158 Anotherday for "wolves"
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[ふつり、と手首につけたひもを解いて、 そっと幾多の戦場を潜り抜けてきた掌に置く。 のこされるのは内側で鈍く燃える赤い石。]
持ってなさい。
[有無を言わさず、持たせる。 村医者は踵を返し、歩きだす。
ラディスラヴァを見つけたのは、その後の事*]
(209) 2015/05/16(Sat) 12時半頃
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― 昔々、子供の頃 ―
[黒い森が木の葉をばさばさと飛ばす。 カラスが、醜い声をあげて曇天の中飛び去っていった。
静かに佇む石造りの屋敷。 そこの主人は威厳ある人望厚き男。 日に日に、勤めるメイドの顔ぶれが変わると 噂になりだしたのはいったい、いつ頃だっただろうか。
あるとき冗談めかして少年は言った。 「屋敷でメイドを調理してるんじゃないか? だからあんなにカラスが多いんだよ! 墓場みたいに!」
[けらけらと子供だった医者見習いは笑う。 子供にとっては不気味な話もオモチャのようなものだ。
それを「笑えない冗談だ」と窘めたのは、 友人の誰だっただろう。 すぐにその冗談をやめたが。]
(248) 2015/05/16(Sat) 21時頃
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「……?」
[――ふと、視線を感じ、そちらを見る。 女がこちらを凝視していた。]
[ 数日後。]
[館の主と、女が起こした争いを、 そして追い込まれ、村の外れへ移り住んだ女の姿を。 少年はただ、じっと見ていた。>>2:571]
[ 村の皆は、彼女を嘘つき呼ばわりしていたが。]
(「何故、あの屋敷の主人は出て行ったんだろう」) (「あの視線の意味は?」) (「ひょっとしたら……」「ひょっとして?」)
[そう思いながらも、頭でっかちな少年は 真相を尋ねることもできずに 月日は流れ――。*]
(249) 2015/05/16(Sat) 21時頃
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― 墓場にて ―
[痛い、とは一体「どっち」なのか。 きっと、どっちもだ。
揺らめくように振りかえる彼女の 土にまみれ、汗の滲んだ服、掌 どろどろの姿は、まさしく 心の惨状までもあらわしているように見えた]
[そんな彼女にマーゴットの「死」を告げる。 昏い瞳は、「信じられない」と言った風の ラディスラヴァを見つめた。
喉が震えている。唇から零れる息が震えている。 今にも泣き出しそうで、 声がなくともその沈黙が意味するところを、 男は悟っていた。]
(317) 2015/05/17(Sun) 00時半頃
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[それでも、伸ばした手が 彼女の自身の首を絞めなかった事に、 少しだけほっとした。]
[カイドがラディに話しかける。 その様子を見ていたなら、 手伝うべきとは知れただろうか。]
[彼らの間にどれほどやりとりがあったやら。 動き出そうとして、ラディの視線が動くと つられるようにしてそちらをみた。
先ほど振りのジョスランの姿。猫を抱いている。 何だか、よく動物と一緒にいる男だと思った。 ふと、彼の手伝い先を思い出す。]
(318) 2015/05/17(Sun) 01時頃
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なあ、ジョスラン。 レオは見てないかい? あまり姿を見ないものだから。
[と、少し不安になりながら問いかけた。 少年だった頃を思い出して、 ルパートの処刑を、 レオナルドはどう思ったのだろう、と ――そんなことを、思った。]
(320) 2015/05/17(Sun) 01時頃
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[ジョスランの答えに、眉根に皺が寄る。]
そうだなあ。……少し心配というか。
[久しぶりに会った時 日光に溶けそうだと 冗談を言っていた彼は 今も本に埋もれているのだろうか。 「後で」という言葉には、勿論だ、と頷く。]
先ずは埋葬をしなくては。
[手伝って貰えるというなら話は早いもの。 話もそこそこに、村医者もまず三つの遺体を 埋葬する仕事にとりかかろうとする。>>325]
(334) 2015/05/17(Sun) 01時半頃
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[― 少し前の事。]
[伸ばされたのは冷たい掌だった。]
[それが己の手にふれようとするのを察し、 一旦は手を引っ込めようと、ふるりと手を震わせる。]
[掴まれ、渡された言葉を理解すると、
静かに頷いてみせた。>>331]
(342) 2015/05/17(Sun) 01時半頃
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>>343 いや……あいつ、一応僕より若いからなあ ないとは思いたいんだが
[ぎっくり腰。本当にそんなだったら脱力する。 いや、むしろ死んではいないということで 喜んでいいのだろうか。 小さく浮かび上がる疑念は、今は消去した。
続いた言葉は遺体を並べ埋葬する事を 訝しがるようだった。]
死んでしまえば皆平等さ。 それに、改めて墓穴掘りなおすのも辛いだろう。
――ああ、一人分足りないな。 マーゴットの遺体は…
[墓地を見るが、誰かに運び出された気配はなく]
(350) 2015/05/17(Sun) 02時頃
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まだ自宅なら運ぶ必要がある か……? ちょっと行ってくる。
[は、と漏れた息は疲労の色濃く。 彼女を自宅に放置しておいても腐るだけだ。 墓場の面々に断りをいれて、 彼女を運ぶため、 殺された現場を見る為に 一時その場を離れただろう。
再度戻った時には、 首の皮一枚で胴と繋がった彼女をつれて。
――そうして、粛々と埋葬は執り行われる。 視界の端揺れた花々。 キャサリンの墓を一瞬、 眩しげに見て、目をそらした。*]
(352) 2015/05/17(Sun) 02時頃
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― 幕間 ―
[ ――それはまるで眠り姫のように見えた。 ベッドの上で波打つ黒髪。 閉じられた瞼に、長い睫。
それだけに 生気を失い白い頬に、青くなった唇が―― もっといえば、噛み切られたのか何なのか、 皮一枚で繋がる首が。
その死体を一層、グロテスクなものにしていた。]
……マーゴット……。
[呼んでももう、答が返ることはない。] [「せんせい」と呼ばれることもないだろう。]
(360) 2015/05/17(Sun) 02時半頃
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[相も変わらず、犯人が何人いるのかはわからない。
――視界に銀色が映りこんだ気がした。]
これは……?
[――噫、昨日彼女がつけていた銀の薔薇の。 メアリーに貰ったといっていた。 ……何故ここにあるのだろう。 誰かが死んだ彼女に握らせたのだろうか。]
( ……一緒に埋めるべきだろうか…… )
[悩んで、それでも運ぶときに零れてしまうからと 一旦はその薔薇をローブのポケットへと。
そして彼女を連れていく。*]
(365) 2015/05/17(Sun) 02時半頃
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……本に埋もれて死ぬなよって、伝えといてくれ
[一区切りついたころ、 向かうジョスランにそんな伝言を頼んだ。]
[そしてまた、薔薇の花を見て考える。 少し気になる事がある。 それが終わってから、そっと墓標に添えよう。
誰かがマーゴットのために 握らせたものならすまないと考えながらも、 銀の薔薇は埋められず、 村医者のローブのポケットに入ったまま。]
――祈りを。
[四人が安らかに眠れますようにと、
見上げた空は、どこまでも高く――。*]
(370) 2015/05/17(Sun) 03時頃
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