45 哀染桜 〜届かなかったこの想い〜
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[指先のぬくもりは、それより少しだけ冷たい夜の風に簡単に溶けて消えてしまった。 繋がっていた手を、握る、開く。そこにはもう、誰もいない。]
……いかなきゃ。
[約束だ。 僕が伝える。桜はもう、僕たちをここから逃さない。 重く感じる足に鞭打って、皆の方へ歩き出した。]
(8) 2012/03/16(Fri) 00時半頃
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そっか。 じゃあ、同じ、ね。
[なんでもない、というマコに微笑んで。 その弾みで涙が零れる。
彼と家族になりたかった。 ――家族のようだと勝手に勘違いしていた。
彼の特別な存在になりたかった。。 ――所詮雇われているだけの関係だった。
彼と一緒にいたかった。 ――笑い掛けていたのは、全て子どもに対してだったのに。
欲しかったのは、あの人の心。]
(9) 2012/03/16(Fri) 01時頃
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[短くなった髪を、マコが撫でる。]
ありがとう。 マコは、優しいね。
[借りたままのハンカチで涙を拭おうとしたけれど。 マコが袖で拭こうとしてくれている為、そのままで。]
嫌な気持ちだけがなくなるなら。 桜になるのは良いかもね。
[この切なくて哀しい気持ちだけが、なくなってくれるなら。 それはきっと幸せなのかもしれない。]
(10) 2012/03/16(Fri) 01時頃
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『ほしい』
……まだ、喰らう気か。
『ホシイ』
ここにある魂、すべてがか……?
『ほしい』
………………。
(*1) 2012/03/16(Fri) 01時頃
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同じ、なら。 あなたはわたし。 自分を大事にするのは当たり前。 だから優しいんじゃなくて、自分かわいさなの。
[もう泣き方も忘れた自分の代わりに泣いている、もう一人の わたし を。 もういちどだけなでて、しばらくは涙を袖に吸い込ませて。
望が来るまではまだその状態だっただろうか。]
(11) 2012/03/16(Fri) 01時頃
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……かなしい。
[少しだけ。
泣けないことも、自分自身にも。**]
(12) 2012/03/16(Fri) 01時頃
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[女の子、ふたり。 せつなげな様子のそこに混ざるのは少し気が引けたけれど、だからといって伝えないわけにも、いかなくて。]
ねえ、パティ、あさこちゃん。 この、桜が――
[ざわ。 僕が隣を通り過ぎたその時、風もないのに梢が強く揺れた。]
(13) 2012/03/16(Fri) 01時頃
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[頭に響く桜の声は、まだ消えない。
ほしい、ほしいと。 そればかりを繰り返す。]
……………。
[二人の女性に歩み寄る、どこか色素の薄い青年。 名は、なんと言ったか……。 たしか聞いたはずなのだが。
風もないのに、ざざぁーっと、梢のざわめきが聞こえたのは……気のせいか。]
(14) 2012/03/16(Fri) 01時頃
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ああ、えっと。 ヒューも、聞いてよ。
あのさ。この、桜。 僕たちをここから、逃さない、って。そういうつもりだって。
[ヒューが、同じような声を聞いているなんて知らなかった、から。 エリアスからの伝聞でしかないそれを、あたかも自分のことのように、告げてしまった。]
(15) 2012/03/16(Fri) 01時半頃
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……知ってるよ。
[ぶっきらぼうにそう返したあと。 ふと気付き、問いかける。]
なんだ。 お前にも、聞こえてたのか。
[哀しみを、魂を。 欲しい欲しいと泣き続ける。
桜の声が。]
(16) 2012/03/16(Fri) 01時半頃
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俺達は、この化け物桜が花咲くための、エサ……。 そういう、ことだろ?
[桜は。 魂を吸い上げるたび、花開く。
不気味なほどに美しく。]
………いいんじゃねぇの、それも。
どうせ……。 戻ったところで…………。
[今更村に戻ったところで、あるのは、辛い記憶ばかり。
ならば、ここで消えてしまうのも、悪くはない**]
(17) 2012/03/16(Fri) 02時頃
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知ってる……?
