145 来る年への道標
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2015/01/10(Sat) 08時頃
地下軌道 エフは、メモを貼った。
2015/01/11(Sun) 16時頃
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[乗り換えの都合は、 『ブルー・ダイヤモンド』という星が、最もよいようでした。
エフは顎に手をやり頬杖をつき、延々とモニタを睨んでいます。 少し待つと、通信が届き、彼は何やら交渉をはじめました。 ぽつぽつと低く交わされる会話のなかには、 アースの話や、貨物船の話。値段やかかる時間…… どうやら乗り換える船だけは押さえたらしいエフは、 通信を終える際、こっそりと小さくガッツポーズをしました。 つい仕草に出てしまって、誰かに見られていないかと 人のあるほうを見るに、アイライトの視線に気づきます。>>0 一瞬固まると、エフは、小さく咳払いをしていました。]
(3) 2015/01/11(Sun) 16時頃
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[クオデイ・オカヨフ。 スラグ・ライム。
それらの星を通過したのも、少し前のこと。 クオデイ・オカヨフの到着前に、 ラウンジに次の星までの時間が表示されると、 エフは一旦席を立って、客室に戻ることがありました。 同室の青年に、一言くらい、挨拶しておくのが 気持ちが良いと感じたからです。]
(4) 2015/01/11(Sun) 16時頃
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[客室に、青年は居たでしょうか。]
この星で降りるんだったよな?
[軽く走ってきたのでしょう。 顔にかかった髪をじゃまくさそうに耳にかけながら、 エフは客室の中へ声をかけます。]
長旅、おつかれさん。 いや、挨拶くらいはしておこうかと思って。 よいお年を。
(*0) 2015/01/11(Sun) 16時頃
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[それから少し考えて]
ソファでばっかり寝てもらって、悪かったな。 おかげで安眠できちゃったもんで、 俺は船に乗る前より腰の具合がいいよ。
[とわらいました。]
たまには同室ってのも悪くない。 話し相手、ありがとう。
あ。 トリンクル人の演奏、どうだった?
[最後に感想などをきき、こたえて貰えたのなら、 「そうか」とひとつふたつ頷いて、もういちど、 お別れの挨拶をして「気をつけて帰れよ」と続けると 彼はラウンジに戻っていくようでした。]
(*1) 2015/01/11(Sun) 16時半頃
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[さて、今現在になって。 船がとれてほうっとしたエフは、背もたれに体の重みを預け、 ゆったりと息をつきました。 開いていた宇宙船の出航状況などの画面をいくつか閉じながら、 今しがた、ラウンジに入ってきた客に視線を向けました。 青色の揃った髪の女性です。 ブルー・フォレストで下りたシルクと会話をしていた人でしょう。
彼女はアイライトと視線を交わして、 なにやら照れながら微笑んでいます。]
(5) 2015/01/11(Sun) 16時半頃
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[さっきのことの気恥ずかしさから >>3 誤魔化すように、シガレットケースを取り出します。 船内で買ったタバコのカートリッジに取り替えて、 シアンのあかりを灯しました。
困り事が解決したら エフはアイライトに礼を言わねばならないと 思っていたのです。 ラウンジにあった沈黙に、ぽつんと名前を落とします。]
アイライトさん。
(6) 2015/01/11(Sun) 17時頃
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ここでの演奏…… あ。ラウンジに入るのには、間に合わなかったんですがね 扉を開く音で、邪魔するのも嫌だったんで 外で、聞いてました。
[それから、なんと感想を言ったものか、迷います。 アイライトの方を向くように座り直す間に、 あれこれ考えて、できるだけ、本当を伝えられるよう 言葉を選ぼうとします。 どうにも、飾り気がなくなってしまうのは性分でした。]
聞けて、よかったです。
(7) 2015/01/11(Sun) 17時頃
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…… 実は今年はもう里帰りはいいかと思って、 このまま、この船で仕事に戻るつもりでいたんです。
[煙をはいて、わらいます。 なにか、ばかばかしいことだと、 自分をわらったようでもありました。]
でも、扉の外できいてるうち 気が変わってしまって。
(8) 2015/01/11(Sun) 17時半頃
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故郷に戻ってみることにしました。 ……。 今年辿り着けるかは、分かりませんが。
[故郷へと帰ること。 それは、エフにとって、諦めかけた事のひとつでした。 そもそも、戻り方もわかっていないのです。 このラウンジに居るもうひとり>>3:28と 想いが似てしまったのは偶然でしょうか。 それとも、アイライトが選び奏でた音のせいでしょうか。]
多分最後の曲だと思います。俺が聞けたのは。 色々あって、それしか聞けなくて。
何て曲だったのか、教えて貰っても?
