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手を振られればすぐさま会釈を返す。若年の頃より染み付いた癖はそう取れるものでなく、他者の屋敷とあれども振舞うさまは従僕のそれである。
となれば、次いで気になってしまうのは、この屋敷に控えるバトラーの無いこと、であった。
異国然とした空間ゆえに、そも文化が異なるのやも知れぬが、さあ好きに過ごせと投げ出すには些か、乱暴すぎやしないだろうか。
めいめいに飲食を楽しんでいる傍ら、給仕もおらぬというのに供された食事は何一つ切らされることはなく、奇怪というほかないが、そこはそれ。
この城までの道を案山子に連れられて歩く羽目になった時点で深く考えるのをやめてしまった。
それでも、端々まで、不足はないか確かめてしまうのはいっそのこと、染み付いた職業病にほかならない。
挨拶があればにこやかに応じながら、長身と佇まいとで威圧を与えぬよう、柔和な笑みを浮かべた裏でひとつだけ。
――なぜ私が仕事着を着ているときに招くのかねと、舌打ちを隠したのは愛嬌としてほしい。
思案する合間も、近場のクロスを整えたりボトルの水滴を拭って向きを揃えたりしてしまうのだから、いやはや、癖とは恐ろしいものである]
(@11) 2020/09/20(Sun) 21時頃