172 ― 恋文 ―
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――とある日のアトリエ――
[ここ最近、毎日遊びに来ていたキツネの姿が、今日は見えません。 野生ですし、こういう事はよくありますが その都度、少しだけ寂しくなります]
[そんな時に届いたのは、淡黄色の封筒と、小さな荷物でした。 封筒のあまりにも精巧な出来に まさか手作りだとは彼は気付きませんでした]
(9) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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[しかし、中の便箋を見て、首を傾げました]
[風花さん、とは、どなたでしょう。 山を少し降りた集落にも、風花さんという人は居ません。 間違い手紙でしょうか。 しかし読み進めていけば、人違いではないと分かりました]
[「ワタヌキ」を絵で表現する試みは、残念ながら失敗したようです]
(10) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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[便箋に、まるで印刷したかと思われるようなかっちりとした文字。 描かれた精巧な直角四角形の謎かけに、彼は考えこみ始めました]
[少し日が傾いてしまいましたが、答えが出ませんでした。 カラスの声に、はっと我に返りました]
(11) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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[思い出し、封筒と共に添えられていた箱を開きます。 目を、見開きました]
[絵が、本物になっていました]
[そういえば、納品した椅子の絵がありました。 幾何学的な椅子の絵は子供向けではありませんが お買い上げいただいたようです。ありがとうございます]
[一筆箋の文字も、まるでコンピュータのような正確さでした]
(12) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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[ミニチュアの椅子を一つ一つ丁寧に取り出します。 そっと持ち上げ、様々な角度から、じっくりと観察しました。 とても精巧なつくりでした。 そして、自らが描いた絵に登場した椅子が、几帳面に再現されていました]
[今日は、キツネが居ません。 自慢相手が居ません。 しかし気を取り直し、彼はまた、ミニチュアの椅子を手に取って 日が沈むまで、眺め続けていました]
(13) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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[夜になりました]
[山の夜は冷え込みます。 窓を開けると、凍えそうな冷気が吹き込みます。 しかしまだ、雪が降る程ではありませんでした]
[風花の季節まで、あと少しです]
(14) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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[「ラブ・レター」へ郵送された封筒から 画用紙が出てきました]
[写実的に描かれた、黒毛の鹿の絵でした。 「くろしか」さんと表現したかったようですが 果たして伝わるでしょうか]
(-8) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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[もう一枚は、絵葉書でした]
[幾何学模様のように、沢山の黒い四角(もちろん正確な直角)で形作られた モノクロの椅子の絵でした]
[そしてその横に、いつものようなふわっとしたカラフルな水彩で 不完全な直角の四角形で描かれた同じ椅子の絵がありました]
[その横は、アクリル絵具で描かれた、黒い四角の椅子の絵でした]
[下段には、クレヨンで描かれた黒い四角の椅子の絵がありました]
[版画で刻まれた黒い四角の椅子の絵がありました]
[ドット絵のように描かれた黒い椅子の絵がありました]
[様々な手法で、同じ椅子を6枚分描いてありました]
(-9) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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[画用紙の裏に、シールが貼られていました。 差出人を示すサインシールです。 「ワタヌキ」と記されたそのロゴは 店に並んでいる作品のタグのロゴと同じものでした]
(-10) 2015/10/21(Wed) 17時半頃
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――ラブ・レター――
[彼がこんな頻度で訪れるのは、とても珍しい事です。 ここ最近、連続して手紙が届きました。 そのせいで、人恋しいのかもしれません]
[今日のおすすめ、を指差して注文してみます。 ここで食事をするのも、久しぶりでした]
[幾つか、絵が売れていました。 椅子の絵と、花畑の絵。 小さな空白に、見慣れないものが、置いてありました]
[大人びたデザインの、レターセットです。 それは、先日自分の元に届いたものと同じでした。 藤色だけではなく、色は幾つか有るようです]
(35) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[掲示板に目を向けると、イラストが貼ってありました。 そこには彼が、メモで絵を描いて貼っていた場所でした]
[絵は無くなり、別の絵が、そこにありました]
[彼は、ふ、と微笑みました]
(36) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[今まではメモしか有りませんでしたが 今ならば、おあつらえ向きの便箋が、ちょうどそこに有ります。 シンプルなデザインだからこそ、絵を描くスペースも広く取れます]
[彼は、レターセットから 秋色を思わせる淡い茶色のものを購入しました]
[プリンを食べ終えると、店長から鉛筆とペンを借ります。 ベージュのレターセットに、淡い絵が広がりました]
(37) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[差出人も宛名も無い封筒が、掲示板のいつもの場所に貼られていました。 ベージュの封筒は、すぐそこで売られているものです]
[便箋には、制服を着た女の子の絵が描かれていました。 制服も、髪型も、元の絵と似せてあるのです]
[秋色の実る森の中を、女の子は微笑みながら進みます。 その女の子の元へ、リスが、キツネが、タヌキが 沢山の木の実を持って集まってくるのです]
[「バイバイ」と別れて、また明日。 「おはよう」と、出会えるように。 それは、特別なことなど何一つない、まるで自然であるかのように]
(-38) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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おはよう! 今日も、よろしくね!
