172 ― 恋文 ―
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うーん……でもここ、絵は置いてあるんだよな。値札つきで。
[どんな経緯で置かれるようになったのか男には知る由もないが。 そして絵心のない男にはその絵の価値もよくわからないが。 珈琲を飲みながらふと視界に入れるその色は、不思議と男の気持ちを落ち着かせてくれるものだったから。]
マスター、ちょっと。
[サンプルで持ち歩いていた藤色のレターセット、便箋にさらっと短く言葉を添えて。]
あの絵の作者さんに、言付けてください。
[長らく鞄に仕舞われていた藤色に「仕事」をして貰おうと。]
(25) 2015/10/20(Tue) 22時頃
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――「ラブ・レター」――
……え。まじで。
[ぱちり、目を瞬いた。 だって、まさか本当に「応募」があるだなんて、 期待もしていなかったものだから。
受け取れば、また一つ瞬き。首を傾げた。
背後に流れるラジオの声は、今日もまた、 どこかの誰かの恋愛事情を賑やかに紹介している。]
んー。んーっと。……うん。 マスター、また何か紙くれる?
[次はちゃんと持って来るから。苦笑しながら。]
(26) 2015/10/20(Tue) 22時頃
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なあマスター、あなたも人が悪いな。 この間の僕が張った張り紙に、リアクションがあったことをどうして言ってくれなかったんだ? 手洗いに席を立たなければ、あやうく気づかないところだった。
僕は絵画に明るくないが、これはとても良い絵だと思うよ。 ああ、待ってくれ、この絵を描いた者を当ててみせよう。 まかせてくれ、僕は小学生の頃にシャーロックホームズを全巻読破したからね。
(27) 2015/10/20(Tue) 23時頃
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これは綿毛が飛んでいる様子だ、だからつまり……風だ。 そう、風花さん。きっとこれを描いた人の名は風花さんに違いない。 風情を愛する、かわいらしい女性なのだろうな。
(28) 2015/10/20(Tue) 23時頃
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……っし。
マスター、今日のおすすめ……あー。紅茶の日かぁ。 ん? うん、いや、嫌いじゃないんだけど。 紅茶とケーキって、こう、いかにも女子ぽくて…… 似合わねぇだろ、オレみたいなのは特に。
カッコつけたいお年頃なの。永遠にそーなの。 じゃなきゃバンドなんかやってねぇー。
[うだうだ言いながらも、周りをぐるり見渡して。 他の客の様子を、しばらく観察してから。 爪先で立ち、ひょいとカウンターの中を覗き込む。]
……ん。結構ケーキ減ってる? ……自信作?
んじゃあ……たまにはいっかな。面白いこともあったし。 なあ、紅茶って何か面白い飲み方とかあんの?
[頬杖ついて、ニッと笑った。]
(29) 2015/10/20(Tue) 23時頃
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[もらったお手紙を、一通一通、大事に大事に開く。
…なんだか不思議。 授業中、友達から回ってくるお手紙はみんな可愛いメモ帳で、たまにシールとか貼ってあって、相手もわかってるのに、ここまでドキドキも、特別だって感じもしない。
記された文字を指でなぞりながら、これを書いた差出人の想いをなぞる。 どんな気持ちで書いたんだろう。 どんなひとなんだろう。
それを考えるだけで、時間なんてあっという間に過ぎてしまう。
一通り目を通したら、ゆっくりケーキと紅茶を味わって。
中学卒業のお祝いで父からプレゼントしてもらった万年筆で、お返事を書き始める。]
(30) 2015/10/20(Tue) 23時頃
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絵と言えば、この間に購入させてもらった椅子の絵は良いものだった。 良い買い物をしたと久々に思ったよ。 僕はあれを、寝室の壁にかけて、毎晩毎朝見ているんだ。
マスター、実は昔、僕は大変な巨漢だった。 つまりぶくぶくに太っていた。 だから「椅子」というあだ名は、友人らが好きあらば僕のふとましいふとももに座ろうとしたあの頃を思い出すので、言うほどほほえましいあだ名ではなかったんだ。
でも、今はあの出来事も面白おかしく思えてきた。 昨晩なんか、僕は僕に座ろうとして夢の中でめちゃくちゃランニングするはめになった。 楽しかった。
(31) 2015/10/20(Tue) 23時頃
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だからマスター、僕はあの絵の作者さんに大変感謝しているのだ。 これから一生あの絵を手元に置いておけると考えるなら、とてもコストパフォーマンスに優れた……僕ばかりが得をしているような買い物をしてしまったんだ。
(32) 2015/10/20(Tue) 23時頃
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マスター、僕は細かい仕事がなかなか好みなんだよ。
(33) 2015/10/20(Tue) 23時半頃
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(ひらがなだけって逆に難しいなあ)
[そんなことを思いながら、けれど、小さな子が自分のメッセージを見ていっしょうけんめい書いてくれたんだ、と思うと、胸がいっぱいにならずにはいられなくて。
それが己の固定観念からくる、とんだ勘違いだとしても。
現実は、私が思っているよりも、もっともっと切ない色をしていたとしても。
「お返事待ってます」という言葉を書ける幸せで、満たされていた。]
(34) 2015/10/20(Tue) 23時半頃
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マスター、愛とは何だろうか? 実は僕にもいまいち分からないので、「恋を知らないジュリエット」さんには共感するところがある。
マスター、僕にはなりたいものがあると言っただろう。 どうして僕がなりたいものになれていないのか、分かっているんだ。 分かっているんだよ、なんとなくね。
(35) 2015/10/21(Wed) 00時頃
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[お返事を書き終えながら、はた、と気付く。 ああ、この字とこの紙、どこかで見たと思ったら。]
(作曲家募集ってことは、やっぱりバンドマン、とかかな??)
