160 東京村
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で、来たはいいけど……。どうすれば、いいんだろう。
[路地はここで行き止まりだが、反対の方に進めば、問題なく表に出ることはできる。しかしそうしたところで、結局、何も変わらない。日常が壊れたまま、私はあの、正しくない生活を続ける]
どうすればよかったのかな……。
[動かない彼の横に、智恵美は座り込んだ。膝を抱えて、そこに顔を押し当てた。場違いの薄着で既に凍えていたが、冬の地面から来る冷たさは、すぐに芯まで浸透してゆく。お尻が痛かった]
……。
[彼氏の、開いたままになっている手に、手を重ねる。血と共に体温は流れ出て、ただ、夜の冷たさだった。自らの熱も同様に、触れているところから流出していくような気がする]
そうだ。好きだったんだよなあ。
[目を閉じる。凍えた身体に、感覚がなくなっていく。もう、止め処ない違和感の中で生きていくのは嫌だった。何をしても違う、どこにいてもそうじゃないと、自分の中のエラーサインを切ることができないままの日々]
(41) 37m0 2015/06/13(Sat) 11時半頃
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ああ、このままでいたら、私――。
[意識が失せていく――喪失感に、踏みとどまることなく身をさらわせようとしたその瞬間、スマホが振動する。少しの逡巡ののち、智恵美はスマホを取り出して、それを見る。相変わらずの圏外だったが、それは、マユミが成功を告げるメッセージだった]
[一緒に過ごした時間は短い。もう二度と会うことも、ないかもしれない。けれど]
[おめでとう、くらいは送りたいな]
[智恵美はそう思って、のそのそと立ち上がる。冷え切った身体が軋んだ。脚がしびれて棒のようだった。どうすればいいか、なんて決まっていなかった]
[しかしそれでも路地を出た。 真っ直ぐ進んで、池袋の北口の方面の路地――ラブホ街のすぐ近くに出る。 スマホを見ると、通信機能が元に戻っていた。智恵美はマユミに、]
おめでとう! 私も『リーク』に行けました! 今から帰って寝ます。 [というメッセージと、ナイトキャップをかぶったリスが、枕を引きずって歩いているスタンプを送る]
(42) 37m0 2015/06/13(Sat) 11時半頃
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[振り返れば、そこに路地はない。 冷えた体は、本来の空気の温度で、緩やかに戻ろうとする。雨上がりの地面に座り込んで、濡れたスカートは、気持ち悪くお尻に張り付いてくるのが恥ずかしい]
まあ……いいか。
[と、智恵美は思った。どうしようもないことはある。でも、]
――死んだらさ、ダメだよね。死んだらさ。
[エリの言葉を思い出し、口にする]
帰ろっと。
[タクシーを使っても良かったけれど、なんとなく、歩きたい気分だった。『リーク』に到達したことで、何か変わったわけでもないようだった。あの時に戻ることはできても、何もできなかったし、特別の何かに出会うこともなかった]
[あの死体は永遠と、あの時のまま、あそこに残されるかもしれない]
[でもまあ、いいか、と智恵美は思った**]
(43) 37m0 2015/06/13(Sat) 11時半頃
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―エピローグ 2016年・夏―
[三省堂書店・東京駅一番街店。 夏にあわせた怪談本をまとめた特設コーナーの隅で 石動太郎はその本を手に取った。
表紙は、黒地に割れた林檎が大きく配置された写真。 林檎を中心に散る砕けた鏡がきらめき 歪ではあるが東京の路線図の複雑さを描いている。
記された“結末のない”いくつかの怪奇譚たちは、 筆者の名が記されない本の異様さも合わさってか それなりに話題になっているようだ。 売れ行きも好調らしい。
頁を捲りながら引き結んだ唇裏をもごもご噛む石動の隣で 女子高生の二人組がその本を買い求めていく。]
(44) onecat69 2015/06/14(Sun) 20時半頃
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――続きは、そのうち誰かが書いてくれるやろ。 まだまだ、なんも終わってへんからな。
[楽しげにレジに向かう女子高生たちの背を ……正確には揺れるスカートの裾を眺めて、 胸元から万年筆を取り出しながら独りごちた。
そろそろ出発する時間が差し迫っている。
表紙裏に“印”を書き付けた本を山の一番上に戻し 石動は表紙に掲げたタイトルを指先で撫でた。
『東京村』の文字を。**]
(45) onecat69 2015/06/14(Sun) 20時半頃
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―都市伝説『東京村』―
[初版のみの流通でブームが去った著者名の無い怪談本は、 後にひとつの都市伝説となる。
“結末のない”いくつかの怪奇譚の端々には “結末をみる”ためのヒントが隠されている。
表紙に散らばる鏡の破片の中に、 かつて消えた少女の面影が見える。
表紙の林檎は作中多く描写されているiPhoneの暗喩で Siriに“ある言葉”を問いかけると答えが見える。 キーワードは【アイリス】ではないか。 あるいは【またきてさんかく】ではないか。]
(46) onecat69 2015/06/14(Sun) 20時半頃
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[表紙裏に手書きのメモが入っている本が数冊ある。 そのメモは【1054834・・・】という数字の羅列。 公衆電話からその番号に発信すると 関西訛りの男が出る。
ほかにも、様々。
――……そんな噂話を信じるものの中から、 次の『東京村』を描く者がきっと現れると 僕は信じて、待っている。**]
(47) onecat69 2015/06/14(Sun) 20時半頃
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[―――目を覚ました先は、白い天井に 消毒液の匂いに溢れていた。]
(48) bou 2015/06/14(Sun) 22時半頃
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[腕、足、肋骨、その他諸々の骨折、打撲。 頭は強く打っており、出血も少なくはなかった。 運ばれるのが少しでも遅ければ危なかったという。
