275 歳末幻想2020
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─大厨房─
[ 一尾の小海老が入ってきてじきに、 元よりてんやわんやだったそこは、 殊更に賑やかになった。
山の幸を、もっと山の幸を!
たけのこ、たらの芽、うど、ぜんまい。 行者にんにく、ふきのとう。 赤、青こごみにこしあぶら。 次々衣の木椀を潜って、 油の中に飛び込んで。 からりと揚がった狐色、 天ぷらの山、おかわりに次ぐおかわり!
小海老もまた飛び込もうとするも 真っ黒い肌の料理人の持つ 長い指先に摘み出されてしまう。 ぽぉい。]
(32) 2019/12/31(Tue) 00時頃
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[ 大きな大きなヤマノイモ。 それを突っ込むは巨大なすり鉢。 ごり、ごり、ぞり、ぞり、鉢が鳴く。 やがて底には綺麗な雛色がとろりと溜まる。 炊き立ての白いご飯の上に、 おたまでしゃくったそれを掛ければ、 神すら唸る、とろろご飯!
小海老もその鉢に飛び込もうとするのだけれど、 芋に蹴り飛ばされてふっ飛んでしまう。 ひゅうん。]
(33) 2019/12/31(Tue) 00時頃
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[ 茸鍋にも居場所はなく、 茶碗蒸しにも潜り込めず。 炊き込みご飯にももう遅い。
ああ、困った! 竜神様にどう食べて頂けば!!
「料理されて来るがよい」>>1と。 命じられた小海老は困った様子で、おろおろと。 仕方なく、一枚の紫蘇の葉を拝借しますと それで肩を抱くように身を包むのでした。]*
(34) 2019/12/31(Tue) 00時頃
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─戦の神の座敷─
[ 戦の神が武装を解く>>9と共に、 小海老の塔がぱらりと崩れた。 兜、手甲、神剣、胴、鎖帷子、脚甲。 脱ぎ散らかされたそれにわぁっと群がれば、 みなみな揃って、もとより曲がった腰を折り 頭を下げてからそれを運び出そう…としたが。
数匹が出て見下ろすに、 下方の廊下は酒や料理で大混雑。 口に入る物を運ぶ列に、 武具の列が混じりてはならぬ。 斯様な無礼、大海老に知れれば 剥かれてすり身にされてしまうとも! ]
(36) 2019/12/31(Tue) 01時半頃
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[ 長物を求めた戦の神>>10に、 Щ組の頭は手慣れた様子で 湯かき棒───(戦之神殿専用、と刻まれたそれ)を 差し出しますと、もう一礼。 部屋の隅、邪魔にならぬ位置の畳上に紙を敷き そこへ甲冑一式を並べて手入れを始める。 最後の仕上げに湯に潜らせるのは 廊下が空いてからにしましょうと。]
(37) 2019/12/31(Tue) 01時半頃
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[ 銀色がその隅々に溜め込んだ、 1年分の穢れも苔も ツマツマトントン、ツマツマトントン。 透いた色した無数の海老の、柔らかく細い数多の脚が。 叩いて、撫でて、つまんで、削いで。 ツマツマ、トントン、ツマツマ、トントン。 組み行った機構の隅々まで、 頭をもぐらせ、尾を振りふり、 ツマツマ、トントン、ツマツマ、トントン。
表面に新たな傷を生まぬよう、 丁寧に、丁寧に、丁寧に。 けれどもそのうちの数匹は、 楽の神の生むリズム>>6に釣られて、 ツマツマツマリのトントコトン。]
(38) 2019/12/31(Tue) 01時半頃
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─ボイラ室─
[ 湯殿へ美酒を注ぎ給へ!>>13
厨房とは別の香りを放つ、濃い煙の漂うそこに 海老から伝達を受けた従業人の指示が通る。 戸惑う者は1人も居ない。 神は得てして酒を好むものなのだから。
数匹の稚海老が協力して、 梃のからくり仕掛けを押し込めば がこん、かたん、がりがりがりがり ぱたたたた たん ことん こととん。 樋が、配管が、次々と組み変わる。 ごとん、ごととん、とん、ととん。 漏れた湯水を数滴、床に溢しながら、 従業員の見上げる先で、湯の道筋を変えてゆく。]
(40) 2019/12/31(Tue) 02時頃
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[ じゃりじゃりじゃりじゃり。 湯気の中、鎖が大きな重みをぶら下げながら ゆっくりと、ゆっくりと降下する音が響く。 遥か上方から見えてきたのは、酒で満ちた薦樽。 神々が地上に与えた恵みが作り出し、 民草が収穫し、湯屋の者どもが仕込んだ とびきりの美酒。
イヨーッ と、誰かが叫んだ。 声の無い稚海老達は、その合図に合わせて 一斉に触角を立て、一瞬の静寂。 ]
(41) 2019/12/31(Tue) 02時頃
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[ こぉん。 斧が軽やかに、叩き込まれる音。 ど、と亀裂から吹き出した酒を、 巨大な漏斗が受け止める。 渦巻きながら集められる輝きは、 銅の鍋で燗付けられ、温まり、流れていく。 (もし更に注文があれば、この鍋に 骨や鰭なども放り込まれることであろう)
むぁ、と酒気に満ちたボイラ室。 何尾かの海老が真っ赤になってぶっ倒れたが、 運び出だされれば、従業員としての命が続く。 酒蒸しになって流れていけば、 神の供物としてその身を捧げることであろう。]
(42) 2019/12/31(Tue) 02時頃
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[ 何にせよ、やがてかの神のおはす薬湯は、 薬湯が抜かれ、じきにこの酒で満たされ、 百薬の長の湯となるだろう。
無論、酒湯に飽きて上がろうとも。 酒宴>>16に出される酒はまた別の酒。 きりりと冷えた晶酒>>0:24は、 温まった身体には心地よく響く、はずだ。 ]*
(43) 2019/12/31(Tue) 02時頃
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[ 忙しなく行き交う駒の数々を見つめながら。 張鐘は新たな駒を取り出すと、つつ、と滑らせる。 こぅん、と盤を叩いたならば、 金魚鉢の中、卵はふつふつと膨れ上がり、 吹き出すは新たな稚海老たち。 ]
さあさ、宴の頃合いだよ。 ゐ組や、御客様方に舞いを捧げなさい。 もし見苦しいと一声飛べば、 それ以上恥を晒さず、膳へ飛びなさい。
いいね?
[ 放り投げられるのは、無数の法被、 それと───華模様の、扇子たち。]**
(45) 2019/12/31(Tue) 02時頃
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[ ごぉん、ごぉん………
どこからともなく響いて来る鐘の音。 ツゥツゥ、トントンと軽やかに滑る>>70一つの駒。]
……まぁ、散らし寿司の具は勘弁してやろうね。
[ 駒に触れた爪先から伝わる賑やかな旋律に、 大海老、張鐘も調子を取るように触覚を揺らす。 ゆら、ゆら、ゆぅらりゆらり。]*
(84) 2019/12/31(Tue) 23時半頃
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