(9) 2015/01/11(Sun) 17時半頃
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[アイライトの周りにある光が、ぱちんと弾けます。 驚かせてしまったように見えました。 されど、トリンクル星人の文化や人柄 人の生態をよく知るわけでもありません。]
最初から最後まで聞きたかったです。 [ラウンジの中で、星空などが見えていたことは、 見ていませんから、音の話しかエフには出来ません。]
……いや。役立ったなんて、 そりゃとんでもないことです。 あなたの演奏は、俺には、……きっと、勿体無いものです。
[扉一枚隔てて聞くのが丁度いいと思ったほどです。 エフは自嘲して、ゆるく首をふりました。]
(13) 2015/01/11(Sun) 18時頃
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[スッキリしたみたいだと言われると、 エフはまた目尻に笑い皺をこさえます。]
そう見えますか。 ……いや。そうだろうと思います。
[また少し、言葉を選ぶように考えてから]
諦めかけていたことを 諦められなくされました。
[このように言って、 別に責めているわけではないと、付け加えました。]
(14) 2015/01/11(Sun) 18時半頃
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[曲のタイトルをきいて、エフはぽかんと口をあけました。 そうして、たまらなくなりました。 思い浮かべていたのは、自分の、昔の仲間たちなのです。 『英雄という言葉に相応しい』 そんな風にまで、思っているわけではありません。 そう思うほど、自惚れられてはいませんが、それでも 当時、己の信念に従い、自分達にもできる戦い方を…… そう思って仲間達としてきた事は、エフにとっては 小さなこととは、とても呼べませんでした。]
……そうですか。
[夢という言葉に、今度は、どうしようもなさを感じます。 何度、今現在の生活を、夢なのではないかと疑ったことでしょう。 それとは真逆に、自分は何かの妄想に取り憑かれ 昔の生活と思っているものこそ、ただの夢だったのではないかと そんな風に途方にくれることもありました。]
(15) 2015/01/11(Sun) 18時半頃
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[続けて、「いつかちゃんと」「もういちど」と 次の話をされて、エフは、言葉を失いました。
「いつか」「またいくかもしれないから」と ほんの数日前にシルクに対して気軽にかけていた言葉が、 まったく、口から出て来ようとしないのです。 それがエフには不思議でした。 同時に、ずっと待っていた事のようにも思えました。]
――、
(16) 2015/01/11(Sun) 19時頃
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なんだ……ちゃんと此処で聞ければ、よかった。
[人のための音とは思えぬような音で演奏をするその本人から 「もう一度」と言われて、エフは後悔をしました。 変なことを言う人だと思われようとも、きいてみたくなって、 エフは一言訊ねます。]
俺が、ちゃんと、もう一度きいても、 神様は許してくれると思いますか。
(17) 2015/01/11(Sun) 19時頃
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[アイライトの故郷の言葉を聞き、 タバコのけむりを、ゆるゆる吐きました。]
到達、できればいいんですが。
[彼にとっての『彼の地』は遥か彼方に、 とっくに終わりを迎えたはずのものでした。]
『諦めることを諦める』、そのとおりなんです。
あなたの音がきっかけで、 諦めきれることじゃないと思い知らされました。
いや、勿論、俺が勝手に思ったことに過ぎません。
(21) 2015/01/12(Mon) 00時半頃
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何を失くすことになるのか、 何を捨てることにするのか、 突きつけられたようでした。
[だからあの時、歯噛みするほど悔しく、 おそろしくて扉もあけられないほど、 胃の腑が凍えたのです。]
ひやっとしました。 ……だから、俺はあなたにお礼を言わないと。
(22) 2015/01/12(Mon) 00時半頃
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[エフはアイライトが質問に答えてくれるのを待ちました。 返ってきた返答は、思いもよらぬものでした。 エフは、驚きに、軽く目を見開き、 そのまっすぐな視線を、見つめ返しました。 そういう星があるのは、聞いていました。 けれど、目の当たりにすることは、そうありません。 人の百年に満たない一生などでは、出会い難い事件でした。]
(23) 2015/01/12(Mon) 01時半頃
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……、……
[あまりにも、大きなことでした。 星とともに滅びると決めた人々の決意が、想いが 一体いかなるものであるのか、 とても想像しきることはできません。 なにせエフがしてきたことは、昔も、昔の真似事を選んだ今も 逃げだすための手伝いばかり。 哀れみの言葉をかけて、どうなる事でもありません。 あんなにも、音楽をきいて、突きつけられた心地がした理由が わかった気がしました。 あれには、きっと、これから失くす人が奏でたことによる 悲しみが、寂しさが、篭っていたのでしょう。]
……あなたは、どうするんですか。
[そう、つい口をついて出ました。 それから、質問を打ち消すように、首をふりました。]
(24) 2015/01/12(Mon) 01時半頃
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じゃあ、
[ぽつんと、言います。]
(25) 2015/01/12(Mon) 01時半頃
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……いつか。
[『いつかちゃんともう一度演奏を聞きに来て』と アイライトが言ったことに、頷くことにしたのです。 エフがもつ言葉のなかで、返せる言葉は、これだけでした。 エフの帰りたい場所は、 今現在にも、つながっている場所なのですから。]
今の、さっきのお誘いへの返事です。
……俺の故郷ではじめて宇宙に出た人が 宇宙には見渡しても神は居なかったと、言ったらしいんです。
あなたの出す音をきいていたら、 いや……この船に乗っていたらかな。 どうにも、そのへんに居るように思えて。 「いつか」の時には、 神様はいたぜと、自慢でもしようと思います。
(26) 2015/01/12(Mon) 02時頃
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[それから、もう一人のラウンジにいた客へ、視線を向けました。 彼女の行き先を訊ねます。]
……俺はブルー・ダイヤモンドで降りるけど そっちの人はどこまで?
なあ。違ったらすまないんだが きみ、星の案内ができるって話を、してなかったか。 ……いや、よく通る声だったから。 ラウンジに居た時、聞こえちまって。
もしよければ 残りの星の案内を頼みたいんだけど。
[終わる星のことでも、星先案内人の故郷のことでも、 構いませんでした。 エフはこの船旅の終わりまで、星の話が聞きたくなったのです。 それが、残りすこしの、時間でも。**]
(27) 2015/01/12(Mon) 02時頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2015/01/12(Mon) 02時頃
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