237 それは午前2時の噺。
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きみは自らの正体を知った。さあ、村人なら敵である人狼を退治しよう。人狼なら……狡猾に振る舞って人間たちを確実に仕留めていくのだ。
どうやらこの中には、村人が9人、人狼が1人いるようだ。
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皆さまお集まりありがとうございます。えー、ごほん。 この催し物、しっかりと楽しんでくださいませ。
…何があっても、文句は言いませんよう、ご了承くださいませ。
(0) 2018/03/23(Fri) 02時頃
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[君が、そう、彼女が若くして重要なポストにつき、多忙な日々を送っているのは重々承知している。今日は定時で上がれそうだと言っていたが、急な仕事が入ってしまった可能性もあり得るのだ。しかし、それなら一言くらい連絡をくれてもいいはずなのに、私の携帯は微動だにしない。 今日に入って、いったい何度メッセージチェックをしただろう。スマートフォンの無料通話アプリを開いて、トークルームを表示してみるが、返信どころか既読すらついていない。
『くみた、お疲れ♪ 仕事忙しそうだね。大丈夫(._.)? しばらく会えないって言ってたけど 今日は定時で終われるんだよね?? くみたの職場の近くにある喫茶店、 キャットっていうんだけど知ってる? 今日の5時にそこで会えないかな(*´∀`)? 久しぶりに会いたいな(^-^) ちゃんと会って話したいこともあるし… でも忙しかったら無理しないでね(>_<) あと、困っていることがあったら相談してね? 俺でよければ力になるからさ! じゃあ喫茶店で待ってます♪』
何故だ。]
(1) 2018/03/23(Fri) 02時半頃
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[ うすだいだいいろの光の中で、すこし暗くひかるわたしとパパが見えていた。相変わらず聞き慣れた鼾は響いていて、落ち着くけど、ちょっとうるさい。 時計を見ると、短い針は1のちょっと前で眠たそうにしている。
そぅっとふとんから抜け出して、お気に入りのワンピースをタンスから引っ張り出した。引き出しに入れたいいにおいのせっけんとおんなじ匂いがする。柄のついてないそれを鼻先に押し当てて、胸いっぱいにかおりを吸い込んだ。けれど、胸はいっぱいにはならなかった。
前よりちょっぴりだけくたっとしたそれと、ふりふりのついた白いくつした。ぴかぴかつるつるの、……ぴかぴかつるつるだった靴をしずかに、しずかに履いて、ランドセルから外したおうちの鍵を首からさげて。
奥の部屋から鼾の音が聞こえてくる。そおっとそおっと鍵を開けて、そおっとそおっとドアをあけたとき、ガチャっと大きな音がしてしまって身が固くなった。 …………けれど、鼾の音は相変わらず聞こえてくる。わたしはしずかに息を吐いて、音を立てないように家の外へ出て行った]
(2) 2018/03/23(Fri) 04時頃
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[ うんざりするくらいに晴れた日だった。空には雲がひとつもなくって、お洗濯ものがにこにこしながら風に揺らされるような、素敵なおひるだった。
「パパとママ、どっちが好き?」 ずるい。 あなたたちは何日も、何か月も、喧嘩しては離れて、長い長い間考える時間があったのに。わたしには今すぐ決めろというんだ。ママはもう大きな荷物を玄関の脇に積み上げていた。パパはリビングの入り口のほうに何も言わずに立っていた。 ずるいよ。
考えたことなんて、ない。 ずっと一緒に居られると思っていたから。
二つ並んだケーキからどちらか一つを選ぶのとはわけが違う。そんなことくらい、わたしにだってわかってた。半分こして、ちょっとずつ味わうこともできないイチゴみたい。どうして隣にいることも出来ないんだろう。二つのケーキを繋げるクリームには、わたしにはなれなかったのかな。 ふたりが好きになって、けっこんして、その好きになったあかし がわたしなら、その好きがなくなってしまったら、半分にできないいちごはどうすればいい?半分こになれない責任はイチゴにあるんだ、ろうか。
わたしはひとつのケーキをえらびとった。]
(3) 2018/03/23(Fri) 04時頃
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[ おふとんに守られていたからだがまよなかの空気にひっぱられて、少しずつさむくなっていく。春が近いけれど夜はまだ冬にとりのこされて、寂しそうに手を引いてくれる春を待っていた。昼は子供がたくさん走ってにぎやかなコンクリートの道も、いまは、静かに眠っている。 眠りについたととらの町。ひとりぼっちで歩く、起きているわたし。ひとつも車なんか通っていないのに、フェンスにぶら下がってる黄色い旗をとって向こうがわの筒に入れた。
もっと小さい頃は、眠っているあいだは全部が眠ってるものだと思ってた。わたしが眠れば町はねむって、そのあいだはなんにもない。わたしが眠るから朝が来て、一日が始まって、そしておわる。バカみたいだけれどほんとうにそう思っていたんだ。
きょうとあしたのあいだにはすき間があって、それを見ていいのはお正月とおとなだけ。それを守れないのはわるい子。わるい子はたくさん怒られて、おやつを抜きにされてしまうんだ。
通り過ぎた街灯の明かりが、わたしの影ばっかりをおとなみたいに おおきくしていく。]
(4) 2018/03/23(Fri) 04時頃
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双生児 ホリーは、メモを貼った。
2018/03/23(Fri) 04時頃
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[ワン! 元気な声に呼ばれて振り向けば、賢い顔をした金の毛並みのレトリーバーが真っ黒な丸い目玉をキラキラさせてこちらを見ていた。 アパートの近所に住んでいるようで、朝と夕方、食事や散歩に出ると度々すれ違う。大きな犬は嫌いでなく、なんとなく目を惹かれる内に飼い主とも金の彼とも挨拶をするようになり、彼の方もこちらを覚えてくれている。
住宅地の中の一軒家を改造した、大きなテラスのある珈琲店。店内とテラスに数席、コーヒーを楽しめるスペースが用意されていて、ウッドデッキになっているテラス席ではペットも一緒に座れるようになっている。 腹這いになり尻尾をゆらゆらと振りながらこちらを見る彼に手を振って、傍らに座るその飼い主にも会釈をしながら──
この店から生まれた作品の事を、思い出していた。]
(5) 2018/03/23(Fri) 08時半頃
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「おかしな子だね。 こんな死に掛け、放っときなよ。」 顔を顰めて吐き捨てられた言葉に、私は首を振り、 「お互い様。 先に死に掛けを助けたのは、お姉さんよ?」 そう笑って、ピイと小鳥の鳴き真似をしてみせる。
あの時、お腹が空いて、空いて空いて、すっかり 衰弱して。死告鳥の羽搏きを待つばかりだった小さな 雛鳥に、水とパンくずを与えてくれたのは、貴女。 身寄りのない少女を、拾って傍に置いてくれたのも 名前を与え、生き方を教えてくれたのも、貴女。
「お姉さんに貰った命なんだから── 貴女に、返したいのよ。諦めて世話されて?」 彼女を真似た皮肉っぽい笑い方でそう言えば、 「好きにしな。」布団の中から微かな声。
(6) 2018/03/23(Fri) 08時半頃