[あれ、もしかして知らなかったのは僕だけなのか。 ちょっと恥ずかしくなってしまった直後に、お前にも聞こえてたのか、と言われて、全員に聞こえているわけではないこと、ヒューにも聞こえていたのだということがつながった。]
や、えと。 聞こえてたのは、僕じゃない。 エリアス、が。
皆に伝えてって、言ってたから。
[伝えるべきだ、と言ったのは僕だったけれど。それでも仰せつかったのは僕だったから、きっとこれは間違ってはいない、はず。]
(18) 2012/03/16(Fri) 02時頃
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エリアス?
あぁ、あいつから聞いたのか………。
[桜が、エリアスを欲していたことは知っていた。 ついさっきまで聞こえていた声も、聞こえなくなっていた。
視線は、舞い散る花弁を、ただ追いかける**]
(19) 2012/03/16(Fri) 02時頃
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負傷兵 ヒューは、メモを貼った。
2012/03/16(Fri) 02時頃
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そんなこと、ない。 自分可愛さだとしても、マコは優しいよ。
[頭を撫でられるまま、涙を拭われるまま。]
(20) 2012/03/16(Fri) 02時半頃
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すみません。私だけ、泣いてて。 マコも、泣いて良いから、ね。 哀しかったら、泣いても良いから。
[まるで彼女の分まで泣いているような錯覚。 同じだと、そう思うからなのだろうか。]
(21) 2012/03/16(Fri) 02時半頃
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[青年――クスノキと言ったか――が、傍に来る。 そちらへと視線を向けた時。 風が。吹いていないのに、木が強く揺れる。]
え。何……。
[意識がそちらにいき、再び戻した時。 男性たちが話している内容に、首を傾げる。]
声、って。 エリアスが言っていた、ことですか?
[耳を澄ましてみても、梢の揺れる音しか聞こえない。]
(22) 2012/03/16(Fri) 03時頃
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[どういうことなのだろう。 本当に、桜が呼んでいたのか。 此処に自分たちを呼び、逃がさないというのだろうか。]
餌、なら。 何で私を呼んだんだろう。 もっと美味しそうな人にすれば良かったのに。
[こんな哀しい気持ちしか持たない自分なんかよりも、幸せな人の方が――。
……違う。
“共感”
だから、呼ばれたのだろう。 自分の中で出た結論に、自嘲するように薄く笑った。**]
(23) 2012/03/16(Fri) 03時頃
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子守り パティは、メモを貼った。
2012/03/16(Fri) 03時頃
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餌……ぼく、今更食べても美味しくないと思うんだけど、ね。 でも、たぶんさ。 無理やり引き寄せて集めちゃうくらい、この桜にとって僕たちは美味しそう、ってことなんだろうね。
いい趣味、してる。効率いい。 "どうせ戻ったところで"。僕も、そう。 だから、僕は、いいよ。身体なんかなくっても食べてやるってなら、それでもさ。
でも、なんでさ、エリアス――
[だって、エリアスは戻りたいって、言ったのに。 それでも最後は彼女は、桜に呑まれてもいいって、言っていたけど。 呆然とした、どうしようもないやるせなさが胸に襲いかかった**]
(24) 2012/03/16(Fri) 03時頃
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負傷兵 ヒューは、メモを貼った。
2012/03/16(Fri) 22時半頃
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そう。やっぱり。
[望から桜の声について聞かされても淡白な反応になってしまって。 もういいのだと、諦めは表情から伺えるだろうか。
パティの姿は薄れ始めていただろうか、思わず彼女から手を離して]
ううん。パティが泣いてくれて、よかったの。 わたしはそれでいい。
……もうすぐ行っちゃうのね。 わたしも、 連れていってよ……
(おいていかないでよ)
(25) 2012/03/16(Fri) 23時頃
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子守り パティは、メモを貼った。
2012/03/16(Fri) 23時半頃
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[気付けば段々と自分の姿が薄くなるように感じた。 それを当たり前のように受け入れる。]
今度は私が選ばれたみたいね。 ごめんね、マコ。……ごめんね。
