15 ラメトリー〜人間という機械が止まる時
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[縺れて倒れた足が震えるのは痛みの所為ではなかった。 じわりと、紺の瞳が潤む。]
ベネット…
―――…助けて、
[震える声で、掠れた声で助けを求めるのはベネットの名へ。 今、マーゴを殺そうとしている相手に、 けれども山刀を持っている目の前の相手にしか 縋ることしかできなくて。]
(2) 2010/07/22(Thu) 00時頃
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[耳の、直ぐ傍で風を凪ぐ音が響く。 自分がどうなったのか理解できぬままに 紺の瞳から、光が消える。]
―――……ぁ、
[ゆったりと波打っていた黒髪が はらはらと舞い、床へと落ちていく。
くらりと、身体が傾く。 ベネットに次いでマーゴの身体も床へと倒れた。]
(8) 2010/07/22(Thu) 00時頃
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マーゴは、目覚めぬまま横たえられ、閉ざされた目尻からは涙が滲んでいた。
2010/07/22(Thu) 01時頃
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[泣き声が聞こえる。誰かが泣いている。 ―――…泣かないで。 そう言っているのに、 別れを悲しんで泣いて謝ってくれている。 顔も、声も、名前だって思い出せない。 大事な人、だった筈なのに。
―――…泣かないで。 泣けば、命が削れてしまうから。 ―――…泣かないで。 何もしてこなかった私への報いなのだから。
―――…泣かないで。 泣くほど哀しいのなら…
どうして置いていこうとするの…?]
[その人は泣いて、泣き果てて 衰弱して死んでしまった。 私は……その人の為に泣くことができなかった。 泣けば死んでしまうと 知ってしまったから。]
(46) 2010/07/22(Thu) 02時頃
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[刃に削がれた黒髪は長さがまばらになり 短いものは顎のラインにまで短く薙がれていた。 睫毛がひくりと動いて、薄らと紺の瞳が開く。]
―――……
[近くで音が聞こえる。 なにかの、音。
焦点は結ばれず、ただ虚空を見つめ続け。]
(48) 2010/07/22(Thu) 02時半頃
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>>49 [音のする方向を探して紺の瞳が虚ろに彷徨う。 ぼやけた輪郭線、それが人の形だとわかると 肩が震えて見る見ると表情は泣き出しそうなものに歪み]
……………ぃ
[音がする、違う――…これは、声。 聞こえるのはガストンの語るような口調ではなく]
(51) 2010/07/22(Thu) 02時半頃
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め な さい…
…ごめ な…さい… ごめんな さい…
[責める声、幻の声、露になった耳に届くのはその声だけ]
……ごめんなさい、
ごめんなさい… ごめんなさい…
[何を問われても震えて掠れた声で。 何かの幻影に囚われてしまったかのように、 壊れたテープのように同じ謝罪の言葉を繰り返すだけ。 或いは―――…心が、壊されてしまったのか。
今にも泣き出しそうなその瞳から涙が落ちることはなかった。**]
(52) 2010/07/22(Thu) 02時半頃
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[謝罪の声はガストンに運ばれ、 何処かの部屋に入るころには掠れて途絶えた。 ―――代わりに乾いた咳が、零れる。 震えていた指先がぎゅう、と縋るように ガストンが被る熊の毛皮を握り締めた。]
――――… ……
[言葉が、言葉にならない。 代わりに熊を握って 離さない。]
(56) 2010/07/22(Thu) 03時頃
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― 城内・小部屋 ― [何処に運び込まれたのか、 おろされた身体も、熊を握る指先も震えていた。 不安と怯えの入り混じった紺の瞳がガストンを見上げる。]
―――…
[何か言おうとして、また咳き込んだ。]
… ……の?
[水を受け取って、けれども直ぐには口をつけない。 ラメトリーに辿り着いたばかりの時のように、 飲んでいいのか窺うように不安げに瞳が揺れた。]
(59) 2010/07/22(Thu) 03時半頃
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[飲むことを許されたのならこくり、こくりと。 喉の渇きを潤すように与えられた水をゆっくり飲み干した。]
―――… …
[謝礼の言葉は零れない。 それに勝る不安に今は囚われていて]
―――…あなたは…わたしをころさないの…?
[ベネットが刃を振るった理由がわからない。 ターリャの名を思い出すことは今はとてもできなくて。 だから、ラメトリーに居る皆が決めたことなのだと、 今のマーゴはそう思っていて。]
[そう思っているのに、 ガストンの熊を握る手は彼がここからいなくなることに、 独りになることに怯えて握ったものを離そうとしなかった。**]
(60) 2010/07/22(Thu) 03時半頃
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―――…ころさ、ないの…?
