252 Aの落日
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[ 重いものが落ちた音がした。 慌てて窓から身を乗り出す。 下に見えたのは広がっていく赤。 手をのばして、何枚も写真を撮る。 人が集まってくる。 誰かがこちらを見上げた。 判別できるとは思えないが、反射的に身を隠す。
息を詰めていたのだろうか、呼吸が苦しい。 心臓が早鐘を打っている。 彼女がここから落ちたと気づかれる前に、 人がやってくる前に、 万年青は震える足を叱咤して、部室へと急ぐ ]
(0) 2018/10/17(Wed) 00時頃
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[ パソコン前に落ち着くと、部員たちにメールをする。 生徒が落ちた。誰か調べること。 現場写真と、その人の過去の写真を確保すること。 友人やクラスメイト、教師から話を聞くこと。 指示を飛ばして息をついた。
考えることはたくさんある。 どういう記事にしようか。 どんな記事を書いても、自殺か、事故か、……写真を撮っている万年青が見られていれば一緒にいた人に何かされたと思われるか。いろいろな憶測が広がることだろう。 読まれるかわからないが、新聞は大きな情報源になる。 人を手のひらで転がす感覚に口角が上がった** ]
(1) 2018/10/17(Wed) 00時頃
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[ 彼女の最後の笑顔が、目に焼きついて消えない ]
(*0) 2018/10/17(Wed) 00時頃
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/* げーんかーいー。 村建てじゃないことがバレバレのタイミングですまぬすまぬ。
でもやりたいことやれました。全部ぶった切ってきたけど。 とてもたのしい。
(-0) 2018/10/17(Wed) 00時頃
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― 文化祭当日/少女転落後 ―
[ カタカタとキーボードを打つ音が響く。 テンプレを使わない、真っ白な紙面が文字で埋まっていく。 彼女の名前ははっきりとは出さない。A組のA子さん。 落ちたという事実に惑わしの推測を混ぜていく。 せっかくA組なのだから死ぬ教室の怪談の話も少し。 徐々に集まりつつある『オトモダチ』の証言。 それはどこまでが本当に彼女の『友達』なのか。
ノートを見せてくれた。頼みごとを聞いてくれた。 いつもやさしかった。あんなにいい子なのに。 いいように使っていたとしか聞こえない言葉を 心配しているかのように見せかけてつづっていく。 どれも最後はこう結ぶべきなのだろう。 ――どうしてこんなことに、と ]
(67) 2018/10/17(Wed) 11時頃
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[ あとは安住の写真と現場の写真を飾るだけというところまで書ききる。 長いこと集中していたようで、傍らに置いた携帯がメールの着信を知らせているのにも気づいていなかった。
手に取り、確認する。 落ちた少女の名前、知っていると心の中でつぶやく。 続いたメール>>65に口の端を上げる。
確かに届いたのだろう、祈りの力は想像以上の効果があった ]
(68) 2018/10/17(Wed) 11時頃
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[ 望んでいた以上に、面白いことになりそうだ ]
(*1) 2018/10/17(Wed) 11時頃
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────────────── To 黒江 仄日 From 万年青 常彦 ──────────────
種は芽吹いたのか?
──────────────
(69) 2018/10/17(Wed) 11時半頃
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[ それだけを送る。
追加のコーヒーがほしいなと思いながら、 出来上がった記事を推敲し始める。 明日の朝には、浮かれた文化祭の新聞の横に はり出されていることだろう* ]
(70) 2018/10/17(Wed) 11時半頃
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[ 万年青は知らない。 彼女がどんな子なのか。 どうして飛び降りたのか。 どうして、あんなきれいな笑顔を見せたのか。
人から聞いた断片をつなぎ合わせても、 つぎはぎの人物像は、熱を持たない ]
(*2) 2018/10/17(Wed) 11時半頃
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/*
安住さんは自殺って決めて動いているけど、 事故も万年青による殺人もありえるように見えてるかな。 見えてたらいいな。
(-6) 2018/10/17(Wed) 11時半頃
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― 朝:掲示板前 ―
[ 朝早く登校し、作成した新聞を掲示板にはる。 見ればわかる程度にぼかした安住の写真、 見れば思い当たる程度にぼかした現場の写真。 それらを飾る見出しと、嘆きの声たち。
いたましいことが起きたという先生は、自分の身を案じているかもしれない。 優しい子なのにと嘆く女子生徒は雑用を押し付けられないことを嘆いているかもしれない。 そんな風には見えなかったという男子生徒は、彼女を気にも留めていなかったかもしれない。
どこまでが本当で、どこまでが思い込みで、どこまでが嘘か。 虚飾に彩られた記事を満足げに眺めて、万年青はその場をあとにする* ]
(149) 2018/10/17(Wed) 22時半頃
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― 新聞部室 ―
[ 全校集会はつまらないものだった。 ありきたりの注意と、無駄に沈痛な空気。 よかったのは授業がなくなったことくらいだろうか。
教室から荷物を取ってきて新聞部室にこもっている。
次はどういう記事にしよう。 もう少し彼女の中身に踏み込むべきだろうか。 誰なら詳しいのか。
部員が集めてきた情報では誰か一人と深く仲が良かった様子はうかがえない。 隣のクラスのやつらに片っ端から聞いて回るか ]
(156) 2018/10/17(Wed) 22時半頃
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[ 安住からろくに何も聞きだせてないくせに? ]
(*3) 2018/10/17(Wed) 22時半頃
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[ 自分の取材の下手さはすでに昨日痛感している。 あそこでもっと安住から言葉を引き出せれば。