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[あれも春先だったように思う。 駅前の繁華街で朝まで呑んでいたらしいふらふらの、服装と化粧からきっと店に勤める方の女性。 店主の趣味で早くから開いていたこの店の、そのテラス席にぐったりと座りながら、テーブルの上に着地してきた小鳥にサンドイッチのパンを細かくちぎって与える姿を眺めていたら、
世界の欠伸が聞こえてきたのだ。
おはよう、と伸びをして一気に膨らんだ世界は、病を抱えた女性と不思議な少女の物語に姿を変えた。 ファンタジーめいた短い話だったけれど、似た境遇で、だとか共感した、という手紙を幾つか貰えた、自分でも気に入りの一編だ。]
またね。
[レトリーバーに声を掛け、再び緩やかな歩みに戻る。]*
(7) 2018/03/23(Fri) 08時半頃
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助手席のドアが開く音で、浅い眠りから目を覚ました。カーナビに表示されている時間が見える。午後11時56分。助手席に入ってきた女性は雑にレジ袋を置いた。
「まだ動かないんですか〜?」
レジ袋から眠気覚ましの栄養ドリンクを一気に飲み干すと、六掛紫乃は仕事帰りに一杯引っ掛けた中年のような声を漏らした。
脳裏に焼き付く映像。生々しい感触。鳴り響くクラクション。車に圧迫され骨が砕ける感覚。肉の塊と化した自分の身体。外に出た。不快感。胃の中が逆流し嘔吐する。ねっとりした胃酸だけが口に残る。六掛の霞むような声が聞こえたが、三割方は見向きもせず駆け出した。 斗都良町の土地勘はない。三割方は酒気の帯びた繁華街を出鱈目に走った。酔っ払った会社員と肩がぶつかる。後ろから舌打ちが聞こえた。路地裏の野良猫達が逃げ出していく。アドレナリンが分泌している。逃走。息が小刻みに切れる。靴の結び目がほどけたまま、とにかく遠くへ走った。日付が変わったことなんて、気付きもしなかった。
(8) 2018/03/23(Fri) 10時頃
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繁華街から大通りに出る道沿いには、終電を逃した客を乗せるためにタクシーが待機している。三割方の目の前にも一台のタクシーが停まっていた。女性の乗客が降りる直前で、会計の途中だった。 窓に張り付くように運転手へ声をかけた。運転手は緊迫した三割方の姿に顔が引きつっていたが、小さく頷いた。女性は会計を済ませ、タクシーから降りた。レザーの手袋にロングブーツ。モデルのようにスラリとした体格。キチンとしたスタジオでカメラに収めたら、下手なアイドルより映りが良さそうだった。唐突に、身体から熱を感じた。同時に激痛が走った。脇腹には鋭利な刃物が突き刺さっていた。すれ違いざまに、女性は刃物を三割方の脇腹に音もなく刺した。全身の力が抜けていく。電池が切れた玩具のように倒れた。タイル張りの地面が赤く染まっていく。霞んでいく視界。ロングブーツの足音が遠くなっていく。それが最期だった。
(9) 2018/03/23(Fri) 10時頃
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[病、といえば。 珈琲店で『優しい鐘は夜に鳴る』を思い浮かべたのにつられ、もう一作品、この近くで生まれた一編が脳裏に文字を踊り始めた。
もう少し歩けば大きな建物の頭が家並みの向こうに見えてくる──「斗都良総合病院」の看板と共に。 三年程前だったか、体調不良で一時期通っていたその病院で、行く度に見掛けた二人組がなんだかとても気になって。 ぼんやりと目で追う内に、彼らの佇むその空間に、
重なるように、世界が降った。
はらはらと静かに降り積もり、築かれていくその世界のタイトルは──]
(10) 2018/03/23(Fri) 18時半頃
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「ほら!見てご覧よ、君。 これで僕が王様だ!」 「随分小さな城で満足するんだな。 だが、お前には似合いだよ。」 長く続く海岸に設置された、石造りの遊具。 城を模した、滑り台の付いたアスレチック遊具は 潮風と吹き付ける砂で塗装が剥げかけていて、この 終末旅行で立ち寄るにはうってつけに思えた。 滅びの王国。終わりへと向かう我々の、生きる場所。 「一国一城の主……か。」 「マイホームを手に入れた時には誰もが王様に なれたんだよね。夢があるなあ。」
狭く細い螺旋階段を無理矢理に登りつめて 最後の「王様」が空を眺めてそう言った。 俺には何も言えなかった。 ──夢の弾けた結果が、これなのだから。
(11) 2018/03/23(Fri) 18時半頃
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『こどものくに』……。
[病院で見掛けた彼らは、不思議な組み合わせだった。 常に点滴を引いている痩せた男性は、いつも穏やかに微笑んでいて、どこか幸せそうな表情をしていて。 傍らに付き添うのは大柄で険しい表情をした男性で、不満の露な表情で、けれど患者の彼に手を貸し、寄り添い、見守るようだった。
兄弟には見えない。友人と言うにはタイプが大分違うように思えて。 会話が聞こえた事はないから実際にはどんな関係なのかは分からないけれど、病院の外の彼らがどんな景色に生きるのか、そんな些細な興味が世界を拡げていったのだ。
おじいさん、と呼べる世代のふたりの、心の旅。鮮やかな色と音を残して静止した世界を、大人の童心に導かれて巡る話。 通院が終わってからは、どうなったのか知らないけれど──彼らがまだ、静かなソファで並んで座っていればいいな、と思う。]*
(12) 2018/03/23(Fri) 18時半頃
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「おばけなんてないさ」 ……ズル……ズル……
ズル……ペタ…… 「おばけなんてうそさ」
「だけどこどもなら ともだちになろう」 ペタ……
ペタ…… 「あくしゅをしてから おやつをたべよう」
「だけどちょっと」 ペタ…… 「だけどちょっと」
「ぼくだって……」
(13) 2018/03/23(Fri) 19時頃
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[唇に載せた歌を止めて、わたしはちょっと遅れて歩くアヤを振り返った。]
……ごめんね、ちょっと早く歩いちゃったかな。
[足に合わない草履を引っかけたアヤが歩く度に、人気のない通りにずるずるぺたぺた足音が響く。 ほんの少し目線を下げて覗き込むと、心配ない、とばかりに首を横にふられた。
大人に内緒の大冒険だけれど、公園から住宅街までの間、誰にもすれ違わずに来ちゃった。 いや内緒だからいいんだけど……それはそれでつまんない。 昼間はたくさん人がいるのに、こうやって誰もいなくなるとやっぱりちょっと不気味で、まるで、全然違う世界に迷い込んじゃったみたい。
いつも前を通りかかるといい匂いがする「はなまる」さんも、今は何のにおいもしない。 ……正直、アヤからちょっと生ぐさいにおいがするから、あんまりくんくんしたくないのもある。]
(14) 2018/03/23(Fri) 19時頃
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[静まり返った住宅街には、窓の外から漏れる静かな灯りが満ちている。 外から見る家族の時間は、穏やかで、優しくて……悲しい。 こうしてアヤと手を繋いで夜の中を歩いていても、誰も窓を開けてくれない。
ふと、足元に水でふやけた本が一冊転がってるのが見えて、わたしはしゃがんで表紙に描かれた文字を読んだ。]
あ、ん、ぐ、り、……?
