184 【RP】Septimo Oves Errantes【R18】
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―2016年 彼との約束の日まであと144年―
[ 最初に感じたのは、瞼の裏に感じる光。 次に感じたのは誰かの話し声だった。
少女はゆっくりの瞼を開け――……落胆した。]
(ああ……目が見えるのね)
[それはまるで、幸せな夢から冷めてしまった朝のよう。少女が目を覚ませばそこは病院だったようで、規則正しい心拍音を奏でる機械の音だけが響いていた部屋に布連れの音が交じった。
少女が体を起こせば、パサリと体の上から落ちたファイル。表には少女のプロフィールと、白紙になった罪歴。そしてファイルを開けば、だらりとした男の腕が現れた。ファイルから溢れる血が、シーツに汚していく。]
………………。 ああ………――。
[少女はそっと微笑む。そして千切れた腕をそっと撫でれば、ますます笑みが深まった。 嬉しくて、幸福で、少女は天井を仰ぎながら『ああ、神様……』と呟いた。]
(63) もるもっと 2016/03/08(Tue) 07時半頃
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夢じゃなかった……。 あそこでの出来事は、夢ではなかったのね……。 ああ、なんて幸いなことでしょう。 私は愛されたんだわ……愛されたのよ!そうよ!
ケイイチ様……ケイイチ様……ぁ……ぁ……
[ベッドの上に血濡れの腕を置いて、少女は窓際へと立つ。 そして空を見上げて、涙を零したのだった。]
(64) もるもっと 2016/03/08(Tue) 07時半頃
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―2028年 彼との約束の日まであと134年―
2月29日 3回目の閏年。 ケイイチ様と離れてから12年も経ってしまって、私も31歳になってしまったわ。結婚しろだなんて口性のない人は言うけど、とんでもないわ!
母が亡くなって私の肉親は一人もいなくなってしまったけれど、私は大丈夫なの。私の心の中にはケイイチ様がいつでもいらっしゃるから。
母が亡くなったのをきっかけに、義弟と義妹、そして塀の中へと行った義父とは縁を切ったわ。あの人達ったら今更になって私に媚を売ろうなんて図々しいのよ。あいつらに渡すお金なんて一円もないんだから!
お金を貯めなきゃ。あの人に会いたいの。 約束したのよ、必ず届けるって、約束したんだから。 生涯を捧げる覚悟なのよ。私は本気なんだからね!
(65) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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―2048年 彼との約束の日まであと112年―
2月29日 あの日から8回目の閏年。私は51歳になりました。 けれど、ケイイチ様との思い出は今でも一片足りとも色褪せることはありません。
今思い出しても、あの場でのことはとても恐ろしい出来事でした。けれど、家の地下室での生活が人生の全てだった私にとっては新しい世界を知らせてくれた体験でもあったのです。 そして何より、ケイイチ様に出会えたことを私は感謝して止みません。気まぐれな神様を気取るあの恐ろしい声に、私は感謝をしてしまうのです。
おかしな話でしょう? けれど、あなただったらきっと私と一緒に笑ってくれると信じています。
あなたのぬくもりが恋しいです。
ケイイチ様…またお会いしたら、私と手を繋いで下さいますか?
(66) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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―2064年 彼との約束の日まであと100年―
2月29日 12回目の閏年。 今年はとても大きな節目の年なのです!ああ、あと二時間です。あと二時間で、あなたとの約束の日まであと99年になるのです。 二桁になるって、とても嬉しいことですわね!
ケイイチ様、私は63歳になりました。すっかり年をとってしまいましたが、まだあなたに恋をしているのです。
こんな年をとった私の姿を見たらがっかりされてしまうかしら? 19歳だったあの頃の私とは、似ても似つきません。ハリのあった肌はすっかりシワシワで、白髪が似合うようになってしまいました。今お会いしても、きっと私だとはわからないことでしょう。
けれど、私は歳を取ることが嬉しいのです。この上なく、幸せなのです。何故なら、少しずつ愛おしいあなたに近づけていている気がするからです。
愛しています、ケイイチ様。 いつまでもお慕いしております。
3月1日 日付が変わったわ!ああ、あと99年!99年よ! なんだか元気が湧いてきたわ!お祝いをしましょう!
