270 「 」に至る病
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[研究室に立ち寄る。 白薔薇が枯れていないかを確認してから 授業用のテキストを持ち、出て行こうとして 古い名簿に挟まれた一つの新聞記事を見る。
20数年前の記事だ。]
(148) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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『キング・ストリートで事故 ――5名が死傷
XX日20時頃、キング・ストリートで20代の若い女性を含めた4名が自動車に跳ねられ死亡。運転手も意識不明の重態。”車両が1人の女性を跳ね、動転した運転手がはずみで他の通行者も巻き込んだ”との証言が得られている。当時あたりは雨が降っており……』
(149) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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[被害者の実名に目を滑らせる前に、 セイルズは名簿を閉じる。]
[頬をべたつく甘い匂いが這った。 苺ジャムにも似た質感。塊。 おいしいでしょう? ――そうわらった妻の顔が忘れられない。]
(150) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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("You'll never ever, never ever, never be happy without me !)
(151) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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[記憶の中の妻の顔がミルフィのそれと重なる。 首を横に振った。
セイルズは血の気が引いた頬をいくらか己で叩いてから、 大学に入りたての生徒たちが待つ教室へ向かった。]
(152) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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炉の番 チトフは、メモを貼った。
2019/10/09(Wed) 00時半頃
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―― 講義 ――
[板書はそこそこに、 プリント中心で講義を進める吸血鬼教授の授業は、 ノートを文字で埋めなくて良いので楽だ、という声がある。 その代わり――レポートはかなりの量を誇っているが。]
(153) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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――このように、帝国の皇帝たちというのは 単なる世襲でもなく僭主でもなく、 信任された代表者として存在した。 今の国家と少し似ているね。
だが当時は暗君に対してもっと辛らつだった。 一切の存在を無かったこととして 遺したあらゆる痕跡を抹消する―― ダムナティオ・メモリアエ、記憶の破壊、と言ってね。 貨幣から銅像まで、 全て壊されたり削り取られた皇帝もいたんだ。
(154) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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――……今日はそうして歴史から葬られた皇帝の ”名前を削られた”硬貨を持ってきました。
前から回していくから、見てみて欲しい。 おっと、それなりに貴重だからなくさないでおくれよ。
[セイルズはそう言って両端の生徒に硬貨を手渡す。 青色の錆びた硬貨は兵士の横顔が刻まれている。 その周囲にあるはずの名前は、削り取られている。]
(155) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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共同統治を行っていた皇帝なんだが 権力に溺れてね。 家族――姉妹、母、娘を娶っただとか 苛烈な信者がいた、だとか 吸血鬼だったという話まである。 現物はないが、当時の彼の家族を描いた肖像画は 彼だけが削り落とされている ――プリントに印刷したようにね。 [授業の始まる前に生徒たちに渡したプリントを示しては、 セイルズは「余談はこれくらいにして」と言葉を続ける。]
(156) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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さて、 決して磐石の地位を築いていたとはいえない彼らだが 歴史に暗君がいるならば名君も必ずいる。 長話で眠くなってきただろうから 初歩的なことに立ち返ろう。
賢帝として有名な五人を当ててもらおうか――
[そう言ってセイルズはちらりと教室内を見渡す。 ミルフィと目が合うことはあったか、なかったか 目が合ったものから答えを言わされていったことだろう**]
(157) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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眷属の進行度合いを把握しておくための案内書類だ。
一定の基準で選考されて、 お互いの眷属を御使いに出し合う。
[彼が大人しく誘われてくれれば、子供を慰めるように白衣の襟を摘まんで彼を懐に招いた。日も高い、空腹も未だ遠い。理性的に振る舞えると自らを鼓舞しつつ。]
―――…自分にも眷属が居れば、 邪険にしないって話なんだろうが。
フェルゼは初回だから、 ある程度人柄も選考されているんだろうな。 ウォルフォード教授にアポを取っているらしい。
[己の母校でもあるリンディン大学のプロフェッサー。
自身も大学にいた頃、講義を受けたことがある。 進んだ分野は違えど、彼の論文は造詣が深い。]
(158) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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教授が覚えているか分からないが、 教育者として印象深い人だったよ。
たしか、妻帯者だったはずだ。
[遥か昔の記憶を掘り起こす。 在学中に聞いたのか、卒業後に聞いたのかすら曖昧だったが、同じ吸血鬼であるのに。と、無意識の偏見を過ぎらせたのを覚えている。己なら絶対に選ばぬ道だ。
学業を修めた後すぐ郊外で開業した身は訃音も遠く。 更新止まった記憶が照会を終える。]
(159) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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夫人の名前は、クラリッサ女史だったかな。
[吸血鬼は眷属を持つべきではない。と言う偏った理念を持つものの、他人の不幸を喜ぶほど下種ではない。
何か奇跡が起きて、或いは愛の力で。 円満な夫婦関係を続けているのだと、彼の名が案内に綴られていた故に信じた。安易に。
――― それを模倣できるとは、欠片も思わないが。]
(160) 2019/10/09(Wed) 00時半頃
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彼の論文が読みたいなら、 リンディン大学のアーカイブにアクセスしてみると良い。
[指先が彼の機嫌をとるように銀糸に触れる。 蟀谷に掛かる柔らかさを払い。
己には到達し難い領域だとしても、 安定したモデルケースを見るのは意味のあることだ。 少なくとも、死別の先を考えるより有意義なはず。
――― 例外はないと、知っている心算だったのに。**]
(161) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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[手紙を眺めること、しばらく。]
……あ。もうこんな時間か。
[出掛ける前、聞いていた帰りより少し遅い。 そこでようやく、文明の利器であるスマホの存在を思い出す。仕方ない、取りにいくか。
渋々立ち上がれば、玄関の開く音がして。>>113 吠えるソラの声に振り返った時には、伸びてきた太い腕に捕まっていた。]
──うわっ、 なんだ!?
