239 ―星間の手紙―
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[外から、機械の駆動音が小さく聞こえてきます。 大きなお屋敷の、隅にあるこの部屋まで 聞こえてくるというのなら、 きっと 大きな開拓が行われているのでしょう。 私のご主人様の指揮の元で。
先日のアップルパイは、やはり好評でした。 私を労う言葉こそありませんでしたが、 外で働く皆さんの為に働ける事は、 私にとって一番の幸せなのです。 一体、何を落ち込む事があるでしょう。
……いけませんね。 暫く、人の様に過ごしてしまっていたから。 少し、勘違いしてしまいそうになっています。]
(20) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[爪の先を赤く彩って、 私は今日もルシフェルに向かい合います。
其処にあるのは、期待通りの新着メッセージ。 無機質な文字列をそっとなぞって、 一番上の、不思議な音声メッセージから
一つ一つ、お返事を返していくのです。]
(21) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[聞いてなかったかしら? って。 思い出そうとした処で、 メッセージを途中送信してしまいました。
ああ、名前を伺っておいて、 此方からは名乗らず仕舞いだなんて。 礼儀知らずを申し訳なく思いながらも、 もう一つ送るのもしつこい気がして、そのまま。
またお返事があったなら、名乗りましょう。 その時には、あちらのお名前も 知れていると良いのですけれど。]
(22) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[二通目は、綺羅びやかなあの子から。 可愛らしいお返事に、 何だか、胸が暖かくなった気がしました。
私の胸にあるのは液晶ですから、 それが熱を持ったとしたら一大事なので、 ええ、勿論。比喩に過ぎないのです。
それにしても、やっぱり彼女は ちゃんとご飯を食べていないみたい。 今となっては、私が作ってあげるわけにも いきませんから、心配です。
せめて、ミートソースを ちゃんと作ってくれると信じましょう。]
(23) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[其処まで書いて、指先が止まります。 きゅぃ と、モノアイが揺れました。
その時私が思い浮かべたのは、 彼女と同じ人の事だったでしょう。 ……もしかしたら、彼女にはもう 話がいっているのかもしれません。
私は深い事情を知りはしませんし、 そこに踏み込む勇気もありませんから、 尋ねる事はしませんでした。]
(24) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[……この身体になった時のわたしも、 "怖い"とは思っていなかった様に思います。 元々プロテクトのかかっていた記憶ですから、 所々ぼんやりしていて よく思い出せませんので、恐らくは。
当時の事を思い出してしまったら、 私の凪いだ心も、荒れるのでしょうか。 身体を失ってしまったという、"彼"の様に。]
(25) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[キーを叩いていた指先を休め、 暫しの後に次のメッセージを開きます。
送った内容が内容でしたから、 今回ばかりは緊張が勝っていましたが、 開かないままというわけにもいきませんからね。
それにしても 音声がテキストになっているのは 一体どう受け取ったべきでしょうか。 開けば一発で解る事ながら、 開けないからこそ不安を煽るのです。
声を出すのも億劫だった、とか いやまさか、そんな事はないでしょうが!]
(26) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[連ねられた文字列の、一番下まで目を通します。 一度、二度、三度。 何度読んでも、内容が変わるわけもありません。 解っていても、何度も、何度も。
モノアイが、きゅいきゅいと揺れました。 制御しようたって、上手くいきません。 すんなり歓べる事ばかりではなく、 心配になってしまう様な事も 書かれていましたが、今は。 今だけは。
"ひとりにはしない" と、その言葉に 酔っていても、良いでしょうか。]
(27) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[────かたり 手が止まりました。
此処まで話してくれた彼へ、 何も話さずにその愛を享受するのは 裏切りに他ならないのではないでしょうか。
拒絶される事は、怖くありません。 ただ……ただ、 貴方を傷付けるかもしれないと思うと 腕が動きません。
どうしてでしょう。 機能には何ら、不具合は無い筈ですのに。 "感情"一つで、こうも駄目になるものでしょうか。]
(28) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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[ややあって私は、 音声メッセージの録音を始めます。 機械の声は、震える事はありません。 何処までも平坦で、何処までも冷たいもの。
以前の声とは、比べ物にならないくらい 醜悪で、聞き苦しい音なのでしょう。
──── ごめんなさい。 私は機械ですから、優しい声は出せません。]
(29) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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貴方を…………、
[漏れ出した言葉が、虚しく部屋に響きます。 録音はいつの間にか切れ、 部屋はやがて シン と静まり返るのです。
それでも私は、動けずにいました。 送信完了画面を、只管に見詰めるだけ。
言うべき事はもっとある筈ですのに、 もっと上手にお別れも出来たでしょうに。 ……もう、何も言えませんでした。]
(30) 2018/04/27(Fri) 21時頃
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