263 ― 地球からの手紙 ―
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[街には君の声があちらこちらから聴こえる 君であって君じゃない君が、何処にでもいる。
朝、帰路の途中車窓から覗いた景色にも 今は充電が無い端末の中にも、いつだって。 全て本物であり、偽物でもある。
君は個であり、幾万であり、無だ。]
(9) 2019/04/20(Sat) 21時頃
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……疲れた。
[玄関のドアを開いて早々の少年の言葉に母親は笑う どこかぼんやりとした表情を見て肩を叩いて、二度寝を提案する。 それが許されるのが、休日二日目の朝であるからこそ 素直に従い荷物を持って階段を上がり、自室へと。
最初は期待に胸を躍らせ、次は恥に神経が昂ぶり 三度目、昨夜は慣れない環境と忙しさから 不眠と言う程ではないだけで、 十代の貴重な睡眠時間は確かに削れ続けている。 そして、漸く自分のベッドに潜り込める筈のこの時間も 彼は結局、それを選択することが出来ない。
パルック様にお願いした鍵付きの引き出しの中 ポプリと共に部屋の主の帰りを待っていたのは 入れた手紙ではなく、無くしてすっかり忘れていたあの絵で 思わず目を見開き、声が漏れるような 外に飛ばされたからでは説明がつかないような 多大な変化を持っていたのだ────]
(10) 2019/04/20(Sat) 21時頃
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……文字、だよな。これ
[よれて汚れ、けれど確かに自分のものと判別出来る紙を広げて 少年は何度も何度も、まるで文字の如きシミに視線を這わせる。
幾度も頻発する単語、書いた者の名前らしき言葉 その唇で繰り返しても、全てを解するのは難しい。 伝わるように書かれているのに分からないことが多い それこそ、別次元の存在からの手紙かのように。
まず、学校で飛ばされた紙が引き出しに入っているのがおかしい。 これも「不思議なポスト」や「パルック様」なのか? あの「絡みついていたもの」のこともまだ分からないのに。 少年の寝不足の頭は一瞬軽い目眩を起こし、額に手を添えた。]
(11) 2019/04/20(Sat) 21時頃
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[ただ、怪奇的に変質した自分の絵を少年は 破り捨てようだとか恐ろしいだとか、思うことは無かったのだ。
メモに返ってきたあの手紙と同じように心が籠もっていた。 その者の強い想いに共感が出来てしまった。 そして相手も、問い掛けに繋げた言葉で この気持ちと同じものをこちらに示している。
だから、]
ありがとう、ソランジュ。
[驚きが困惑に変わり、その中に浮かんだ疲労が一時消えた頃 少年の指は紙に伸び、インクがぼけている部分へ 優しく優しく、指の腹で撫であげた。 それも文字と同じく、ソランジュの痕跡と認識した。
まるで人間ではないような言葉選びの多いその者にも そんな独り言が届くわけはないと、知っているけれど。]
(12) 2019/04/20(Sat) 21時頃
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[一晩離ればなれだった端末と充電器に再会の時間を堪能させつつ 椅子、ではなく絨毯に座り込んだその手には不可思議なものが一つ 長くて長くて、手に取る機会は一般人には早々無いし、 知る限りでは何かを書く為には使わない代物で。]
なんだか…………、これも
[本当に人間が書いたものなのだろうか? 先程の件もあり、常なら笑い飛ばすような思考が過る
目を凝らして首を左右に忙しなく傾けて 眺め続けれど、その者の正体を示すようなものは無い 強いて言えば、言葉を刻むのに使われた道具が気になる 少年の脳裏に浮かぶのは、立派な爪で獲物を狩る獣。 目の前に現れたのなら、簡単に彼を食べてしまえるような存在。]
(13) 2019/04/20(Sat) 21時頃
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[それでも恐ろしくならなかったのは、 どこか切なく、手を伸ばしてあげたくなるような 切実な感情を確かに感じたからか。
暫く視線を固定しながら、思考の間を見せた後 彼は絵を描く為の紙と、ペンを取り出して────]
(14) 2019/04/20(Sat) 21時頃
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あなたはひとりじゃないよ
僕に届いたから、きっとそう
届けたいのならきっと、何回だって届けられるよ
僕の言葉も誰かに届いたんだ あなたにも届きますように
[小さな白い紙の中心に言葉は綴られる その下に描かれているライオンは、雄々しく地を駈け 四方の縁には人間の腕が何本かあり、 それらはライオンに向かって、紙飛行機を飛ばしている。
絡みつくには長さが足りない 宛先などは何処にも書かれていない けれど、それは誰かに宛てられたものじゃなくて 確かに走り続ける君への手紙だ。]
(-21) 2019/04/20(Sat) 21時頃
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[少年はこれに関しては、パルック様とやらを頼ることをしなかった。
全開にした窓から半ば身を乗り出して 捧げるように並べた両手に乗ったそれは