[ガストンは事情を知らないのだろうか。 不思議そうに見上げた瞳は哀しげに伏せられる。]
なら、どうして…?
[ざんばらに切れた髪は首元の直ぐ傍まで。 誰かの制止がなければ、確実に薙がれていた。 聞こうにも彼から遠ざけられてしまっては、 その答えを聞くことができず]
(84) 2010/07/22(Thu) 11時半頃
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…生きることを許されないって… 言われたのだと…思ったの…
[毛皮を握っていた力が緩む。 距離の近づく影を見上げる顔は今にも泣きそうなのに、 紺の瞳が涙で潤むことはもうなかった。]
何もできなかった… ううん…何もしてこなかった…
歌うこともできない…ものを書くことも… 誰かを思うことだって…、……
ただ…生きるためだけに生きている… ――…私に与えられた…報いだろうと…
(85) 2010/07/22(Thu) 11時半頃
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[殺させないと語るガストンを見つめる瞳から 不安の色が消えることはない。 人を信じてもいい…頼ってもいいのかもしれない、と ここに来て、少しずつ解け始めていた心は 薙ぐ音と共に壊されて閉ざされてしまった。]
どうして…あなたは…私を生かすの…?
[諭すような口調にも安堵の様子を見せることはできず ガストンへと浮かべるのは不思議そうな表情、 互いに名乗った、それだけの関係なのに。]
…彼は… また私をころしに…くるのかしら…
[殺されかけたのに、ベネットを恨むことはできず 尚、彼に生きて欲しいと願うこの心は何なのか。 答えが見えずに、またさわりと騒ぐ胸元に 少し苦しげにその箇所を押さえた。**]
(87) 2010/07/22(Thu) 12時頃
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[語るガストンの姿を紺が捉える、瞬いて]
―――…そう、
あなたは… 綺麗ね
[彼の口から語られる言葉はマーゴにはそう聞こえた。 マーゴの生きる為に生きているという言葉と 同じ意味で、異なる意味。 眩しげに描かれる瞳の弧の形は笑みにはならない。]
今の世界で…
自分に…価値を見出すのは…難しいこと…
[ガストンの頭からこちらを見つめてくる瞳。 熊の毛皮へと視線を上げて、物言わぬ彼と見詰め合う。]
(136) 2010/07/22(Thu) 21時頃
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―――…死にたくない、 死にたくないわ… その為に…生きている…
けれど、最初は違ったの… …あったはずなの…生きる、目的…
少しずつ…忘れていったわ… 故郷も…訪れた場所のことも…
出会った人たちのことも
生きる目的も忘れて…泣く事も忘れ、 きっと最後は……笑うことも、忘れてしまう
[消えていく、人としての感情。]
(139) 2010/07/22(Thu) 21時頃
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―――…全て忘れてしまった時… 人は ひと と呼べるのかしら…
[まるで機械のように生きる作業だけを繰り返す。 それは人と呼べるのか、見えない境界線に胸元を押さえ。]
(140) 2010/07/22(Thu) 21時頃
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[―――泣かないで、 そう願っているのに。 ―――生きて、 そう祈っているのに。 裡に抱えていた想いは、 謝罪の言葉は―――…もう、零れない。 紡げば喉が渇くと、命が削れてしまうと知ってしまったから。
その想いも、願いも――…いつかは忘れてしまうのか。]
…その子を背負って生きるのは…
―――……重たくない……?
[何かを考えるように少し動きを止めたガストンの 心中まではわからない。ただ、彼の背負う熊は ただ旅をするにはあまりに重そうだったから。 ガストンを見上げて熊を見つめながら、緩く首を傾げた。]
(144) 2010/07/22(Thu) 21時頃
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[歌声が、聞こえてくる。 ふと――…思い出すのは刃を振るった人だった。 ふたつに、ひとつ。
のこるのは――…ひとつだけ?]
―――…ターリャ…
[零れたのは、彼が口にしていた名前。 許さないと言っていた。それは――…誰に? 確かめれば、わかるのだろうか。 けれど確かめに行けばきっと――今度は、]
(150) 2010/07/22(Thu) 21時半頃
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[思い出して、ふるりと大きく肩が震えた。 かたかたと、身体が震えだす。 縋るようにまた、毛皮をきゅうと強く握った。
―――…こわいと思った時、心細くなった時、 いつも縋るように呼んでいる名前があった。 眠る少女の胸元で褪せ始めた朱い花。 けれども縋る響きで呼んだのは]
――――…セシル、
[隣にいる彼でもなく、共に旅をした彼でもない ここには居ない 違う人の名前。 何故、彼の名を呼んだのか――…その理由もわからぬまま。**]
(153) 2010/07/22(Thu) 21時半頃
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― 小部屋 ― [さわり―――… さわり。心が騒ぐ。 心が騒ぐのは――うたごえと、誰かが言っていたから。 それだけだろうか。]
――… …セシル…?
