160 東京村
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― 高円寺改札外のコインロッカー ―
[高円寺駅には、二箇所コインロッカーがある。 一箇所は改札内。改札口を入って右側すぐに位置している。 もう一箇所は改札口を出て左側。 キオスクの角を左に曲がった所にあった。
小さな四角い扉がずらりと並んでいる。 いくつかはカギを穴からぶら下げている。 いくつかはカギが既に抜かれて使用中だ。
小型のコインロッカーの扉。 上から3番目・左から3番目。 その扉もまた、使用中であるようだった。 当然、カギを抜き取られたその日から課金されているのだ。 いいお値段になっている。]
(9) 2015/06/01(Mon) 00時半頃
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[たったそれだけ。 半分になった紙だけがそこにあった。
>>11 紙には店への地図が記載されている。 南改札を出て、右手側。 PAL商店街を通り、途中で脇に入る。 住所にはB1とある。]
(12) 2015/06/01(Mon) 01時頃
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― 高円寺 ―
[駅の南口側から出た正面は、少し開けた空間だ。>>12 右手側に曲がればバスのりばが並んでいる。 バスのりばを通り過ぎ、信号を渡ると、高架下に商店街がひとつ。 その反対側にも、もうひとつ。そちらが地図に示された商店街であるようだ。タイルで整えられた足元と、陽の入る透明なアーチのアーケード。いくつかの飲食店、いくつかの雑貨店、いくつかの服屋などを通り過ぎて、商店街が別の名前に切り替わる前に、ある箇所で曲がる。
地図に示された箇所だと思しきそこには、一階に料理屋と、料理やの入口の脇に、狭い下り階段。 階段の脇、道路へはみ出すようにして、立て看板が置かれていた。 気の抜けたひらがなで、店の名前が書かれている。]
(28) 2015/06/01(Mon) 02時頃
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[ 『またきてさんかく』 B1 >>28
看板には店の名前の他に、素人仕事であろう中途半端な色の写真が印刷されていた。天然石のアクセサリーやストラップなどを撮ったものであり、写真の近くには石だ自然だ誕生石だオリジナルだ何だとも書かれている。
階段の下にはオレンジ色のあかりがみえている。 経年して黒っぽく汚れた白タイルの階段を降りると、そこには『またきてさんかく』と書かれた木製の扉があった。 扉の向こうから、古着屋のような独特のにおいと、店内でかかっているのであろうエキゾチックな雰囲気のBGMが漏れてきていた。]
(30) 2015/06/01(Mon) 02時半頃
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― 『またきてさんかく』 ―
[レジ机の向こう側で、ビール箱に座布団をかけただけの椅子に腰掛けて話し込む途中、携帯に着信があり、watanukiはハーフパンツのポケットをさぐり、プリペイド携帯を選んで電話に出ながら立ち上がる。 電話を持つ手首にはミサンガやブレスレットが重ねてつけられていた。 店内でかかっている『インドの古来の音楽性&精神性の伸びやかなうねりとオーガニックな一面を併せ持つ、魂の本来の姿を取り戻してくれそうなヒーリングミュージック』の鐘や太鼓の音色で、電話の内容のほとんどは本人と相手にしか聞き取れなかった。]
……、…地震が、……… 次の雨…… ……天気予報……、……、……
(36) 2015/06/01(Mon) 13時半頃
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[空調によるものだろう。店内は涼しかった。床は板張りだ。>>40
店内には『インドの古来の音楽性&精神性の伸びやかなうねりとオーガニックな一面を併せ持つ、魂の本来の姿を取り戻してくれそうなヒーリングミュージック』がかかり、照明は『癒やしへいざなう優しい色合いの光』で統一されていた。そして香による『華やかで甘い奥行ある濃厚な』独特の匂いが漂っている。