(67) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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―2072年 彼との約束の日まであと92年―
2月29日 14回目の閏年。私は71歳になりました。 数年前から援助をしていた遺伝子工学の研究が、どうやら形になりそうです。 なんでも、人間というのは生まれ持った遺伝子の素質で優秀さが変わるそうです。これからの時代は、そのような優秀な遺伝子を持った人間の遺伝子情報を積極的に保存し、優秀な人材の排出を安定化させていくのが課題だとか。
つまり、この遺伝子調査に合格しなければ、私はクローンを作ることができません。優秀な遺伝子を持った人だけが、クローンによる延命処置を受けることができるのです。
ああ、なんてことかしら!クローン技術による延命技術がやっと制度化するとおもったら、こんな障害が出来ただなんて! この研究も成果がでるにはあと数十年の時かかるそうですが、私にはもう時間がありません。
本来なら検査には数年待たなければなりませんが、お金を積んで来月にでも私も遺伝子検査を受けて来ようと思います。
ああ、ケイイチ様。 どうか私を見守っていてください。
(68) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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4月4日 検査の結果が出たわ! ああ、手が震えて、メール画面をタップするのにも躊躇ってしまうわ!けれど、私は見ます。 どうか、どうか……
なんてことかしら! 私の遺伝子は『記憶』の分野においてとても優秀な遺伝子を持つらしいわ!昔から記憶力だけは良かったのよ。あなたもご存知でしょう?
とにかく、クローンを作る許可がこれで降りるのね。ああ、長かったわ…。とてもとても長かったわ…早速手続きをしなくては……。
(69) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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―2076年 彼との約束の日まであと88年―
2月29日 15回目の閏年。75歳になったわ。 あれからまたクローン制度画改正されたの。一人の人間のクローンを作れるのは、一度切りだそう。クローンの二代目、三代目は生殖能力が無くて劣化が激しくなるそうよ。 ああ……だから、今私がクローンを作ってしまえば、ケイイチ様と会うときには私はまたしわくちゃのババアになってしまうんだわ! そんなの嫌よ、嫌……あの人と会うのは、19歳だった時の私で出会いたいの。 見た目はすっかり年寄りになってしまったけれど、私は今でも恋する乙女なの…なんて言ったら笑われてしまうかしら。 とにかくどうしたら良いのかしら……またたくさん調べものをしなくてはならないわね。
自分の体を新しくする前に、老眼鏡を新しくしないといけないかしら?
(70) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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―2088年 彼との約束の日まであと76年―
2月29日 18回目の閏年。私は82歳になりました。 今日でこの日記も終わります。明日、私は安楽死をして迎えてこの肉体での命を終えるからです。 クローン技術による細胞の保存と延命の期限は50年と法律で決まったので、私は50年後に再びクローンで生まれ変わります。その時私の体は3歳になっているはずです。莫大なお金を払って、そういう契約を結んだからです。 記憶と財産を引き継いだまま赤ちゃんからもう一度人生を始めるというのは、なんと不思議な事でしょう!
