158 Anotherday for "wolves"
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─ 宿屋 ─
[───かつて村の宿屋のカウンターの片隅には、 小さな花束と花の輪が掛けられていた]
『……おとうさん、はい!』
[明るい愛娘の声が、かつて響いた。 娘の手には、笑顔と同じに咲き誇って揺れる花束。 その傍らには黒髪のおとなしい少女がひとり。 はにかむような表情で、リボンのついた花輪を差し出していた。
お礼のつもりだったのだろうか。 それとも娘に付き合わされただけだっただろうか。
うちの子になってしまうかい?と、 戯れめかして半ば冗談のように口にしてより少し後のこと。 宿屋を出るより前に贈られたその小さな花束と花の輪を、 宿屋の主人は大切に、カウンターの片隅に置き続けた──*]
(215) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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─ 村にて ─
[男は、じっとその姿>>154を目で追っている。 少女が歯を食い縛るように涙を零しながら、暗闇を駆けている]
メアリー、
[愛娘の名を呼ぶ声は、風の音にもならぬ。 涙に向け差し出す指は、頬を撫ぜることもなく]
( …… …してるよ。)
[夜闇を行く赤いワンピースは、一輪のアネモネのよう。 生なき密やかな気配に、闇に沈む梢がざわりと鳴った*]
(216) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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─ 崖にて ─
[娘が”ひと”を喰らうところを、はじめて見た。 思えば自分も妻も”ひと”を喰らったことはない。
少し可笑しなものだと思った。 結局のところ、獣の仔は獣である。 ならば娘のこの姿は、とても自然な姿だということになる]
きちんと…聞いてやれば良かった、なあ。
[小さく零す、 それは娘がはじめて血の匂いをさせて来た時のこと。 父は結局、娘が何をしたのかを聞きはしなかった]
(217) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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[分かっていたのは、人間の娘と族長が死んだこと。 そして娘が己以外の血の匂いを纏って帰ってきたこと、それだけだ。 彼女が実際に誰をどう、何故殺したのかを生前知ることはなかった。
知りはしなかった。 ただ、とても怯えていた娘を守ってやりたいとだけ思っていた。 彼女が何をしでかし、何を間違えたのか知ることはなかった。 知ろうともしていなかった。
───知ろうとしていたならば、或いは。 別の道、別の未来があったのかも知れないけれど]
( ……いしてる。)
[闇に幻の如く、紅い花弁が舞い落ちる>>110]
(218) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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…───お前たちが生きる道ならば。
(*10) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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[何を血に染めても構わないのだ。 誰を──我が友を殺して、この心までも血に染めようとも。
あいしてる、あいしてる。 血に染まって一層赤く広がる、赤いワンピースの花。 キャサリンの好きだった花。 毒持つその花の花言葉は、───”君を愛す”、と>>4:222]
(219) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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グレッグ、
[囁いた音が、甥>>183に届いたかは分からない。 ぱくりと裂けた喉からは、かふりと空気が抜けたから。
構わず甥を後ろから抱きしめた。 いつか、この子を本当の息子と呼ぶ…夢を、見た。 もうずいぶんと昔の話のようだ]
…─── あ い してるよ 。
[お前を、お前たちを。 呪縛のようにずっとずっと…そう永遠に]
(*11) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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メアリー、大丈夫。…だいじょうぶ。
(傍にいるよ)
お前を愛してるよ。 私もグレッグもみんな…みぃんな。
(だからこれ以上の愛など──…あるはずが、ない)
あいして る よ───…
(幸せにおなり──…)
(220) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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─ 宿屋 ─
[かつて宿屋であったという小屋がある。 寂れて久しいその場所に、寄り付く村人はいない。
幽霊屋敷と呼ぶ者がある。 実際のところ、荒れ果てたその家の屋根は既に破れ、 朽ち果てた窓は崩れて傾いている。
立ち入る者とてないその小屋の奥、 かつてカウンターであったと思しき場所に枯れ草が在る。 辛うじてリボンだったかと思える布が、汚い草に絡み付いている。
───かさり。と、音がした。 床に落ちたかつての花を、風が静かに*吹き散らしていく*]
(221) dia 2015/05/27(Wed) 02時頃
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─ いつか ─
マーゴットを死なせたのは僕だと…言ったらどうする?
[鳶の双眸に、興がるような光を浮かべ。 男はくるりと振り返って琥珀の瞳を見つめた。 他の表情は慎重に今も消してある。 あの時>>2:+150と同じように]
正確には止めなかった…、かな。
[琥珀に憤りの色は浮かぶだろうか。 その矛先を逸らすかのように、ついと視線を上へと外す。 思い起こすように視線は暫し宙へと向いた]
(222) dia 2015/05/27(Wed) 03時頃
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”あの子”が彼女を殺すと言って、 あの子はそれを止めはしないで──…
……、メアリーには可哀そうだったけれども。
[一度、かすかに低く声は落ち]
(223) dia 2015/05/27(Wed) 03時頃
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…………。 マーゴットに票が入るなんて、おかしいと思わなかったか?
[く。と、唇の端が上がる。 視線は再び、旧い友へと向けられた。 冷たい刃を押し当てるように、薄く微笑む]
(224) dia 2015/05/27(Wed) 03時頃
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僕が入れた。…殺したんだよ、あの娘を。 止めることなく見殺しにした。 ”出来なかった”んじゃない、”しなかった”んだ。
…そう、かつての君のようにね。
(225) dia 2015/05/27(Wed) 03時頃
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どのみち、マーゴットは長く生きなかっただろう。 あの状況ではとても…、ね。 だから仕方なかったとは思っているが。
(227) dia 2015/05/27(Wed) 03時頃
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……だからね、スティーヴ、
[親しげに旧い名を呼び、男は笑みを深める]
(230) dia 2015/05/27(Wed) 03時頃
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─── おあいこさま。ということなのさ。
[笑みを零して、そっとそのまま目を*伏せた*]
(231) dia 2015/05/27(Wed) 03時頃
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