商品は『邪気を祓い場を清浄にするのに効果覿面のグッズ』が大量に。そして『それらがヒーリング効果を100%発揮し続けることができるよう手入れするための商品』と、その他雑貨が並べられていた。
アジア雑貨の隙間をくぐるように進むと、レジ机がやっと見えてくる。レジ机の向こうには、二人の男が居り、岩塩ランプから発生している『大自然の清々しさとナチュラルなマイナスイオン』を浴びていた。 片方は電話先と天気の話をしている。 とくに怪しいところはない。]
(41) 2015/06/01(Mon) 15時半頃
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[小さな挨拶が届いたのだろう。 二人の男は、同時に、店にやってきた客を見た。
片方は南アジア系外国人。少し太っている。 もう片方は、今丁度電話を切った日本人。痩せている。
外国人は、客を見るなり肌との色差で余計に白っぽく見える歯をみせた。それを橙の照明でちらりと照らしながら、日本人と頷き合い、レジ奥の壁にかかった派手な色の間仕切りの奥へと引っ込んていった。 残った日本人が、客に挨拶をする。]
いらっしゃい。
[間仕切りの奥では、さっきまでいた外国人が誰かを呼ばわっているようだった。]
(42) 2015/06/01(Mon) 15時半頃
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[残った日本人は、やってきた客の足元から頭のてっぺんまで、目を這わせた。それから、彼女の手元に注目する。
骨っぽい人差し指で、客の手元を指さしてから、丸めた指を開き、手のひらを差し出した。]
(43) 2015/06/01(Mon) 16時頃
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[エスニック系変なおじさんは、手渡されたショップカードを裏返したりしながらしげしげと眺める。 おもむろに尻のほうへ手を伸ばし、ポケットから何か取り出した。
厚紙だ。 ショップカードのもう半分であるようだった。
紙の破れ目が、ピッタリ合致するかどうかを確かめてから、エスニック系変なおじさんは急に満面の笑顔になると、陽気に喋り始めた。]
(45) 2015/06/01(Mon) 16時半頃
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い〜〜やぁ〜〜、遅かったじゃないかー! きちんと『正規の手順』で連絡くれてたってのに、 「やっぱやめた」はないだろうと踏んでたんだよぉ〜!
[笑い咽るように何度かカサついた咳をしてから、客が持ってきた方のショップカードの半分の裏側を、鼻に近づけて何度もくんくん嗅ぐと、舌苔で白っぽくなった舌で、そのカードの裏側をべろんと舐めた。]
WHOOO!
おっほほ、間違いぬぇえ〜〜、 おれが千切った、ちぎりましたあ!
[カードを舐めた途端肩を竦めて頭を振ると、ばんばんレジ机を叩いて笑っている。]
(46) 2015/06/01(Mon) 16時半頃
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こちら側へようこそ!
大平あいりちゃん。 おおっとぉ。あいりすちゃんのほうが良かったカナ?
[立ち上がって腰に手を当て、男は『男の所属している何か』に来ることを大いに歓迎している。]
(47) 2015/06/01(Mon) 16時半頃
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オーケーオーケー! 危なかったねえ。 今日明日で切り上げようかと思ってたんだ。 おじさんのことはワタヌキって呼んでくれればいいから。
[表情のどこかぎこちない女子高生に名を名乗った。 それからレジ机の下から、灰皿とライターを取り出し、机に乗せて、ショップカードに火をつけかけて、はたとする。]
……もしかして、これ舐めたかった……?
