231 自由帳の中で、僕たちは。
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[――いつからだろうか。 生徒たちのおれを見る目が少しずつ変化していったのは。 嫌われることはままあるが、そういったものとは違う。 好奇の眼差しがおれを撫で回すようになった。
「三年の倉科りさと理科の淵ってデキてるらしいぜ。」
今でも覚えてる。 どこの誰だったか顔は覚えてないが おれに聞こえるように放たれた、その囁きを。]
(*4) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[あそこで掴みかかっていれば、どうなっていたんだろうな。 一瞬頭に血が昇って、拳を強く握ったことは覚えている。
それでもおれは、何も謂えなかった。
何も、謂わなかった。
今おれがキレて手を上げて何の得がある? おれは職を失うだろうし、あいつにも迷惑しかかからない。 あいつには将来がある。 おれにはそれを守る義務がある。
大人だから。 教師だから。
言い訳ばかりを並べて、おれは。 認めることから逃げたんだ。]
(*5) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[三年の卒業は程なくして訪れた。 あいつは最後の日も花壇を弄ってた。
いつもと同じような会話をした。 何もなかったかのように話してた。 けれど突然思いもよらない言葉があって。]
「淵先生は何がすきですか?」
[わかってた。 その言葉は「おれがすきだ」と謂っていたことも。 その言葉は「おれにすきだ」と謂ってほしかったってことも。]
(*6) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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「……甘いもん、辛いもん、かな。 なんでそんなこときくんだ?」
「小さなことでも、すきなものをすきっていえるのって しあわせだと、おもうから。」
「じゃあ、お前は何がすきなんだ?」
「わたしは、……お花かな。」
(*7) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[会話をしたのはそれが最後だ。 卒業証書を抱えて、大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて あいつは高校を卒業した。
おれは校門を出ていくあいつを 見えなくなるまで、消えるまで 理科準備室から見ていた。
気付けばおれは、眉間に皺を刻んでいた。
もう、単純に笑うことなんて出来なかったし でも、泣くことさえ許せなかった。
そして厄介ものを払うようにおれは転勤が決まり 男子校なら変な間違いも起こさないだろうと この杏琵高校に赴任させられた。
今は―――*]
(*8) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[友田から返って来たメール。「応援してる」「ありがとう」という一往復で終わるつもりで読み進めていたら、最後の一文で指が止まる。]
…………。
[もし、だめだったら。
…………これくらいなら、これくらいならいいんじゃないだろうか。 もしもの話だ。もしもの。]
(133) azure777 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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── 卒業式の後で ──
[染め直した黒髪も馴染んできた 違和感があるといじられることも無くなって久しく ついにこの日を迎えることとなった。
希望していた大学への進学は決まり 卒業後は一人暮らしをする。 これからどうなるかは分からないけれど 今のところは思った通りに進んでいけている。
皆の輪から抜け出して向かったのは図書館 もう訪れることはないこの場所へ 最後にもう一度だけ行っておきたかった。
いつもの位置で、それは待っていた。]
(134) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[紙の感触を指に感じながら一つ一つと捲る 数日の空白を置いて受験の合間も通い続けた 名も知らない誰かの書き込みは皆思い出だ。
自分は一人きりで異物だと思い込んでいた頃 無理をして笑うこともせず繕わない言葉を書ける そんなこのノートが救いになっていた。
印象に残らないようなことばかり書き込んで 他人のことを気にして、羨んで “ライ”には個性なんて無かったのだけれど それが本当の自分なのだと思う。]
(135) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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頑張ってみようと思うよ
礼
(136) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[最後の書き込みは隅を選ばず 少しだけ、いつもより大きな文字。 自分のやりたいことが見つけられたのならば 個性も手に入れられる、のかもしれない。
背を向ける前になんとなく、頭を下げて 名残惜しい心地を抑え踵を返す。 スマフォを取り出して慣れた相手へメールを送った。]
(137) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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── 指導室 ──
[落ち合ったのは扉の前か中か。 何にしても誰かに目撃されることも無く 今こうして二人きりで対面している。
友達や後輩との同じ高校の生徒としての時間 それも惜しいものだが、充分に話すことが出来た。 少しの間でもいいからと この部屋で、この人と最後に過ごしたくて。]
もうここに来ることが無いなんて 本当……信じられないなぁ。
[窓辺から眺める景色に雪はもう見当たらない 初めて訪れた時と重なる春の風景が覗いていた。]
(138) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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あっ、よっしー的にはむしろ オレが何事もなく卒業したことが信じられなかったり?