……もっと面白いことができたかもしれないのに。
息をついて、彼女の言葉を書きとめた 測量野帳をめくった* ]
(159) 2018/10/17(Wed) 22時半頃
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[ 万年青は考える。
彼女はどうしてあの時間あそこにいたのか。 どこへ行くつもりだったのか。 もともと飛び降りるつもりだったのか。 決心したのはインタビューのせいなのか。 あの窓から落ちたのは故意なのか、偶然か。 もっと上まで行くつもりだったのか。 窓が開いていなければ彼女は落ちなかったのか。
あの時声をかければ。 シャッター音が響かなければ。 彼女は、空へ飛び立たなかったのだろうか ]
(*4) 2018/10/17(Wed) 23時半頃
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[ 思考を巡らせるたびに、 彼女が思い切ったことに 自分が関わっていて欲しいと、 彼女を動かしたのは自分でいたいと、
願うように思考が巡る ]
(*5) 2018/10/17(Wed) 23時半頃
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[ そんなに人を動かす主になりたいのか。
……浅ましい ]
(*6) 2018/10/17(Wed) 23時半頃
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/* 赤の文章考えてたら表の分書く時間を取れなかった。 犬に話しかけに行くろるもー用意― 引きこもってると犬に会えない(会う必要ないけど
(-27) 2018/10/17(Wed) 23時半頃
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― 現在/新聞部室 ―
[ 昨日のインタビューをパソコンに打ち込み始めていたところ、携帯がメールの着信を知らせる。>>201 仄日が見たということはそれなりに人目を引くくらいは読んでくれている人がいたのだろう。
噂話やゴシップや自分に関係がない悲劇は 甘い甘い蜜のようなもの。 新聞を見た人から話が広がって、 その波が全校に広がるのなんて きっとそんなに時間はかからない ]
(259) 2018/10/18(Thu) 12時半頃
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────────────── To 黒江 仄日 From 万年青 常彦 ──────────────
芽吹いた種に水はやれたかな。
写真は昨日の内に。 優秀な部員のおかげ。
──────────────
(260) 2018/10/18(Thu) 12時半頃
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────────────── To 黒江 仄日 From 万年青 常彦 ──────────────
お前の目に 安住英子はどう見えていた?
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(261) 2018/10/18(Thu) 12時半頃
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[ 答えが返ってきても記事には使えないだろうが、つい聞いてしまったのは浮かれていたからかもしれない。
窓から外を見ればどこから紛れ込んだのかわからない犬が悠々と歩いていた** ]
(262) 2018/10/18(Thu) 12時半頃
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[ その犬は浮き足立っている校内をどう思っているのか、 悠然としているということは居心地がいいのかもしれない ]
……安住、死んでくれないかな。 その方がもっと面白くなると思わないか?
[ 立ち止まって校舎を見上げる犬に語りかけるように万年青はそう口にする。 本当に、浮かれているらしい* ]
(-40) 2018/10/18(Thu) 12時半頃
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― 現在/落下地点付近 ―
[ 部室でしばらく次の記事を書いていたが どうしてもカフェインがほしくなり、 自販機で買ったのがついさっき。 記事を見た反応が漏れ聞こえないか窺いつつ 歩いていたら、落下地点のそばに来ていた。
見上げれば彼女の落ちた窓から ふざけて身を乗り出す生徒がいる。
……落ちてしまえばいい。 言葉を買ったばかりのコーヒーと一緒に飲み込む ]
(279) 2018/10/18(Thu) 21時頃
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[ 最初は嘆きと同情に溢れていた囁きも 次第に変化していっている。
いわく、不良と付き合いがあった。 バイクに乗せてもらって遊び歩いているから 何かに巻き込まれたんだ。 いわく、下級生のストーカーがいた。 悩んでいたようだから思い余ったのかもしれない。 いわく、中学の部活で問題があった。 ずっと恨んでいたらしい。
――だから、自業自得なんだ ]
(280) 2018/10/18(Thu) 21時頃
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[ 優しくていい子が事故や事件に巻き込まれては 同じように波風立てずに過ごしている自分たちも いつ同じように巻き込まれるかわからない。
そんな風に思うから、 被害者を悪くして自分と関係ない位置に置こうとする。 そうされて当然なのだと思い込もうとする。
なんて、バカらしい ]
(281) 2018/10/18(Thu) 21時頃
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[ ふざけている生徒たちを、落下現場を、 少し離れたところから眺めて 携帯で撮影をする。
シャッター音がやけに響いた* ]
(282) 2018/10/18(Thu) 21時頃
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[ 彼女が落ちた、合図のように ]
(*7) 2018/10/18(Thu) 21時頃
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[ 身を乗り出す安住の後ろ姿の写真を こちらを見て微笑む安住を、 手が離れた瞬間を、 スライドさせるごとに ゆっくりと、落ちていく様子を 万年青は何度も見つめる。 最後はふざけて身を乗り出す生徒たちの写真。 下から見ていたら、こんな様子だったのだろうか。
ぶるりと体が震える。
もっと、こんな様子が見たい ]
(*8) 2018/10/18(Thu) 22時頃
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