…いや、むしろ遅かった筈。 「死んでいた」筈だった。
青年が階段から落ちた日と、 運び込まれたという日は二日のずれがあった。
二日、あの状態で放置されていた筈なのに。 命を落としかねた「異常」達に 不思議と救われた、という事なのだろうか。
ともあれ奇跡か、はたまた異常を起こした青年に 医師が下した診断は「三ヶ月以上の入院」であった。]
(49) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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[暇を持て余すように本を読む青年は、 病室のベッドの上、包帯だらけの痛々しい姿をしている。]
『散々な旅行になっちゃった』
『別にいいって言っただろ… 好きに遊びに行けって』
[大阪とかいいんじゃないか。知らないけど。 いつか来た客の故郷を上げて興味も薄そうに言う青年に、 見舞いに来た妹は実に不満そうな顔で、 布団の上に新品の携帯を投げて寄越す。]
(50) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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[持っていた携帯は、ここで目を覚ました時には 失くしてしまっていた。 新しい携帯を用意しなくてはいけなくなった この際に、電話番号は変更する事に決めた。
あの番号を使い続ければ、 次は妹が危ない目に会うかもしれない。 バイト先には警察も来ていると聞いた。
これ以上リスクを抱えて 「異常」を垣間見て遊ぶのは危険だろう。 今でさえ「行き過ぎた好奇心」の代償は高くついている。 しばらくは大人しく暮らすしかなさそうだ。
…もっとも、逃げる事さえ満足に出来ない、 大人しく暮らすしかできない身体ではあったが。]
(51) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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[暇つぶしに、と妹がコンビニで 買ってきた本に目を落とす。
「本当に怖い怪談・都市伝説」などと怪しげに書かれたタイトルと血しぶきの舞ったデザインの表紙。 大怪我した入院患者に贈るには随分な品に思えて、 青年は妹の心情を察した。これはきっと怒っている。
中をめくれば、 ドッペルゲンガーだの鏡の国だのメリーさんだの 信用の薄い噂話が軒を連ねていた。
その内のドッペルゲンガーのページに目が留まる。 医学的には自己像幻視。本人が見たもうひとりの自分の姿は、ある程度説明出来得るものらしい。
…やはりあの時、階段に居た自分は、 追い詰められていたが故の幻覚だったのだろう。]
(52) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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『私のせい?』
[雑誌を読みふける青年に、ふと声がかかる。 かけられた妹の声はいつもより曇っていた。 視線が雑誌から妹へと向けられる]
(53) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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『留学したいって言ったのも、 帰ってこないのも 私がいるから?』
[妹へと向いた青年の顔は、 驚いたように細い目を瞬きさせて]
(54) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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『………びっくりした』
(55) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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『お前、結構自意識過剰だな』 『もう一回落ちろ、バカ兄貴』
(56) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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『揚花、』
[見舞いを終えて帰ろうとする妹に 青年は静かに声をかけた]
『近々、一回帰ろうかな』
(57) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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[青年の言葉に、 今度は妹が目を丸くした。]
『…そっちは暇だ、こっちは忙しいとか 今までいろいろ文句言ってたじゃない。』
『たまには、死ぬほど暇なのも 味わっとこうかなって。』
『現状が一番暇じゃないの?』
『あー… や、まあ 再確認も重要だと思ったから』
[病室を後にする妹を送ろうと青年は車椅子に乗る。 ぼろぼろ。カッコ悪い。などと妹に笑われながら、 壁にかかった鏡を過ぎて、青年たちは病室を後にする。]
(58) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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[――ベッドの上に放られた雑誌は、 ある一ページを開いている。]
(59) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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【 〜都市伝説『鏡の国』〜
自分の名前を刻みつけた鏡を使って合わせ鏡を作り、 覗き続けて、鏡の中の自分がもしも勝手に動いたら、すぐに片方の鏡を伏せる。
伏せた方の鏡を誰かに渡した後、次に別の鏡を見ると、自分ではなく渡した人間が見える。 この際鏡に映るのは、渡した人間の真実だといわれている。 鏡の国に行ったもうひとりの自分が、鏡を渡した対象を連れてくるのだという。】
