191 The wonderful world -7 days of MORI-
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[ノートを手に取ると文字を記していく。 できるだけ早く書こうと心がけてはいるのだけど、 筆談というのは本当に焦れったいものだと思う。]
「生きるためにミッションをクリアしたい。 そのための協力は大事で、 ぼくはぼくにできることをがんばりたい」
「でも、あせってまちがえたくはない。 大事なことを、見失いたくない」
…。
[書きながら、彼の聞きたいことは こういうことじゃないんだろうなぁと思う。 それでも、まごうことなく本音だから、素直に書くしかないのだけど]
(481) 2016/06/12(Sun) 22時頃
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[それと、もう一つ]
「小さな世界じゃないけど、 まわりみえてないみたいで、君が少し心配」
[焦っている、と音流は彼のことを言っていたけど。
……焦っている、というより、 一つのことに夢中になりすぎて周りが見えていない。
出会ったばかりではあるけれど、公園で最初に彼に 声をかけられたときからそんな印象を受けていた。
同時に、その「ひとつのこと」というのは、 きっと彼にとって大事なことなのだろう、とも]
(482) 2016/06/12(Sun) 22時頃
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“── 生き返る気がないなら、どうしてここにいるんですか?”
「ぼくは」
…。
[ノートに字を綴ろうとして、少し考えてから。 再び文字を綴り始める。]
「ぼくは、ミームちゃんに生きてもらいたい」
「ミームちゃんと生きたい。 彼女のために、ぼくは死ねない」
「彼女は、ぼくを必要としてくれているから」
[文字を綴りながら脳裏を過ぎるのは トレイルの歌を聞きたい、と泣いていた彼女の姿。]
(484) 2016/06/12(Sun) 22時頃
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「彼女を悲しませないぼくでありたい。 彼女だけじゃなく、ぼくをしってる他の人たちにも」
[ちら、と。自分の前に立つミームに視線を向ける。]
…。
[最初に出会ってから今までずっと、 彼女の前では格好の悪い自分しか見られていない。 それでも、なんと言われようともこれが自分自身なのだ。
もし、他の誰かを利用して蹴落として、 そうして生き返ることができたとして。 ――僕は、目の前の彼女に、自分がトレイルだなんて絶対に名乗れない。
何よりそんな自分は、本当にミームや他の人たちが好きになってくれた“トレイル”なんだろうか? そんな僕は空っぽだった頃の自分よりもずっと、嫌な“自分自身”なんじゃないだろうか?]
(485) 2016/06/12(Sun) 22時半頃
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…。
「説明下手で、ごめん」
[正直、書き綴ろうとすればするほど、説明に困って悩ましい。 小さく頭を下げてから、黒髪の彼に]
「ネル先生を悲しませないでね。 どうか、いっしょに生きて。命大事に」
[ぺらり、とノートのページを切り取って彼に差し出した。 正直、意図が伝わっている気はこれっぽっちもしていないが。 ……ただ、音流が悲しむようなことだけはしないでほしいと、心から思う。]
(486) 2016/06/12(Sun) 22時半頃
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[――去り際。]
『ミームちゃんごめん!少し待ってて』
[少し強く握られた手をそっと解くと、 南へ向かおうとしている二人のもとへ。 ノートを1ページちぎると]
「直接お礼言いたかった。 CDジャケットのイラスト、すごく綺麗でした! 本当にありがとうございました!」
[殆ど押し付けるようにして渡してから、 深々と二人に頭を下げてミームの元に戻っていった。*]
(489) 2016/06/12(Sun) 22時半頃
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―回想・とある春の日―
[――春。
それは別れと、出逢いの季節だ。
困り顔の鳥飼寿に引き取られたのも、
たしか、うららかな春の日だった。
朝に夕に、高らかに声を張り上げる。
大型インコに特有の雄叫び――
それが存外五月蠅かったからと、
気紛れな大家が飼育放棄したコンゴウインコ。
……それが、俺である。]
[前の主人は、好きになれなかった。
呼び掛けても構われなかったどころか、
飼い始めてすぐ匙を投げられてしまった身。
だから、新しい環境への期待は大きかった。
トリカイ、ヒトシ。
――どんな人なんだろう?
――たくさん、遊んでくれる?
――いっぱいお話し、してくれる?
――美味しいごはん、食べたいな。
――見て見て、僕って綺麗でしょう?
――君のためなら、綺麗に鳴いてみせるよ!]
[――ねぇ、ヒトシ。
ねぇ、ねぇ、
こっち向いて。
…僕を見て。
ねぇ、 ……ねぇ、ってば 、]
[ヒトシはいつだって、話半分だった。
ろくに耳も傾けず、視線はPCの画面に向けて。
うんうん、と形だけ頷いたりも。
最初のうちは、それで良かった。
反応を返してくれるだけで、嬉しかった。
けれど段々と、ものが解るようになって、
…その態度が、無関心の表れであると知って。
それが気に入らなくて、
さらに躍起になって気を惹こうとした。
結果的に、逆効果だったけれど。]
[春の終わりに、
俺は、寂しいという感情を知った。]
―回想・とある夏の日―
[それから数か月が経ち、
ヒトシとの関わりは相変わらず希薄なままだったが、
代わりに、絶え間なく流れる映像と音を得た。
話しかけても決して返事はくれなかったが、
それらは色々な言葉や、その意味を教えてくれた。
時間ばかりはたくさんあったから、
じっくりと、ニンゲンという生き物を観察した。
どういう時に、どんな単語を投げかければいいのか、
どうすれば、相手の――ヒトシの気を惹くことができるのか。]
[文字を読み、覚えた言葉を真似してみせると、
珍しくヒトシが笑顔を向けてくれた。
それが嬉しくて、また一つ言葉を覚えて、]
オハヨ!