[ずれた眼鏡が痛い。 少しぼやけた視界の中、苦しさに腕をべしべし叩き。 ようやくできた少しの隙間から、ぷは、と息を吸い込んだけど。 抱きしめる腕はまだ、強いまま。]
(162) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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うっ……スマホは……、 今思い出して取りにいこうと、思ったところで。
[なんだろう。様子が、いつもと違う。]
(163) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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[仄かな花の匂いと、汗のにおいが混ざって鼻先を掠め。 うっすら痕の残る首筋に、こくり、と思わず唾を飲みこんだ。]
……、蒼佑?
[刺激される食欲と同時に。 そわり、と言いようのない感覚が首裏を這う。 予感と不安がないまぜになったようなそれに、戸惑いながら。]
蒼佑。くるしい。
[蜜の味に慣れた喉が、疼く。 でも決め事が頭を過ぎれば、咬むのは躊躇われて。 小さく首を振れば押し付けられた肩口に、額をすりつけた。*]
(164) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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あー、ん [独特の香りが近づけば唇を開き>>97 舌の上に風味が乗ればまた閉じて、 ころころと暫くは転がして遊ぶ そうしながら、己を支える彼女の首に両腕を回し] うん、美味しい [もにもにと上顎を使って咀嚼する ――まだ、“味わっている”段階で“食べて”はいない]
(165) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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だけどやっぱり臭いわね [常人にも感じ得る臭みかどうかは定かではないが しかし、唇が浮かべたのは喜色の笑み]
(166) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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山師 グスタフは、メモを貼った。
2019/10/09(Wed) 01時頃
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んん、そう、 急ぎじゃないなら いいわ [返ってきた問いに答えるのは>>98 すっかりとお楽しみを嚥下してしまってから まだ口腔内に残る娯楽の残骸を愉しんでいる最中] [――ようやく、女は長いまつげが彩る瞼を開く]
(167) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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[両手を彼女の頬へと] それより…… [輪郭を辿るように指を滑らせ 顔を近づける 完全に見えていないわけじゃない これだけ近づけば、あなたの顔も見えるわ ――それは、初めての夜に教えた]
(168) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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[彼女の瞳の色 眉の角度 鼻先のかたち 唇の紅さ ] [視線とともに辿る指先も徐々に下へ ――旧い噛み痕もまだ真新しい噛み痕も残る、 胸元で留まる]
(169) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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[たっぷりと見つめてから] やっぱり、今読んで? [急に顔を上げて、目を細める] [完全に見えていないわけじゃない 手紙の送り主がどこか――それくらいは把握している 急ぎじゃないならどうでもいいのは、本心 けれど彼女が勿体つけたものだから こちらも勿体つけておきたくなってしまうじゃない?*]
(170) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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― 眷属になった日―
[ わたしをあげる”
今思えば結婚の申し込みにも良く似た文字の羅列。 けれど、あの時の私はそんな事も頭になくて
君の寂しいが、悲しいが どこかへとんでいけばって
そればっかりで ]
(171) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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[ ―――計画通り? 兎は、罠に堕ちた事すら 知らない。 ]
(172) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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……私と、一緒に生きて。
[家族は還らない。 本当の家族は、もういないけれど
新しい「大切」を護るためなら
きみが わらってくれるなら
ねえ、きっと、怖くない]
[ベッドの中、見つめ合って 眷属になる儀式がいま、始まる]
(173) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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痛いの? わ、わかった。 ……覚悟、する
[血を飲むって事は どこかから血を流さなければならない。 血を流すって事は、傷をつけなきゃ流れない。
傷つくって事は、痛い。 どうやって傷つけるの? 首筋に触れる手。 少し不安げに赤色のふたつが揺れて見つめ
ぎゅっと、シーツを握りしめた]
(174) 2019/10/09(Wed) 01時頃
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……ひぁ……んっ
[首筋に突き立てられた牙に 揺れていた瞳から一筋が流れ落ちれば
堪えきれずに、その小さな身体にしがみ付く。
その刺激は、痛みは
何物にも代えがたいほどに、
酷く、甘く。
それがどれほどの時間が経っていたか 私には解らない。
少しだけ零れた血が、シーツに小さな赤い染みを創る。]
(175) 2019/10/09(Wed) 01時半頃
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……私、これで
なれ、た?
[頭がふわふわするのは、きっと血を抜かれたから? ぼんやりする意識の中、落ちそうになる瞼はそのままに。
抱きしめたのか、抱きしめられたのか。 初めての夜の帳は落ちていく]
(176) 2019/10/09(Wed) 01時半頃
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[開けられた口が空気しか吸い込まないのに眉根を寄せる。>>162 早くこの胸のぐるぐるした気持ちを捨ててしまわないと、気が狂ってしまいそうだ。 苦しいのは此方もだ。>>164 この苦しさを、彼だけが取り除ける。]
……今の時間なら、誤差の範囲じゃねぇの、
[アオはとても行儀のよい吸血鬼だ。 定期的に自分を摂取するが、それ以外の時間に決して求めては来ない。 鼻先に肌を触れさせても、むずがるように額が動くばかりで、犬歯の気配はない。]
(177) 2019/10/09(Wed) 01時半頃
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