[平和と幸福を愛するワタヌキにとっては、相手の『おたのしみ』を取り上げてしまって辛気臭い表情にさせてしまったとあっては大変なことだった ワタヌキは、唾液のしみこんだカードをすまなそうに、一応差し出してみた。]
(51) 2015/06/01(Mon) 18時頃
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端のほうなら……まだ……
[しかし女子高生に悲鳴混じりに絶対に要らないと突っぱねられたカードは、火をつけられて灰皿のなかで灰に変わる最期を待つのみとなった。]
それじゃあ、あとはこれだ。 腕につけておいてね。そういう『決まり』だから。 [ワタヌキは、今度はミサンガを机の下から取り出して、女子高生の手のひらに乗せた。 ミサンガには、三角を二つ組み合わせた記号……つまり、ダビデの星がぶら下がっている。よく見ればワタヌキも同じようなものを身につけているようだった。]
誰かにあげちゃわないでくれよー。『間違う』から〜。 いやあ、それにしても、遅かったなりに丁度良かった。 用事が出来て、今から出るところなんだ。 折角だし一緒に行こう。 『割符』を持ってるってコトはそういうコトだからねぇ。
(53) 2015/06/01(Mon) 19時頃
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[『あいり』は、はい、はい、と首を縦にふった。>>54
ゆえに、ワタヌキが、言葉を止めようとする素振りはない。 ワタヌキにとっても、それが当然の反応であるのか、一度流れ去った言葉に対する丁寧な説明がされる気配も一切ない。
当然それでいいと思い、 当然歓迎し、 当然彼女をどこかに連れていくつもりでいる。]
(59) 2015/06/01(Mon) 20時半頃
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[咳混じりのざらざら声でワタヌキが説明にならない説明を終えるころ、裏手から南アジア系外国人女性が出てきた。 女性は、先ほど居なくなった太った男とは対照的にすらりとして、歳をくっているなりに美人だった。]
これ、さっきの人の奥さん。
[その美人は客の相手をするつもりで出てきたのか、やんわりと笑顔を浮かべていた。ワタヌキは首と手を横に振る。]
買い物じゃないみたいだから…
[続けて、ワタヌキが外国語で女性にいくつか声をかけると、外国人女性はアーモンドアイを猫のように細めて意外そうに笑う。 それから、黙って『あいり』に手を振っていた。]
(62) 2015/06/01(Mon) 20時半頃
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[ワタヌキは、レジ机に手をついて、狭いレジ向こうから、カニのような横歩きで抜け出すと]
それじゃあいこう。
[このように『あいり』に声をかけ、アジア雑貨の合間を通って、店の出入り口へ向かった。薄笑いを浮かべて、入り口傍で、『あいり』が来るのを待っている。]
(66) 2015/06/01(Mon) 21時頃
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[ワタヌキは、『あいり』が鞄を気にしながらよたよた扉の近くまでやってくるのを待つ。 木製扉を開けると、まだ外は明るいようだった。 店内から出ると香のにおいが急激に薄れ、外の排気や人の営みやアスファルトのにおいに切り替わる。
香のにおいが薄れたことで、明るい場所に出たことで、またきてさんかくの様々な加護の元を離れたワタヌキが、ただの『エスニック系変なおじさん』ではなく、『汚いエスニック系変なおじさん』だということが明白になる。
白タイルの階段を上がっていく彼の背中、服がよれよれになっている。 髪が束になっていたのはわざとではなく脂によるものだ。 レジの机に隠れて見えることのなかった痩せた脹脛にはまばらに毛が生え、半分下がったハーフパンツが何日履き続けられているのかは、想像しないほうが良い。]
(72) 2015/06/01(Mon) 21時半頃
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旦那さんも懇意にしてくれてるけど、 奥さん、また格別熱心なお客さんで、いい人なんだよぉ。 理解のある、いい嫁さん手にいれたよね。
[ガニ股で階段を上がりきり、立て看板の傍に立ったワタヌキは、またきてさんかくのほうを見下ろして、そう一言。 『あいり』もまた階段を上がりきるのを待って、「いくよ」とばかり、その手をとろうとしてから、慌てて引っ込めた。]
あっ。だめだっ、そうだった…… 女子高生は手ぇ握るだけで金をとるんだもんな〜!! あぶないあぶない。
[ワタヌキは頼まれてもいないのに、とにかく喋る。]
(80) 2015/06/01(Mon) 22時頃
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そうなの?とったほうがいいぜ〜。 とれとれ、がんがんとれ。 さっき手ェ見たら、あんたのだ、あんたの手、 見たら、こう……泡がいっぱい出てたろ…… ふわーって指のまわりとかにこう…… あれは、大事にしたほうがいいんじゃあない?
あ、じゃ……とにかく着いて来て…… おっと。 金とるといえば。だ。 ロッカー、金とられたろぉ〜〜?