[連れていってと言う彼女に、少しだけ困ったような顔をする。 叶えてやりたいと思っても、どうすれば良いのか分からない。]
(26) 2012/03/16(Fri) 23時半頃
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[もともとあってなかったような身体。 少しくらい薄れかかっても、自分じゃ気付けない。 ただ、さっきからやけにざわつく桜がうるさいなと思うくらい。]
あさこちゃんも、もういい、の。
[生者の想いとすればそれは少しだけさみしく思えるようでもあり、けれどここに集められてしまってどうしようもなく逃れられない消滅に抗わなくてすむならしあわせなようでも、あり。]
連れていけたら、いいのに。
[もしもそれが望みなら、叶えてあげたかった。 だけど、名前に反して、そんな力は僕にはない。 僕に残っている力は、僕の足元から背中の方まで、僕の最後の瞬間をぎりぎりまで留めようと、あの日トラックのつけた傷跡がそこだけ薄れず痣のように残ってくだらない抵抗をしているだけ。]
(27) 2012/03/16(Fri) 23時半頃
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パティも望も……やっぱり私と同じなんかじゃない。
同じ、なら 置いていかないでよ。 みんないなくなっちゃうなんて
[やだ。
まだ選ばれていない自分はどれだけ望んでも行けないのだろうけれど。
衝動のままふたりの手を掴もうとして。叶うなら両頬に押し付ける。
いつの間にか涙で濡れていた頬に。]
いや。
わたしも……みんなだって、悪いことしてないんでしょ。
……どうして……
(28) 2012/03/16(Fri) 23時半頃
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[諦めた筈なのに、と
冷静な自分を殺し、捩れる心のまま。]
(29) 2012/03/16(Fri) 23時半頃
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[また風が吹いて、短くなった髪を撫ぜる。 髪は軽くなったけれど、気持ちはちっとも軽くならない。
好きに、ならなければ良かったなんて。 思っていない。
好きでいたあの時間は、確かに幸せだった。 胸が一杯になるくらい、とても幸せで。
だからこそ、今。 その何倍も哀しくて悲しくて、胸が。痛い。]
(30) 2012/03/17(Sat) 00時頃
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[手を掴まれ、その頬に。
濡れた頬は柔らかくて、暖かくて。]
ごめんね。
[謝ることしか出来ない。]
(31) 2012/03/17(Sat) 00時頃
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[同じく選ばれていないであろう彼の方を見るけれど、涙目では表情は窺えず。
自分と彼もすぐに吸収されてしまうのだろうか
胸が軋む。]
(32) 2012/03/17(Sat) 00時頃
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[もう、輪郭とうっすらとした影ぐらいしか、僕の手は残っていない。 もともと消えていたようなものだから、進みは早いのかもしれない。 傷跡も、もう向こう側を透かしはじめた。]
あさこちゃん……
[それでも、手はしっかりと頬に触れた。 温度の低いらしい僕の手は、あたたかい水に濡れるその頬をとても可愛い、と感じる。 あの時のエリアスみたいに、ちゃんと温度を感じるのに。 僕の存在はどんどん希薄になっていく。]
ごめんね。
[どうせこうして消えてしまうなら、連れていけたらよかったのに、と思うのと。 残るのなら、僕らに出来なかったように傷を超えてほしい、と彼女の意に反することを思ってしまうことを。 許してほしい、と思うわけではないけれど、それでもごめん、と幽かな親指で雫を拭った。]
(33) 2012/03/17(Sat) 00時頃
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[“ごめんね”の二重奏。
行ってしまう。]
……謝るくらいなら、
またね、って言って。
[嗚咽でうまく紡げない。 もっと言いたいことがあった気がするのに。
強く強く握り締めたふたりの手は、やがて――]
(34) 2012/03/17(Sat) 00時頃
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[表情はあまり変わらぬまま。 3人の話を、聞くともなしに聞いていた。]
…………。
[ふいに、ぽつりと。]
───。
消えるん、だろうな。 俺達も。
(35) 2012/03/17(Sat) 00時頃
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そうだね。 また、ね。
[彼女は残れるのかもしれないけれど。 いつか、きっと会えると思って。
だから、さよならは言わない。
小さく微笑み、消えた。]
(36) 2012/03/17(Sat) 00時頃
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