[漢字がいっぱいの大人の本だけど、表紙の雰囲気とかからスイリすると……多分、大人向けのおばけの本。 道路に本を放り投げてっちゃうくらい怖かったのかな、なんて、ここにこの本を置いてった人の事を考える。 怖いからおばけのこと書いてある本を捨てて、おうちに帰って、そこで安心するんだろうか。]
大人もおばけを信じるのかなあ……変なの。
[わたしの後ろに立ったままのアヤを振り返って笑った。]
(15) 2018/03/23(Fri) 19時頃
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「……おばけは、いるよ」
[アヤの口が小さく動く。電灯の陰になって顔は全然見えないけれど、静かに、しっかり、アヤは言った。]
「ふつうのひとにはみえないけれど、みえないだけで、いる。」
[あんまりはっきり言い返されて、わたしはなんて答えていいか分からなくなって、アヤの汚れた膝小僧を見つめた。 いないよ、ってすぐに言い返したかった。普通の人に見えないなら、ほとんどいないのと一緒じゃない!って。 でも……]
……もしかして、見えてるの?
[アヤは答えてくれなかった。] *
(16) 2018/03/23(Fri) 19時頃
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[メッセージを送ってから8時間以上も経つ。その間一度も携帯をチェックしないというのはあり得るのだろうか。通知を見逃して気づけていない可能性はあるが、ここまで反応がないと、良からぬ考えすら浮かんでしまう。 不安定に浮いたままの気持ちを落ち着かせようと、足を小刻みに揺すってみたり、顔を撫でてみたり、カフェオレを飲んでみたりしたが大した効果は現れず。それどころか、少し離れた席にいる閑談中の主婦たちに変なものを見るような目で見られてしまった。うるさい。放っておいてほしい。]
くみた……
[念のため、もう一度だけ窓の外を見る。が、やっぱりいない。もしもの事を考えると居ても立っても居られず、私は追撃のメッセージを打ち込んだ。
『くみた、お疲れ! 今喫茶店で待ってるんだけど、 まだ仕事中かな(-_-;)? もう少しだけ待ってるね〜 カフェオレも飲みたいし(笑)』
送信ボタンをタップする。届け。電子の紙飛行機になって、くみたの元へ。]
(17) 2018/03/24(Sat) 03時半頃
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[だが、私の祈りも虚しく、返事が返ってくることも既読がつくこともなかった。私はマーを鞄にしまうと、会計を済まるため席を立った。こちらを窺っていた主婦たちの姿ももうない。最後に私の方へ一瞥をくれて、とっくに帰ってしまった。彼女を待つ間、追加注文したカフェオレ計三杯の代金を支払い、深い溜息と共に店を出た。気づけばもう空は薄暗く、帰宅する人影も疎らになっている。 もう、行こう。結局、三杯のカフェオレを飲み、警戒の視線に晒されただけで終わったが、まぁこんな日もあるさ。]
(18) 2018/03/24(Sat) 10時頃
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[机に座っていると、足元から鳴き声がする。なぁん。少し高めの猫なで声だ。これは、かわいい。えっかわいい。もうかわいい。一言で可愛い。全てを投げ出してこのネコちゃんを全力で可愛がってもふって可愛がって抱きしめてわしゃってぎゅーしたい。そんな欲に駆られても仕方はないんじゃないかなってくらいに可愛いんですけど。ちらっと視線を下すとこちらを見ている。つぶらな瞳で。そのまんまるな瞳で、こちらをみている。そしてもう一回。
なぁ〜ん
だめだ。負けた。完全敗北、はい終了〜!私の手はもう迷うことなく猫の頭に吸い寄せられた。超強力磁石よりも某有名掃除機よりも変わらない吸引力で。シルクかな?高級毛布かも。どちらにしろ永遠に触っていられる撫で心地だった。 それでも撫で続けると猫の体制が変わる。もっと撫でてというように頭を押し付けて来たり今度はこっちを撫でてと耳元やら背中やらを押し付けてきたりこれでもかと言うほどのゴロゴロ音をだしたり。可愛すぎなんじゃない?私しぬの?しぬかも。しにそう。つらい。生きてるだけで猫が可愛すぎて辛い。死にそう。死にそうだから生きる〜〜!はあ〜〜〜〜〜本当に可愛いなあ。]
(19) 2018/03/24(Sat) 11時半頃
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らでぃ いず ぱーふぇくと…
[思わずそんな事も呟いてしまうってものよ。 おっと、仕事がまったく中断されてしまっていた。せめてもう少し何とかするか、時間に余裕はまだあるし。 でも生放送の準備もそろそろしなくっちゃね。玩具の用意とカメラの用意と、あとはBGM、は、既にセットリスト作ってるから大丈夫か。テストもしなくて大丈夫だとは思うけど。あ、呟きSNSで告知だけはしておこうっと。*]
(20) 2018/03/24(Sat) 11時半頃
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「深夜二時から生放送します!(=^・・^=) 今日もラディ可愛すぎて死ぬ。
今日は新しいおもちゃもあるぞ〜〜!」
[添付画像:ラディ、ラディ、新しい猫じゃらし、不思議デザインの音が鳴るボール]
(21) 2018/03/24(Sat) 11時半頃