[酔っているかのように、話が移り変わる。 ワタヌキは、黄色い、所々茶色くなった歯で喋るたび、『あいり』が口臭で地獄をみているとも知らない。 ポケットから輪ゴムで小さく丸められただけの1万円札の束から一枚抜き取って、『あいり』に差し出した。]
その歳じゃー、 場合によっちゃハッピーじゃあない損だろうからあ 最近の高校生はー、けっこうお金持ちだけど。
[ワタヌキは一万円を押し付けると、商店街へ、サンダルでぺたぺたと入っていった。]
(93) 2015/06/01(Mon) 22時半頃
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うン? >>104
あいりちゃんはハッピーになるために、 おれたちの所へくるんだろお? 「さんかく」を受け取った時点で あいりちゃんとおれはブラザーなんだ。
(112) 2015/06/01(Mon) 23時頃
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あ〜、体中痒い……虫がうまれてくるのかなぁ、 一回あるんだよ、おれ、 いつパパになっちゃったんだろう こんなに痒かったら、名前をつけきれないよなぁ 太郎次郎三郎なんて名前今どきつけたら可哀想だし…
[背中を掻きながら、ワタヌキはぶつぶつ言っている。]
あっ おっほ、そうだよ、風呂に入ってないんだ。 昨日一昨日は盛り上がっちゃったからねー……
ともかく新宿行くからね。 ねえ中華好き?
ああそれにつけてもやっぱり北口は嫌だ…… おれは本当は地下鉄を使いたいんだけど、 新高円寺はもっと怖いんだよなぁ…… あ、カードちゃんとお金はいってる?
(113) 2015/06/01(Mon) 23時頃
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……?
[ワタヌキは、『あいり』との距離が開いたのに気づいて振り返る。>>119 『あいり』が顔を向けているほうへ顔を向けた。
青色のゴミ箱の表面の縞が代わる代わる居場所を交代しており、膨張を繰り返している。 アスファルトと青色のゴミ箱が接地しているところに蜃気楼がみえている。 あついのだろう。中が温かいということが青色の色をみれば自ずとわかるので間違いがない。 もうじき溢れる予兆であると気づく。]
へへへ。 なんだかハッピーそうだな。
まだかと思ったが先に済ませてたなら安心したよ。
(127) 2015/06/01(Mon) 23時半頃
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……?
[へろへろの生地越しにあの泡だらけの手に背中を押されながら、肩越しに低い位置にある頭を見て、ある解釈をした。>>130]
そうだなぁ、安心できるところへいこう。 深呼吸したほうがいいぜ。
だいじょうぶ、死ぬことはないし。 ピークは1、2時間だから。 ちゃんと時間はおれがはかってる。
安心していいぜ。
[二人は高円寺駅へと向かった。]
(135) 2015/06/02(Tue) 00時頃
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― 駅運行案内板 ―
[ 【運転再開見込】中央線は、新宿駅での人身事故の影響で、上下線で運転を見合わせています。………]
(140) 2015/06/02(Tue) 00時頃
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― 高円寺駅 ―
[人身事故との放送が聞こえてきた。 案内板の文字は、てんで踊り狂っていて、ワタヌキにとっては読みにくいことこの上ない。 ワタヌキはため息をつきながら、『あいり』に頷いた。]
あーあ…… あいりちゃんみたいに、 おれのところに来ればよかったのにねえ…… そしたらハッピーになれたんだ。
まあ居なくなっちゃったものを嘆いてもしょうがない。 ここに居ると不整脈になりそうなんだ、おれは…… バスでいい? ついでにバス待ちながら休んでいい? 胸が痛いんだ…こっちだよ……
[ワタヌキは妙に元気を無くしてしまい、あばらの浮いた胸のあたりをおさえながら、くるりと踵をかえして、南口から出た。 断固として北口には近づきたくないらしかった。 バス停へ歩いて向かい、新宿へ向かうバスを待つ。]
(150) 2015/06/02(Tue) 00時半頃
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[バスに揺られること18分ほど。 その間、『あいり』は悪臭に耐えなければならなかった。 高円寺北口からの距離が離れるほどにワタヌキは元気を不要なほどに取り戻し、無神経に臭う脇毛の周りや、フケがぱらつく頭を時折掻いていた。 到着した先は、新宿西口のほうである。
ワタヌキ個人の目的地とは『香港小吃』だ。 彼が『あいり』に話していた用も、それである。
『香港小吃』に向かうまでの間、ワタヌキが絶対に通りたくない場所がある。 何を隠そう、彼は「警察恐怖症」なのだ。
高円寺北口には交番がある。 それを思うと、駅の中でじっと運転再開を待つことは出来なかった。
あぁ、新宿警察署新宿駅西口交番、こわいよ、新宿駅西口交番、ぜったいにいくもんか、新宿駅東口交番…… 絶対にそれら周辺に近づくことはしたくない。
ワタヌキは少しでも心の安寧を得られる『地下』を選びながら、駅を抜けて、香港小吃を目指すことにした。]
(153) 2015/06/02(Tue) 01時半頃
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― 新宿歌舞伎町 ―
[『あいり』の切実な祈りの結果、バス内での心象がどうなったかなど、もちろんワタヌキの知るところではない。 新宿丸ノ内線の東西に渡る通路から、歌舞伎町方面に向けて地下を抜けて、歌舞伎町のあたりをワタヌキは『わざと』遠回りをした。 それでも交番近くには近づくことはなかったが。]
ここにはさぁ……目がいっぱいあるんだよ。 目だ、目、目、目……あるだろ……な?
