263 ― 地球からの手紙 ―
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[北へ向かう。 陸上のヒトビトは見たことがないであろう、水底を走るクルマ]
最近走っていなかったけど、調子は良さそうだね。
[運転手にそう、声をかけた。
遠出をすることが、無いわけではない。 一族の婚礼やら、水の民の代表が集まっての会議やら、そんな機会はたまにある。
でも、今回のような、いつ戻れるかわからない旅は初めてだ。 もめ事を早く解決してやれればいいが、と思う>>1:37]
(+0) 2019/04/20(Sat) 07時頃
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…………。
[晴れない気持ちで落とす視線が、小さなラッピングバッグをとらえて少し和んだ]
うん、そうだ、これがあった。
[クルマへ乗り込む直前に届いたそれには、手紙と、贈り物らしき包みが入っている]
……そうだね、自分で言ったんだ。 これも、きっと成長の機会だろう。
[まっすぐで可愛らしい便りに、そんな言葉が漏れる。 返事を出すのは、しばらく先になってしまいそうだけれど。
単純に楽しむ、とはいかない旅でも、大切な経験のひとつととらえよう。 誰かを助けられる大人であるために。*]
(+1) 2019/04/20(Sat) 07時頃
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[風に飛ばされてきたゴミ、通り過ぎた大樹の根元 水たまりを飛び越え損ねた靴底や ちいさな水辺に溺れた虫、水浴びをした小鳥や 辺りを転がる小石からも、泉が移動した道筋に沿って
きっと誰もが気付かない位に、 ほんの少しずつ色が抜き取られている。 犯人は遥か地面の下にいるけれど そもそも犯行自体気付かれていないのだから 探されることもない。
ぜんぶたべてしまうことも、ほんとうはできるのです けれど同じもののたべすぎはいけません 少しずつ、色んなものをつまむのがいいのです。 けんこうというやつになれるのです、すばらしいですね!
けんこうというやつは、いいものなのです。 もじがおしえてくれました。 ことば は、とてもすばらしいものです。 ついつい、たべすぎてしまいそうになります。]
(+2) 2019/04/20(Sat) 10時頃
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[数十年前、ちいさなひとたちの暮らす地域で ミニチュアみたいな図書館が 急に降り出した雨に一気に浸水したあと 水に濡れた本からそっくり文字が消えた 怪事件が起こったはなしは 今を生きる人々の記憶からは次第に薄れ 忘れ去られ始めているだろう。
あのときほどくいしんぼうだったことは いまだかつてありません。 つつしみ、だいじですからね! けれどあのときくいしんぼうだったおかげで わたしはずいぶんと、かしこくなりました。 かしこくなったので、すてきなものとだいじなものが いっぱい、いっぱいふえました。 だいじなものがいっぱいあるのは、すばらしい!]
(+3) 2019/04/20(Sat) 10時頃
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[そう、つつしみはだいじなものなのです。
そのものの全ての色を奪い去って、喰いつくして 人の眼に映らなくしてしまうなんて 遥か昔には神隠しとか呼ばれた食べ方は 最近ではもうしていない。 図書館の時だって文字を奪っただけで 本自体は残しておいた。
だから、これも。 とってもすてきなこれも。 たべつくしてはいけないはずです。
だれかがきっと、こまってしまいます。 あのときみたいに。]
(+4) 2019/04/20(Sat) 10時頃
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[あのときわたしが、くいしんぼうだったせいで たくさんのひとがこまりました。 しんぶんというやつの、ことばがおしえてくれました。
かしこくなって、すてきなおもいをして うれしかったのは、わたしだけなのです。 みんなこまりました。それはいけません。 くりかえすのは、いけません。
何かの偶然で、水たまりに落ちた手紙を 名残惜しんで少しだけ躊躇ってからそっと地上に返す。
微かに味わった鱗片からは知性を感じる文字の並びと ほんの少しの、懐かしいなにかのかおり。]
(+5) 2019/04/20(Sat) 10時頃
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[これはわたしのものではありません。 こまってしまうだれかのものです。 しっています、てがみというやつなのです。
とどけたはずなのにとどかない こまってしまうだれかから とどくはずなのにとどかない こまってしまうだれかにおくられるもの
いいなぁ、いいなぁ。 わたしもほしい。 けれどこれは、わたしのものではないのです。]
(+6) 2019/04/20(Sat) 10時頃
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[こまってしまうだれかのもとへ ちゃんとかえさなければいけません。
だってこれはすてきなものです。 きっとなくなってしまっては、 だれかとだれかがかなしみます。 かなしいのは、いけません。
……けれど、かえしただけで、 ちゃんとだれかとだれかに、とどくでしょうか?