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[ 前の車のウィンカーにあわせて瞬きをした。 後部座席のシートに凭れて肌色多めの後頭部を眺めながら相槌のみで済む話を聞いていると、 通勤のために金を払っているのか運転手の話し相手になるために金を払っているのか分からなくなる。
毎朝タクシーで通勤というのも勿体ないとは感じている。
しかし通勤場所は電車で通うには大袈裟で、自転車で通うには遠い場所に位置しているからタクシーの方が都合はいい。 免許は持っているものの運転はしたくなかった。
" 持ってる物を使わないって、 人生損してるのと同じじゃない? "
君ならこう言うだろうが、しょうがないだろう。 それに滅多に使わない冴えない顔が映った免許証も身分証明くらいの役には立つ。
それにしても何回乗っても24時間何度も人が入れ替わる車内の臭いは居心地が悪い。 窓一枚を隔てた景色を流し見る。]
(22) 2018/03/24(Sat) 15時頃
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それは、はっきりと見えた。 明滅するランプとパトカー。 カラーコーンに囲まれた運転座席の窓ガラスが砕けている。 事故、という言葉が過ぎった。]
(23) 2018/03/24(Sat) 15時頃
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『到着ですよ。』
[ 機械的な運転手の声で呼吸を取り戻す。 前を向くとメーターは360という数字に光っていた。 360。]
『代金。』
[ あぁ、そうだ。 代金。 小銭ぴったりを受け皿に落とす。 カチャ、という音と共に車のドアの隙間から風が滑り込んできた。
コンクリートの地面が革靴の下で擦れる。 タクシーが走り去る音を背中に受けながら、決して大きくはない建物を見上げた。
「葬儀社 會央堂」
ヤクザみたいな名前だと笑った、妻の顔が脳裏に浮かぶ。]
(24) 2018/03/24(Sat) 15時頃
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─ 葬儀社 ─
[ ヤクザのような看板を潜り、「二階堂」と彫り込まれた控え目な名札をピンで留めた。 雑多に書類が貼られたホワイトボードから今日の自分の予定を探す。
「12:00 斗都良総合病院 迎え」の一文が横棒で消されて、 「16:00 斗都羅総合病院 エンバ 22:00 通夜付き添い」と書き足されていた。
エンバ。正式にはエンバーミング。 つまり、病院まで行って亡くなった方に死に化粧を施す事だ。 この書き方だと病院までお迎えに向かった後、通夜に補助として付き添う形になるのだろう。
徐に端末の画面を確認する。 成る程、充電が切れていた。
ネクタイを緩めて早過ぎる出勤に息を吐く。 丁寧に上着を脱ぎながら、仮眠室へと爪先を向けた。]**
(25) 2018/03/24(Sat) 15時頃
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[柱、田畑、柱、田畑、柱、住宅地、柱……────
不規則な揺れは硝子窓越しの景色を変えていく。瞬き一つ入れてしまえば、フレームで切り取ったはずのつい先程の景観すら、記憶から零れ落ちるほどに。 ほう、と外気に息を散らしていく。空席の目立つ車内に落ちる色は無い。アナウンスと同時に開かれた扉、流れ込む風に雪の名残も無く、穏やかに仄めく温かさは春の兆しを窺わせた。
柱、家、人影、柱、田畑、柱、住宅、柱………
馴染みの町から離れれば、人の手垢の付いた街並みが広がっていく。車窓のフレームは外の変化を見逃すことなく映し出していた。落とされるシャッターの数々、誰もが見逃してしまう写真を掬い取っていき、――――モニターに立ちはだかる人影が、腰を下ろした。 外界とを繋ぐ扉からは、やがて個性の波が押し寄せてくる。人、人、人、……引くことのないささやかな喧騒はすぐ傍にあったはずの兆しを呑み込み、情趣をも連れ去っていかんとする。残ったのは、圧迫感からの僅かな苛立ち。 ああ、酸素が、欲しい。
酸素。]
(26) 2018/03/24(Sat) 15時半頃
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酸素ってさ、
[一旦呼吸を意識してしまえば薄らぐ空気の影を追うように、目の前の景色が他人事と化していく。 意識は過去へと、吸い寄せられていった。]
(27) 2018/03/24(Sat) 15時半頃
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酸素ってさ、酸っぱそうとおもわない?
何、突然。生理?
ばぁか、ちがうっての。
[笑気を乗せた音は口元を覆う読みかけの文庫本に阻まれて、くぐもってしまう。 ウッドテイストの店内に洒落たシャンデリアが柔らかな明るさを齎した。あちこちに咲く控え目な談笑の花と軽快なビッグバンドジャズを背景に、一冊の世界と、少し苦味の効いた珈琲。 ここ好きかも、行きつけの喫茶店の内観を一瞥した彼女の呟きに自分が誇らしく胸を張ってしまいそうになるのを押さえた。何事も無いように頁を捲り続ける。BGMが鳴りを潜め、煌々と呼び起こされる世界は自身の胸を抉り突いてしまうもの。 実家へ戻れば温かい笑みで迎えてくれる親。果たして、この世界のように内に巣食うもの抱えながら、自身を見守っているのだろうかと。]
(28) 2018/03/24(Sat) 15時半頃
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酸素が酸いと仮定して、だ。 今吸ってんのは、どんな味がしてんのよ。
んー、…… あまい?
