231 自由帳の中で、僕たちは。
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ナナオ! 今日がお前の命日だ!
anbito 2017/12/25(Mon) 19時頃
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/* さー、冬休み前最後のHRはじめるぞー。
というわけで雑談もろもろ どうぞご自由にお楽しみくださいメリークリマスマス!!!!!
(*0) anbito 2017/12/25(Mon) 19時半頃
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―冬の幻 >>2:-38>>3:8>>3:9>>3:10―
[おれが二十八の頃。 あいつは十七――高校二年の冬が始まりだった。
最初はただの教師と生徒だった。 おれは二階で明日の授業の準備や、今日の片付けをしていて あいつは校庭の花壇をせっせと世話していた。
いつからか声をかけるようになった。
「熱心だな」とか 「何が咲くんだ」とか 「今日も寒いな」とか
校庭の運動部の喧騒が遠く。 そこには穏やかな時間だけがあって。 たった数秒の会話はやがて、数分になり、数十分になり。
欠かせないものになるのは必然だったんだろう。]
(*1) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[おれはそんなに口の回るほうではなかったし あいつもそこまでお喋りなタイプではなかった。 二人でいても無言の時間なんて幾らかあったし それも含めて苦になることは全然なくて。
重い肥料を運ぶのを手伝ったり。 雑草を引っこ抜いて尻餅をつくおれに笑ったり。 鼻の頭に土汚れをつけたあいつに笑ったり。 おれの食うものが体に悪いからって たまに弁当を作ってきてくれたりするようなやつだった。
甘い卵焼き、タコの形のウィンナー。(>>1:111) 美味いと謂えば、嬉しそうに笑う顔があった。
おれが“声なき言葉”を教えたら、一生懸命に覚えて。 代わりにあいつは、おれに草花の事を話した。 おかげであいつは理科の成績だけやたらによくて。 おれは似合いもしない花言葉なんかに詳しくなった。]
(*2) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[おれたちはお互いにわかっていた。 相手のことをどう思っているか。 そして、おれたちの関係性も。
だから謂えなかった。 だから、謂わなかった。
たとえその笑顔がどんなに愛しくても おれはこの手を伸ばさなかった。 柔らかな髪に触れることもなければ 透き通る肌に触れることもない。
あいつも同じだった。 おれを名前で呼ぶことも無い。 連絡先もしらない。
でも、それだけで おれたちは充分しあわせだった。]
(*3) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[――いつからだろうか。 生徒たちのおれを見る目が少しずつ変化していったのは。 嫌われることはままあるが、そういったものとは違う。 好奇の眼差しがおれを撫で回すようになった。
「三年の倉科りさと理科の淵ってデキてるらしいぜ。」
今でも覚えてる。 どこの誰だったか顔は覚えてないが おれに聞こえるように放たれた、その囁きを。]
(*4) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[あそこで掴みかかっていれば、どうなっていたんだろうな。 一瞬頭に血が昇って、拳を強く握ったことは覚えている。
それでもおれは、何も謂えなかった。
何も、謂わなかった。
今おれがキレて手を上げて何の得がある? おれは職を失うだろうし、あいつにも迷惑しかかからない。 あいつには将来がある。 おれにはそれを守る義務がある。
大人だから。 教師だから。
言い訳ばかりを並べて、おれは。 認めることから逃げたんだ。]
(*5) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[三年の卒業は程なくして訪れた。 あいつは最後の日も花壇を弄ってた。
いつもと同じような会話をした。 何もなかったかのように話してた。 けれど突然思いもよらない言葉があって。]
「淵先生は何がすきですか?」
[わかってた。 その言葉は「おれがすきだ」と謂っていたことも。 その言葉は「おれにすきだ」と謂ってほしかったってことも。]
(*6) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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「……甘いもん、辛いもん、かな。 なんでそんなこときくんだ?」
「小さなことでも、すきなものをすきっていえるのって しあわせだと、おもうから。」
「じゃあ、お前は何がすきなんだ?」
「わたしは、……お花かな。」
(*7) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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[会話をしたのはそれが最後だ。 卒業証書を抱えて、大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて あいつは高校を卒業した。
おれは校門を出ていくあいつを 見えなくなるまで、消えるまで 理科準備室から見ていた。
気付けばおれは、眉間に皺を刻んでいた。
もう、単純に笑うことなんて出来なかったし でも、泣くことさえ許せなかった。
そして厄介ものを払うようにおれは転勤が決まり 男子校なら変な間違いも起こさないだろうと この杏琵高校に赴任させられた。
今は―――*]
(*8) anbito 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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