277 黄昏草咲く出逢い辻
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― 森の中 ―
[本気で逃げ続けさえすれば、傷付いた兎一羽振り切れたはずだった。 けれど実際は、体力が尽きるより遥かに早く、青年の足は止まる]
……怪我、してたな。
[血は流れていなかったが、その様子はとても辛そうで。 これほどこちらが拒絶したのに、それでも言葉を投げ掛けようとしていたようだった]
…………。
[何よりも、こちらの言葉に。 傷ついているように見えた>>96のは、気のせいだったか]
(102) 2020/06/09(Tue) 00時半頃
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"将来は、医者になって、お母さんのように病気で苦しむ人を助けたいです。"
『偉いねぇ、立派だねぇ』 『お母さんを亡くして辛いだろうに、よくもまぁ……』
(-116) 2020/06/09(Tue) 00時半頃
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"大学へは、奨学金で通います。 父や母へ直接恩を返すことは出来ませんが、いつか他の誰かを救うことでその代わりにしたいです。"
『この歳でそこまで考えてるのか!』 『勉強は大変だろうけど、お前ならきっと出来るよ』
(-118) 2020/06/09(Tue) 00時半頃
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[こんな自分だからと選んだ、志した道だった。 たくさんの人が応援と、後押しをしてくれた]
[――けれど、自分は失敗した。 浪人できる身分でもなかったから、滑り止めの大学に入学して。 真面目に学校には通っていたけれど、どこか空虚な思いは消えないままで]
(-120) 2020/06/09(Tue) 00時半頃
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――何やってるんだよ、俺は……。
[頭を抱える。 自分自身の信念を裏切ったと、なんとなく勘付いてはいるのに、それに向き合おうとすると酷く思考を掻き乱されるのだ。 それでも、その場で足を止めたことにより、後を追う者>>98が追い付く一助にはなるか*]
(103) 2020/06/09(Tue) 00時半頃
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― 森の中 ―
[思ったよりも間近に声が聞こえ>>106、青年はびくりと身を震わす。 何より、その呼び掛けに含まれていたのは]
俺の名前……なんで……。
[無防備にも名を教えた記憶もまた、霧によって奪われ。 何故、と恐れを抱くが、辛うじてその場には留まって]
……どうして。
[穏やかに語る声向けて、震える声は疑問を口にする]
どうして、そこまで……。
(109) 2020/06/09(Tue) 01時頃
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[そろり、視線は下方を向く。 兎の身に走る、三本の紅の線]
それ、痛いんじゃないのか。
[通常の傷とは異なるようだが、それでも兎は、随分と動きにくそうにしていたから]
それなのに、どうしてここまで追い掛けてきたんだ。
[逃げてもいいと、それでもここにいるよう願う声に。 これほどの拒絶を受けながら、何故それほどこちらを気に掛けるのかと、疑問を抱いていた**]
(110) 2020/06/09(Tue) 01時頃
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/* あれ? 何回も同じこと訊いてない? って思ったが。 状況的に傷つきながら追っ掛けて来られたらそう言うだろうしなぁ…。
(-126) 2020/06/09(Tue) 01時頃
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― 森の中 ―
……俺が、自分で?
[兎の言葉>>115にやはり心当たりはないけれど、何故だか相手が嘘を言っているとは思わなかった。 傷は確かに痛むと、しかし文句も言わず引き下がる様子もない兎を、気付けば真正面に向き直って見下ろしている]
呪、だって……!?
[そうして語られた所以に、背筋に寒いものが走った。 ひとの世で生き辛くなる呪、それが自分をここに至るまで追い込んだのだろうか]
(127) 2020/06/09(Tue) 21時半頃
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…………。
[呪を解くと語る兎を、青年は怒り漲る眼差しで見下ろしていた。 自身に付き纏う不幸の原因なのだと、誰に向けることもなかった恨み言の矛先なのだと、沸き立つ感情は告げていた]
[しかし――傷つき震えながら、なおも穏やかに語り掛ける声>>116に。 青年は困惑と共に動きを止める。 一瞬の、何かが込み上げるような感覚と同時、抱いていた怒りは変質して]
――ひととしての幸いって、なんだよ……。
(128) 2020/06/09(Tue) 21時半頃
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俺にとっての幸せを、勝手に決めつけるな!
[気付けばそう、叫び声を上げていた。 口に出して初めて、それがずっと言いたかったことなのだと気付いた]
[けれどそれは――"誰"に対してなのだろう?]