[世界から目を逸らすように重ねた問い。大きく息を吸い込んだ彼女に、じゃあ此処には酸素が無いわけだ、と一言。途端に、文庫本から視線を上げて、うぇ、と表情を歪ませていった。 読書サークルという数少ないホットラインから繋がった彼女、ヒトとの接触よりも本との密な関わりを選んだその眼差しが本から持ち上がることは数少なかった。僅かな逢瀬にも、自身と彼女を繋げるのは一冊の本。同じ世界を分かち合うひと時も穏やかで温かなものだったのだが、次第に欲が差し向けられるのは別の方で。]
……きっと、中和されたんだよ。
(29) 2018/03/24(Sat) 16時半頃
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[長い沈黙の後、したり顔で言い放つ唇はカップの縁へと宛がわれる。こく、角張ったものの無い、なだらかな傾斜に滑り落ちていくアイスティーは空気よりももっと甘いはずだろう。傍には破られたスティックシュガーの包装が幾つも積み重なっていた。一本、取られた振りをしてみるのは、上機嫌に綻ぶ彼女の口許が見たいからかもしれない。 やがて見届けた世界から退くように、文庫本を閉じて置く。目の前には既に此方へと戻ってきた彼女が、爛々と感想を期待するような視線を送ってくる。二人だけの閉ざされた読書会、―――今日のひと時をそれだけにするつもりは、この本が題として選ばれたときから、無かった。]
――――――…… 。
[具体的な物言いは、とうに出来ない年頃に互いになってしまった。一言二言、書をなぞりながら囁いた後に、差し出す1カラットのダイヤの指輪。すう、と見開かれる目に、その肌白い頬と同じく熱が灯されていくのを見逃さずにいた。
あの世界が織り成すものが造花ならば、この先に続く光はきっと、精彩豊かな生きた花溢れかえっているものだと、信じて疑わない。]
(30) 2018/03/24(Sat) 16時半頃
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[信じて、疑わなかった。]
(31) 2018/03/24(Sat) 16時半頃
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助手席のドアが開く音で、浅い眠りから目を覚ました。午後11時56分。六掛を無理やり助手席から降ろした後、三割方は半ば錯乱状態で車を走らせた。メーターの針が跳ね上がり、何度かガードレールに車体を擦り付けながら斗都良総合病院にたどり着いた。
「幻覚を見ているんだ、助けてくれ!」
救急外来の受付に話を通す。幻覚の中で自分が殺されている。何度も同じ日を繰り返している。頭がおかしくなりそうだ、と。しかし、返事は事務的なものだった。
「診察の順番通常の外来診察とは異なり、緊急度の高いお客様が優先しますので……」
「こっちだって緊急なんだよ!!!」
辺りは静まり返った。冷ややかな視線が三割方に集まる。院内を巡回していた警備員が「どうかしましたか?」と駆け足でやってきた。三割方は舌打ちをして病院を後にした。車に戻り、キーを回す。引っかかるような妙な音がした。瞬間、車は火柱を上げて爆発した。
(32) 2018/03/24(Sat) 17時頃
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助手席のドアが開く音で、浅い眠りから目を覚ました。午後11時56分。六掛を見向きもせず、交番に駆け込んで洗いざらい事情を話した。夢を見ている。これが現実なのかもわからない。誰かに殺される。助けて欲しい。決死の訴えだった。だが、センテンススプリングのカメラマンだと知った瞬間に、中年警察官の態度は一変した。
「そりゃあ、人のケツ晒し上げるアンタらなら恨みも買うでしょ」
まるで自業自得だとばかりに、三割方を嘲笑った。結局、本部には一応連絡しておくとの事だけで帰された。挙句に最後は、
「少しはまともな仕事したら?」
と、知ったような口ぶりだった。交番に停まっている自転車を蹴り飛ばしたが、怒りは収まらなかった。数分後、後頭部を強く殴打されて三割方は死んだ。
(33) 2018/03/24(Sat) 17時頃
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[柱、建物群、柱、ビル群、柱、ビル群……。
同じ屋根の下で暮らし始めて数年が経った。彼女との逢瀬は、本を跨らずとも手を、頬を、その柔い肌を重ね合わせることができる。 その薄い唇すらも触れることが出来るのに、其処から紡がれるのは呼吸音だけ。 果たして、彼女の言葉を聞いたのは何時だっただろう。彼女の微笑みを見たのは何時だっただろう。絶え間なく規則的に動いていく歯車の一部は、十二分にその顔を見ることすら叶わなくなっていた。
アナウンスと共に開かれる扉、密度の濃い人だかりを抜けて、歩を進めた。多くの花々が彩ったバージンロードの影一つ無しに、整然と揃えられたコンクリートの、未だ冷さを持つ道を踏み締めていく。*]
(34) 2018/03/24(Sat) 17時頃
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助手席のドアが開く音で、浅い眠りから目を覚ました。午後11時56分。三割方は錯乱していた。これは夢なのか、現実なのか。ただ、生ぬるい血の感触だけがこびりついて離れない。指を立てて強く髪を掻き毟り、頭をハンドルに打ち付けた。情けないクラクションが鳴った。
「三割方さん、一体どうし……」 「降りろ!!」 「え、でも……」 「降りろって言ってんだろ!!!」
六掛は震えながら車から降りる。 やがて窓を叩く音がした。
「ああああああああああ!!!」
行き場のない苛立ちをを全てぶつけるように、アクセルを踏んだ。商業ビルの壁に衝突し、フロントガラスが網目状に割れて車に押し潰された。何秒か、何分か。意識が飛んでいた。目を覚ますと破片が身体中に突き刺さっている。歯を食いしばり、歪んだドアをこじ開けた。血まみれの身体を引きずりながら外へ出る。辺りには騒ぎを聞きつけた人々が集まっていた。彼等は手短にスマートフォンを取り出して、シャッターを切る。助けようとする者は、誰一人としていなかった。絶命寸前の最中で、三割方は自嘲するように笑った。
(35) 2018/03/24(Sat) 18時半頃
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皮肉なもんだな、と三割方は思った。人様にカメラを向けて来た男が、カメラを向けられて死ぬとは。 シャッターを切るのが虚しくなったのはいつだろう。 親父から借りパクした一眼レフ。金がなかった学生時代に、よくカメラを片手にアテもなく歩いていた。随分前に、この斗都良町にも1度だけ来たことがあった。閑静な住宅街、のどかな公園。大きなテラスのある珈琲店。路地裏の野良猫。ヤクザの名前みたいな葬儀社。何処にでもありそうな山。この目で見える何気ないものが、フィルムに収めると特別なものになる。それだけで満足だった。けれども、金にならなかった。三割方は写真家にはなれなかった。代わりに声がかかったのが、今の仕事だった。人のケツを晒し上げて、金が貰える。人道的に正しいことと報酬はイコールではない。三割方は人道に背き、世論の反響に媚び続け金を稼いだ。
(36) 2018/03/24(Sat) 18時半頃
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その末路がこれだ。
『……じゃあ私達の仕事って何の意味あるんですか?』