(60) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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[……鏡の国に行ったもう一人の自分は、 意思を持っている、という事だろうか]
(61) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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[……病室にかけられた鏡の中。 そこを通り過ぎた筈の青年の姿が映る。
鏡の中の青年が、自分のポケットを探るように動いた。
取り出されたのは、あの日失くしたはずの携帯電話。 それを鏡の中の青年はゴミ箱の中へ投げ入れた後。
また、鏡のように青年の後を追って動き出した]
(62) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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[…それを、青年本人が気付くことは無い。
青年は「贈り物」を手放してしまったのだから **]
(63) bou 2015/06/14(Sun) 23時頃
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『絵里』
[久し振りに、わたしを呼ぶ声がした。パパの声だ。 怒った声色じゃなくて、静かなやさしさを湛えたその声は、"あの日"から時々わたしを呼ぶ。 おなかすいたな、とふいによぎる。部屋を出たら何か食べに行こうってねだろうかな。 部屋の扉が開けられた。]
(64) mmsk 2015/06/15(Mon) 00時半頃
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っ……、
[少し暗い部屋にいたから突然の光が眩しくて、蹲る。 ちょっと引きこもりすぎたかもしれない。]
『絵里』 『ママに会いに行くぞ』
[パパの口をついたのは、予想外の言葉だった。 あれだけ喧嘩をしていたのに。あれだけ罵り合ってたのに。 わたしはどんな顔をしていたろう。目の前が真っ白でわたしを見ているはずのパパの顔すら見られない。]
(65) mmsk 2015/06/15(Mon) 00時半頃
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[どういう風の吹き回しか、想像もつかなかったけれど。 これが本当に最後の、別れを突きつけるための顔合わせだとしても、わたしがもう一度ママに会えることには変わりない。 うまく物は見えないのに、ママの顔なら鮮明に見える気がする。どこにいるかまで、よくよく見える気がする。]
じゃあ、早く行こうよ。
[あまり喜んだらパパは嫌な顔をするかもしれないと思って、出来るだけ冷静に、パパを促す。 行こう。行こう。早く。 袖を引きたい気持ちを、ぐっとこらえた。]
(66) mmsk 2015/06/15(Mon) 00時半頃
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[ママに会ったらはじめはなんて言おう。"何か食べたい"かな。"顔をよく見せて"かな。"抱きしめて"なんていうのも、恥ずかしいけど、悪くない。 それから、それから、どうしよう。"一緒に住みたい"なんて、だめかなあ。
わたしはいてもたってもいられなくて、我先に家を飛び出した**]
(67) mmsk 2015/06/15(Mon) 00時半頃
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[誰もいない『たまらん屋』。 堀川は常のように、カウンター内でスマートフォンをいじっている。 薄曇りの鈍い光。けぶる湯気。無音。客はいない。
そこに、女性が一人入ってくる。 僅かの逆光。堀川より前に、女性が口を開く。]
『素直』
[その声に、姿に、言葉を失う堀川。 その首元には、堀川と揃いの『たまらん屋』の赤い手ぬぐいが巻かれている。女性の手が、それに触れる。 どことなく愛おしげに、困ったように。女性が微笑む。 眉根を寄せ、目を細め、今にも泣き出しそうに顔を歪めて。
そうして、赤い手ぬぐいが。 するり、と音も無く首元から引き抜かれた。
彼女の首が大きく傾ぐ、]
(68) nekochan 2015/06/15(Mon) 02時頃
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――ッッ。
[堀川は目を見開く。 青暗い室内。ブラインドから僅かに白い光が射している。 夜は明けきっていないようだった。しかし堀川はいても立ってもおれず、半身を起こし、震える手で枕元のスマートフォンを掴み取った。4時45分。LINEを立ち上げる。彼女とのメッセージ画面。既読は相変らずついていない。 浅く細い呼吸を三回する間だけわずかにためらい、しかし夜明け前にも関わらず、電話をかける。コール音。鳴り続ける。鳴り続ける……、
やがて堀川は重たく鳴る心臓を沈めるように深く息を吐き出しながら、耳元からスマートフォンを下し、呼び出しを中断した。 そうして再びベッドに仰向けに倒れ込む。 目を閉じる。首元に手を伸ばす。 なんだかとても息苦しいような気がして(無論、首には何も巻いていない――)、顎を上げて首元をさすった。 そうしているうちに、やがて堀川は重たい眠りに引き戻されていった。
鏡を見ない堀川は気づかなかった。 その首元を巻くように、ぐるりと赤い痣が浮かび上がっていることに。]
(69) nekochan 2015/06/15(Mon) 02時頃
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――のニュースです ―日未明、東京都豊島区のアパートの部屋で 部屋に住む会社員の津村華美さん31歳が 首を吊った状態の遺体で発見されました 一週間以上連絡が取れないと津村さん家族から通報を受け 警察が部屋を訪ねたところ 津村さんはドアノブに手ぬぐいをかけた状態で死亡しており 死後一週間以上が経過している事から 警察では自殺と見て――
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(70) nekochan 2015/06/15(Mon) 02時頃
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