ふわり、風に乗り────消えてゆく
彼はその時、続く不可思議を受け入れられた気がした。 走り続ける誰かに届くといいと祈った。]
(15) 2019/04/20(Sat) 21時頃
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ああ、なんて返そうかなぁ もう俺のこと、忘れてるかなぁ
[普段より間延びした声で呟き、少年は笑う。
端末が活力を取り戻す時を待ち侘びながら、知らない誰かを想い その文面を一つ一つ思い出しながら、 通知を見た時と変わらない気持ちで胸を躍らせる。
一通は返信ではなく、相手から 最初は冗談のように思い面白おかしく感じたけれど、 今となると──もしかしたら本当かも、なんて。 どちらであっても、興味がひかれる内容だった。
二通目はなんと、自分のメールに返してくれたもの 多分女性、こちらと似た部分があるようなのが、気になる。]
(21) 2019/04/20(Sat) 22時頃
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[やがて、充電を終えたのなら 急ぎ──小さな部屋でそんな必要もないのに──手にとって、 画面に明かりを灯せば早速とあのアプリを起動する。
悩みながら、しかし相変わらずどこか嬉しそうに 少しづつ少しづつ電子の白紙は埋められていき、 やがて何処かへと二通が飛び立った。
一日がとても長かった小さな頃のように 眠ることすら惜しんでいた。]*
(22) 2019/04/20(Sat) 22時頃
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雄猫のアーサーさんへ
メールをありがとうございます! 忙しくて返事が書けなくてごめんなさい。
僕は学という名前の未成年で男で人間で学生です。 両親がいて、一人っ子です。
僕がいるところでは猫はメールは打てないのですが、 アーサーさんはとても頭が良いんですね。
アーサーさんは凄く頼れそうだなと思うんですが、 今は暗い話を聞いてもらうよりも、 僕も知らない誰かと楽しく話していたいので 他愛もない話でお願いします!
(-22) 2019/04/20(Sat) 22時頃
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メールが打てる猫のアーサーさんは、 いつもどんな生活をしていますか? 人間の学生は毎日起きたら母親のご飯を食べて学校に行って、 授業を受けたり友達と話して、また帰ってご飯を食べて 後は風呂に入って寝るくらいです。 最近はバーチャルアイドルのライブにもよく行きます。
面白みがない話をしてすみません 人間の学より
[あなたのメールは確かに同じ利用者に届き 応じる文面が、あなたへの興味を見せる内容と共に返った。
それを可能とした存在がアプリケーションの管理者ではないとは ────どちらも、知らないまま。]
(-27) 2019/04/20(Sat) 22時頃
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Cobaltさんへ
今はあなたにとってどんな挨拶が正しいのか 僕には分かりませんが、遅れてごめんなさい。 ちょっと色々あって、忙しかったんです。
そして、返信をありがとうございます。 僕たちが似ていることは、多分喜ぶことじゃないのですが こうして出会えて嬉しいです。 このメールが、少しの間でもその悩みを忘れさせられたら 素直にそう願っております。 僕があなたからの返信を読んで笑顔になったように。
(-28) 2019/04/20(Sat) 22時頃
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編み物、素敵ですね。手作りは暖かいものだと思います。 僕は残念ながら編み物をしたことは無いのですが、 同じような気持ちを最近感じました。 こうやってネットで文字だけのやり取りをするのも、 アナログで手紙を書いてみるのも、楽しいですね。
不思議なポストって知ってますか?
なんでも何処にでも手紙が届くらしいですよ ガクより
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[電子の渋滞は二人の知る由もないところで解消され あなたと少年はハンドルネームで繋がりを得た。
彼がその名前を打つ時どれだけ嬉しそうだったのか、 整った画面の中の文字列からは決して伝わらないけれど。]
(-29) 2019/04/20(Sat) 22時頃
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/* 自分のPCは高校生でも「男」か「青年」表記が多いのだけど 彼らは少年でいられなかった理由があって、学には無い 学は不可思議を不可思議のまま喜べるような人生を送ってきたのだな。
(-30) 2019/04/20(Sat) 22時頃
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[────余談であるが 利用者がメールでやり取り出来るアプリケーションには、 その匿名性を保つ為に、送信者のアドレスを表示しない機能がある。
「どちらも」それに準じた状態で受信した為に そこにも不可思議があることに少年が気づくことはないのだ。]**
(23) 2019/04/20(Sat) 22時頃
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