幾つものフラッシュに包まれながら、朦朧とする意識の中で不意に六掛の言葉を思い出した。
「……ねえよ、オレには何にも」
三割方の頬に雫が落ちた。 ふと顔を上げると、そこには六掛がいた。目一杯に涙を浮かべ、鼻水を垂れ流しながら不細工な顔で泣きじゃくっていた。その涙が、三割方の頬に落ちた。光によく透き通る、綺麗な涙だった。
(37) 2018/03/24(Sat) 18時半頃
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[ゆっくりと町を歩く。
駅に近付くにつれ少しずつ賑やかで、けれど特筆すべき場所も無いような平凡な景色。けれど、そのなんでもない景色の中で、なんでもない会話が成されれば。当たり前の光景が広がれば。日常のある一点が目に留まれば。 産声を上げた世界は瞬く間に成長して両手いっぱい広げてその姿を見せ付けてくる──いつもならば。]
どこまでが自分の子供だった? 「全員手を繋いで!一人も零すんじゃないよ。」 今となっては関係ない。 自分で産んだ子も、引き取った子も、いつの間にか 紛れ込んだ子だって、全部纏めて我が子で良い。
[大きな籠で車を避けながら公園へ向かう、保育士と幼児たちが丸ごと家族だったら賑やかだろうな、と書き始めたそれは、子供の成長と巣立ちで己を少しずつ剥がれていく哀しい母の物語になった。]
(38) 2018/03/24(Sat) 21時半頃
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[まだ探してるんだ…。
休憩がてらに昼食を、と入ったファミリーレストランのボックス席、背中合わせの隣の席で会話する声が聞こえれば、そんな呟きが胸に落ちる。]
「また……なんなんだ、この夢は。」 落下の衝撃は未だ身体に残っている。けれど息を 荒らげて横たわるのは己の布団の上で、たった今まで 見ていた光景はどこにもない。 彼女は──暗い崖から足を滑らせたアスカは、 助かったのだろうか。 知りたくて目を閉じても、夢の気配は消えていた。
[婚約者が突然、失踪したのだという。 五年も前のあの時も、開けた店内で声を抑えきれずに話しているものだから、細かい事情まで耳に入ってしまったのだ。
良くある異世界召喚物。その主人公の、元の世界に残された人たちはあんな気持ちで主人公を探すのだろうか。 そんな想いが、二冊目の長編のトリガーとなった。 斗都良へ越してきてすぐの事だったけれど、どうやら彼の婚約者は未だ手がかりが途絶え、しかし諦めずに探し続けているようだった。]
(39) 2018/03/24(Sat) 21時半頃
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…………。
[セットのサラダをフォークでつつきながら、気持ちがずぶりと沈んでいくような気分になる。 町を歩けば幾つも思い出す、世界の生まれた瞬間の事。
きっかけだから。 フィクションだから。 真実であるはずが無いのだから。
同じ気持ちになる度にそう言い聞かせるけれど、果たしてそれで良いのだろうか。 名も知らぬ他人の人生を面白おかしく作り上げて無責任に発表している、と言われてしまえば否定はできない。モデルがあると口外したことはないにしても、だ。
その迷いが、筆を止めているのだろうか。 ──などと思い詰めてしまってはますます世界を閉ざす殻は固くなるばかりなのだろうけど。]*
(40) 2018/03/24(Sat) 21時半頃
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助手席のドアが開く音で、浅い眠りから目を覚ました。午後11時56分。助手席に入ってきた女性は雑にレジ袋を置いた。
「まだ動かないんですか〜?」
レジ袋から眠気覚ましの栄養ドリンクを一気に飲み干すと、六掛紫乃は仕事帰りに一杯引っ掛けた中年のような声を漏らした。 三割方は先ほどの出来事を思い返して、六掛から目が離せなかった。
「何見てるんですか。ははーん。ついに私のダイナマイトボディにセクハラしたくなりましたか」
六掛は無い胸を張り、三割方の逆水平チョップが直撃する。うぐぅ、と小さく呻いた。
「……お前。何で泣いてたんだよ」 「へ?」
六掛は首を傾げる。
「そりゃ、逆水平チョップは痛かったですけど、泣くほどじゃないですよ」
三割方は気まずくなって、何でもないとだけ答えた。六掛はレジ袋から冷えピタを取り出す。バックミラーを見ながら髪をかきあげておでこに貼った。
(41) 2018/03/24(Sat) 23時頃
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「私が泣くのは、大切な人とお別れする時だけですよ」
六掛は月刊マーのページをペラペラ捲る。 三割方はぼんやりとその姿を眺めていた。 心は不思議と満たされていた。
「六掛、車降りろ」 「ええ!? 何でですかぁ?」
我儘で生意気でオマケに仕事も出来ない新人。
「今から誰かが俺を殺しに来る」
それでも、こんな自分を大切だと思ってくれる。今はそれだけでほんの少し、勇気が湧いた。カーナビの時計が0に変わる。
「行け!早く!」
助手席のドアハンドルに手をかけ、六掛は不安そうな顔で、何度か振り返りながら外へ出た。それでいい。三割方は久しぶりに笑った。
(42) 2018/03/24(Sat) 23時頃
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窓を叩く音がする。外ではサングラスをかけた男が立っていた。サイドミラーを確認すると、やはり、サングラスの男は窓の下に金属バットを隠し持っている。アクセルを踏み込もうとしたその時、
「ぉぉぉおおおおりゃぁぁああああ!!!」
サイドミラーに、信じられないものが映っていた。六掛がサングラスの男に飛びかかったのだ。手に持っていた金属バットが転がる。サングラスの男は襲いかかってきた六掛に殴りかかろうとしていた。三割方は咄嗟に運転席のドアを思いっきり開いて男の顔にぶつけた。男が怯んでいる隙に六掛の手を取る。
「こっちだ!」
繁華街へ走る。後ろから男の怒号が聞こえる。2人で息を切らして曲がり角に差し掛かった時に、六掛は手を振りほどいた。三割方にくるりと背を向ける。
(43) 2018/03/24(Sat) 23時半頃
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「ダメだ! そっちは……」 「大丈夫です」
瞬間、追ってきた男が商業ビルの壁にぶっ飛ばされた。無駄のない動き、洗練された技術。目にも留まらぬ速度で何度も拳を食らわせ、最後は鋭いアッパーで顎を突き上げたのだ。男は身体が伸びて、完全に意識を失っている。
「私、大学で北斗神拳愛好会に入ってたんで」
呆然と立ち尽くす三割方を前に、六掛はふぅーっと息を吐いて片腕で額の汗を拭った。
「……北斗神拳関係ないだろ、その動き」
(44) 2018/03/24(Sat) 23時半頃
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[諦めと落胆を抱えて、閑静な住宅街を歩く。時々、暗闇に浮かぶ小さな灯のような微かな期待が瞬いて、ポケットの中の携帯を振動させる。もちろん、そんなものは幻覚でしかなく、メッセージを確認したところで、無駄に充電を減らすだけでしかなかった。 彼女のことで頭が一杯だったせいで、私はもう一人の女の存在に気付かなかった。そして、それに気づいた頃にはもう、家はすぐ目の前だった。]
……ぬ?