(-37) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[女の子は、とても幸せそうに笑っているのです]
(-40) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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/* イスルギさんの相変わらずのミステリアスというか 裏で何が起きてるんだ感がw
直角、で他の人にも通じる感じ、すごいよなあ
(-39) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[作曲家、募集]
[そんな張紙の横に、貼り付けられた薄茶色の封筒が有りました]
(-41) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[中の便箋には、バンド演奏をしている動物達の絵が入っていました]
[マイクを握り、歌う兎]
[ギターを弾き鳴らす猫]
[ベースの狐]
[キーボードの犬]
[ドラムのリス]
[ファン達は、秋色に染まった森の木々と 降り注ぐ紅葉です]
[封筒には差出人も宛名も有りませんが 側の販売中の絵を見れば、同じ作者だと分かるでしょうか]
(-42) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[掲示板に貼られた、文通募集のシンプルな一文。 その横に、この店で売られている薄茶色の封筒が貼られていました]
[宛名も差出人も、文字すらも全く無い手紙]
[その中には、絵が描かれた便箋が入っていました]
(-44) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[秋の、運動会の絵でした]
[少し目つきの悪い犬が、鉢巻をして走っています。 そして、一番にゴールテープを切っている絵でした]
[応援する周りの動物達。 後ろから悔しげに追いかけてくる他のランナーの犬や兎達]
[秋晴れの中、「一」番になった犬は、きっと]
(-45) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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おめでとう! すごいね!
すごいね!
やったね!
(-43) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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[この店で売られている絵が有ります。 その絵を目にすれば、同じ作者が描いたものとわかるでしょう]
(-47) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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/* 全員に 送ったぞ!!!!!! 目標達成!
(-46) 2015/10/22(Thu) 00時半頃
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/* 高3だったのか… おう受験生設定
受かったら店長にお祝いしてもらうといい
(-50) 2015/10/22(Thu) 01時半頃
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――ある日のアトリエ――
[壁際に椅子のミニチュアが並び、秋の陽射しを浴びています。 椅子が入っていた箱の中や椅子の上に カードや便箋が載っています]
[一人だけのアトリエですが どこか明るくなったような気がします]
[庭の外まで来ていたキツネが 郵便屋のエンジン音を聞いて逃げ出しました]
[それは、馴染みの手紙でした]
(43) 2015/10/22(Thu) 01時半頃
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[病院に送る絵葉書には、いつも丁寧な返事が返ってきます。 「いつも娘の為に、ありがとうございます」 その手紙だけでも、少なくともあの時の小さな女の子はまだ生きているのだと 彼は信じる事ができました]
[いつも通りの、几帳面な字。 中に入った、便箋を取り出して]
[彼は、泣き崩れました]
(44) 2015/10/22(Thu) 01時半頃
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[幼くて弱々しかったあの女の子は 今もまだ、しっかりと生きているのです。 そして、しっかりと声を伝えてくれたのです]
[平仮名ばかりの幼い文字。 後半になればなるほど、崩れて読めなくなっていきます。 それでも、彼は、何度も何度も、その文面を目で追いました]
(45) 2015/10/22(Thu) 01時半頃
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[窓に並べられた、椅子のミニチュア。 その上に、また、載せられる手紙が増えました]
(46) 2015/10/22(Thu) 02時頃
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[今回の手紙は、絵葉書ではなく、秋を感じる薄茶色の封筒でした。 その中には、山で拾った美しい紅葉の葉が一枚]
[そして、ハガキよりも少し大きな画用紙の絵でした]
[描かれたのは、少女の物語です]
[前よりも大きくなった少女が、秋の森を歩いています。 その横をキツネが歩きます]
[今までの絵よりも、少しだけ、色合いがはっきりしている世界を]
[水彩絵具に色鉛筆が混じり、より線が濃くなった世界を]
(-52) 2015/10/22(Thu) 02時頃
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[山の秋は、とても綺麗です。 彼女もいつか、そんな風景を見ることが出来るでしょうか]
[山の香りは、彼女の元に届くでしょうか]
(-53) 2015/10/22(Thu) 02時頃
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