として改変されているという認識が、わたくしを縛る。
実質的に、奴隷の烙印と同じようなものだろう。
ちゃんと自覚を持てるように、と"彼"は言った。 その目論見は、成功しつつあるといえた。 諦観もまた自覚のうちであるならば。]
(-108) 2019/05/17(Fri) 16時半頃
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[ わたくしは、小刻みに震えていた。
無力感が底辺を流れていはしたけれど、正直なところ、わたくしは、おそらく生まれて初めて体験する恥毛剃りの危うい気持ち良さに吸い込まれそうだったのだ。
髭をあたるのと似ているようで、まったく異なる。 剥き出しになった毛本の感覚器が"彼"の指の滑りをダイレクトに伝えてくる、その快感たるや。]
(-109) 2019/05/17(Fri) 16時半頃
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