ふふ。私、最後までボケたりしなかったでしょう?これも遺伝子が優秀なおかげかしら。……いいえ。きっと違うんでしょうね。
あの人に会いたい一心で、私は自分を急き立ててきました。 長い長い人生の中で、私に好意を寄せてくれる男性も何人かいましたが私はそれらすべてを断ってここまで来たのです。
だって、私の全ては彼のものですから。
その約束を私はいまでもしっかりちゃーんと、覚えていますよ。
(71) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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次に目覚めるとき、私は3歳の赤ん坊です。 そして2160年の2月29日には、19歳になることでしょう。そうしたら、ああ……会いに行きましょう。 東京都、千代田区……――
あの人と会えるかしら?すれ違いになったりしたらどうしましょう!それでもきっと、私はあの人のもとを訪れるのです。
愛しています。 ただ唯一、ケイイチ様だけを。
2088年 ヨーランダ・パトリック・シルトン *
(72) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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―2160年3月9日―
[ケイイチが社員寮に帰った時、そこには誰もいなかっただろう。 彼が入院していた間にも、訪ねてきた者は居なかったという。
ただ、一つ、大きな荷物が届いていた。 人一人が入れるほどの大きさの箱が。]
(73) もるもっと 2016/03/08(Tue) 08時頃
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[ 短時間の調査では少女がクローン技術で現代に届けられている事まで知る事はできなかった。戦時に各地の記録装置が破損した影響もあるだろう。
汚職蔓延る組織内の人間でも、流石に殺人事件の被疑がありながら海外に発つことは許されない。僅かにそらすことのできた疑いの目も再び向くことになる。
けれど、最早関わりのないこと。 事件など、生ける者たちの柵。 少女が死した地で男もまた旅立つのだ。 だから、かんけいない。
持ち物はパスポートと財布と、現地で着ける予定の黒ネクタイのみ。小さな鞄で事足りてしまった。狭い職員寮を出ようとして──… ]
…………、
[ 箱の存在(>>73)に気付いた。よくこんな大きな物を見落としていたものだ。何も購入した覚えなどないが……きっと忘れているだけだろう。
早く彼女の元へ行きたい。 警察の情報端末から発見した彼女の生前の写真には、菫色の双眼があった。老眼ではあったようだけれど。彼女の映した景色はどんなものだったのだろう。 足元の箱に触れる事なく部屋を出ようとした。伝票があれば、チラリと見ただろうか。]
(74) nagaren 2016/03/08(Tue) 09時半頃
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[荷物の伝票には彼の名前と住所。そして品物名の場所には『Y10AE905 "ヨーランダ"』と書かれてあった。そして箱を開けたのなら、中にはスヤスヤと眠る少女がいたはず。 スリープモードになったクローンを起こすには、ただ一言声をかけて音声認証を照合させてやれば良い。
だがもし彼がその箱を開けずに日本を立ってアメリカへと飛んだのなら、当時のヨーランダ・パトリック・シルトンが住んでいた家の場所には墓石が一つ建っており、そこにはこう書かれていた。]
―1997年〜2088年没 ヨーランダ・パトリック・シルトン
―2141年〜 Y10AE905 "ヨーランダ"
[調べれば、その番号がクローンの識別番号だということがわかるだろう。その番号を問い合わせたのなら、同じ州の遺伝子研究所に"収納"されていることもわかるはず。 そして、その検体は数週間前に、既に日本に出荷されたようだ。
だが、それらの情報も、彼の目に留まらなければ意味は成さないのだろう。]
(75) もるもっと 2016/03/08(Tue) 15時半頃
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……"ヨーランダ"!?
[ その名(>>75)が書かれていなければ通り過ぎていた。箱の伝票を三度見、そして顎で使っている同僚へ速やかに連絡を入れる。名に添えられた識別番号を調べさせれば、箱の中身が何なのか直ぐに判っただろう。カタカタと震える手。
彼女はとっくに死んだはずなのに。 あの約束はこの事だったのか。 クローンは彼女そのものか? 同じ形をしているだけの、……別人では?]