[振り返り、おどけてみせれば反応はどうだったか それ以上は何も言わず、静かに歩み寄る。 こうしていると何も変わっていないみたいで 明日もまたこの校舎に来て、指導室に呼ばれるような。 そんな気すらしてくるけれど、オレはここから去るんだ。 去年あの人がそうしたように。]
(139) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[自分のせいで不幸になりもう会えなくなってしまった先輩 彼の姿が、最後の言葉が脳裏を過ぎって。
……一瞬、ほんの一瞬だけ 足がすくみ動けなくなってしまった。]
(140) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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美人の先生や可愛い生徒が新しく来ても ──目移り、しないで?
[僅かな時間、相手を見つめた後そう口にし 相変わらず血色の悪い頬に手を添えて唇を重ねる。 最中、密かに相手の懐にシルバーピアスを忍ばせた。
それはオレなりの選択と ちょっとした子供の独占欲の表れ。]
(141) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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これからも傍にいてね、佳徹。
[卒業証書を抱え、笑いかけた。
高校を去り、教師と生徒では無くなった後 二人の関係はどう変わっていくだろうか。 過去を無理に忘れる必要は無い けれど、今隣にいてくれる人がいる。 どんなことがあっても、想い合ったままでいられたら。 それをきっと幸せと呼ぶのだろう。]*
(142) August 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[返ってきたメールを見る。 ダメだったら、のその先が見えた。
う、うぐ………
言葉に詰まる。開きたい。いやでも、血迷うな血迷うな………。深呼吸した。]
…………
[なやみ、なやみ、ぽち、ぽち………。]
(143) soba 2017/12/30(Sat) 00時頃
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[友田からの返信を読む。俺はちゃんと問題のない文を書けていたようだ。 ふうと息をついて、スマートフォンの画面をスリープさせる。
友田の第一志望については、合格発表まで考えないようにしようと思った。 言霊なんて話があるが、考えるだけでも悪いことをしている気持ちになる。
卒業までの間、図書館でまだ読んでいない本をひたすら読み漁ろう。そうして ……暗い気持ちには蓋をしておこう。そう、俺は思った。*]
(144) azure777 2017/12/30(Sat) 00時半頃
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―卒業式・図書館―
[おれは自由帳のページを捲る。 冬休み中にも書き込みがあったり、なかったり。 あれから書き込みも少しずつ減った。
『ひかり、あれ』
その書き込みにはどこか心救われた所もあって。
字の綺麗な書き込みも。 ライの小さな書き込みも。 土岐の短歌の書き込みも。 トーコの可愛い字の書き込みも。 ささみの天気予報の書き込みも。 Rの可愛いイラストの書き込みも。
これらは“F”のなかで 小さな沢山の思い出のひとつになる。]
(145) anbito 2017/12/30(Sat) 00時半頃
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[悲しきかな、おれはまだ最後の書き込み(>>136)よりも前にいて ああ、自分の受け持ちのクラスのあれやこれや。 卒業式ってのはどうにも忙しい。 何も書き込めないまま、図書館を後にした。
長い式典が始まり、終わる。 ジェニファー先生なんか横で泣きまくっていて おれのポケットティッシュまでひったくっていった。 まあそれだけ感動的なものなのだろう。 涙こそしないが、それはよくわかる。
こんなでも、十年近く ここで“先生”やってますから。
やがてどのくらいしてか あまり鳴らないスマホが鳴った。 確認すれば『礼留』の文字。 “いつもの場所”へ、足を向けた。]
(146) anbito 2017/12/30(Sat) 00時半頃
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―指導室―
[向かった頃には先にあいつがいて、中にはいった。 今日は暖房をガンガンにたかなくてもいいほど暖かい。 二人きりの室内は始めは静かで、 ぽつりと落ちた言葉が感慨深そうに、 春に融ける雪のように、響いた。]
そうなぁ。 入学してきたのなんか、ついこないだだったのにな?