ぴこぴこ角を悩まし気に揺らして考えてみる。 このままではこの手紙は、きっと誰にも届かない。
どうしようか、どうしたら…
……そうだ。 わたしがとどけてしまえば、いいのです!]
(+7) 2019/04/20(Sat) 10時頃
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[それはきっと、とてもすてきなことなのです! あたまがいいですね、わたしは! これもきっと、ことばのおかげなのです。
そうときまれば、おでかけのじゅんびをしなくては いつぶりでしょう、おそとにおでかけするのなんて。
うきうきしながら、すぅ、と息をするよう吸い込む。 最初に干上がったのは、地上の水溜まり程度の泉だった。 そのまま自分を取り囲む水を吸い込んでゆく。 地中を移動していた不思議な水球みたいな住処が すこしずつ、次第に小さく萎んで行って… 居場所のなくなった身体が地面からもこりと押し出された。 それは大人の握り拳大のちいさなおかしないきものだった。
ぷは、と吸い込んだ分だけ吐き出した吐息は もくもくと雲になって上空に浮かぶ。 浮かんだ雲はしとしとと 冷たさを感じさせないちいさな雨粒を降らせ始めた。]
(+8) 2019/04/20(Sat) 10時頃
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[太陽を遮ってしまわない淡い色の雲と あたたかな雨を引き連れて ちいさなてあしをえっちらおっちら 泉と同じ、うごいているやらいないやら よくわからない速度で歩き出す。
角の間に、件の手紙を引っかけて。
ばしょには、なまえがあるのです。 てがみには、ばしょのなまえが、ありました。 けれどこまりました。 ここのなまえは、いったいどこでしょう?
ああ、けれど、だいじょうぶ。 あるいていれば、いつかはもくてきちに、つくものです。 地球というやつはどうやら、まるいらしいので! ぐるっといっしゅうしてしまえば、いいですね!]
(+9) 2019/04/20(Sat) 10時頃
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[道端にクッキーがおちている。]
(+10) 2019/04/20(Sat) 23時半頃
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[そのクッキーは湿り気を帯びてふくらんでしまっていた。 それをアリが少しずつ分解して運んでいく。長い長い列が形成された。 近ごろは確保できる食べ物が少なかった。久しぶりの大物だ。 小砂利の奥の巣穴では、今年うまれたばかりの、未来の女王がお腹を空かせて待っている。 よく育ち繁栄したいとアリたちは思っていた。]
(+11) 2019/04/20(Sat) 23時半頃
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[鳥が飛んできて、クッキーを咥えて飛び去った。 その勢いの拍子で、アリの巣穴の入り口が小砂利に埋まった。
鳥はさらに食べ物を探して飛び回り。 クッキーは消化され、孵ったばかりのヒナに与えるためのミルクとなる。]
(+12) 2019/04/20(Sat) 23時半頃
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[鳥の巣では、孵ったばかりのヒナが、他の卵を巣から落とす。 自分がより大きく育つために必要なことだ。
鳥は飛び回り、フンをして地に種をまき、巣に帰る。 卵がなくなったことには気づくけど、それより先に無事なヒナへミルクを与える。]
(+13) 2019/04/20(Sat) 23時半頃
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[ある種は運良くふかふかの土の上についた。 雨を待ち、発芽の準備をする。
ある種は運悪く水の中へ落ちてしまった。 魚がそれを飲み込んだ。]
(+14) 2019/04/20(Sat) 23時半頃
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[魚の大群が水の中を行く。 あたたかな流れには沢山のプランクトンがいて、魚はそれを取り込みぬくぬくと成長する。
繁殖に適した水温のある故郷へ向かう途中、空からやってきた鳥が、底からやってきた魚の王が、陸からやってきたヒトが、魚をたくさんたくさん捕まえた。 魚群は三分の一の大きさに変わってしまった。]
(+15) 2019/04/21(Sun) 00時頃
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[死への道だと魚は始めから決意していた。 どのみち伴侶と出会いことを成した後は死ぬのだから。 だけどどうせなら、水の中とも違う、空にあるというきらきらの中を泳いでみたかった。 それを出来る存在に強く強く憧れた。
その魚はとてもよく育っていたので、市場で非常に高価に競り落とされた。]
(+16) 2019/04/21(Sun) 00時頃
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[魚を競り落とした生物は、その目玉をしげしげと覗いた。 夜空にひかる天の川のようなきらめきだったから。
適確に血抜きされた魚は美味だった。 目は珍味なのだよと子に与えられ、首を傾げながら子は食べた。]
(+17) 2019/04/21(Sun) 00時頃
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