…………。
[ 恐る恐る箱を開ければ……あの少女がいて。]
( ああ……、 )
[ 僅か抱いた不安もどこかへ消えてしまう。 髪や肌の色は記憶と違い本来の色をしていたかも知れない。それでも、彼女に違いなかった。 スヤスヤと眠る姿が微笑ましくて、思わず口許の筋肉が緩んでしまう。 なんて可愛らしいのだろう。]
(76) nagaren 2016/03/09(Wed) 00時頃
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[ 男にとっては十日ぶりの再会。長い時を越えてきた彼女に比べたらほんの刹那だろう。それでも短気なものだから、逢えない期間はとても長く感じられた。
墓に眠る彼女と早く逢いたくて、彼女のもとへ早く逝きたくて、事件のほとぼりも冷めぬ内に向かおうとしていたのに。
生きた彼女と逢えるなんて、誰が想像したか。]
ヨーランダ……、起きてくれ
[ 優しく頬を撫でて。少女が目蓋を上げてくれたなら、きっとみっともなく膜を張りながら目覚めを待つ喪服の男と視線が絡んだろう。
腋の下に手を入れて抱え起こし、狭い玄関でか細い身体を強く抱き締めるのだ。]
(77) nagaren 2016/03/09(Wed) 00時頃
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[ 大金を稼ぐのに苦労したろうに。 他に掴める幸せだってあったろうに。 そんなに俺様に逢いたかったのか? 浮気はしてねーだろーな? もししてたら相手のペニスもぎ取ってやる。 お前には特製の貞操帯だ。 …………寂しくは、なかったのか? 孤独でつらくはなかったのか? 怖いものはなかったか? お前を虐める者はいなかったか? ──────元気に、してたか?]
(78) nagaren 2016/03/09(Wed) 00時頃
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…………ッ
[ 話したいことも訊きたいことも沢山あるが、音にならず、ただ抱き締めた。彼女から何かあれば、聞いただろう。話したろう。
そして──通信機に入る、同僚からの連絡。]
……あァ、エリス邪魔すん……、 あー、判った急ぐ……助かった
[ 海外に発とうとする動きが察知された。ここに長居は出来ないという忠告。通信を切れば、はぁと息を吐いて少女を見る。
ニコラの腕が母国に帰るのはまだ先のこと。被疑の完全に晴れていない男に捜査の手が伸びる。捕まれば二人は共にいられないだろう。
そして、今追われているのは己のみ。彼女は当然違う。負うべきものは二人前の少女の義父が被ったのだろう、知る由はないが。]
(79) nagaren 2016/03/09(Wed) 00時頃
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来てくれるか、ヨーランダ 一生逃げ続ける事になるかもしんねー 毎日、辛いことばっかりだろう それでも…俺と一緒に居てくれないか
[ 告げては、何度も繋いだ手を差し出した。
掴まなければ、少女だけは表社会で暮らしていけるだろう。上手くすれば、生きている間にまた何度か逢うことも叶うかも知れない。
複数の捜査員が階段を上り、二階にあるこの部屋を目指している。数十秒後にチャイムを鳴らし、男を連れて行こうとする。
早くその前に、逃げなくては。 もしも手を取ってくれたなら、少女を抱えて。
ベランダから飛び出すのは、一人か二人か。 何れにせよ──闇に消える。もう、戻れない。]
(80) nagaren 2016/03/09(Wed) 00時頃
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―2160年 彼との約束の刻まであと―― ―
[少女が眠りについた時、その小さな胸には大きな期待と、わずかな怖れがあった。無事彼の元に辿りつけるだろうか、人間ではなくクローンとして現れた自分を受け入れてくれるだろうか。『クローンは人間であって人間ではない』などと、どこかのレイシストのようなことを言われたりしたら……]
『ヨーランダ……』
[そんな不安と期待を胸にスリープ状態に入った少女だったが]
『起きてくれ』
[その心配は実に、大きな杞憂となったようだ。
少女は目覚める。零れ落ちる髪は遺伝子情報を元に再生された通り、白金髪だ。そして瞳は薄いblue……菫色。呼ばれるままに視線を上げれば、そこには零れ落ちそうなほどに潤む瞳を湛えた"彼"がいた。]
……あ。
[そして何かを言う暇もなく抱きしめられたのだ。少女の細い体が折れてしまうのではないかと思うほどに、固く固く抱きしめられれば少女はそっと彼の背に腕を回した。]
ただいま戻りました。……ケイイチ様。
(81) もるもっと 2016/03/09(Wed) 02時頃
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[お金を稼ぐのは苦労しました。けれど手に職をつけたので今の時代でも通用すると思います。なにより、あなたとの再会の喜びには代えられません。 あなたが傍にいない幸せなど私にあるはずがありません。 それほどまでにあなたに会いたくて仕方がありませんでした。ずっと恋をしていました。 浮気なんてしていませんよ。 あの日から私は男の人を知らないのですから。 今の私の体は清いままです。 ………………寂しかったです。 孤独で、辛くて、何度もくじけそうになりました。 けれどあなたとの想い出が褪せてしまう事の方が何よりも怖かったのです。 口性のない者はいましたが、でもこれからはあなたが慰めてくれるでしょう?