だから歩くんだよ、さんかくを見せにさ……
[もしかすると、実態は、話し相手になってくれ、かつ断れない女子高生が着いてきてくれる事に気を良くしてしまった、大金を拾った浮浪者が、目的地に着いたと言いたくなくて、闇雲に歩いているだけなのかもしれない。 勿論、そうでないかもしれない。]
あ でも あんまり近寄りすぎずに歩いてね…… あんまり仲良しにみえて……あんた学生鞄もってるし…… もし「大丈夫ですか」なんて そ、そう、たと、たとえば、 け、けい、警察に質問されたらと思うと…… うン……っ……だめ……クソが飛び出そう……
(174) 2015/06/02(Tue) 10時頃
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嫌い……? 嫌い……。 でもそれはコワいからだよ……。 パトカーとか見るとタマが、こんな、 こんな、こんっっっなちっちゃくなっていくんだよ…… 今も想像しただけでこんな……触る?たしかめる?
[親指と人差し指で輪をつくって、指の先と指の先の隙間で小ささを強調しながら「こわいこわい」と繰り返した。]
みんなで「こんなに怖いんだぞ」って脅かすから、 おれも怖くなっちゃったんだよ……。 あるだろそういうの……? おれ別にパクられたことないけどね……。
………
………
(177) 2015/06/02(Tue) 11時頃
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ワタヌキは、「そっちはお金とってるんだ…」と感想を言い、「手でもとりなよ」とおすすめした。
2015/06/02(Tue) 11時半頃
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[ワタヌキは、狭い通りにきて、何かを探すように顔をあちこちに向けている。]
あぁ、そういうのもあるね…… 善かれ悪しかれってやつだよなァ。 さぼりとか、たばことか…… アレなるべく混ぜないほうがいいとおれはおもうけどね。 ニコチン中毒になっちゃうもん……
[ワタヌキはいがらっぽい声で言った。]
いいコトもあるよね。 幸福のヒントを知ってるだけだったりするんだ。 おれたちも時々、最初はこわがられたりするけどさ…… ……
………あっ、 ここがいいや。
[ワタヌキはまだ開く前の、シャッターの閉まった縦に細長いビルとビルの間に、潜り込んでいった。]
(179) 2015/06/02(Tue) 11時半頃
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[曇り空が、ついにぐずりはじめたのだろうか。頭に一滴水がかかったのを感じて、ワタヌキは汚い髪の奥を指の腹で触った。
室外機や、換気口、いくつものパイプ、古びたアスファルト。何に使ったのかもわからない板や、大きなゴミ箱。 それらにぶつからないようにしながら平気で奥へ入っていこうとする。ワタヌキは後ろを振り返った。]
ん
あ……いい
そこでストップ。 1歩下がって、もう1歩……。
(182) 2015/06/02(Tue) 12時頃
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そこで立ってて。 いい感じに影になる。
[ワタヌキはそう言うと『あいり』に背中を向けた。]
怖い話したらオナカいたくなってきちゃったから…
[ハーフパンツに手をかけた。]
うんこするね。 もう我慢できないし……
あ、ちゃんと見てて……
(183) 2015/06/02(Tue) 12時頃
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[誰か来ないかちゃんと見ていてくれと言ったつもりで、具体的なところはついうっかり言い忘れた。ハーフパンツをずり下しながら、つぶつぶザラついた黒っぽい尻をむき出しに、ゴミ箱の横に屈んだ。]
……ふっ……ん
[穴からひり出そうと力んでいる。]
あ…… で…… なんの話だっけ……?