[名前と字から受ける印象は、可愛らしい女性のもの。女性シンガー、と思いついて頭に浮かんだイメージは、クラシックギターを弾き語りする森ガール系の女の子。]
(やっぱりかっこいい…!)
[手紙の文章は、ちょっと考えたけど変えずに。 このお手紙から受け取るものだけでまとめた。]
(36) 2015/10/21(Wed) 00時頃
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[今日も今日とて来てしまった、「ラブ・レター」。 マスターに頭を下げてカウンターに座るとメニューを見て]
あ、じゃキャラメル…カフェモカで。
[本当はキャラメルマキアートに興味があるのだが、自分みたいな強面が頼むには可愛すぎるんじゃないか?なんて事を気にしたり。そう言う年頃なのだ、自分は。
暫くしてマスターが目の前に置いたのはカフェモカと]
黒い、封筒?
[手紙の返事が来たのかと一瞬気分が高揚したが、よくよく考えれば、この黒い封筒はどうにも手紙を送った相手とイメージが合わない。
一方は平仮名での文通希望から幼い子供を、一方は可愛らしいメッセージカードからそう言うのが好きな女子を想像していたから]
(37) 2015/10/21(Wed) 00時頃
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[ふう、と文章を書き終えて溜息を一つ。
このお手紙からは相手の年齢や性別は想像がつかない。 けれどそこを考えるのが楽しかったり。 むしろ考えないって思おうとするのも楽しかったり。
なんにせよ、 自分の発信したメッセージに答えが返ってきたことが嬉しい。 その返答に、お返事できることが嬉しい。
顔も、年齢も、どこに住んでいるかも、 何をしているかも知らない、誰かと。 繋がっているのが嬉しい。]
(勇気出して、よかった)
[すっかり冷めてしまったダージリンティーを口にして、幸せな溜息をもうひとつ、ついた。]
(38) 2015/10/21(Wed) 00時頃
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[そうして帰り際。
お会計を済ませた後、お小遣いで片隅のキャンパス群の中からお花畑の絵を買って。 それが、お返事の一つ。
それからもうひとつ。
真っ白なカードに、メッセージを描いたら。 先週自分が貼っていた場所に、ぺたり。]
(39) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[きっちり90度で、シンプルな黒一色の封筒からは、なっだかお堅い印象を受ける]
ああ、掲示板に募集貼ったんだし、知らない人から手紙来ても可笑しくないのか。
[期待に胸を膨らませ、封筒の中身を取り出して一読。
一瞬、喧嘩を売られたのかとも思ったが、どうやら違うらしい。
少し考えて、鞄から百均の便箋を取り出せば、サラッと走り書き]
マスター、これを差し出し人に渡してください。
(40) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[ふと、見覚えのない張り紙に気付く。 自分のことでいっぱいいっぱいだったから、気づかなかったのかもしれない。]
(名前の、由来…)
[そんなに大層な名前じゃないけど、いいのかな?とちょっと考えて。
ここにメッセージカードを乗せる勇気だって持てたんだから、こちらから書く勇気だって、と。
掲示板横の腰ほどの高さの本棚の上で、お返事を書く。]
(41) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[一人になった病室で、ベッドの上の脇の写真立てを手に取り。 昨日新しいのに替えたばかりのそれを、指先でそっとなぞる。]
……やっと、やっとかけます。おへんじ。
["まほうつかいさん"から最初の絵葉書が来たのは、もう10年も前だっただろうか。 前に母親に聞いたときに、一度会っているのに覚えていないのかと呆れられたのを覚えている。
机の横の小さな棚。 ベッドの上の彼女の全財産がここにはいってしまう。
服と、日用品と、本、ラジオ、]
(42) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[それから、絵葉書。
病室以外に許された、彼女の世界。]
(43) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[書き終えたら、結局四通になってしまったお手紙を、マスターに渡した。
一通一通、どのお手紙をくれた人かもしっかり説明して。
つぎはいつ来られるかな、そんな期待と不安を胸に、ドアベルを鳴らす。]
(44) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[いつも返事は母が書いていた……少なくとも母はそう言っていた。 だからいつも思っていた。 ペンを握れるだけの握力、それから体力。少しでも回復したらやりたことの一つ。] ……はやくかかないと。じかんかかるんだから…。
[絵葉書を棚の上に戻し、 便箋とペンに手を伸ばした。]
(45) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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「あなたは秋が好きですか?お返事を待っています。」……うん、今日の張り紙の内容はこれにしておこう。 今日は丸っこい筆跡を意識してみたが、どうだいマスター?今までの僕らしくないだろう?