コンチワ!
マタ アシタ!
[けれど、いつしかその言葉が向かう先は、
無機質なカメラのレンズとなっていた。
ヒトシ曰く、クスクス動画に投稿するとのこと。]
[それが何かは知らなかったが、何か下心がある気がして。
やがてカメラを向けられると喋らなくなり、
ヒトシは撮影をやめ、俺も新しい単語を口にしなくなった。
…つまりは、そういうことなのだ。
それが解ると、何だか無性に腹が立って仕方がなかった。]
[夏の終わりには、
俺は、反抗することを覚えていた。]
―回想・とある秋の日―
[それでもやっぱり、諦めきれずに。
あまり家に帰らぬヒトシが顔を見せれば、
今日こそはと、何かしら行動したものだ。
態度はだいぶ、可愛げがなくなって。
ストレスによる過剰な羽繕いも相俟って、
姿はなかなか、凶悪に見えていたかもしれないが。]
[リピート再生される幼児向けの教育番組はとうに飽きて、
この頃にはこっそり、テレビのリモコンを弄ったりもしていた。
…ヒトシが出掛けると足を伸ばし、帰る前には消しておく。
そうして観はじめた主婦向けの番組には、
これまでとは異なる種類のニンゲンが出ていて、
夫に邪険にされ、寂しく思う妻などにはかなり共感した。
ヒステリックに叫ぶ彼女達を見て、ふと思う。
――これを、ヒトシに問いかけてみたら?]
[半年も共に過ごせば、色々と理解できる。
ヒトシが日中、シゴトをしていること。
そのシゴトが大切で、そのために寝食を削る程であること。
テレビの中の夫達も大抵が彼と同じ状況にあり、
それで家に残された妻が、悲しい悲しいと泣くのだ。
件の問いかけには、二種類の答えが用意されている。
――“シゴト”か、“アタシ”。]
[おまえだよ、とすぐ謝るパターンは決して多くはないが、
それでも時折目にしたし、最後は幸せに締めくくられる。
大半の男はまず、シゴトだと答えてしまう。
けれどその場合でも、紆余曲折を経て最後には、
やっぱりおまえが大事だよ、という結論に辿り着く。
…つまり、この問いかけは。
ハッピーエンドに繋がるキーワードなのではないのか?]
[そう考え、ワクワクしながら帰宅を待って、
ドキドキ胸を高鳴らせながら、あの台詞を叫んだのだ。]
[驚いてこちらを振り向いたヒトシに、
キラキラと期待の眼差しを向けた。
ある程度辛辣な言葉が投げられるのは、
もちろん、覚悟の上だった。
働く男達の大半が、そうだったので。
一人でノリツッコミをこなして一見、上機嫌。
けれど続き、早口で述べられる答えはやはり、“シゴト”。]
[焼き鳥にして喰ってやる、という、
酷く恐ろしい、胸の潰れる、最大級の罵倒を受けて。
それ程までかと泣きたくもなったが、
どうにか涙は堪えて、じっと黙って見つめていた。
大量の餌だけを置いて、ヒトシが家を出る。
ここでヒステリーを起こしてはいけない。
黙って耐え忍び、風向きが変わるのを待て。
そうすればきっと、彼は振り向いてくれるから。
…物語の彼らはいつだって、そうだっただろう?]
[けれどそのまま秋も終わり、
俺は、諦めることを覚えてしまった。]
―回想・とある冬の日―
[朝晩が冷えるようになった頃。
寒いと抗議して鳴いたら、暖房が付くようになった。
光熱費が嵩むとボヤかれたものの、
南国の鳥であるから、そこは仕方がない。
いっそ人の身であれば良かったのに。
そしたらアンタは、もっと――
…そんなこと、考えたところで無駄だったけれど。]
[やがて冬も終わってしまい、
想い出も何もないまま、また、春が来た。]*
―ロスタイム:とある結末、その後―
[つぅ、と頬に温かなものが流れる。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、
ぼんやり滲んだ視界が飛び込んできた。]
あ、っれ、……
[――最後の記憶。
鳥飼に礼を述べようとして、鮫に喰われた。
はず、だったのだけれども。]
[辺りを見渡せば、そこはスクランブル交差点。
翌日に移行したのかと疑問符を浮かべていたところ、
上空から、ぼやけた影のような人物に語り掛けられた。
…涙をごしごし拭っても、やはり上手く像が結べない。
“未だに諦めきれない方は、――”
嗚、そんなものは。
答えなど、わかりきっているというのに。]
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