ひととしてどうかなんて関係ない、俺が望んだかどうか、だろ!?
[腹の底から叫んで、慣れぬ大声に疲れたようにそのまま膝を着く。 それは自然、金の兎へ顔を近付ける体勢となり]
(129) 2020/06/09(Tue) 21時半頃
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そんな風に。 傷ついて苦しんでる姿なんて、見たくない。
[そう、零れた言葉は。 眼前の不気味な獣へ向けてなのか、それとも――*]
(130) 2020/06/09(Tue) 21時半頃
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誰かが傷つくくらいなら、自分が失われる方がいい。
[決して言葉には表さぬまま、密やかに抱え続けていた思い]
それなのに。
――どうして目の前の"あれ"は傷ついている?
[自身の思いと、現状との矛盾。 それが霧に囚われた青年の、内面を揺らがせている*]
(-153) 2020/06/09(Tue) 22時頃
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― 森の中 ―
[ひとの世の理の語が聞こえていたなら、自分はそれから外れてしまった存在だと答えていただろう。 それは単なる童心的な思い込みだったのかもしれないけれど]
[いずれにしろ、思いの丈は叫ばれた後で。 呆然と、こちらを見上げる兎>>140と見詰め合う形となる]
(145) 2020/06/09(Tue) 23時頃
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[自嘲する兎>>141の内面は、まだこちらの知らぬもの。 こちらへ語り掛ける声に、硬い動きではあるが唇の端を持ち上げて]
恨みをぶつけたところで、これまでに起こったことが変わるわけじゃないだろ? それならさ……。 傷ついた相手に酷いこと言って、すっきりする自分の方が嫌だよ。
[恐ろしい獣と対峙して以来ずっと、自身を踏みとどまらせてきた、"傷ついたものを放ってはおけない"という信念。 恨みに煮えたぎる思いがあっても、それを踏み越えるのだけは許せない自分がいた]
(146) 2020/06/09(Tue) 23時頃
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[だから、今。 前脚上げる兎へ、その動きを受け入れるように手を伸ばす。 どうなってもいいという諦めではなく、何かを変えたいという願いと共に*]
(147) 2020/06/09(Tue) 23時頃
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[ずっとそれを、願っていたはずなのだ]
[今の律には、ただ頷くことしか出来ないけれど――*]
(-161) 2020/06/09(Tue) 23時頃
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― 森の中 ―
[耳揺らす金色>>148にひとつ、頷いて。 小さな兎の手と、自らの手を触れ合わす]
[たちまち、舞い散るのは金色の光。 非現実的な光景であるのに恐ろしくはなく、むしろ素直に美しいと感じていた。 そして光に包まれた兎は、その姿を変じて>>149]
……えっ!?
[眼前に現れる、和装に身を包んだ少女の姿。 それは態勢を崩して、こちらへ倒れ込む形となり]
(160) 2020/06/10(Wed) 00時頃
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わ……!
[反射的にその身を受け止める。 胴へ縋り付く形となった彼女の、背中側へ手を回したから、それはどこか抱き留めるような姿勢となって。 どぎまぎしたのも一瞬、両腕に軽く力を籠め、彼女の身をしっかりと支えた]
きみ、は……。
[記憶を乱す黒い霧。 しかし少女の存在を腕の中に確かに感じた時、するりと封じられていた名が、唇から滑り出した]
兎……姫……?
[顔を確かめようと、少女に足を着かせつつ、自身は下方を見る*]
(161) 2020/06/10(Wed) 00時頃
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― 森の中 ―
[腕の中から聞こえた声>>163。 思い出したか、と言われ頷くも、直後に身を硬くする]
ご、ごめん……俺…… きみに、すごく酷いことを……。
[手がかかる、の一言の内に含まれるあれこれが、怒涛のように頭の中へ流れ込んでくる。 嫌われ、見捨てられても仕方ないような態度も取ったのに。 彼女はただ安堵して、泣き笑いのような表情でこちらを見ていて]
(167) 2020/06/10(Wed) 00時半頃
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――というか、怪我っ! やっぱり痛かったんだろ、あれ!
[正確には霧の異変に応じたものとは、こちらの理解の及ばぬこと。 兎の姿の彼女が、苦しみながらもこちらを追い掛けてくれたことを、統合されつつある記憶の中で思い出す]
今は、平気……なのか?
[今の姿では見えぬ傷のことを案じる。 さすがに服の内を探るようなことは出来なかった*]
(168) 2020/06/10(Wed) 00時半頃
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