それにしても、この日課もずいぶん長く続いたものだね。 この店は僕の第二の家なんだと思う時があるよ。 父が出て行って家庭が荒れた時に、たまたまマスターにクリームソーダをごちそうになったこと、よくよく覚えているよ。 あの頃に比べれば穏やかな人間になれたと、自負しているんだがね。
(46) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[珈琲を飲む。 アルコールは入っていない。 ふと、先週あたりに「同じものを頼んだひとに」と手渡した手紙を思い出したが、あれから何の音沙汰もないという事は、同じものを頼んだ人はいないのだろう。 或いは、いても無視されたか――]
……ふ、
[カップに唇をつけたまま、男は苦笑した。 思いの外、自分は自分の人生に起こるドラマを期待していたらしい。 だが現実はこんなものだ。 恋愛どころか、そのきっかけすら、男の前には落ちてこない。
そのまま珈琲を飲み干して精算しようと注文票を手に取った時。 ラジオから流れてきた「文通」>>14という単語に、眉を上げた。 相談者はきっとまだ若い女の子だ。 こんなおじさんは、ましてや恋も愛もわからないまま年だけ重ねたおじさんは相談相手にはなれないだろう。 だがきっと、彼女の助けになりたいと思う客はいるだろう。 そんな時にレターセットの持ち合わせが無かったら――]
(47) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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マスター。 実は俺、こういう者でして。 文通に使うレターセット、この店で売ってみませんか?
[思い切って言ってみた。 鞄から取り出すのは、藤色を除いたサンプルの数々。 手すき和紙のような風合いを出した表紙の色は12色。 原色よりも薄い色のそれを、置いてはくれないかと打診して、男は此処では一度も見せた事がないような「営業スマイル」を顔に貼りつけた。]
(48) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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[かくして、店の片隅に「文通用レターセット」が並ぶ運びとなった。]
(49) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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常連…か。
[その言葉を口の中で転がして。
店の雰囲気はお洒落で落ち着いてて好きだ。 コーヒーも少ししか飲んで無いが美味しい。 マスターもいい人だ。
特に所属してる部活もないし、放課後ここで読書したり勉強したり、 誰かに手紙をしたためるっていうのいいかもしれない]
……バイトしよ。
[会計を済ませて店の外、万年寂しい様子の財布を見て、そう心に誓った]
(50) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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できた。 あとはあしたあてなをかいてもらうだ、け、 あ…れ?
[不意に目の前がぐらりと揺れる。何が、と思う間もなく手からペンが滑り落ち、支えていた肘から力が抜けるとがしゃり、とおおきな音を立てる]
……い けな
[息が荒い。目の前の光が滲む。頭は熱く、体は寒い。]
へんじ…いっきにかいちゃ……だめだった……ね あー…… [自分の体がどれだけ弱いか、 忘れるほどに没頭したのはいつぶりだろうか。
とにかくこんなところを看護師さんにみられたらせっかくでた文通の許しも取り下げられてしまう。
気力を振り絞り、道具を片づける。 終わると同時、そのままベッドに沈みこむように意識を離す。]
(51) 2015/10/21(Wed) 01時半頃
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━━ 喫茶店『ラブ・レター』━━ [今日も今日とて、ラブ・レターへ。 もう、毎日来ている。
このお店に来ると、以前の生活と違う出来事が起きるのだ。
そう、今日も。]
……え?…えええぇぇ??!!
[ラジオに私の投稿したコメントが採用された>>14>>15]
ああ…、ラジオネームか…そうか……あはは。
[結構恥ずかしいけれど。 それ以上に、初めての投稿がラジオで読まれるのはとても嬉しかった。しかも、恋子ちゃんに。 それに、誰かお手紙くれないかな、お話し出来ないかなって、わくわくした。]
(52) 2015/10/21(Wed) 03時半頃
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[コアントローの人とのやりとり。まだ一回しかお返事していないのに、こんなに楽しい。
すると、マスターがにこにこしながらコアントローコーヒーを出してくれた。]
マスター…!ありがとうございます!
[あのにこにこが何か含みがあるようで、ちょっとだけ怖かったけれど。 でも、マスターの楽しそうな背中をみれば、まあいっかって思えた。]
(53) 2015/10/21(Wed) 03時半頃
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[オレンジフレーバーに酔いしれていれば、掲示板のメッセージがメニュー入って。 立ち上がり近くで見てみれば、作曲家募集。 花柄のカードに「よかったら、文通しませんか? ヒナ」 と書かれているもの。 名前の由来を聞いているもの。]
よしっ……!
[とルーズリーフを取り出して、書き終われば、マスターに丁重にお願いした。
この手紙をあの掲示板の人達に渡してください、と。]
(54) 2015/10/21(Wed) 03時半頃
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