…………――はい、元気にしていましたよ。この通りです。]
(82) もるもっと 2016/03/09(Wed) 02時頃
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[積もる話はあっただろうが、彼が誰かと通信を始めれば>>79その間に少女はキョロキョロと部屋を見回していた。 どこかのアパートのような部屋。男の一人暮らしらしく、少しは散らかっていたかもしれないがそこに彼の生活の名残が見られればそれだけで嬉しいのだ。これは腕によりをかけて掃除をしなければならないかなと思っていたところで彼が通信を終えたらしい。
そして彼から告げられた『一生逃げ続ける事になるかも』『辛い事ばかりになるかもしれない』という言葉は、少女の幸せな気持ちを揺らがすことはない。
むしろ少女は――いいや、88年と19年を生きた識者は、余裕の微笑みを浮かべた。]
はい、わかっております。 私が目覚めた時も、そうでしたから。 私はケイイチ様についていきます。……どうか連れて行ってください。
[今までの141年の苦労に比べれば、彼が傍にいてくれるだけでなんと幸福なことか。彼の手を取れは、ぬくもりがまた繋がったことだろう。]
(83) もるもっと 2016/03/09(Wed) 02時頃
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[この少女の名前は『Y10AE905 "ヨーランダ"』
19年前に再生された彼女には『ヨーランダ・パトリック・シルトン』という女性の88年に渡る生涯の記憶が備わっている。その記憶によれば、目の前にいる"ケイイチ イズリハ"という男性は、何よりも誰よりも優先すべき人物であると"インプット"されている。
彼に愛情を抱いているのかと聞かれれば間違いなく『はい』と答える。好きなのかと聞かれれば『もちろん』と答えるだろう。では『何故彼の事を愛しているのか』と聞かれれば『そういう風に記憶を受け継いでいるから』と答えるのだ。
クローンは人であって人ではない、と呼ばれるのはそれが所以かもしれない。
彼が愛した"ヨーランダ"とは違う存在になってしまったかもしれないのに。 彼に愛してほしかった"ヨーランダ"はいまここにいる自分ではないかもしれないのに。] それでも彼は自分が傍にいる事を許してくれるのだろうか。
いつか彼女の中の違いに気づかれて彼に捨てられてしまう、そんな日が来たとしても。 少女は今日彼の手を取ったことを決して後悔はしない。]
(84) もるもっと 2016/03/09(Wed) 02時頃
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でも、ケイイチ様、どこへ? ――きゃっ!