(185) 2015/06/02(Tue) 12時半頃
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『おれたち』……あぁ……、あいりちゃんは……っ これからだからね……っ
[屁の音がいくつか、小刻みに聞こえてくる。]
でも幸せにちゃんとなれたら…… おすそわけもしてあげるのが…… さらなるハッピーの秘訣だからねー………っ
[出始めは意外とカタめ。 「ぽと」と一度何か落ちて、「んぁ……っ」と力みおわったあと息が漏れて、ぽと、とさらに落下音がある。]
………、 …………
あいりちゃんノートもってない?
(186) 2015/06/02(Tue) 12時半頃
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[また一滴水が落ちてきた。本当に雨が来るかもと思う。 本降りの前に屋根のあるほうへ移動しなければ…… 考え事とは別に「ウォシュレット」と呟いた。魅力的だが、心の余裕に欠ける窮屈な表の世界では、このままじっと雨を待っていると誰かに怒られるに決まっている。 「見てない」誰かの足や、「見てないことにした」誰かの目などを感じながら、優しい女子高生が差し出してくれたノートを一枚千切って、ノートを返そうとするも、既にそこに姿はなかった。 紙をよく揉み、尻をふく。立ち上がりざまハーフパンツを腰骨に引っ掛けて、使い終えた紙を、近くにあったゴミ箱にいれる。 出たものは……手で掴んで片付けてもいいが、雨に流して貰うのもまた自然だろう。]
おれのはいいぞ、食うと強烈にハッピーになれる。 大きくなれよ。
[屈んでいる時から既に寄ってきていた虫に対して慈愛の視線を投げかけながら囁いた。]
腹が治ったからもう大丈夫。
[と声をかけたが、女子高生はあまり大丈夫じゃなさそうだった。]
ノートありがとう。返すね。さあ……次で目的地。 さっき知ってる顔も見たからねー。
(188) 2015/06/02(Tue) 13時半頃
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[『あいり』は野良犬おじさんからノートを渡されるまま受け取ってしまう。 もしかすると、あっちむいてホイで指のとおりに首を動かしてしまう人なのかもしれない。 目を潤ませて、顔を青くするやら目を赤くするやらしている『あいり』が、「なん」と繰り返す。 それで思い出した。>>189]
そういえばなんでこっち見てたの? 趣味?
[通りを見ていてくれと言ったつもりのワタヌキは知らず非情な言葉をかけた。]
あいりちゃんは優しいねえ……。 おじさん、あいりちゃんが好きになってきちゃったよ。
(192) 2015/06/02(Tue) 14時頃
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― 新宿『香港小吃』 ―
[脱糞を不必要に見せつけられた女子高生を連れ、ワタヌキは新宿にある中華料理屋に向かった。 『香港小吃』という。 威勢のいい中国人経営者の店だ。 そこに雇われている香港出身の若い従業員にこれまた用があり、時々仕事を頼んでいる。 バイトを掛け持ちする働き者の青年だ。笑うと目が糸のようになる。]
席はあいてるかなぁ〜?
[ワタヌキはいつもどおり、濁った胡乱な目で、店の入り口に立つと、店内を覗きこんだ。]
(197) 2015/06/02(Tue) 14時半頃
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やー寧生君〜!元気そうで結構結構〜。
[汚い身なりで現れたワタヌキを、張寧生は笑顔で迎えてくれている。慣れているのかもしれない。]
あいてるぅ?そうなんだよぉ、新しい友だちなんだ。 で、寧生君に会いたかったってわけ〜。 でも今日はチョットにするね。
[腕を持ち上げて、服の肩口を嗅ぐ仕草をする。 腕についたダビデの星がぷらぷら揺れた。]
ちょっとニオウらしくて……
(202) 2015/06/02(Tue) 15時頃
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………? だってあいりちゃんクサそうにしてたじゃん。
[風呂に入っていない事実は思い出した後だし、咳き込むのも見ていたし、隣で地味に顔をそむけていたことも了解している。それになにせこのハーフパンツを洗濯したのは記憶によれば……。……。 彼女が吐いたのも尻を拭きながら聞いていたし、涙目になっていたのもわかっていた。 そしてそれらを了解した上で、だからどう、という事もしなかった。なにせ自分の脱糞を見ている相手に対して「見てて」と言ったあと「趣味なの?」と聞いた男だ。 書くまでもないことだがそれらに対する恥ずかしさはない。 だがこの飲食店は『で?』では済まない。なにせ相手は飲食店だ。]
(207) 2015/06/02(Tue) 16時頃
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あいりちゃん、ここの店の白湯麺は美味しいし。 寧生君は愛想がよくてね。看板息子なんだ。 店長とのどつき漫才は一見の価値ありだし、 優しいし、目は細いけど、塩顔と呼べなくもない。 おれも寧生君の愛想のよさにほだされて、 『たまに来る』んだー。 あいりちゃんも気に入ると思うからさ。 オナカへってる?