[呼んだら本当に姿を現した彼の姿に小さく肩を震わせる。 首を傾げる様子に同じように首を傾げたら、 まちまちの長さになった黒髪がふわりと揺れた。]
…… お礼?
[さわり――… また、さわぐ。]
(188) 2010/07/22(Thu) 23時頃
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…妹、
[それは、彼が求めていたもの。 喜ばしいことの筈なのに、零れるのは不安げな反芻。 生きる目的と言っていた。 それが見つかって…、生きる為の目的は達成されて、
――…泉は、命を繋ぐ水は…ここにあるのに]
―――… どこに 行くの …?
[それへの返答は、きっと返ってこない。 ―――…さわり また、胸元で音が]
(191) 2010/07/22(Thu) 23時頃
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マーゴは、遠くの異形の声も、今のマーゴの耳には届かない。
2010/07/22(Thu) 23時頃
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[セシルからの別れの言葉、 ざわり――…胸元が 大きく騒いで。 背を向けるセシルに戦慄く唇が動く。]
…待って…
[声はあまりに小さくて、 届かなかったのかセシルは背を向けて 部屋を出て行ってしまう。]
待って…
…待って…!
[声が 届かない。 慌てて追いかけようと痛む足を奮い立たせて。 どうしてこんなにも彼を引きとめようと思うのか、わからない。]
(194) 2010/07/22(Thu) 23時頃
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…待って… …セシル、
[ガストンの制止があっても、聞かずに部屋を出た。]
……置いていかないで…
[何故こんなことを口にするのか、わからない。 セシルを追って、 引き摺る足を叱咤させて]
(199) 2010/07/22(Thu) 23時半頃
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[ ぐじゅり ]
[熟れた果実を潰したような音。 大きく見開かれた紺の瞳がぶれる。 遠ざかるセシルとの距離を詰められぬまま 傾いた身体が、床へと落ちる。]
―――…ああ、
………嗚呼、
[目を背けていた現実を、突きつけられる。 ブーツの内側で、鳴った音はマーゴの足。 腐りかけていた足が重みに耐えれず潰れた音。]
(200) 2010/07/22(Thu) 23時半頃
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…置いていかないで…、
[去る背に、きっとその声は届かない。もう追いかけられない。 足が腐り落ちたことが哀しくて。 声が届かないことが哀しくて。]
…置いていかないで… ……置いていかないで、
――置いていかないで、
…置いていかないで…
…置いて…行かない…で、
[紡げば喉が渇くとわかっているのに、 もう声は去った背に届かないとわかっているのに。 溢れ出した言葉を、涙を止めることが出来ない。]
(203) 2010/07/22(Thu) 23時半頃
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…置いていかないで…
[命が削れてしまうから、水は…命を繋ぐから。
嘗て泣いてくれた人が死んだ時も ずっと生かせてくれたニムスが死んだ時も 涙を流すことはなかったのに]
……置いていかないで…
[自分の為なら――…こうも容易く涙が溢れて来る。
なんて
なんて ――――…みにくい… ]
(206) 2010/07/22(Thu) 23時半頃
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置いていかないで…
[掠れた声は、徐々にか細くなり消えていく。 さわり、さわりと騒ぐ、それは胸に住まう異形。 巣食われていたことには 気付かずに]
―――…私も…
…一緒に連れて行って、
[繰り返していた声は 途切れる。]
(215) 2010/07/23(Fri) 00時頃
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[喉が枯れたころには涙も尽きて。 濡れた紺の瞳が久しぶりに見た自分の涙を見つめた。
―――…泣かないで。 あの人が死んだ時は、泣けなかったのに。 嗚呼…だからなのか。 これはきっと 私への報い…]
…ごめんなさい…
……ごめんなさい…セシル、
[立ち去っていった人と同じ名前。 遠い昔に死なせてしまった 思い出した その名前。 掠れた声であの時言えなかった言葉を呟くと 枯れ果てた筈の涙が、また零れた。**]
(217) 2010/07/23(Fri) 00時頃
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[セシルへの涙が尽きると零す吐息が震えた。 声が、聞こえる…責める声。遠くから、記憶から。 これは――…ベネットの声、 一人では死ぬこともできぬと、そう責める。
―――…私は… ターリャじゃないわ…
もう、声にはならない。紺の瞳をゆっくりと閉じて。 連れて行ってはくれないと、彼は責める。
―――…なら… あなたが死ぬ時は、 私を連れて行ってくれるの…?
生きて欲しいと、世界を書き留めて欲しいと。 彼にはそう願うのに―――…願う のに。**]
――――…独りは …いや…
(244) 2010/07/23(Fri) 02時頃
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