[抱き上げられれば、おそらく彼の記憶の中よりは多少の重みが腕にかかったことだろう。突然宙に浮く感覚に驚きながらも、少女は彼の首に腕を回して落ちないようにとしがみ付いた。
闇へ消えた二人の歩みはあまり明るくはなかったかもしれない。それでも少女はいつでも必死に彼に尽くしたことだろう。時には大きな嫉妬を抱いて彼を怒らせてしまう事もあるかもしれないが、どうか許してほしい。彼に不要とされる日が来るまで、少女は彼についていくと決めたのだ。他でもない、彼女自身の意志で。*]
(85) もるもっと 2016/03/09(Wed) 02時頃
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さぁさ、参ろうぞ。未だ未だ旅路は永い。
────────旅は道連れ。
どうせ向こうには戻れぬ身。 ならば、永遠に赦しを乞おうでは無いか。
(*6) purin319 2016/03/09(Wed) 03時半頃
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[少女の姿をした白は、罪そのもの。
他者との愛に縋り、
傲慢にも全ての望みが叶うと思い、
自らの怠惰で人を殺め、
そして他者の幸を妬み、
幸を得た他者に怒り、
失った物を求め、
飢えた獣は果実を屠った。
全ての始まり。
来るはずのない終わりを求めて、
永遠に"道連れ"を探す────……]*
(#3) 2016/03/09(Wed) 03時半頃
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これにて閉幕。……また来世。
(86) purin319 2016/03/09(Wed) 03時半頃
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[ 抱えた身体は記憶より重みがあった。 彼女の味わってきた苦難に比べればよほど軽いが。]
さぁ、どこだろうなぁ お前がいればどこでもいーけど
[ 少しでも安全に暮らせる場所、そんなところがあるかは不明だが。 共にいられない此処よりはマシなことだろう。
ヨーランダ・パトリック・シルトンと"ヨーランダ"は、同一ではないのだろう。 それでも、愛し愛された少女とそれを引き継ぐ彼女を愛し、大切に扱った。……男なりには。
罪を重ねながら生きながらえ、 ──二人が引き裂かれてしまうその時まで。*]
(87) nagaren 2016/03/09(Wed) 05時頃
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ーそれからのお話ー
[退院してニックのものと思われる心臓を庭へ申し訳程度に埋葬した後 (姉には死んでいた子猫を埋めたと誤魔化し)
俺が”黙らせてきた”筈の人物はどうなったのか軽く探りを入れた、罪歴を見る限り俺はニック以外には何もしていない事になってるらしいから 家族と教師の事は姉に、放火代行者の事は彼とよく連んでたらしい少年達に その結果、死んでいる事は変わってなく単純な事故になっていたり実行したのが別人になってたりしていた
何をどうしたらそんなすり替えが出来たんだと思わなくはなかったけど、面倒なお抱えものが減ったのだから別にいいかなぁと 姉は姉で”知らない間にまた倒れられたりしたら寿命が縮まるから1人での外出は控えてほしい”と泣きついてくるものだから、その通りにして”調達”も控えてあげた 元々姉が居て”調達”する必要はあまりなかったし、完全に頼る事にしようかと]
(88) ツナ 2016/03/09(Wed) 05時頃
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[それからの生活は”調達”を始める前の引きこもり生活と殆ど変わらない状態になった 違う点と言えば姉が居る事と居心地の良さがある事か 何故居心地の良さを感じているかは分からないけど、悪い気はしないからと気にする事もなかった
そんな日々は俺が少年院に入れられた事で変わった 俺も家に居た時に玄関先で姉が襲われたのだ 襲った人物は『何でお前だけが楽に生きてるんだ!!』と、俺に対して逆恨みをしていた隣人 姉を襲ったのは楽をさせない為というくだらない理由 そんな理由で姉は傷を負った、俺が巻き込んでしまった そう考えた時、気付いたらその暴漢に飛びかかっていて……息の根を止めていた ”黙らせた”のではなく、初めて明確に”殺した”のだ
姉は信じられないものでも見たかのような目で俺を見ていた 初めて向けられた視線だった]
(89) ツナ 2016/03/09(Wed) 05時頃
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(ここにはもう帰れないな……)
[勝手にそう悟って、初めてショックを受けた 自分の責任だけど酷く傷心していた 姉の事だから通報はしないだろうし自分で警察に電話し、何も言わずに家を出て警察に行った
今までなんとも思わずに楽に生きる為の障害は退かしてきたけど そうして来たが為に姉は被害を受けた そう考えたら酷くモヤモヤしていた この感情が何なのかも分からない 無駄な事も面倒な事も避けて来たのに逃げるでもなく自首を選んだ自分の事も、分からなくなっていた]
(90) ツナ 2016/03/09(Wed) 05時頃
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