[春の頃を思い出す。 その頃はまだ今よりも幼く、背も今ほどではなくて。 ただ、見慣れてきた今の黒髪よりも明るすぎる頭髪と 耳に光る金属が原因でこの部屋に呼び出したのが始まりか。 突然『よっしー』なんて呼んできたやつは初めてで。 顔も怖いおれに、そんなずけずけと物言いするやつは珍しかった。 それもあって、すぐに名前は覚えた。 礼(人の踏み行うべき道)に留(とどまる)。 いい名前だな、とは謂わなかったけれど。]
(147) anbito 2017/12/30(Sat) 00時半頃
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信じられんってことはないが。 ―――いや、うそ、信じられんな。
[おどけたように告げる言葉には、同じように返した。 過去、この部屋で見せていたような 顔面硬直したような表情は、もう、ない。
例えこいつが。 あいつと同じように、学校を卒業しても。 おれがこの背を見送っても。 その先に道(レール)は続いていて。
今度は立ち止まらずに 歩いていこうって、思う。]
(148) anbito 2017/12/30(Sat) 00時半頃
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お前より可愛いのがどこにいるんだよ。
[最大級の惚気だと思う――おれにしては。 冗談ともとれるし、そうでもない言葉を返し 重なるのは温かな掌と唇。 忍ばされた銀に気づくのは、もう少し後の話。]
(149) anbito 2017/12/30(Sat) 00時半頃
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[卒業証書を抱え、笑いかける礼留。
高校を去り、教師と生徒では無くなった後 おれたち関係は――きっとかわらない。 あいつが泣いた夜から、おれが救われた時から だから、今目の前で笑ってくれるこいつがいる。 どんなことがあっても、一緒に歩いていけたなら。 それを幸せと呼ばずして、なんと呼ぶんだろう*]
(150) anbito 2017/12/30(Sat) 00時半頃
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[気合を入れ直さないと。 そう思う。 そう思ったのに、……。
メールの文面を見返した。 本当に、うつつを抜かしてる場合じゃないのに。
これが恋なら本当に今までのは何だったんだ。 未だに連絡が来る元カノ・現友人とは良好な関係が築けそうだけど。
―――…、…]
がんばるかぁ。
[ぽつりと呟いて、机に向かう。 どういう結果になろうとも、これのせいだった、なんて言わないくらいに気合はいれよう。出ないと後悔する気がするから。 がんばるから、せめて滑り止めはもう一ランクあげたらいいのに、という言葉くらいは無視させてほしい。*]
(151) soba 2017/12/30(Sat) 01時頃
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ラルフは、ナナオにありがとうもふもふ。
keito 2017/12/30(Sat) 01時頃
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―招待状―
[あれから少したった頃だ。 学校におれ宛で、個人名の封筒が送られてきた。
真っ白で、華やかに装飾のあしらわれた、それ。]
(152) anbito 2017/12/30(Sat) 01時頃
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淵佳徹 様
お久しぶりです、元気にしておられますか? 突然のお手紙、ごめんなさい。 どうしてもあなたにはご連絡をしたくて 学校の先生方に無理を言って、お手紙を送らせて頂きました。
あれから沢山の日がたちました。 私は夢だった、お花の仕事についています。
今度、結婚します。
その前にどうしても、あなたに伝えておきたくて。 迷惑かも知れないけど、迷惑だったかも知れないけど。
私は、あなたのことが
すきでした。
(153) anbito 2017/12/30(Sat) 01時頃
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私には、すきだといえる人が出来ました。
あなたはどうですか?
あなたは自分を犠牲にして 大切なひとも、大切なものも、 泣きながら切り捨ててしまう人だから とても、とても心配です。
(154) anbito 2017/12/30(Sat) 01時頃
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[式に来てほしい、という旨と共に招待状が入っていた。 名を見れば『倉科りさ』の文字。 ああ、もうその苗字もかわってしまうようだ。
ふっと、作り物でもなんでもない笑みが落ちる。 驚くぐらい、ショックを感じなくて。 むしろ心地よいくらいの想いで満たされている。
それもこれも―――]
伝えねぇとなぁ。 おれも『すきだった』って。
―――『すきだといえる人ができた』って。
[招待状の出席に丸をつけながら。 そんなことを、呟いた**]
(155) anbito 2017/12/30(Sat) 01時頃
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― 卒業式 ―
[参加しながら、色々あったなあ、とぼんやり思う。
入江や佐藤、他の友人の名が呼ばれた時には壇上に視線をあげた。 入江は髪を染めなおしていて、友人間ではやし立てたものだ。 変わっていく様子は嬉しくて、やっぱりちょっと寂しかった。
おわっていく。高校生活が。 おわっていく。変わらない日々が。
いや、もう、とっくに変わってしまっていたんだけど。
皆も、そしてきっと、俺も。
かわるものや、かわらないもの。 それぞれたくさんあるんだろうと思う。
でも、大事なモノくらいは、変わらないものであってほしい。と言うのはワガママなんだろうか。]
(156) soba 2017/12/30(Sat) 01時頃
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[皆が解散した後に、図書館へ行く。 すっかり仲良くなってしまった浅見先生に、最後のお礼も兼ねて。
まさかいるとは思わなかったけど、 卒業式後に図書館に来る人間は割といるらしい。 ふうん、と呟きながら。もしかして、今のはあのノートに纏わる話の一つなんだろうか。]
あのささみさんって、 あさみせんせだと思ってたんだよなぁ。
[違ったみたいだけど、と付け加えて。 あのノートってどんな人が使ってたの?とか、緩やかな雑談も。]
(157) soba 2017/12/30(Sat) 01時頃
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