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270 「  」に至る病

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【人】 山師 グスタフ

 ― 医者の耽溺 ―

[彼と己の関係が、不安定だが正常だったものから、
 安定した異常なものへと変質しても、然程大事はなかった。

 長期休診を経た診療所を再び開けて、彼を助手にして。
 相変わらず、死にゆく人々を見送った。

 
 変わったのは水面下。
 
 
 彼が刃物を持ち出す前に、
 自主的に血を求めるようになった。

 仰々しく首筋に穴を空けるのではなくて、
 彼の指腹に自身の口腔を探らせ、一口分だけ鮮血を啜る。
 潤う熱い粘膜で包み、爪と指の間も舐め濡らし。]

(89) momoten 2019/10/17(Thu) 22時頃

【人】 山師 グスタフ

[そうして唯々諾々と血を得る己は、
 きっと彼の執着を満たした筈だ。

 なにせ、これまで拒み続けたお堅い男が陥落したのだ。
 人並みのプライドを持つなら愉悦も得るだろう。

 だが、血を得れば得るほどに病は進行する。
 
 一度目よりも二度目、二度目よりも三度目。
 朝に限らず夕に限らず、彼が指を差し出せば、
 パブロフの犬のように咥えても、依存には限界がない。

 ――― 眷属の依存が進行すると、
 当然、死の可能性も高まってくる。

 眷属の依存は吸血で進むが、
 依存を慰めるのもまた吸血であるから、
 己が煽られ、少し踏み外すだけで彼は容易く死に至る。]

(90) momoten 2019/10/17(Thu) 22時半頃

【人】 山師 グスタフ

[故に―――、吸血行為以外に、彼の執着を慰め、
 安寧を齎す行為が、彼と己には必要であった。


 無論、医者である己は、
 どんな行為が眷属の安堵に繋がるか、知っていた。
 知っていて、この段階まで、彼を連れてきたのだ。]

(91) momoten 2019/10/17(Thu) 22時半頃

【人】 山師 グスタフ


 どうだ、フェルゼ。
 この間よりもマシになったか?

[次の診察まで30分。
 卓上にはカルテが並び、本日の予定が開かれている。

 だが、来院の合間で勤しむのは事務処理ではない。
 此処最近―― 正しくは指が差しされる折 ――、
 繰り返してきた行為を、今日もまた彼に施していた。

 二人分の自重を支えるドクターチェア。
 膝に乗せるのは自身が生かす唯一の眷属。

 乱れを知らない己と、下衣を寛げられた彼。
 囁く声で問う医者は、触診めいて指を動かした。


 ぐる、り、と彼の濡らした隘路を攪拌しながら。]

(92) momoten 2019/10/17(Thu) 22時半頃

【人】 山師 グスタフ

[初めて彼を貫いて以来、彼を暴くのは指ばかり。
 最初の頃は一本だけ、今は二本。

 吸血の代替え行為というには不埒だが、
 彼の不安と思考を塗り潰す役には立つ。

 ――― 彼がこの刺激に馴致し、
 次のステージを望むまではまだ。]

 ………、

[そっと指を伸ばせば、覚えた前立腺を左右から挟み、
 己が大人にしてしまった眷属を労わろうか。

 乾く咽喉を堪え、沢山の言い訳を集めて。*]

(93) momoten 2019/10/17(Thu) 22時半頃

【人】 山師 グスタフ

[彼と薄氷を踏み出してからどれ程の時が流れたか。
 気が遠くなるような未来ではなかった気がする。
 諦めた後の日常は曖昧だ。
 記憶に鮮烈に残っているのは彼のことだけ。

 自身の生活は徐々にではあるが、
 人々の終末を支援するのでなく、
 白き眷属と最期の時を迎える準備に使われた。
 ――とは言え、何かを備えたりした訳じゃない。

 朝から淫交に走ったり、食事を手ずから与えたり、
 体中にキスと噛み跡を残したり、愛したりした。

 それでも歪みは止められない。寧ろ一気に加速した。
 僅かに離れるだけで彼の情緒が乱れるようになれば、満を持して診療所を閉めた。そこまでいくと、もう未練はなかった。

 それからは毎日彼を抱いていたように思う。
 体温を恋しがる彼を慰めて、依存に堕ちていく彼に溺れて。
 傍目から見れば中々凄惨な終末期だったのかもしれないが、己の世界は彼一人のものであったから、然程気にならなかった。
 マトモではなかったが、覚悟の上だった。]

(276) momoten 2019/10/20(Sun) 07時頃

【人】 山師 グスタフ

[だから、漠然と、今日なんだな。と察しても、
 悲しいとか苦しいだとか、ネガティブな感情は湧かなかった。

 彼と己の最後の日は、ずっと手を繋いでいた。
 セックスはしなかったけど、ずっと笑っていたように思う。

 吸血鬼と眷属の多くは碌な結末を迎えない。
 自身らも失敗のうちに数えられるのだろう。
 天から貰った寿命の半分も使えなかった。

 乱れた生活だったし不健康な日々だったが彼がいた。
 どこにも行かず、ずっと傍にいてくれた。
 結んだ手を強く握る。温もりがある。

 堕落し爛れた末期を幸福と呼ぶには流石に抵抗があるが、孤独ではなかった。
 彼の気持ちが今なら分かる気がした。>>-1012


 重ねた掌の中、
 そこには確かに同じの想いと心があった。**]

(277) momoten 2019/10/20(Sun) 07時頃

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