[食欲の減ることこの上ないものを見て吐いた後だがどうだろう。]
(208) 2015/06/02(Tue) 16時頃
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塩顔流行ってるらしいじゃない。
[寧生の文句を笑い飛ばしてから、寧生と『あいり』のやりとりを見ている。 互いが知り合いではないのに、『大平あいり』の名前に心当たりがあるらしい寧生は、あわてて店に入っていくと、鏡を持って戻ってきた。]
へぇ〜、落し物してたの。 見つかってよかったねえ! ハッピーな偶然じゃあないかぁ。
(218) 2015/06/02(Tue) 16時半頃
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[取り落としそうな鏡をとっさに支えにかかって、三人「おっとっと」みたいな姿勢になる。 顔をあげて甘えたような声を出して寧生にお願いごとをする。]
ねー、寧生くん。 やっぱりお祝いだけしてっていーい?
[寧生の体の横から店のなかを覗きこむようにして]
迷惑かなぁ〜……? ビール一杯だけでいいんだけどぉ〜……
(222) 2015/06/02(Tue) 16時半頃
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うそ〜〜〜。そんなに?
[手を合わせてみるが、ダメなものはダメなようだ。]
あっそう…… じゃ、お風呂入ってまた来ることにしよ……。
(226) 2015/06/02(Tue) 17時半頃
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きみは臭くないからご飯が食べられるよ? 食欲ないんだっけ。
[閉めだされた『香港小吃』の前で、『あいり』の方をみた。]
……それ、消えないようにって、 よっぽど大事だったんだねえ?
……あぁでも。 こういうのって、壁のラクガキとかの方がよく見るか。 大事とも限らないのかな〜。
[『あいり』の鏡と『あいり』を最初そうしたように、値踏みするようにまた見なおして]
(227) 2015/06/02(Tue) 17時半頃
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へえ〜〜、ポエミー! 鏡にかっとなって名前入れるなんて。 青春の鏡でテレくさかったってわけだね?
………じゃあ、 だいぶ臭ってるみたいだし、 おれは、このへんで風呂にでも入ってこようかなぁ…… お風呂まで来る?来るなら止めないけど……
(230) 2015/06/02(Tue) 18時頃
|
|
そう?待っててくれる? ツイッターもフォローしてるのに? さんかくもあるのに? いやぁ〜、魂から平和と幸福を求めてるねぇ。 ……結構結構。
じゃあ連絡先おしえてくれない? それまで、好きに遊んでたら?
[ワタヌキはプリペイド携帯を取り出した。>>232]
(234) 2015/06/02(Tue) 18時半頃
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[ワタヌキは携帯を持たない片手で指を折って、何かを数えている。>>242]
『待ちきれない』って気持ちもわかるんだよ。 おじさんもだから。
[口髭をこすり、かさついた唇を舐めた。 黄色い胡乱な目が、携帯電話を見ている。 正しくは、教えられた携帯電話の番号を見ている。]
…………高円寺の店とさっきの店は覚えておいてね。
……あー、そうだ。パールって喫茶店? あんたが行くなら行くで、それでもいい。
[ワタヌキはそこまでいうと、髭面をにんまりと笑わせて]
それじゃあ、一端さよならさんかく。 またね、『あいり』ちゃん。
(243) 2015/06/02(Tue) 20時頃
|
ワタヌキは、ヒナコと別れると、大久保へ向かった。**
2015/06/02(Tue) 20時頃
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