237 それは午前2時の噺。
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助手席のドアが開く音で、浅い眠りから目を覚ました。 長時間の待機は30を過ぎた身体には応える。背中を伸ばすと骨が面白いように鳴った。大きな欠伸をして滲んだ目を擦るとカーナビに表示されている時間が見える。助手席に入ってきた女性は雑にレジ袋を置いた。
「まだ動かないんですか〜?」
レジ袋から眠気覚ましの栄養ドリンクを一気に飲み干すと、六掛紫乃は仕事帰りに一杯引っ掛けた中年のような声を漏らした。
「一條の件、凄い騒ぎになってますね」
あの日、斗都良町で起こった奇妙な事件。三割方が撮った写真と六掛の書いた記事によって一條聖司の悪事は世間へ暴かれた。調子に乗った六掛が二郎系ラーメン特盛並みに嘘を盛ってしまったため、結局三割方がまたも徹夜で改稿する羽目になったというオチ付きだが。 このスクープが発端となり、一條の横暴は次々と明るみに出た。先日とうとう一條は逮捕され、世間は大騒ぎとなっている。
(7) G.G. 2018/03/28(Wed) 21時頃
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「私たち、センテンススプリングキャノンなんて言われてますケド、どう思います?」
六掛はバックミラーを見ながら髪をかきあげて冷えピタをおでこに貼った。三割方は煙草に火をつけて、
「知るか。糞食らえだ」
煙と共に愚痴を吐いた。 六掛は助手席の窓を開け、コンビニで買ってきた雑誌を捲る。月刊マー。オカルトを中心に取り上げる月刊誌だ。背表紙には『怪奇!?斗都良町の停電!』と恐怖を煽るような赤いフォントで書かれている。
「お前まだこんなもん読んでるのか」 「いいじゃないですかぁ〜! 趣味なんですよ」 「オカルトなんて7割が嘘じゃねえか」 「あれ、2割下がってません?」
三割方は口を閉ざす。実体験を元に、少しだけオカルトを信じるようになってしまったと言ったらバカにされるに決まっている。
(8) G.G. 2018/03/28(Wed) 21時頃
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「あっ、来ましたよ!」
六掛は正面のフロントガラスを指差す。アタマツでお馴染みの人気のお天気アナウンサーが通りを横切った。 慌ててシートベルトを外し、カメラを片手にドアレバーに手をかける。
「……三割方さん!」
六掛が三割方を呼び止めた。振り返ると、六掛は澄んだ瞳で三割方をじっと見つめている。瀕死の三割方に寄り添っていた時と同じ瞳だ。
「私達の仕事って、意味があるんですよね?」
この歪んだ世界に生きるパパラッチ。 人のありのままを晒し上げ、ロクでも無いものをフィルムに収める。長時間の張り込み。でっちあげの記事。どこまでも腐った仕事だ。 だが、腐っても根っこはある。世間を出し抜きスクープを撮るのは、人が真実を求めるからだ。例えロクでも無いものだとしても。 彼等は褒められることも、讃えられることもなく、世間の罵声を浴びながらカメラに真実を追い求める日々を繰り返す。
「……三割は、な」
(9) G.G. 2018/03/28(Wed) 21時頃
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