[ふと立ち止まって振り返った。家の窓から漏れる照明以外に、人の存在は感じられない。さっさと前を向いて家まで行けばよかったものを、私は好奇心と違和感から目を凝らしてしまった。 距離にして60mほど、迫り来る夜の闇に溶け込むようにして、その女はいた。ベージュのトレンチコートにスニーカーという出で立ちが、淀みもなく、こちらに向かって歩いてくる。女が、等間隔に配置された街灯の下までくると、その姿はより鮮明になった。くわっと口を大きく開けていたのだ。あんぐりー女だ。]
(45) 2018/03/24(Sat) 23時半頃
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[ 昼下がりのショッピングモールは、田舎町と言えど、それなりに賑う。休日を謳歌してやろうという意欲は皆共通で、都会に負けじと轟かせ、店内は活気で膨れていた。 庶民的な店に混じり、佇むジュエリーショップ。その店内で彼女と肩を並べ、ガラスケースを眺める。結婚という通過儀礼に、神聖さを見出す風潮。充満した高潔な空気。愛想笑いすら上品な店員。指紋一つない硝子箱を、うっとりと見つめる彼女の横顔。……息の詰まる思いがする。他人の瞳に、俺は幸福を絵に描いた男として映るだろう。平凡で、ありふれた、でも生きていくにはなくてはならない種類の幸福 ]
「ねぇ……どう思う?」
[ 店員のセールストークに耳を傾け、宝飾品に釘付けだった瞳が此方を見る。終始上の空だった不誠実が暴かれそうで、心臓が跳ねる。頭の片隅で、分かりやすく浮かれる彼女を、可愛いと思った ]
「……何でも良いって、なにそれ。どういう事?」
[ 失言だった。未来を買いに来た客として、相応しくない会話。店員は苦笑いしか出来ず、その視線が片顔に刺さる。無音の同調にも感じた。口から出た台詞を後悔しても遅いが、気の利いた代替も用意出来ず、その気力もなく眉を顰める ]
(46) 2018/03/25(Sun) 00時頃
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[ 底冷えする、突き放すような台詞が脳裏に浮かんだ。 背筋が冷える。ひとひらの言葉を飲み込んだ喉の奥が、誰かの代わりに切り裂かれて熱くなる気がした。
なるべく自然に視線を下げ、腕時計を確認する。 ── 午後二時の噺だった ]
(47) 2018/03/25(Sun) 00時頃
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[気づいた瞬間、心臓がプレス機で圧縮されたかのように縮こんだ。私は恐怖に支配された。女が視界から消える恐ろしさを抑え込み、前を向く。その場からとっとと逃げ出したい気持ちで足を動かすのだが、走るまでには至らない。別に歳だから走れないというわけではない。そこは馬鹿にしないでもらいたい。私は心の何処かでこう思っていたのだ。「お化けなんているわけない。何を怖がっているんだ恥ずかしくないのか」と。この場において、ありもしない世間に目が足枷となって動きを鈍らせていた。頭の中では、マーの記事やカフェオレ、彼女のことが超高速のメリーゴーランドのようにぐるぐるしているというのに。 急ぎ足でマンションに駆け込むと、少しは心も落ち着きを取り戻し、冷静に物事を考えられるようになった。あの記事は言っていたじゃないか。あんぐりー女は“実在した”と。お化けではないのだ。仮に実在したとしても、生身の人間ならいくらでも対処法がある。こっちは脂の乗った30歳だぞ。馬鹿馬鹿しい。]
(48) 2018/03/25(Sun) 00時頃
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ふふっ……
[喉奥まで上がってくる文句は、元マーの関係者だったとは思えないものばかりで、つい笑ってしまった。 部屋は4階の角だ。いつもならエレベーターを使うのだが、今日は運動の目的も兼ねて階段を選んだ。エレベーターは、まずい。]
(49) 2018/03/25(Sun) 00時頃
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[こんなに一生懸命に階段を上ったのはいつ以来だろう。学生の頃、遅刻寸前で階段を駆け上がったのが最後のような気がする。動悸が激しい。日頃の運動不足を実感させられる。結局、あの女どころか、誰一人ともすれ違わずに部屋まで辿り着いた。隣のドアから、微かに子どもの声が漏れてくる。夕食中なのかもしれない。温かい気持ちになると同時に、切なくなってしまうのは、きっと彼女との未来に不安を抱えているからかもしれない。 鞄から真新しい鍵を取り出すと、鍵穴に差し込んだ。ドアを開き、中へ入り、閉じて施錠をする。ホラー映画のように、閉じる直前に手を挟み込む妨害を受けることもなく。家の匂いに安心したせいか、どっと疲れが溢れてくる。]
ただいま
[返事はない。以前なら彼女の声が聞こえたのだが、今日は静かだ。仕方がないとはいえ、やはり寂しい。鞄を適当な場所に置くと、風呂場へと向かった。今日の疲れを全て洗い流すには風呂しかない。]
(50) 2018/03/25(Sun) 01時頃
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[抜け毛一つない綺麗な風呂場を水浸しにしていく。ローズアロマのボタニカルシャンプーをいつもよりマシマシで手にとる。こういう嫌んなっちゃう日には、泡だらけにして洗うのが、いいストレス解消になるのだ。ボディーソープはラベンダーの香り。頭の先からつま先まで花の香りに包まれるが、明日になる頃には全部消えているのだから不思議だ。彼女には残るのに。綺麗にまとめた長い髪を解いたときにふわりと舞う香りは、女の子だけのものらしい。 体を洗う間に溜めておいた湯船に、アメリカ生まれのアイスクリームのような、色鮮やかなバスボムを投入する。しゅわしゅわと気泡に包まれていると、彼女と入ったラブホテルでの出来事を思い出す。彼女が先に風呂へ入ったのだが、妙にはしゃいでいるので、何かと思い覗いてみたら湯船が泡だらけになっていたのだ。『きゃーえっち!』なんてテンプレートな台詞が飛んできたのが、昨日のように感じられる。]
出よ
[心も体も充分温まった。ゆでだこになる前にとっとと退散だ。]
(51) 2018/03/25(Sun) 01時頃
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[ネット配信の準備をしながら猫と遊びながら仕事を進める。同時並行作業だ。 普段なら猫リセットが恐くて保存は頻回にする。だってこの子脈絡なくキーボードに乗って来たり腕に乗ってきたり手の甲に乗ってきたりしてそりゃあもう邪魔で邪魔で可愛くて可愛くて可愛すぎて作業がすすまなくなる事も多い。掌にどいんっと乗って、それで再起動コマンドなんて入力してしまったらたあいへん。だからそんなヘマはしないように、或いはしても問題なく立て直せるように、保存はこまめにするのはやっぱり一番なのだった。
こうかな、と仕事を進める。 ああでもそろそろこんな時間、こっちの準備を優先しなくっちゃ。
ああえ〜〜?ちょっと何そのラディそのポーズ本当なに?可愛いがすぎると怒りを覚えてくるものなんですけど。可愛い。怒るわよ。怒らないけど。こんっなに可愛い子を怒れるはずなんてないわ?しんどい。見てるだけで幸せがあふれてくる。すごい、さすが幸福の塊…。しゃわしゃわと毛並みを撫でる。赤いリボンをラディは嫌がらない。とても可愛くって似合っていて、このリボンはもう聖なるものなのでは…?なんか軌跡とか起こりそう。幸せを運んでくれそう。]
(52) 2018/03/25(Sun) 01時頃
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[もしょもしょと猫を触る。ラディは箱座りをしていた。はああ?かわいい。この座り方見るだけでもう元気があふれてくる。でれっでれになってしまう。このシルエット、その前足の曲がり方、後ろ足の角度、柔らかに立ち上がる毛先、何をとってもどこをとっても最高に可愛いのにそのポーズでラディってばあくびを!あくびをしている!ええ〜〜かわいい〜〜。その大きく開けた口の中に指をつっこみたあい!でも指に穴が開くんでしょ?しってるう。でも猫の爪とか牙で傷付けられるのってご褒美なのではっていつも思うのよね。なんていうんだろう、お猫様が私を気にかけてくれた証拠っていうの?愛の証なんじゃない?そう思ってしまったらなんかもう踏んでくださいって気持ちになるし、ひっかいても嬉しいって気持ちになるし噛みつかれても嬉しいって気持ちになるのよね、全く本当に。はあ。かわいい。でも変なものを食べさせるわけにはいかないからね、そこはちゃんと確りするわ。猫が大事なんですもの。う〜んほんとうにかわいい…。らぶ…。愛は地球を救うっていうけど、猫がいたらどこもかしこも救われるんじゃないかしら。]
(53) 2018/03/25(Sun) 01時頃
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[───とまで思って、でも猫アレルギーの人も猫好きじゃない人もいるからなあ、って思ってそれはそれで仕方ない。という結論をだしたのだった。愛はどこまで受け入けるけれど押し付けないものだ。といいつつ、猫とはたあくさん遊ぶんですけどね!]
(54) 2018/03/25(Sun) 01時頃
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それはそれとして、っと
[手元では準備を進めていた、配信作業を最優先にして。 そう、最優先だ。 そして猫に夢中だ。
うっかり保存のボタンを押し忘れたまま、準備は進み、時間もまた、* 進んでいく *]
(55) 2018/03/25(Sun) 01時頃
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「はぁ……それで?休日デートを満喫したって話なら間に合ってますんで。腹一杯ですご馳走様。惚気は壁に向かって吐き出して下さい」 「うるせぇ、人と喋ってる時くらいスマホを置け。人の話を最後まで聞け。久し振りに会ってんのに、何だその態度は」
[ 阿呆、とまで言わなかったのは、年上の、教師としてのなけなしの矜持か。住居を作り替えた、テラス席が売りの珈琲店には、穏やかな音と時間が流れている。例え慣れ親しんだ相手に向ける冗句でも、声を荒げるのは躊躇われ、自然と声を潜めた。
テーブルを挟んで向かいに座っている青年は、大学時代に講師を勤めていた塾の生徒だ。高校を卒業し、鴉の羽根のように黒々としていた髪は、すっかり陽の色に染まっている。あか抜けても毒気は抜けていないようだが。異次元の世界平和の為に躍起になっている彼は、手元の端末に夢中だ。果たして俺の小言が聞こえているかも怪しいが、素知らぬふりで、話の続きを促す。
聞きたいと言うから話しているのに、「あぁ」だとか「へぇ」という、気の抜けた返事の反覆に、短い気が苛々と燻り始めた頃 ]
(56) 2018/03/25(Sun) 01時半頃
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[ ──流石に、仲違いしたと言えば、弾かれたように彼が顔を上げる。ようやく顔を合わせたのは良いが、その目が好奇に満ちているのが気に食わない ]
「……おい。人の不幸を喜ぶな」 「喜んでねえって、驚いてんの。あんなに順風満帆そうだったのにって。まあ、誰に聞いても先生が悪いって言うだろうね、そりゃ」 「……知ってる」
[ 耳の痛い台詞に閉口する。そのうち注文していた品がテーブルに届く。珈琲と、クリームソーダ ]
(57) 2018/03/25(Sun) 01時半頃
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「何がダメなんすか? 嫌なら捨てて、欲しいなら選べば良いのに。先生まだ若いでしょ」
[ あっけからんと言ってのけて、彼は黄緑が目に鮮やかなグラスを引き寄せる。無数の気泡が弾ける舌触り、人工甘味料の甘ったるさ。学生時代もドリンクバーやジャンクフードのお供に愛飲した、あの味を今も忘れていない。芳しい珈琲の良い香りが、鼻腔を擽るが。いかにも身体に悪そうな、あの味を、今は恋しく感じていた ]
「一人になったとして、独身貴族を騙るのはなぁ……」 「良いじゃん、自由で楽しそう」 「他人事だな。簡単に言ってくれるなよ」 「だって他人事だもんね。何にせよ、俺達には根気が必要だって事っすね!」
[ ニッと歯列を見せ、雀斑の浮いたあどけない顔で彼が笑う。大人びたと思っていたが、変わってない。憎めない表情に、苦渋を噛んで笑ってみせる。「お互い頑張りましょうね」と言う彼は、自ら桜を散らした浪人生だ。彼は彼で、根気を試されている。本来なら世間話に浪費させるべきでない時間。取り戻せはしないが、すぐに熱い珈琲を飲み干した ]
(58) 2018/03/25(Sun) 01時半頃
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[彼女がいれば、タオルを巻いて出るところだが、今日はフルチンだ。適当に水分をとっただけの、生乾きの髪のまま部屋をうろつく。開放感が半端ない! ──何やってるんだ私は。こんな変態じみたことして楽しんでいる場合じゃない。湯冷めする前に部屋着を探す。フリルのついたシルクのパンティーに、薄手のハーフパンツ。もう春も近いので多少薄着でも問題あるまい。上の方はTシャツにターゲットを絞ってタンスを漁ると、これまた懐かしいものが見つかった。彼女との初の海外旅行で、浮かれて買ったペアTシャツだ。「楽しいハンバーグ」と日本でプリントされたTシャツなのだが、イラストはハンバーガーという微妙なミスマッチがウケた。]
くみた……
[脱ぎ捨てていたズボンから携帯を取り出して、画面を開くが、相変わらず未読のまま。髪を乾かしたら、もう一度だけメッセージを送ってみよう。]
(59) 2018/03/25(Sun) 02時頃
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[ たどり着いたのは山の麓の発電所。 「あぶないからはいってはいけません」の看板をくぐって おくへ、]
(60) 2018/03/25(Sun) 02時頃
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